346プロの雑用バイト君   作:大盛焼肉定食

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24話 大学はすごく広い

 

 

「ふわぁ〜 眠い……」

 

 

 俺は大学の構内でめちゃくちゃ大きなあくびをする。

 

 やば、恥ずかし……すれ違った女の子にすごい見られてた。

 

 

 俺は羞恥心に身を悶えさせながら構内を進んで行き講義が行われる教室へと入る。

 

 講義開始まで残り3分といったところか……ギリギリセーフだ。

 

 

「えーっと……席はどこにしようかな…」

 

 

 この講義は人気がないのか受講している人数が少ない。人気のある講義だと席を確保するのも苦労するが、この講義はガラガラなのでこんなに遅い時間に来ても好きなところに座ることができる。

 

 

「ん? あれは……」

 

 

 教室の真ん中付近、誰かが俺に手を振っている……ってあれ相葉さんだ!?

 

 俺に向けて手を振っていたのは相葉さんだった。 すごいニコニコして手を振ってる……

 

 

「おはよう、相葉さん」

「おはよう〜 白石くん♪ あ、座って座って!」

「そう…? あ、ありがとう」

 

 

 俺は相葉さんの隣に座る。 まさかこんな展開になるなんて……思ってもいなかったぞ。

 

 

「白石くんもこの講義取ってたんだね〜!」

「うん、でもあんまり人気ないみたいだね。この講義に友達誰もいないや」

「そうだね〜 私もこの講義は1人ぼっちかな〜って思ってたよ。でも白石くんいてよかった♪」

「あはは、さっきすごい笑顔だったもんね」

「え〜! 私そんな顔に出てるかな〜?」

 

 

 相葉さんはニコニコしたりムスっとした顔をしたり表情が豊かだ。

 そんな相葉さんとの会話は楽しいし、会話をしているだけで明るい気持ちになる。

 

 

「あ、そろそろ始まるみたい!」

「そうだね」

「白石くん、私がもし寝ちゃってたら起こしてね?」

「ま、任せてよ!」

「ふふっ、頼りにしてるよっ♪」

 

 

 こうして、小学生時代以来の隣に女子がいる状態での授業が始まった。

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 

「〜であるからして、〜すると」

 

 

 やばい……すごい眠気が……

 

 い、いやいや……講義中に寝るわけには……

 

 

 体に物凄い眠気が襲いかかる……教壇に立って話す教授の低い声が子守唄のように頭の中にスッと入ってくる。

 

 

「………」コクン...コクン....

 

 

「……い……ん」

 

 

「んっ……」

 

 

「……ん……おき……」

 

 

 透き通るような声が耳に届いた。

 

 綺麗な声だなぁ……何て言ってるんだろう…

 あれ……ていうか今講義中で……

 

 

 

「おーい…白石くん……起きて…」ボソッ

「はっ…!」

「あ、起きた…?」

 

 

 うわ……まつ毛長いし…目すごい大きいし、肌すべすべだし……

 

 意識を取り戻して声のする方へと顔を向けると、そこには綺麗な相葉さんの顔が間近に……

 

 

 

「うおっ…!?」

「しっ! しーっ…!」

「あ……」

 

 

 ビックリして大きな声を出した俺に対して、相葉さんは人差し指を口の前に当てて、静かにしろといった趣旨のジェスチャーを送ってくる。

 

 

「どうかしたのかい?」

「あ……す、すみません! でっかい蜂がいたので驚いて声を出してしまいました……」

「そうか……で、ここから先は〜」

 

 

 教授に声をかけられたけど何とか乗り切れたみたいだ。 教授は興味もなさそうな返事をして講義に戻る。

 

 

 

「危なかったね…ふふっ」

「うん……ちょっとヒヤッとしたよ」

「白石くんが大きな声出すから私もビックリしちゃった」

「……それは相葉さんが…」

「私が…? んー?」

「いや……別になんでもない…」

 

 

 相葉さんはよくわからないといった様子で、頬に指を当てて首を傾ける。 でも少し口元はニヤけていて、俺がビックリした要因に気づいているようにも見えた。

 

 相葉さんは普段ほわほわしてる人だけど、こういう小悪魔的な一面もあることを知った……

 

 

 

 

 

「はい、じゃあ今日はここまで。また来週この時間に」

 

 

 教授の一言で講義が終了する。 もうこの教室に用がなくなった学生たちは次々に教室から立ち去っていく。

 

 

 

「ふぅ……終わった〜」

「お疲れ様♪ 白石くん、あれからは目パッチリだったね」

「流石にあんなことあったら目も覚めるよ…あはは」

「私が寝たら起こしてねってお願いしたのに、白石くん先に寝ちゃうんだもん。ズルいなぁ〜」

「え? ズルい…?」

「うん。だって先に白石くんが寝てるなら、私は寝られないじゃない? 2人とも寝たら起こす人がいなくなっちゃうもん!」

「えぇ……ていうか俺は寝ようとして寝たというか、気づいてたら寝てたからさ」

「来週の講義は私が寝る番だからっ!」グッ

「それ宣言するようなこと……?」

 

 

 冷静になると意味のわからないような、中身も何もない会話をしながら俺と相葉さんは揃って教室から出て行く。

 

 

「白石くんこの後は?」

「俺は今日これで終わりだよ」

「えーっ! 実は私もなの! じゃあさ、どっかでお昼ごはん食べよっか!」

「えっ」

「あれ…? 何か用事あった……?」

「あ、あぁ…いやそういうことじゃなくて! じゃ、じゃあご一緒させていただきます……」

「ふふっ、何で急にそんな硬くなるの?」

 

 

 いけないいけない……またちょっと慌ててキモい部分が出るところだった。

 

 

 

「あ!ねぇねぇ! 大学の中にお洒落な感じのカフェテラスがあるよね? 行ってみない?」

「うん、俺は構わないよ」

「よーしっ! じゃあレッツゴー♪」

 

 

〜〜〜〜

 

 

「ん〜、美味しい〜♪」

「確かに美味しいね……ちょっと食べづらいけど」

「具が多いから口を大きく開けないとね!

あ〜むっ……美味しい〜♪」

 

 

 俺たちはカフェに到着した後、それぞれサンドイッチとコーヒーを注文して席に着いた。

 

 大学内のカフェでコーヒーとサンドイッチ……なんか大学生してるなぁ…って感じだ。

 

 

 それに目の前では幸せそうにサンドイッチを頬張る相葉さん……こんな可愛い子と一緒にお昼ごはんなんて俺は幸せ者だ。

 

 

 

「……」ジ-

「ん? ろうひはほ?」モグモグ

「いや、美味しそうに食べるな〜って」

「えっ…/// や、やだっ…!私ったら大きな口開けて……そ、そんなに見ないで……///」カァ~

「あ、ご、ごめん……」

「も、もう! 白石くんも自分のサンドイッチに集中しなさい!」

「は、はいっ…!」モグモグ

「ふふっ、それでよしっ♪」

 

 

 そうしてサンドイッチを食べ終えた俺たちは、コーヒーを飲みながらゆっくり雑談を交わす。

 

 

「ここ一回来てみたかったんだ〜 でもお仕事で忙しかったりして来れなかったんだよね。今日は来れてよかった〜」

「俺も来れてよかったよ。 中々こういうお洒落な雰囲気の店は入ったことなく……いや、そういえばこの前行ったな」

「へ〜、どこに行ったの?」

「駅前の新しいデパート内にあるお店でさ」

「あ!そこSNSで見たことあるよ! 誰と言ったの?……あ、いや待って! 当ててみせるよ!……ズバリ、大学の男友達!」

「ふっ……それが一緒に行ったのは女の子なのさ」

「え〜!白石くんが!?」

「う、うん……」

 

 

 そんなに驚く……? ていうか俺ってやっぱり女っ気なさそうに見えるのか。

 

 って、そりゃそうか。そもそも相葉さんには初めて会った時に全部話してるんだし。中高と男子校通ってたから女の子の知り合いとかいなかったこととか。

 

 そう考えると東京に来てから……いや、事務所でアルバイトするようになってから異性の知り合いもたくさん増えたな。

 

 上京してすぐの頃に比べたら女の子にも少しずつ慣れてきた気はする。俺も少しは成長してるのかな……なんて。

 

 

 

「あ、そういえばこの前ネットで相葉さんが歌ってる曲聞いたよ」

「えっ! どれどれ!」

「なんたらかんたらヴァルキュリアスみたいなやつ」

「ちゃんと覚えてよ〜! ふふっ、でも聞いてくれて嬉しい♪」

「すごいカッコよかった。ありすちゃんも鷺沢さんも」

「2人のこと知ってるんだ!?」

「あ、あぁ……まあね。そういえば高森さんも話したことあるなぁ」

「美波ちゃんは?」

「いや……知らない」

「じゃあ、アインフェリアコンプリートまでリーチだね!」

「リーチって……そんなビンゴみたいな…」

 

 

 この前聞いた中で一つだけ知らない声があったなそういえば……それが相葉さんの言う美波さんなんだろうか。

 

 

「その美波さんってどんな人?」

「あれあれ〜? 美波ちゃんに興味あるのかな〜?」ニヤニヤ

「ち、違うよ…! 話の流れだから!」

「ふふっ、美波ちゃんはね〜女神みたいな人!」

「め、女神…?」

「うん! すっごく優しくて、綺麗で、頭もよくって……白石くん会ったら好きになっちゃうかもね〜」

「……でも今俺の中での美波さん像がすごいハードル上がってるけど」

「そんなハードル軽く飛び越えちゃうよ!美波ちゃんは!」

「へぇ〜」

 

 

 相葉さんがここまで言うんなら、余程その美波さんは素敵な人なんだろうな。

 

 とはいえ俺も目の前の相葉さんをはじめ、たくさんの美少女や綺麗な女性を見てるからな。美人に対する耐性も多少はついてきてるはずだ。

 

 

「あ、ちなみに美波ちゃんもこの大学にいるよ」

「えっ!?」

「学年は一つ上だから授業とかでは一緒になることないから会ったことないだろうけどね。あとウチの大学すごい広いし!」

「そ、そうなんだ……」

 

 

 現役アイドルが2人もいる大学すごいな……2人がミスコンとか出たら一騎討ちになりそう。いや、知らんけど……

 

 

「連絡してみる?」

「えっ!?」

「もしかしたら今大学にいるかもしれないし」

「い、いや別にわざわざ連絡することは……」

「えいっ♪」

 

 

 相葉さんは俺の言葉も聞かずにスマホの発信ボタンを押す。

 

 相葉さん結構パッション溢れてるよね……

 

 

 

『あ、美波ちゃん? うん、うん……今ね、大学の中の……』

 

 

 ま、まぁ……相手も多忙なアイドルだろうしそう都合よく同じ時間に大学にいるなんてことは……

 

 

『うん、じゃあね〜』

 

 

 ピッ

 

 

「美波ちゃん今からここ来るって〜!」

「え、えぇっ!? ま、マジで!?」

「マジ! カフェでお茶してるって言ったら来てくれるって!」

 

 

 な、なんてこった。いつかは事務所で会うこともあるかもなんて思ってたら、こんなに早くご対面することになるなんて……

 

 

「…………」カチコチ

「白石くん、硬くなりすぎじゃない?」

「だ、だって……女神が来るんだよ…?」

「も、もうっ! 女神っていうのは比喩表現で、美波ちゃん普通に人間だから!」

「つ、つまり人型女神か……」

「ダメだこりゃ……はぁ」

 

 

 そんなこんなで美波さんを待つこと10分……緊張からコーヒーを飲み干してしまったので、おかわりでも買いに行こうかと悩んでいたその時。

 

 

「お待たせ〜 夕美ちゃん!」

「あ、美波ちゃん!」

 

 

 き、来たな女神……

 

 

 丁度俺の後ろから声がしたので、俺はゆっくりと振り返る。するとそこには……

 

 

「ふぅ…ちょっと走ったから疲れちゃった」

 

 

 本当に女神がいた。

 

 

「め、めが……女神……」

「えっ?」

「あ、ご、ごめんね美波ちゃん! ほら白石くんっ!シッカリして…!」ゲシゲシ

 

 

 相葉さんがテーブルの下で俺の足をツンツンしてくるけど、そんなことが全く気にならないくらいの衝撃を受けていた。

 

 

 夏らしく清涼感のある白のブラウスに青いスカートを見に纏い、少し茶色がかった腰まで伸びる綺麗な髪を靡かせるその姿はまさしく女神そのものだ。

 

 

「夕美ちゃん、大丈夫かな? 彼……」

「大丈夫大丈夫! ささっ! 美波ちゃんも座って♪」

「う、うん」

 

 

 スラリと伸びる手足にきめ細やかな肌……そして何より特徴的なのは優しげな印象を与えるたれ目。 声も透き通るようで美し……

 

 

 

「おーい、白石くん! そろそろ戻ってこ〜い!」

「はっ……!」

「あ、帰ってきた」

 

 

 くっ…あまりの女神パワーに意識を失うところだった。 いやあれは女神パワーというよりはもう女神ショック……

 

 

「白石くん、しょうもないこと考えてないで自己紹介して?」

「はっ……!」

「もう〜 しっかりしてよね?」ハァ

「ふふっ、2人は仲良しなんだね」

 

 

「私は新田美波です。夕美ちゃんと一緒にアイドルやってます」ニコッ

「し、白石幸輝です! 18歳です! 夕美さんとは違ってアイドルではありません!」

「ふふふっ、白石くんって面白い人だね、夕美ちゃん」

「白石くんちょっとは落ち着きなよ……」

「お、俺はめちゃくちゃ落ち着いてるよ!?」

「とてもそうには見えないよ……」

 

 

 うっ……た、たしかにそろそろ落ち着きを取り戻さなくては……

 

 

「ところで、白石くんは夕美ちゃんとどうして知り合いになったのかな?」

「も、元々は大学の入学した直後にあったガイダンスで知り合ったんです」

「うん! そうしたら白石くんが何とウチの事務所でアルバイトしてることも知ってね?」

「そうなんだ、アルバイトっていうとどういうことしているの?」

「アイドルの皆さんの送迎をしたり、掃除をしたりコピーとかの雑用をしています」

「へぇ〜! じゃあもしかしたらいつか白石くんに送迎をお願いすることがあるかもしれないね!」ニコッ

「そ、その時が来たらよろしくお願いいたします…!」

「ど、どっちかと言えばお願いをするのは私の方じゃないかな…?」

 

 

 ふぅ……す、少しは落ち着いてきたぞ。 これも俺の女の子耐性が上昇している証拠だ。

 

 東京に来たばっかりの俺だったら新田さんを前にしたら、ずっと固まっているだけだっただろう……

 

 

「わっ!」

「どうしたの夕美ちゃん、大きな声出して」

「今スマホ見たら、今日この後雨が降るって」

「えっ、こんな天気いいのに?」

「うん!ほら見て?」

 

 

 相葉さんはそう言って俺と新田さんにスマホの画面に映る雨雲レーダーを見せてくれる。

 

 

「まずいなぁ……」

「どうして?」

「いや、俺今日すごいたくさん洗濯物干して来ちゃったんで」

「誰か家に人はいないの?」

「あ、俺一人暮らしなんですよ」

「えーっ!白石くん一人暮らしだったの!?」

「う、うん……あれ、相葉さんにも言ってなかったっけ…?」

「初耳だよ! ねぇねぇ!一人暮らしってどんな感じなの?」

「どんな感じって……」チラ

 

 

 相葉さんも新田さんもワクワクした様子で俺の言葉を待っている。 困ったなぁ、特に話すことなんてないんだけど……

 

 

「2人は家族と一緒…?」

「うん! 私はお母さんとお父さんと」

「私もパパとママと……あと弟が1人いるよ」

「そうなんですか……」

「ねぇねぇ! それより一人暮らしってどんな感じなの!」

 

 

 うっ……話を逸らす作戦失敗か。

 

 一人暮らしなぁ……まぁ、強いて言うなら

 

 

 

「まぁ……自由ではあるかなぁ」

「やっぱりそうなんだ〜」

「まず当たり前だけど俺を叱るような人もいないからね。例えば風呂上がりに裸でウロウロしても誰も咎めない」

「すごーい!」

「えっ…す、すごいのかな…? あと白石くん、風邪引いちゃうからちゃんと服は着た方がいいよ…?」

「あっはい……」

「他には何かあるの?」

「相葉さんすごい食いつくね……一人暮らししたいの?」

「だって一人暮らしなんて大人〜!って感じだもん!」

「まぁでも嫌なことも結構あるけどね」

「例えば?」

 

「やっぱりふとした瞬間に寂しさを感じたりはするよ。 親と暮らしてる時は帰ったら人がいるのが普通だったけど、今は家に帰っても誰もいないしね」

「それは確かに……寂しいかも」

「それで気づくんだよね。あぁ……俺って恵まれてたんだなって」

「な、なんか白石くんが大人に見える…!」

「ふっ…俺はもう18だからね。相葉さん」

「わ、私も同じ18歳なんだけど!」

「ふふっ」

「まぁそれは置いておいて、当然だけど良いところも悪いとこもあるよ」

「うーん……でもいつかは一人暮らししてみたいなぁ」

 

 

 相葉さんはテーブルに肘をつき、手のひらを頬に添えて目を瞑る。

 自分が一人暮らしした場合の妄想でもしているんだろうか。

 

 

「白石くんは…そういう人とかいないの?」

「そういう人とは…?」

「だからほら、彼女さんとか。彼女さんがいてくれたりしたら寂しさも軽減するんじゃないかなって……」

「すぅ……ふぅ〜」

「あ、な、なんかごめんなさい……」

「謝らないでくださいよ新田さん……なんか余計惨めじゃないですか……はははっ」

「ご、ごめんってば〜」

「大学にそういう関係になれそうな女の子とかいないの?」

「いないなぁ……1番仲良いの相葉さんだし」

「えっ!? そ、そうなの!? いや〜そう言われるとちょっと嬉しいな〜♪」

「はぁ〜 やっぱり部活とかサークルとか入った方がいいのかなぁ……それでもっとガツガツギラギラした男に……!」

「前にも言ったけど白石くんにそういうのは似合わないと思うよ?」

 

 

 やはり俺がチャラ男になるなんて不可能だったんだ……

 

 

「それに白石くんがすごくチャラチャラした人だったら、私こんな風に仲良くなれてなかったと思うな〜」

「えっ……」

「だから今のままの白石くんで良いと思うよ?ね、美波ちゃん!」

「うん、私も無理して変える必要があるとは思わないかな」

「じゃ、じゃあ今のままでもいつか絶対彼女できるかな!?」

「それは保証できないっ♪」

「がくっ……」

 

 

 ま、まぁ……今はバイトが恋人ってことにしておくか。

 

 

「あ、私そろそろ行かなきゃ」

「美波ちゃんこの後も何かあるの?」

「今日はレッスンに行くんだ」

「そうだったんだ〜 頑張ってね!」

「ありがとう! じゃあ白石くんもまたね!」

「あ、はい! またいつか会えるのその日を心待ちにしております…!」

「ふふっ、それじゃあね〜」

 

 

 そうして新田さんは手を振り、綺麗な髪の毛を揺らしてその場から立ち去っていった。

 

 

「どうだった、美波ちゃんは?」

「……ありゃ女神だね」

「私の言った通りでしょ♪」

「俺の中のハードルを軽く飛び越えてきたよ」

「えっへん! じゃあ私たちもそろそろ行こっか!」

 

 

 何故か新田さんが褒められて自分のことのようにドヤ顔をする相葉さんと一緒にカフェを後にした。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「とりあえず髪を染めてみたりしてさ、後はネックレスジャラジャラつけてみたり……」

「もう〜 まだ言ってるの?」

「女の子は危険な男にドキドキするって聞いたことあるから」

「それどんな偏見なの…?」

「でも昔読んだ少女マンガでも……って、ここなんだ?」

「ここ? ここは保健室だよ?」

「へー……大学にも保健室ってあるんだ。初めて知った」

「敷地が広いから…え!こんなとこあったんだ〜!っていうことよくあるよね♪」

 

 

 大学から出ようと裏門を目指して歩いている途中で保健室を見つけた。

 

 なんだか久しぶりに保健室を見たなぁ……とか考えてたら相葉さんがスタスタと中に入っていくので俺も後に続く。

 

 

「どう?」

「どうって……保健室って感じ?」

「なにそれ、ふふっ」

「だ、だって〜! あ、見て見て白石くん!身長測るやつがあるよ!」

「お〜 流石保健室だね」

「ちょっと測ってみようよ!」

 

 

 そうして相葉さんは靴を脱いで身長計の土台に乗り、後ろの棒に背中をピッタリとくっつける。

 

 

「測って測って〜♪」

「はいは〜い。よいしょ…」

 

 

 子どものようにはしゃぐ相葉さんの後頭部目がけてバーのようなものをゆっくりと下ろす。

 

 

「えーっと……158cm」

「変わってないか〜」

「まぁ入学した時に健康診断してるし、そんなすぐには変わらないよ」

「そうだけどさ〜 じゃあ次は白石くんね!乗って乗って!」

「俺もやるの…?」

「私の身長を知ったからには白石くんの身長も教えてもらわないとね〜」ニコニコ

 

 

 いうほど身長知りたいかな…?

 

 

 と、まぁそんなことを考えながら俺も身長計に体をセットする。

 

 

「じゃあ私が測るからね〜!」

「よろしく」

「よいしょっ……んっ、白石くんっ…大きいからちょっと…大変……っ」

「………」

 

 

 ち、近いな……

 

 

 目の前で相葉さんが腕を伸ばして俺の頭にバーを合わせようと奮励している。

 

 すごく……良い匂いがします。

 

 

「よいしょっ……えーっと、179cm! すご〜い!私より20cmも大きい!」

「あれ、ちょっと伸びたな……この前測った時は178だったんだけど」

「い〜な〜 まだ身長伸びるんだ〜」

「でもどうせなら180行っとけよ!って感じだけどね」

「それはほら、まだ伸びしろがあるんだよ♪ よいしょっ……」

 

 

 相葉さんは俺の後頭部にくっついているバーを1番上まで戻そうと背伸びをして腕を伸ばす。

 

 

「あ、俺がやるからいいよ!」

「う、ううんっ……もう…ちょっとで……きゃあ!」

「あ、相葉さん!」

 

 

 相葉さんはバランスを崩して、後ろに倒れ込み尻もちをつく。

 

 

「いててっ……あれ?これって……」

 

 

 相葉さんが尻もちをついたのは身長計の横に置いてあった体重計。

 

 相葉さんの体を乗せた体重計のメモリの針がぐわんぐわんと大きく揺れる。

 やがて針はある一点を指し示すように動きが弱くなり……

 

 

「あっ……」

 

 

 針の動きが止まった。

 

 

「……」

「……」

 

 

 俺と相葉さんはポカンと気の抜けた表情をしてメモリを見つめる。

 

 数秒経った頃にようやく顔を真っ赤にした相葉さんが再始動する。

 

 

 

「ちょっ…! ダメダメダメ〜! 見ないで!見ちゃダメ〜!///」

「はっ…! い、いや……ちゃんとは見てないからっ! ぼんやりと見えただけだからっ…!」

「うそっ…! 絶対見てた〜! じーっと見つめてたもんっ…///!」

「い、いやでも全然重くないじゃん…!恥ずかしがるようなことは……」

「や、やっぱり見てたっ…/// もうっ!早く帰るよ白石くんっ…!」

「ちょ、ちょっと……押さないでよ相葉さんっ…!」

 

 

 相葉さんに背中を押されて保健室から飛び出す。

 

 

「もうっ…!もうっ…!」ポコポコ

「い、いててっ……背中叩かないでよ」

 

 

 背中を押しながらも、顔を真っ赤にした相葉さんは俺の背中を軽く叩く。

 

 本人には申し訳ないことをしたけど、なんだか駄々っ子みたいで可愛いと思う。

 

 

「はぁ……はぁっ……」

「あ、相葉さん…?」

「ぜ、絶対口外禁止だからねっ…! 女の子のトップシークレットなんだから…っ///」

「わ、わかったよ…! 絶対誰にも言わないから…!」

「約束だよ…? て、ていうかいつもはもうちょっと軽いから! さっきサンドイッチ食べたせいでいつもより2kgくらい増えてるから!」

「いや、サンドイッチだけでそこまでは増えないでしょ……ていうか全然恥ずかしがるような体重じゃなかったと思うけど。だってよんじゅ……」

「い、言っちゃダメだってば〜っ!!」

 

 

 その後も帰り道でぷりぷりと怒る相葉さんからのお説教を聞かせれ続けた。

 

 女の子に体重の話はNG。俺はまた一つ新しいことを学んだ。

 

 

 

 ちなみに帰り道でクレープの屋台を見つけたのでお詫びとしてご馳走すると言ったところ、相葉さんは笑顔でクレープを平らげていた。

 

 





 美波ちゃんと夕美ちゃんが同じ大学なんていう設定は公式では皆無なんですけど、本小説では同じ大学という設定にさせていただきました。


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