346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
「やばいやばい……」
今俺は事務所の真ん前でぶつぶつと呟きながらカバンをひっくり返してます。何がやばいのかと言うと……
「財布がない…」
白石幸輝18歳……どうやらどこかに財布を落としてしまったようです。
「や、やばいぞ……絶対に見つけないと」
俺は今日大学から直接事務所に来てるから、とりあえずその道をまた戻ってみるしかないか……
さっき千川さんに連絡して事情を説明したら、今日は休んでいいから財布探してこいとのことなので今から大学に戻ることにしよう。
「幸輝……こんちには…」
「ん? あぁ、こんにちは雪美ちゃん」
誰かに声をかけられたと思ったら雪美ちゃんだった。 事務所の前にいるんだからそりゃアイドルの子も来るよね。
「どうかしたの……?」
「実は物をどこかで落としてきちゃったみたいでね」
「……大事な物…?」
「うん、すっごく大事だよ……はぁ」
「それは……大変……」
雪美ちゃんは心配そうに下から見上げている。 相変わらずいい子だ。
「探すの…手伝いたいけど……これからレッスンだから……」
「雪美ちゃんが気にすることじゃないよ。 レッスン頑張ってきてね」
「……あ」
「どうかしたの?」
「ちょっと待ってて……」
「あ、ちょっと……!」
雪美ちゃんはそう言い残すと、小走りで事務所の中に入っていってしまった。
待っててと言われたからにはここで待つことにしよう。
「……お待たせ…」
「全然構わない……って…ど、どちら様でしょうか?」
戻ってきた雪美ちゃんは俺の知らない女の子を2人引き連れてきていた。 1人は綺麗な黒い髪の毛の清楚な感じの子に、もう1人は地面に着くんじゃないかというほど長い髪の毛を一つにまとめた小学生みたいな子だ。
「ふむ…そなたが失せ物を探しているという方でしょうかー」
「え?」
「あの……雪美ちゃん、芳乃さんと違って私は探し物を探すのが得意ではないので力になれないんじゃないかと……」
「……人数は……多い方がいい」フンス
え、なになに? どういうことなの?小さい方の子は一言喋っただけでめちゃくちゃキャラが濃いんだけどとりあえず説明を……
「えーっと雪美ちゃん……この方たちは…?」
「芳乃と肇……芳乃は…探し物を見つけるのが得意だから……肇は……そこにいたから」
「お、おまけ扱い!?」ガ-ン
「まぁまぁ肇さん、そう落ち込まないでくださいー」
黒髪の女の子……肇さんは小さい女の子……芳乃ちゃんに慰められてる。 なんか微笑ましい光景だな。
「さてー 雪美さんからお話は聞いております。わたくし依田は芳乃と申しましてー。よろしくお願いいたしますー」
「わ、私は藤原肇といいます。 芳乃さんとはユニット仲間なんです」
「あ、どうも……俺は白石幸輝です。 ここでバイトしてます。」
「私は……佐城…雪美……」
「いや、雪美ちゃんのことは知ってるから」
「……ふふっ」
なにそれ可愛いかよ。
「えーっとつまり……芳乃ちゃんは探し物を探すのが得意で雪美ちゃんが連れてきてくれたと……それで偶々一緒にいた藤原さんも一緒に着いてきたってこと?」
「ま、またおまけ扱い……」ガ-ン
「え、いやいや! 別にそういうわけじゃないですよ!」
「大体……そんな感じ……」
なるほどね……つまり雪美ちゃんは俺のために助っ人を連れてきてくれたわけだ。
ちょっと待って…? それってこれからこの2人と一緒に財布探すってことだよね。 初対面だし俺めちゃくちゃ緊張するんだけど……
「じゃあ……私はレッスン……行ってくる」
「あ、雪美ちゃん。 ありがとうね!」
「……」ニコ
雪美ちゃんはそう言って去っていった。 そしてその場には俺と初対面の2人の女の子が残されて……
「え、えっと……雪美ちゃんに連れてきてもらってなんですけど、本当にいいんですか? 嫌だったら全然断ってもらっても」
「いえいえー 困っている白石さんを見捨てることはできないのでしてー。遠慮なさらずにー」
「芳乃さんは本当に探し物を見つけるのが得意なんですよ」
「そうなんですか……じゃあその、よろしくお願いします!」バッ
俺はめちゃくちゃ綺麗にお辞儀をしてお願いする。
正直助かる……財布は絶対に見つけ出したいし、ここは優しい2人のお言葉に甘えることにしよう。
「困っているお方に手を差し伸べるのはわたくしの役目でしてー、さぁ、行きましょうー」
こうして俺と芳乃ちゃんと藤原さんの妙なメンツでの財布探しの旅が始まった……
まずは俺の大学まで向かう。 来た道を戻るのは落とし物探しの基本だ。
「それにしても趣味が失せ物探しと悩み事解決なんてすごいね芳乃ちゃん」
「困っている人には力を貸しなさい…ばばさまのお言葉でしてー」
「へー 立派なお婆ちゃんなんだね」
「あの……白石さん、私は芳乃さんと違って探し物が得意なわけじゃないので、やっぱりお力になれるかどうか……」
「そ、そんなことないですよ! 藤原さんが手伝ってくれるって言ってくれて嬉しかったですよ!やっぱり人数は多い方がいいですし」
「……そうですね。一度やると決めたからには今さらうだうだ言っても仕方ないですよね。 精一杯お手伝いします!」
藤原さんは拳を握って気合を入れている。
いや〜 それにしても芳乃ちゃんがいてよかったな。 やっぱ藤原さんと2人きりだったらめちゃくちゃ緊張しただろうし。 小さい子どもがいると俺としては話しやすい。
「事務所のアルバイトとは一体どんな仕事をしているんですか?」
「そんなに難しいことはしてないですよ。掃除したり送迎したり……簡単に言うと雑用ですね」
「でしたら、いつか私もお世話になることがあるかもしれないですね。 その時はよろしくお願いします」
「は、はい! 安全運転させていただきます!」
「ふふっ」
ここにいるアイドルの子たちはめっちゃ目を見て会話してくる。 目と目を合わせて会話するのはいいことだけど俺にとっては心臓に悪い……
「ほー」
「ん?」
芳乃ちゃんがめっちゃ見てる…… どしたんだろ。
「どうかしたの?」
「白石さんはー わたくしと肇さんとで扱いが違うのでしてー」
「え?」
「……あの、白石さん。 芳乃さんの年齢はご存知ですか?」
「え、芳乃ちゃんの年?」
藤原さんが急にそんな質問をしてきた……でも芳乃ちゃんの年齢はどう見ても……
「雪美ちゃんと同じぐらいとかだよね?」
「……ほー」
「あ、あの……白石さん、芳乃さんと私は同い年なんです…」
「は?」
え、それってつまり……
「藤原さんも小学生だったの!? 」
「へ……?」
「違うのでしてー」
ま、まさか藤原さんが藤原さんじゃなくて肇ちゃんだったなんて…… 今時はこんな大人っぽい小学生もいるんだなぁ。
「あ、あの! 白石さん!」
「ん? どうかしたのかな肇ちゃん」
「もう子ども扱い!?」
「ほー」
「は、話を聞いてください〜!」
〜〜〜〜〜〜
「えーっとつまり…2人とも16歳ってこと?」
「そうです」
「まじか」
「まじでしてー」
流石に藤原さんが小学生なんてことはなかったか。それよりも芳乃ちゃんが16歳なんて……あれ?芳乃ちゃんが歳の近い女の子だと思うと急に緊張して……
「いや、やっぱり全然緊張しないわ」
「なにやら失礼なことを考えてそうでしてー」
申し訳ないけどやっぱりロリッ子にしか見えないんだ……
「ま、まぁ年齢はとにかく…! 早いとこ白石さんのお財布を探しましょう!」
「……それもそうでしてー」
「よ、よろしくお願いします…!」
いやぁ〜芳乃ちゃんが女子高校生だったとは……ビックリした。 人は見た目で判断してはいけないな……
「わぁ…! これが大学なんですね!」
「ほー。 すごく大きいのでしてー」
俺たちは俺の通う大学を訪れていた。 芳乃ちゃんが言うにはここに俺の失せ物があるらしい。
「俺も未だに広すぎて慣れてないですけどね」
「すごいです……高校とは大きさが全然違います…!」
「迷子になってしまいそうでしてー」
藤原さんは初めて訪れるキャンパスに目を輝かせている。 芳乃ちゃんも……驚いてるのかな?
「それより、本当に2人は外で待ってなくて大丈夫なのかな…?」
「きっと大丈夫ですよ。そのための変装グッズです。それに街中を歩いていても意外とバレないもんですよ」
「ご心配なくー」
芳乃ちゃんと藤原さんはメガネに帽子をつけて変装している。 本当に大丈夫なのかは正直信じ難いが2人がそういうならそれを信じるしかない。
「芳乃ちゃん、ここに俺の財布があるってことなのかな……?」
「白石さんが求めていたものはここでしょー。わかるのですー」
「結局大学で落としてたってことか……」
「でしたら落とし物が届けられる場所に行ってみましょう」
「そうですね。まずはそこに行ってみましょうか」
そうして俺たちは大学の構内へと入っていく。
「建物の中も綺麗ですね」
「そうですね。俺も最初はすごいビックリして……あ、あそこですね。学園内の落とし物はあそこの事務室に集められるらしいです」
「それでは早速……! こ、これは…!?」
藤原さんは何かを見つけて驚愕の表情を浮かべる。
……あれは部活とかサークルの募集ポスターだな。 なんか見つけたのかな?
「どうしたの藤原さん?」
「大学にはこんなものまであるんですか…!」
「どれどれ……陶芸研究会…? まぁ大学には色んなサークルとか部活あるからなぁ……でもちょっと楽しそうですよね」
「もしかして陶芸に興味があるんですか!」ガバッ
「ふぁっ!?」
目にも止まらぬ速度で藤原さんが迫ってきた。 いやほんと、シュバッ!って効果音が聞こえるぐらい。
「楽しいですよ陶芸!是非始めてみましょう!」
「ち、近いよ……藤原さん…」
「大丈夫です! 私が教えますから!」
「ステイステイ……」
ち、近い近い近い!! 興奮気味の藤原さんの綺麗なお顔が目の前に…! やばいやばい心臓が爆発しそうなんですけど……誰か助けて……
「ほー」
「芳乃ちゃん…! へ、ヘルプミー!」
「肇さんー? 白石さんが困っているので離れるのでしてー」グイグイ
「よ、芳乃さん? 今私は大切な陶芸の話を……!」
「今はそんなことよりお財布でしてー」
「はっ…!」
やっと藤原さんは冷静さを取り戻したようで…… なんというか藤原さんも中々に個性が強い人なんだなって。
「それでは聞いてみましょうー」
「あっさり落とし物で届いてるとありがたいんだけどなぁ」
「そうですね」
まぁ期待半分ぐらいの気持ちで俺は受け付けのおばちゃんに声をかける。
「あの〜 すみません。 財布の落とし物って届いたりしてますかね?」
「ちょっと待ってね……これかい?」
「あ、それです」
「え!?」
「めでたいのでしてー」
いや、普通にあった……
めちゃくちゃ嬉しいしホッとしてるけどなんだかここまでついて来てもらった2人に申し訳ない気持ちが…… とりあえず財布を受け取って中身を確認したけど完全に俺のでした。
「……ありました」
「よかったですね!」
「これにて一件落着なのでしてー」
「こんなにあっさり見つかるとは……ここまでついて来てもらったのが申し訳ないです…」
「謝ることなんてないですよ。 私たちは自分で着いてきたんですから」ニコッ
「帰ったら雪美さんにも報告してさしあげましょうー」
「……2人とも本当にありがとうございました!」
2人とも優しいなぁ……胸がジーンとするわ。 世の中の人間全てがこうならいいのに。
そうして俺たちは大学から出て事務所に戻ろうとした。のだが校門の手前で……
「おー白石、お前今日はもう講義ないからって帰ったじゃねーか。 どうしたんだよ」
「………!」ビクッ
「お知り合いですか…?」ボソボソ
「俺の友達です……早めに切り上げるのでちょっと待っててください」ボソボソ
「ん? どうした?」
「いや、なんでもないよ。 ちょっと大学に忘れ物しちゃってね」
「見つかったのか?」
「うん」
「そりゃよかったな。それよりそっちの子は……まさか彼女か?」
「な訳ないでしょ。 知り合いだよ」
「へー……眼鏡と帽子であんまり見えないけど……ありゃ相当可愛いな。 お前も角に置けないな〜このこの!」
「だ、だからそういうんじゃないって……」
まずいな。 ヤツがこれ以上2人に興味を持たないうちにさっさと切り上げなければ。
「そんでもう1人の子は……小学生か?」
「小学生ではないのでし……んぐっ」
「ははは…! 悪い、もうバイトに行かなきゃいけないんだ。また今度ね!」
「ん? そっか。引き止めて悪かったな。 じゃーなー」
友達に手を振り、急いで校門から出て行く。
「ふぅ……バレないかヒヤヒヤした……」
「ふふっ。 意外と大丈夫なもんですよ」
「肇さんー? どうしてさっきいきなりわたくしの口を塞いだのでしてー」プンプン
「芳乃さんは口調が独特なので……念のためですよ」
「ほー。 なるほどでしてー」
「じゃあ今度こそ事務所に戻ろうか」
「はい!」
「でしてー」
俺たちは今度こそ事務所に向けて歩みを進める。
何はともあれ何事もなく財布が見つかってよかった。 2人には何かお礼をしなきゃな…… あと雪美ちゃんにもか。
その後俺はレッスンを終えた雪美ちゃんと合流して藤原さんと芳乃ちゃんと一緒にファミレスへ行き、お礼として戻ってきた財布を使いご馳走した。 皆んなお礼を言っていたけどむしろお礼を言うべきはこちらの方だ。
もう今後こんなヘマはしないように気をつけようと誓い、俺は財布を抱きしめながら眠りについた。
よろしければ感想等よろしくお願いいたします。