346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
いよいよ今日から346での初仕事だ。まだ何をするのか業務内容の連絡は来ていないが、どんな仕事にせよしっかりやらないとな。
そんな訳で俺は未だ慣れない、というか慣れる時は来るのだろうか?という程大きい事務所を訪れていた。
「ど、ドキドキしてきたな」
一体どんな仕事をするんだろう……アイドルが撮影で使う道具を運んだり、アイドルを送迎したりするのだろうか。
そんなことを考えていた時……
ピロ-ン!
「おっ!」
さぁ……一体どんな内容の仕事が!
〜〜〜〜
サッ…サッ…サッ…サッ…サッ…
俺は今事務所の敷地内を竹箒で掃いている。
「はぁ……意気込んだ割には少し拍子抜けだなぁ」
俺の今日の仕事内容は簡単に言うと事務所の掃除だ。 今日が初の仕事ということで、とりあえず事務所の構造を覚えてもらう目的も込めて色々な所を掃除して回れ!とのことらしい。
「まぁ確かに、ここの事務所アホみたいに広いからまずはどこに何があるかとか覚えた方がいいよね」
実際どこに何があるかとかまだまだ把握してないし……
そんなこんなで噴水のある広場を掃除している時に、どこからか1枚の紙が飛んで来たのをキャッチする。
「ん?なんだこれ……?紙…?」
紙には文字がぎっしりと詰まっていて、所々にペンで何かを書き足したような後もたくさん残っていた。
台詞……?なんだこれ、何かの台本だろうか?
「すみませーーん!!その紙を抑えておいてくださーーい!!!!」
「えっ?」
そのまま紙を見ていると、向こうの方からとてつもない声量とスピードの女の子が一直線に俺へと向かって突進をしてくる。
えっ……!な、なにごと!?
「いや〜! すみません! 急に台本の紙が風で飛ばされてしまって!!拾ってくれてありがとうございます!!」
「あ、あぁ……これのことですか?」
「ふむふむ……はい!! 間違いなく私の飛ばしてしまった紙です! ありがとうございます!!」
あれだけのスピードで走ってきたというのに、女の子は全く息を切らしていない。それどころか大きな声を出して話している。
た、体力お化けか……? この子は。
「いや〜! 紙が飛んで行った先にあなたがいて助かりました! 本当にありがとうございます!!」
「い、いやいや! 俺はただここに突っ立っていただけですから!」
「そんなことはありませんよ! あなたが拾ってくれていなかったら、私はどこまでも紙を追いかけなくてはいけませんでしたから!!」
まだ少ししか話していないのにこの女の子の性格がなんとなく伝わってくる。体は小柄なのに全身からエネルギーが溢れ出していて、というかすごく可愛いしもしかしてアイドルなのかもしれない。
「ところであなたは一体どちら様ですか?初めて見るような気がするんですけど」ウ-ン
「あぁ、俺は今日からここでバイトを……」
「茜ちーん!」
「茜ちゃ〜ん…!」
目の前の女の子に自己紹介をしようとしていたら向こうの方から大きな声を出しながら女の子が2人向かってきた。
つ、次から次へと……! あれ?あのピンクのパーカーは……
「はぁ…… はぁ……あ、茜ちん急に走って行くから……ビックリしたよ〜」
「はぁ…… はぁ……ふ、2人とも足速すぎだよ〜」
「未央ちゃん!藍子ちゃん!すみません!台本が飛んで行ってしまったので!!」
あ、未央ってやっぱり……
「この方が拾ってくれたんですよ!」
「はぁ……はぁ……あ、ありがとうございます」
「ふぅ…ありがとうございます…って、あれ?」
「こ、こんにちは……」
「あれ?君どこかで……あっ!」
俺が声をかけると本田未央さんは何かを思い出したように指を差しながら大きな声を出す。
……よかった、覚えてくれていたみたいだ。もし覚えられてなかったら顔見知り感出して挨拶したのすっごい恥ずかしいし。
「昨日会った照れ屋な人!」
照れるようなことしてきたのはお前じゃい!
いや冗談抜きにあんなに至近距離でこんな可愛い子に見つめられたら普通照れるよね?俺が女の子に慣れてないからじゃないよね?
「未央ちゃん!お知り合いなんですか!!」
「知り合いってほどでもないかもだけど、昨日ちょっとだけお話したんだよね」
「そうですね、少しだけですけど」
「それで、なんで君がここにいるの?」
本田さんは当然の疑問を投げかけてくる。向こうからすれば俺は事務所の前をウロウロしていた不審者だろう。
すると先ほどから茜ちんと呼ばれている少女と、やっと息が整ったもう1人の女の子もこちらを見つめている。
うっ……3人から同時に感じる視線。すごく緊張するなぁ。
「お、俺は白石幸輝っていいます。今日からここでアルバイトをさせてもらっているんですよ」
「なんと!アルバイトですか!!」
「アルバイトなんてウチの事務所にあったんですね」
自己紹介をすると2人の女の子は反応をするが、本田さんだけは目を閉じて頭を捻っている。何か考えごとでもしているのかな?
「うーん、シライシ……決めた!じゃあしらしー!」
「し、しらしー……?」
「うん!シライシだからしらしー!いいでしょ!」
い、いきなりあだ名をつけられてしまった……でも女子からあだ名で呼ばれるのってちょっと嬉しい。
「未央ちゃん、いきなりそんなことを言われても困っちゃいますよ? 私たちも自己紹介をしましょう?」
「あ〜それもそうだね!ナイスアイデアだよあーちゃん!」
「じゃあまずは私から!!」
一歩前に出てきた1番小柄で、先ほどから茜と呼ばれる少女は真っ直ぐに俺の目を見て自己紹介を始める。
「私は日野茜と言います!この事務所でアイドルをやらせていただいております!好きなことは運動!好きな食べ物はお茶!!よろしくお願いしますね、白石さん!」ボンバ-!
ぼ、ボンバー……? とにかくすごい熱量だ。
「私は高森藍子って言います。2人と同じでアイドルをしているんです。よろしくお願いしますね白石さん♪」
絶対にいい人。もう少し見ただけでもわかる。
「そして私は本田未央! 15歳だよ! よろしくねしらしー!」
本田さんには申し訳ないけど……知ってた。なぜなら昨日調べたから。 まぁ知ってたって言うとストーカーみたいで気持ち悪いからそれは黙っていよう。
「もしかして、しらしーは昨日ここに見学に来ていたの?」
「え……ま、まぁそんな感じです」
本当はあの時点ではなんとなく見ていただけなんだけど……まぁこれも言わなくてもいいよね。
「そうなんだ〜 あっ!あと私には敬語じゃなくても大丈夫だよ!」
「え……そ、そう? 」
「ふふっ……私たちにも敬語じゃなくて大丈夫ですよ♪ それで、白石さんはおいくつなんですか?」
「俺は18だよ」
「な〜んだ!私たちよりも年上じゃ〜ん!尚更敬語なんて使う必要ないのに〜! って……てあれ? 逆に私たちは敬語の方がいいのでは?」
「い、いやいや! 別にそのままで大丈夫だよ」
「そう?じゃあこのままで!」
3人ともニコニコと笑いながら俺のことを見ている。千川さんも言っていたけど、本当に皆とても優しいひとばかりだ。
「あ〜! また私の台本が風で!!待ってくださ〜い!!」
「え、えぇ〜! 茜ちんまたなの〜!?」
すると突然強風が吹いてまたしても風で台本が飛ばされていく。それを追いかけていく日野さんと本田さん。そしてその場には俺と高森さんが残され……
え?ちょ、ちょっと待って!?ふ、2人きりになっちゃったんだけど…!? それはまずいって!
「…………」
「…………」
先ほどまでとは打って変わって静寂が訪れる。
やばい、何か話しかけようと思ったけど何も言葉が出てこない! ど、どうすれば。
「あの〜」
「は、はいぃぃっ!な、なんでしょうか!?」
「ふふっ……白石さんまた敬語に戻っていますよ?」
「え……す、すいませ……ごめん」
気を使って高森さんから話しかけてきてくれたぞ……なんて情けないんだ俺よ。
「そ、それを言うなら高森さんだって敬語だよね?」
「私はこういう話し方なんです。」
「へ、へぇ〜」
へぇ〜じゃないだろ!もっと気の利いた返しとかさぁ!
「……あの〜 もしかして緊張しているんですか?」
「えっ?」
「あ、いえ……勘違いだったらすいません。もしかしたら緊張しているのかな〜って」
高森さんは俺を見上げて小さく笑う。
お、お見通しでしたか……高森さんすごい。
「……実を言うとすごい緊張してるかな。俺、中高と男子校だったからあんまり女の子と接してこなかったんだ。しかも2人きりでなんて……」
「私もです」
「えっ?」
「私も、あんまり同年代の男の子とお話しすることってないので……少し緊張しています。ふふっ♪」
「あまりそんな風には見えなかったなぁ」
「きっと白石さんの雰囲気のおかげですよ」
「え?俺の雰囲気?」
「はいっ♪ 怖い人だったら話づらいですけど、白石さんは怖い人ではないってすぐにわかりますよ。だからきっとみんなとも仲良くなれますよ♪」
そう言って高森さんはニコリと微笑む。
めちゃくちゃ優しい。なんだろうこの全てを包み込んでくれる感じ、 本当に俺よりも年下なのかな?
そしてこんな直球に褒められることは滅多にないので恥ずかしい。
顔赤くなってないかな……なってないならいいんだけど。
「あ、ありがとう。そんなこと言われたこと無いから…その、すごく嬉しいよ」
「いえいえ♪」
「おやおや〜 あーちゃんとしらしーなんだかいい雰囲気ですかな〜?」ニヤニヤ
「うわっ!」
「み、未央ちゃん!」
いつの間にか戻ってきていた本田さんが、俺と高森さんを茶化すように笑う。
というか日野さんは? あ、まだ向こうで走ってる…
「いや〜 まさか少し目を離した途端にそこまで仲良さそうになるなんてね〜 しらしーも隅に置けませんな〜!」
「べ、別にそういうんじゃ!」
「そ、そうですよ未央ちゃん!」
めっちゃ揶揄ってくる…!こういうイジリは受けたことがないからどう対処すればいいのか……チラッ
「……!」バッ
あ、やば……高森さんと目が合っちゃった。そんで目逸らされた。何だこれ気まずい! どうすればいいの!?
「しらしーは、あーちゃんみたいな子がお好みですかな?」ニヤニヤ
「も、もう!未央ちゃんったら!」
「まぁ確かに高森さんは可愛いと思うけど!そういうのじゃなくて!」
「か、かわっ!」
や、やばい…! 何かもうパニックだ! 自分でも何を言っているのかよくわからない!
「やはりあーちゃんがタイプですかな?」
「で、でも本田さんも日野さんも可愛くてさっきから緊張しっぱなしだよ。流石アイドルって感じだよ!」
「ほあっ!」
「も、もうっ!白石さんったら!変なこと言わないでください!」
「あ、あはは〜 しらしー、シャイボーイなのに結構大胆なんですな〜 ……でも流石の未央ちゃんもそんな正面から言われると少し恥ずかしいカナ〜なんて……」アハハ
「ご、ごめん」
そこには俺も高森さんも本田さんも全員顔が真っ赤になっている妙な空間が出来上がっていた。
……き、気まずい。
「と、とりあえず落ち着きましょうか」
「そ、そだね〜」
「うん……」
高森さんの一言でとりあえず全員落ち着きを取り戻す。 俺は一度大きく息を吸って吐いた。
「でも少し意外だったかも… アイドルだから可愛いなんて言われ慣れてると思ってたよ」
「いや〜 仕事の場だと確かに良く言われたりするけど……」
「はい……その、仕事じゃない時に男の子に褒められるのが少し照れくさくて」エヘヘ
2人は少しだけ照れたように頬を掻いている。
でも確かに、俺だって急に褒め殺しとかされたら小っ恥ずかしかなるよなぁ。反省しよう……
「みなさん!!ただいま戻りました! おや?どうしたんですかこの空気は!まるで全員マラソンを終えた直後のような!」
「あ、茜ちん! なんでもないよ〜! そうだ!そろそろレッスンに戻ろっか!ほらほらあーちゃんも行くよ! じゃあね〜しらしー!」
「あ!未央ちゃん〜!競争ですか!?負けませんよ〜!」
「ふ、2人とも〜! それじゃあ白石さん。また今度ゆっくりとお話ししましょうね。失礼します!」
3人は勢いよく走り出す。まるで青春ドラマのワンシーンのように。
すでに本田さんを抜いて先頭を走る日野さん。それを追いかける本田さんとさらに後ろの高森さん。
嵐のような人たちだったな……特に日野さん
はっ!というか女子とあんなに話してしまった……これはすごいことだぞ!
「って、掃除しろよ俺!」
すっかり掃除の手を緩めてしまっていた俺は、その後とてつもない速度で掃除を進めていった。
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