346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
「はいオーケー! 凛ちゃん!今日も良かったよ〜!」
「ありがとうございました…!」
「また今度よろしく頼むね!」
「はいっ」
〜〜〜〜
「お待たせ」
「お疲れ様、渋谷さん。じゃあ駐車場まで行こうか」
「うん」
渋谷さんと並んで2人で駐車場へと向かう。今日の仕事は渋谷さんを撮影先まで迎えに行って、事務所まで送り届けることだ。
「カバン持つよ」
「……ありがと」
「それにしても今日の渋谷さんはすごかったね」
「そうかな…?」
「すごく色んなポーズとっててさ、俺ならピースくらいしか思い浮かばないよ」
「私だって最初から色んなポーズができてた訳じゃないよ。美嘉とか楓さんみたいな慣れてる人にアドバイス貰ったり」
「へぇ〜 城ヶ崎さんからアドバイス貰ったってことは、ギャルっぽいポーズとかもできるってこと?」
「……まぁ、美嘉に無理やり教えられたりしたけど。やんないからね」
「べ、別に何も言ってないよ!?」
「目がそう言ってんの。アンタはちょっとわかりやすすぎだよ」
「そうかな……? じゃあ今俺が何を考えてるからわかる? 目だけを見て」ジ-
「……どうせエロいこととかでしょ」
「渋谷さん……俺のこと年中発情してる獣か何かだと思ってる?」
「ふふっ、ほら、車に着いたんだから運転よろしく」
「は〜い……」
車の鍵を開け扉を開く。 助手席に渋谷さんが乗り込み、シートベルトをしたことを確認して車を走らせる。
「車の中暑くない?」
「ん、大丈夫」
「じゃあこのままで……」
「よろしく」
静かに車は走り続ける。 俺と渋谷さんの間にはそこまで会話はなく、したとしても一言二言で終わるような内容ばかりだ。
しかし不思議と気まずい訳ではない。これはきっと渋谷さんの出す雰囲気の影響なのか、静かなこの空間が心地良いとすら感じる。
前までの俺なら会話が続かないことに慌てふためいて緊張マックスだったに違いない。
俺にも大人の余裕ってやつが生まれてきたのかもしれないな……フッ
「何笑ってんの…?」
「えっ!? あ、いや……別に…!」
「そ、そう……?」
あ、やばい……ちょっと引かれたぞ。
〜〜〜〜
「はい、到着〜」
「ありがとう。助かったよ」
「いやいや、これが俺の仕事だからね」
「ふふっ……じゃあ私行くね」
「うん、今日はお疲れ様」
渋谷さんは軽く手を振るとその場を立ち去り事務所の中へと入っていく。
なんか去り際がかっこいい……
「じゃあ俺も行くか」
車を指定の場所に駐車して、俺も事務所の中へと戻っていく。
とりあえず仕事を終えたことを報告するために千川さんの元へと向かおう。
〜〜〜〜
「ふぅ……帰ったら何しようか」
俺は今、事務所の玄関へと向かって1人歩いている。
あの後俺は千川さんの元へと向かってすぐに今日は帰ってもいいというお達しを頂いた。
特に事務所に残る理由も今日はないので、ありがたく帰らせてもらう。
「あっ」
「……あ」
事務所の敷地を出る辺りで、俺と同じく今まさに家に帰ろうとしている渋谷さんと目が合った。
〜〜〜〜
「何か前にもこんなことあったよね」
「もう……3回目かな、アンタと一緒に帰るの」
「一応言うけど……偶然だからね?さっきの」
「……?」
「いや、別にストーカーとかじゃないからね。出待ちとかしてた訳じゃないし」
「別に聞いてもないのに余計怪しく見えるよ」
「うっ……」
俺と渋谷さんは2人並んで歩く。空はオレンジ色に染まり、制服の人やスーツを着た人に加え買い物をする主婦の人など、様々な人々が街を歩いている。
「でもそっか……待っててくれた訳じゃないんだ。残念……」
「えっ……?」
そ、それって……どういう……
「なんてね。また騙された」
「えっ…!? あ、な、なんだ冗談か…!」
「ふふっ、アンタ本当に揶揄い甲斐があるね」
「い、今みたいな事言われると……俺みたいな奴は勘違いしそうになるからやめてくれ……」
「勘違いって…?何を?」
「えっ…い、いや……や、やっぱ何でもない…!」
「ふふふっ」
話すのに慣れたからと言って、俺と渋谷さんのパワーバランスは初めて会話をしたあの時から変わらない。
渋谷さんは俺を揶揄い、俺は渋谷さんに揶揄われてあたふたする。 俺の方が3つも年上なのに情けない話だ……
「バイトは最近どうなの?」
「ん? 特に変わったことは……まぁ、それなりにちゃんとやれてると思う」
「そっか」
「渋谷さんは? 最近の仕事とかさ」
「いつも通りだよ……あ」
「どうかした?」
「そういえば今度、雑誌に載る水着の撮影があるって言ってたかな」
「み、水着っ!?」
「何その反応……」
「え、い、いや! 夏だもんね!当然だよね、そりゃ水着くらいあるよね!」
渋谷さんの水着かぁ……って、ダメだダメだ! 本人が横にいる状態で水着を想像するなんて……
でもその雑誌買おう。
「白石、アンタは買うの禁止ね」
「な、なんで…!?」
「気持ち悪い顔してるから」
「し、してない!してない! 今すごく真剣な顔してたから!」
「はぁ……」
「あ、あはは……」
「水着って……そんなに見たいもんなの?」
「えっ、あ〜うん……そりゃあ……ね?」
「白石も私の水着とか見たいの?」
「えっ……」
……ど、どういうことだ。ま、まさか……
見たいって言ったら見せてくれるのか…!?
いやでもそんな美味しい展開あるわけ……ていうかそもそも渋谷さんが今水着を持っているわけが……いや、まさか…!?
「し、渋谷さん……」
「……」
「もしかしてその制服の下は水着だったりするの…?」
・・・・
「はぁ〜」
「えっ、何その顔は…?」
「別に……さっさと帰るよ」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってよ…!」
渋谷さんは一瞬だけ、めちゃくちゃ残念な生き物を見る目をしてスタスタと歩き出した。
「アンタがどんな思考回路してるのか私にはわかんないよ」
「い、いや〜 それほどでも」
「褒めてない」
「お〜い凛! おかえり。ちょうどよかった……って……アンタは」
「お母さん、ただいま」
いつの間にか渋谷さんの家に着いてしまったようで、店頭にいる渋谷さんのお母さんが声をかけてくる。
「こ、こんにちは!」
「あ、あぁうん……こんにちは」
そう言って渋谷さんのお母さんは微笑んだ。そんなふとした表情が渋谷さんと少し似ていてなんだか面白い。
「ちょっと凛、もうこれで3回目だけどアンタたち本当に何もないんだろうね……」ヒソヒソ
「だからそういうんじゃないって! 偶然!偶然一緒に帰ってきただけだから…!」
「ふーん」
「そ、それより……ちょうど良かったってどういうこと?」
「あっ!そうだそうだ! お母さん今からちょっと出なきゃいけないんだけどね? 今日はお父さんもいないから困ってたんだよ」
「店番ってことね……いいよ」
「ありがとうね! じゃあお母さんこのまま行くから」
「うん、いってらっしゃい」
「はいよー あ、じゃあね!えーっと……」
「あ、白石です!」
「うん、じゃあね白石くん」
渋谷さんのお母さんは小走りでどこかへ向かっていった。
振り返って渋谷さんを見れば早くも青いエプロンを着けて店番モードだ。
「大変そうだね……こういうことって結構あるの?」
「まぁまぁかな。でも結構楽しいよ」
「そうなんだ……」ジ-
「ちょっと見ていく?今お客さんもいないし」
「えっ?」
「こっち来なよ」
「あ、ちょっと!」
店の中に入っていく渋谷さんを追うように店内に足を運ぶ。
店の中は綺麗な花や草がたくさんあって、甘いようないい香りが鼻をくすぐる。
「いっぱいあるんだね……」
「まぁね、でもウチはそこまで大きい方でもないけどね」
「花屋さんってどういうことするの…?」
「色々だよ。花を買いにきたお客さまの話を聞いてどんな花がいいのか選んだり、予算に合わせて花束を作ったり、店にある花や植物の世話をしたり……本当に色々」
「はは……本当に盛りだくさんだ」
「後は結構力仕事もあるよ。花を入れたバケツの水替えとか配達とかね。後であそこに置いてあるダンボールを家の中に運ばないといけないし」
「えっ、あれを…?」
「うん」
「渋谷さんが1人で…?」
「うん」
1人で店番をしながらそんなこともしなくちゃいけないなんて……花屋さんの仕事って何となくキラキラしたものだと思ってたけど、想像以上にハードなものらしい。
「ならアレは俺が運ぶよ」
「えっ、いいよそんな」
「そんな話を聞いて何もせず帰るのは何かモヤモヤするから、俺に手伝わせてくれないかな?」
「ずるいね……そんな風にお願いされたら断れないし」
「あはは……ご、ごめん…」
「はぁ、わかったよ。じゃあお願いするね」
「うん! 任せてよ!」
「でも本当に重いよ?」
「大丈夫! 事務所のバイトでも力仕事はあるし、こういう時こそ男の出番だよ」
「ふっ……じゃあよろしく。 あそこにあるもの全部あっちの部屋に置いてくれればいいから」
「よっしゃ!」
〜〜〜〜
なんて息巻いてみたけど……これ本当に大変だな…! もうめちゃくちゃ腕が痛い。
でも、だからこそ手伝ってよかったと思う。
渋谷さんは今、店の中でお客さんの対応をしている。 あっちでの仕事をしながらコレを運ぶのもやるなんて絶対大変だよ。
「よい……しょっ!」
最後のダンボールを運び終えた頃には、外はすっかり暗くなっていて、結構長い時間ダンボール運んでたんだなと思い知らされる。
「お疲れ、大変だったでしょ」
「ま、まぁまぁかな〜」
「ウソつき、さっきチラッと見た時辛そうな顔してたじゃん」
「それは俺の演技だよ」
「ふふっ、まぁそういうことにしといてあげるよ」
渋谷さんが労いの言葉をかけてくれる。
本当は普通に大変だったけど……男というのは得てして女性の前では格好つけたくなる生き物なんだ。
「店のほうはいいの?」
「うん、今はお客様いないし……ていうかそろそろ店仕舞い」
「あ、そうなんだ」
「改めて今日はありがとう。助かったよ」
「いやいや、俺が勝手にやったことだから」
「そっか……」
「じゃあ俺そろそろ帰るよ」
「うん、気をつけてね」
渋谷さんと別れの挨拶を済ませて店を後にしようとしたその時……
「ただいま〜」
「あ、おかえりお母さん」
「店番ありがとうね〜……って、白石くんどうしたの?」
「え、えーっと……」
「店の手伝いしてくれてたんだよ。ほら、あっちのやつ運んでくれたんだ」
「えっ!? アレは重かったから明日お父さんにやってもらおうかと思ってたのに……重かったでしょう?白石くん」
「いえ、全然大丈夫ですよ!」
「本当にごめんなさいね〜 手伝いなんてさせちゃって」
「いや、俺が渋谷さんに頼んでやらせてもらっただけですから」
「そう…?じゃあ……ありがとうね」
「はい!」
家に戻ってきた渋谷さんのお母さんと少しの間だけ言葉を交わす。
「じゃあ俺そろそろ帰りますね」
「ちょっと待ちなよ白石くん」
「……なんでしょうか?」
「店の手伝いまでしてもらったんだ。このまま何もせずに帰すわけにはいかないね」
「え、いや別にお礼なんて……」
「ちょっと晩御飯でも食べていきなさいよ!」
「「えっ?」」
俺と渋谷さんの声が重なった。
〜〜〜〜
「白石くん、お家の人に連絡とかしといてね〜」
「あ、いや俺は一人暮らしなので」
「へ〜! 一人暮らしかぁ……いいね〜」
「ははは……」チラッ
「……ふふっ」
テーブルの正面に座る渋谷さんと目が合う。ソワソワとした態度が隠しきれない俺を見て、渋谷さんはふっと息を吐く。
「お母さん、こうなったら止まらないと思うからさ……大人しくご飯食べていってよ」
「そ、そうなの?」
「そうそう! 遠慮なんかしないでいいからね! もうちょっとだけ待っててね〜」
「は、はい!」
まさか渋谷さんと、そのお母さんと一緒に夕飯を食べることになるなんて……しかも渋谷さんの家だし。
はぁ……お、落ち着かない。
「はい、おまたせ〜」
「ありがとうございます!」
「ごめんね〜 普通のカレーで」
「い、いやいや、とっても美味しそうです!」
「そう? じゃあ男の子なんだからたくさん食べてね! 凛はあんまり食べる子じゃないからね〜」
「お母さん、変なこと言わなくていいから」
「ごめんごめん、じゃあ冷めないうちに食べちゃいましょう」
3人でいただきますと言ってカレーを食べ始める。
あーなんか懐かしい……家庭で食べるカレーって何でこんなに美味しいんだろう。
「お口に合うかしら?」
「はい! すごく美味しいです!」
「よかった〜」
やっぱり人が手作りした手料理って最高だよな。自分で作ってもここまでの感動は得られない。
「さて……じゃあそろそろ、アンタたちの話でも聞かせてもらおうかしらね〜」
「……別に面白い話なんてないよ」
「それはアタシが決めることだからね。じゃあまず、いつ知り合ったのさ?」
「知り合ったのは……」
「事務所でだよ」
「へぇ〜 あれ? ていうか白石くんは何で事務所にいたの? もしかしてタレントさん!?」
「い、いやいや! 俺はただのアルバイトですよ!」
「あらそうなの? じゃあ偶然事務所で知り合ったんだ〜」
「はい、そんな感じです」
渋谷さんとの出会いは今でも鮮明に思い出せる。 あぁ……あの出会いからよくここまで仲良くなれたなぁ。
ゴスッ…!
「いでっ…!」
「どうしたの!?」
「す、すみません……ちょっと足をぶつけちゃって」
「……」ジロッ
わかってるよ渋谷さん……思い出すなって言いたいんだろう? でも何度も言うけどあんな光景忘れられる訳がないよ。
「そういえば白石くんはいくつなの?」
「18です。大学生の」
「あら、凛よりも3つ上なのね」
「私は白石のことあんまり年上だと思ってないけど」
「こらっ、アンタはま〜たそういうこと言って」
「あはは……別に大丈夫ですよ。俺自身も自分がそこまで立派な人間だとか思っていないので」
「そうかい? 一人暮らしして大学に通ってバイトまでしてるなら立派じゃないかい。凛、アンタ勉強教えてもらいなさいよ」
「白石……勉強できるの?」
「え、うんまぁ……人並みには」
「ふーん」
「この子ったら意外と勉強が苦手でね〜」
「お、お母さん…!」
「ふふっ」
その後はも俺は2人と会話をしながらカレーを全て平らげた。
ダンボールを運んだだけで夕飯を頂けるなんて俺はラッキーだな。
「あ、そうだ凛……ハナコに餌あげてきてちょうだい?」
「え…今?」
「さっきお腹空いてそうな顔してたのよ〜」
「そうなの? わかった」
ハナコ?餌? 渋谷さんの家のペットかな?
渋谷さんは立ち上がってどこかへと向かっていく。
あれ…?ちょっと待って…? 渋谷さんのお母さんと2人きりになってしまったぞ!? さ、流石に気まずい……
「さてと、白石くん」
「は、はいっ!?」
「ちょっとだけ真面目な話だけど……本当に凛とは何もないのかい?」
「ほ、本当です! 俺なんか仲良くしてもらってる立場ですから……」
「そっか」
渋谷さんのお母さんはそれ以上は何も追求をしてこなかった。
「アタシはね、ちょっとだけ嬉しいんだよ」
「嬉しい……ですか?」
「いやなに、凛にも男の子の友達なんていたんだな〜って。お父さんは嫌がるかもしれないけどさ」
「そ、そうですか……」
「そうそう、まぁアタシもあんまりにもふざけた奴とかだったらどうしようかと思ってもいたけど、白石くんは大丈夫そうだからね」
「ありがとう……ございます…?」
「はははっ! まぁこれからも凛と仲良くしてやって頂戴な」
「……それはもちろんですよ。渋谷さんが仲良くしてくれる間はですけど」
「ちょっとちょっと! 男の子がそんなに受け手に回ってちゃ始まらないよ? もっとグイグイと行くくらいじゃないと!」
「お、俺にはそういうの向いてないですよ…!」
「まぁ途中で気が変わって、やっぱり付き合いたい!ってなったらそれはそれで構わないからさ。恋愛なんて若いうちにしておかないとね!」ハハハ
「い、いやその……」
「我が娘ながらいい子だよ〜凛は。なんてたってアイドルにスカウトされちゃうような子なんだから」
「いやだから付き合うとかそういうんじゃなくってですね…!」
「なんだい、凛に何か不満でもあるのかい?」
「そ、それは無いですけど……!」
「可愛いだろう?」
「そ、それは確かに……まぁ、そう思いますけど……そういうことではなくて…!」
「あ〜 何か年甲斐もなくキュンキュンしてきちまったよ〜♪」
渋谷さんのお母さんはとても楽しそうだ。女性ってのはいくつになっても恋愛トークが好きなんだな……
「いや〜 ごめんごめん。ちょっと揶揄いすぎたね。白石くんは揶揄い甲斐があるってよく言われない?」
「ど、どうでしょうか……」
「餌、あげてきたよ」
「ありがとね凛。さてと、じゃあアタシは皿でも洗ってくるかね」
「あ、俺がやりますよ! ていうかやらせてください!」
「いいのいいの!お客さんにそんなことさせられないって!座ってて、座ってて〜」
豪快に笑いながら渋谷さんのお母さんはシンクの方へと皿を運んでいった。
「お母さんと何話してたの? なんかお母さんの妙に楽しそうな声が聞こえてきたんだけど」
「……お、大人の話し合いだよ」
「は?アンタまだ未成年じゃん」
「でも18歳からできるようになること増えるし、1つの区切りって感じしない?」
「例えば?」
「それはやっぱり18禁………い、いや…免許を取ったりとかさ」
「今何か言いかけなかった?」
「べ、別に〜」
「嘘、絶対何か言いかけてた」
「……カレー美味しかったね」
「誤魔化すの下手すぎ、いいから早く白状しなよ。気になるじゃん」
「し、渋谷さんが18歳になってまだこのことを覚えてたらってことで……」
「3年も待てないし」
ギャ-ギャ-ギャ-
「ふふっ、やっぱり仲良いじゃないかい」
〜〜〜〜
「今日は夕飯ご馳走して頂いて本当にありがとうございました。とっても美味しかったです」
「あら? あんなのでいいならいつでも食べにおいで!」
「ははは……いつか機会があれば」
店頭で渋谷さんのお母さんと渋谷さんに挨拶をして帰路に着く。 夕飯を一緒にどうだって言われた時はどうなるかと思ったけど、すごく楽しかったな。カレーも美味しかったし。
「ちょっと」
「あれ、渋谷さんどうしたの?」
「そこまで送るよ」
「えっ!? い、いいよ! もう外も暗いんだし危ないよ」
「いいの、今ちょっとだけ散歩したい気分だから」
いつの間にかついてきていた渋谷さんと夜の住宅街を並んで歩く。
「渋谷さんのお母さんさ……」
「ん?」
「意外と楽しい人だったね」
「……そうかな? 私はずっと一緒にいるから普通に感じるけど」
「いや渋谷さんに見た目も似てたからさ、中身も……ふーん、アンタが凛の友達?まぁ入んなよ。 みたいな感じを予想してたから」
「今の私の真似のつもり?」
「うん」
「……ムカつく」バシッ
「いてっ……」
俺的にはそこそこにていると思ったけど、渋谷さんはお気に召さなかったらしい。
「多分珍しかったから……余計にテンションが高かったんじゃないかな」
「え?」
「私が男子とつるんでたのがさ」
「へぇ〜」
「……アンタが初めてだからね。私の家に入ってきた男子って…」
「えっ……そ、そうなの?」
「……じゃあね、気をつけて帰んなよ」
「あ、ちょ、ちょっと渋谷さ……」
挨拶をする間も無く、渋谷さんは急に振り返って家の方へと歩き出してしまった。
「渋谷さーん! じゃあねー!」
大きな声で声をかけると、渋谷さんは止まってこちらを振り返り、小さく手を振りかえしてくれた。
「ふぅ……帰るか」
……俺も女子の家に入ったのなんて初めてなんだけどなぁ。
貴重な体験をした。 今日の出来事を胸に刻みながら、俺はりんりんと虫が鳴く道を歩いて帰路に着いた。