346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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20話 誰にでも内緒にしたいことは一つぐらいある

 

 

 初めての大きな仕事を無事終えて次のバイトの日、俺は千川さんからのありがたいお言葉を頂いていた。

 

 

「白石くん、海での撮影のお手伝いお疲れ様でした」

「ありがとうございます千川さん」

「少しハプニングもあったと聞きましたが白石くんが頑張ってくれたみたいで……それでお怪我の方は大丈夫でしたか?」

「あ、はい。 本当にただの擦り傷だったんで全然大丈夫です!」

「そうでしたか。本当によかったです」

 

 

 ありすちゃんを探していた時の傷は早くも瘡蓋になりかけていた。

 

 血がすごく出たから俺もちょっとビビったけど何もなくてよかった……風呂に入る時なんかはちょっと痛いけど。

 

 

「どうです白石くん、将来はプロデューサーを目指してみては?」

「む、無理ですよ俺には…!」アハハ

「ふふっ、まぁそれは置いておいて、これからもしっかりよろしくお願いしますね♪」

「はい!」

 

 

 千川さんからのありがたいお言葉を頂いた俺は事務室を後にした。

 

 なんだか機嫌がいいからどっかで外食でもして帰ろうかな〜………ん?

 

 

「なんだこれ? アニメキャラのキーホルダー?」

 

 

 誰かの落とし物だろうか…? こういうのはどうすればいいんだろう。とりあえず千川さんに聞いてみるか……

 

 

「あ! そ、それ……!」

「ん?」

 

 

 大きな声がしたから振り向いてみると、そこにはもふもふとした髪の毛の女の子が俺のことを指差している。

 

 

「そ、それ! アタシの!……い、いや…アタシの友達が落としたやつなんだ!」

「このキーホルダーですか?」

「そ、そうそう! 見つかってよかった〜!」

「ちょうど今ここに落ちてたのを拾ったんですよ。探し主が見つかってよかったです」

「ありがとう! アタシは神谷……! ちょ、ちょっとこっちに来てくれ!」

「え、え? えぇ〜!?」

 

 

 もふもふの子に腕を引っ張られて俺はその場から立ち去る。

 

 

 

「あれ? 今この辺から奈緒の声がした気がするんだけど……」

「うん……私もしたと思った」

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 何かから逃げるように俺を引っ張るもふもふの子に連れられて、俺は事務所の中のカフェへと来ていた。

 

 

「いや〜 ごめんな? 急に引っ張っちゃったりして……ビックリさせちゃったかな…」

「あ、ううん。 全然それは構わないんですけど」

「そっか、そう言ってくれると助かるよ」ニコッ

 

 

「私の名前は神谷奈緒って言うんだ! 改めてキーホルダー拾ってくれてありがとう!」

「あ、俺は白石幸輝です。」

「へー……白石さんはここで何してたんだ? 会社の人じゃあ……ないよな?」

「俺はここでアルバイトしてるんですよ。ただの大学生です」

「へぇ〜 あ、別にタメ口でいいぞ? アタシもその方が楽だしな!ていうかむしろアタシが敬語使った方がいいんじゃないかな? 大学生ってことは年上だし…… 」

「い、いやいや! 全然そのままでいいです……いいよ」

「そ、そっか?じゃあこのままでよろしく!」

 

 

 神谷さんの出す雰囲気からかすごく話しやすいかも…… すごいいい人オーラが出てる。

 

 

「それで神谷さん、何でさっきはあんな風に逃げるようなことをしたの?」

「そ、それは……」

「それは?」

「だ、だってアイツらに見つかったらまた揶揄われるから!」

「揶揄われるって神谷さんが?」

「そ、そうだぞ! アイツらはいつも私をイジって遊んでるんだ!」

「あのキーホルダー神谷さんの友達のって……言ってなかったっけ…?」アハハ

「あ……」

 

 

 ……突っ込まない方がよかったかな…。

 

 

「うぅぅ〜! はぁ……正直に言うとあれはアタシのなんだ…」

「うん、そんな気はしてたけど……」

「うっ! そうか…バレバレだったかぁ……」

 

 

 テーブルに項垂れる神谷さん。毛量がすごい。

 

 

「あ、アタシ……こういうアニメとか好きでさ、でも周りにはあんまりそういう子っていなくてさ…」

「そうなんだ……でも俺には別に隠さなくてもいいよ。 俺もアニメとか見るしゲームもするからさ」

「えっ! 白石さんアニメ見るのか!? ど、どんなの見るんだ!」

「いや普通に……◯◯とか、✖️✖️とか……」

「少年マンガ系のやつだな! いいよな〜バトル物、アタシも好きだぞ!」ウキウキ

 

 

 自分の好きなものについて語ってる人って輝いてるよなぁ。 魔法少女やアイドルについて語ってる時のナナさんを思い出す。

 

 エンジンがかかった神谷さんの話を聞きながらカフェでの時間を過ごす。

 

 

「それでなー!この前アタシの友達に面白いって勧められた漫画読んでみたらすごい面白そうでさー! 有名だけど結構昔の漫画でさ〜」

「あ〜 それなら俺途中まで持ってるよ。 受験期になって買わなくなって止まっちゃってるけどね。 よかったら貸そうか?」

「ほ、本当!? やった〜! ありがとう白石さん!」

「俺も久しぶりに読み返して続き買ってみようかな……」

「あ、じゃあアタシのおすすめも貸してあげるよ!」

「へ〜神谷さんのおすすめってどんなやつ?」

「アタシのおすすめはな〜!」

 

 

 

「奈〜〜〜緒♪ 楽しそうだね〜」

「げっ…! か、加蓮……」

 

 

 突然、ちょっとギャルっぽい女の子が神谷さんに話かけてきた。

 神谷さんの友達かな…?

 

 

「奈緒の楽しそうな声が聞こえたから何してるのかと思ってみれば……まさかデートだったなんてね〜」ニヤニヤ

「「で、デート〜!?」」

 

 

 神谷さんとシンクロして大きな声を出す。

 

 

「で、デートとかそういうんじゃないよな!白石さん!!」アタフタ

「そ、そうだよ! 第一神谷さんとはさっきあったばかりだし…! ね、神谷さん!」アワアワ

「冗談だったんだけど……何かその慌てよう怪しくな〜い?」

 

「あ、怪しくなんかないぞ! ちょっと話は盛り上がってたけど本当に今日初めて会ったんだ!」

「奈緒は知らないかもだけど〜 年の近い男女がカフェで楽しくお喋りしてたらそれはもうデートなんだよ?」

「そ、そうなのか!?」

 

 

 いやそれは違うと思うけど……

 

 

「な、なぁ……白石さん、これって……デートだったのか…?」モジモジ

「えっ!? い、いや〜」アハハ

 

 

 か、可愛いな神谷さん……

 

 

「まぁ嘘だけどね〜」

「んなっ!? ま、また揶揄ったのか加蓮!」

「んも〜本当に可愛いな〜奈緒は〜」モフモフ

「や、やめろぉ〜 もふもふするな〜!」

 

 

 目の前で美少女たちがイチャイチャし始めてた…… 眼福な光景ではあるけど俺は完全に置いてきぼりだ。 そもそもこの子は誰なの?

 

 

「あれ、白石何してんの」

「し、渋谷さん! 何をしてるのかって……俺今何してるんだろう」

「何それ」

 

 

 久しぶりに渋谷さんと再会する。 そしてナチュラルに隣に座る…… ま、まぁ流石の俺も隣に女子が座ったぐらいじゃ狼狽えないけどね!

 

 

「神谷さんと……もう1人の子は渋谷さんの友達なの?」

「うん。 一緒のユニット仲間だよ」

「へー ていうかあれ止めなくていいの…?」

「別にいいよ。 いつもだから」

「い、いつもなんだ……」

 

 

 俺と渋谷さんの正面に座る2人が繰り広げているイチャイチャはいつも行われているようで……何となく神谷さんはイジられキャラなんだなとわかってきた。

 

 

「あ! 奈緒! 彼氏が凛に取られたぞ〜!」

「だからそういうんじゃないって〜の!!」

「加蓮、その辺にしておきなよ」

「は〜い♡」ツヤツヤ

「ったく〜……」ゲッソリ

 

 

 やっと解放された神谷さんは拗ねるように肘をテーブルについている。

 そしてもう1人の子は悪びれる様子もなさそうに満足げな表情だ。

 

 

「あ、私は北条加蓮だよ〜 よろしくね〜」

「俺は白石幸輝です。 よろしくお願いしま……」

「奈緒と凛にはタメ語なんだから私もそれでいいって〜 よろしくね白石さん」

「え……そ、そうか……うん、よろしく北条さん」

 

 

 気軽な感じで自己紹介する北条さん。

 

 ……女子3人と俺1人、側から見たらどんな風に見えているんだろうか。

 

 

 

「それで? 白石さんは何者なの?」

「俺はここでバイトしてるんだよ……ってこれ毎回聞かれるんだけど……」

「白石さんぐらいの年齢の男の人って会社の中にいるの珍しいからな〜 アタシら大体いつもアイドルの誰かと行動してるし」

「そうそう♪ だから奈緒が連れ込んだ彼氏なのかと思ってさ〜」

「だ、だから…! 俺は今日神谷さんと初めて会ったんだってば!」

「白石、彼女いたことないって言ってたもんね」

「……ま、まぁね…」

「え〜 そうなんだ〜」ニヤニヤ

「白石さん、加蓮に隙を見せたらすぐイジってくるから気をつけろよ」

 

 

 神谷さんの実体験を踏まえたアドバイスにはとてつもない説得力があった……

 

 北条さんには隙を見せないようにしよう。

 

 

「あ、ポテト頼んじゃお〜♪」

「もう加蓮のお残し食べるのは嫌だからなアタシは」

「大丈夫大丈夫! 今はいざとなったら男の人がいるんだしね〜 ねっ!白石さん♪」パチッ

「……! お、おぉ! 任せといてよ!」

 

 

 北条さんが俺に向かってウインクしてきたから反射的に返事をしてしまった。

 

 正直すっごくドキッとした…… 可愛いんだからしょうがないよね?

 

 

「………」シラ-

「……アタシが言うのもなんだけどそれはちょっとちょろすぎないか?」

「えっ…?」

 

 

 渋谷さんと神谷さんからの冷たい視線が突き刺さる。

 

 

 

「……い、いや別にウインクされてテンション上がったとかじゃないからね…? ポテトぐらいだったら普通に食べるし…!」

「ふーん」

「白石さんいつか悪い女に引っかかったりしないか心配だよ……」

「あ、ポテト来た!」

 

 

 年下のJKに心配されてしまった…… そして北条さんマイペースだ。

 

 

「いただきまーす♪」

 

「そういえば凛と白石さんは元々知り合いみたいだったな。どんな風に知り合ったんだ?」

「前にゴミ捨て場で……あっ」

「………」

「……?どうしたんだ…?」

 

 

 そういえば俺と渋谷さんの出会いって……とても人には言えるもんじゃないよな。

 

 今思い出してもあれは衝撃的な……

 

 

 グリッ!

 

 

「いてっ!」

「……思い出さなくていいから…///」

「な、なんでわかったの…?」

「顔」

「か、顔…?」

「変なこと考えてる顔してた」

 

 

 ……一体俺はどんな顔してたんだろう。

 

 

「それで? 結局なんで2人は知り合いなんだ?」

「ふ、普通に少し話したことがあるだけだよ…! ね、渋谷さん!」

「……まぁね」

「ふーん、そっか……まぁなんでもいいか!」

 

 

 神谷さんは空気を読んでそれ以上追求してこなかった。 すごい優しい……

 

 

「あ〜! もうお腹いっぱい……」

「だから言ったろ〜?」

「まぁまぁ、俺が後は食べるからさ」

「白石さん…あんまり加蓮を甘やかすなよな〜?」

「白石さんありがと〜♪ じゃあお礼に食べさせてあげよっか…?」ニヤニヤ

「ええっ!?」

「あーん……してあげるよ〜?」

「……い、いやぁ…別に俺は…」

「本音は?」

「ま、まぁ……嬉しいけど……はっ!」

 

 

「……白石さん〜?」

「……」ジト-

 

 

 ま、またしても2人からの視線が冷ややかなものに……! これじゃあまるで俺がスケベな男子みたいじゃないか!

 

 ……否定はできないけど。

 

 

「はい、あーん」

「あむっ」

 

 

 目の前にポテトが差し出されたので反射的に口に咥えてしまった。

 北条さんにあーんされたドキドキなのか2人の視線に対するドキドキなのかはわからないけど味がわからない……

 

 

「美味しい?」

「……あ、味がわかりません…」

「じゃあもう一本……あーん」

「……い、いやぁ…後は自分で食べるよ」

「えー、つまんないの〜」

 

 

 2人の視線が哀れな者を見る目になってるからこれ以上は中々に辛い。

 

 あ、ポテト美味しい。

 

 

「加蓮、白石は女子に弱いんだからあんまり揶揄ったらダメだよ」

「だってなんか白石さん面白いんだも〜ん」

「お前なぁ……魔性の女だな」

「な〜に〜? 奈緒、嫉妬してるの〜?」

「は、はぁ!?」

「大丈夫だって〜! 奈緒が1番可愛いよ〜♡」

「んなぁぁ〜! くっつくな加蓮〜!」

「なお〜♡」モフモフ

 

 

「本当にいつもこんな感じなんだ……」モグモグ

「うん……ねぇ」

「ん?」モグモグ

「私も食べさせてあげよっか?」

「ぶっ…!」

「冗談だよ。ふふっ…本当、しっかりしなよ」

 

 

 ……心臓に悪いイジりはやめてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね〜 凛! 白石さ〜ん!」

「またな〜!」

 

 

 手を振る北条さんと神谷さんに手を振り返し背を向けて歩き出す。

 俺と渋谷さんは帰り道が同じなので2人で歩いていると、昔渋谷さんとここを歩いたことを思い出す。

 

 

 

「前にもこんな風に渋谷さんと一緒に帰ったことあったよね」

「アンタが私のことストーキングしてた時のこと?」

「し、してないから! ストーカーなんて!」

「どうだか……ふふっ」

 

 

「白石さ、ちょっと変わったね」

「え、そうかな?」

「うん、前一緒に帰った時より話しやすいかも。 女の子に慣れてきたんじゃない?」

「うーん……それなら嬉しいけど……多分渋谷さんだからだよ」

「どういうこと?」

「渋谷さんとちょっとだけ仲良くなれたから俺も話しやすくなったんだと思うんだけど……自惚れかな…?」アハハ

「ふーん……ま、別にいいんじゃない…?」

 

 

「でもやっぱりよく考えたら白石が女子に慣れてきた訳じゃなさそうだよね」

「どうして? いや、まぁ慣れてないのは本当だと思うけど」

「だって加蓮に鼻の下伸ばしてたしまだまだだよね」

「は、鼻の下なんか伸ばしてないけど! ……伸びてないよね……?」

「いや、ウインクされた時とポテト食べさせてもらってる時はすごく情けない顔してたよ」

「……ほ、本当?」

 

 

 さっきもそうだけど渋谷さんは中々に俺の顔に厳しい。

 

 

「でもさ、あんな可愛い子にあんなことしてもらったら普通喜んじゃうもんなんだよ…! ましてや俺みたいな人生で一回もそんな経験なかったやつからするとさ…!」

「はぁ……私はアンタが本当に悪い女に引っかかったりしないか心配だよ」

「だ、大丈夫だよ…! 俺って人を見る目には自信あるから…! 多分……」

「もしかしたら私が悪い女かもしれないよ」

「渋谷さんはいい人でしょ? 優しいし」

「…あっそ」

「渋谷さんが優しい人じゃなかったら俺は今頃バイト続けれてないかもしれないしね」

「え、なんで?」

「いやだってほら……通報されてたかもしれないし」

「っ……/// あ、アンタいつまであの日のこと覚えてるのさ…!」

「い、いやぁ……あはは」

 

 

 多分渋谷さんと初めて会ったシーンは一生忘れられないよ…… 渋谷さんには申し訳ないけど。

 

 

 

「あら、お帰り凛」

「お母さん、ただいま」

「丁度よかった。 お母さん夕飯の支度するから店番変わって……って」ジ-

「こ、こんにちは」

 

「おやおや〜 凛、この前はアンタがすっごく否定するから信じたけどやっぱり……」ニヤニヤ

「だからそういうんじゃないから!」

「邪魔者は退散するわね〜 あとは若いお二人で……」オホホ

「あ〜 もう! じゃあね白石!」

「あ、うん…またね渋谷さん」

 

 

 渋谷さんは怒ってお母さんを追いかけていった……

 

 こういうのって何て言うんだっけ…? デジャヴ?

 

 

 

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