346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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30話 大学生になったら自然と彼女できると思ってた

 

 

「好き!大好き!」

「俺もキミのことが好きだ! さぁ、俺の胸に飛び込んでこい!」

「え〜い!」

 

 

 俺は胸に飛び込んできたその子を受け止め、ギュッと抱きしめる。

 

 

「ねぇ……キスしてもいい?」

「おいおい、しょうがない奴だなぁ」

「だ、だって……もう我慢できないんだもん」

「可愛い奴め。さぁ来い…!」

 

 

 俺に抱きしめられている女の子が目を瞑って顔を近づけてくる。それに応えるように俺も目を瞑り受け止め体勢に入る。

 

 そして2人の距離はどんどんと縮まり、ついに唇が触れ……

 

 

 あぁ……なんて幸せなんだ。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「いってぇぇぇ……っ!!」

 

 

 強烈な痛みと共に意識が覚醒する。あまりの痛みにベッドの上でもぞもぞと悶え苦しむ。

 

 

「あ、足がっ……く、くっそ……っ!」

 

 

 え、なにこれ……足めっちゃ痛い…! あ、これ攣ったのか!? 足攣ったのか!

 

 足の痛みの原因は判明した。しかし、だからといって痛みが和らぐ訳ではない。

 俺は起き上がることも出来ず苦痛にただただ耐え忍ぶ。

 

 

「って、さっきの女の子は……?」

 

 

 そうだ、足を攣ったとかどうでもいいんだよ。 さっきまで俺といちゃいちゃしてた可愛い女の子は?……あっ…

 

 目が覚めて痛みが少しずつ和らいできたことにより思考回路が整理される。冷静になった俺はようやく一つの結論に辿り着いた。

 

 

「……夢オチか〜い…」

 

 

 そう、あの幸せな光景は全て俺の夢の中での出来事だったのだ。俺が先ほどまで抱きしめていたはずの女の子は、俺がいつも愛用している枕にすり替わっている。

 

 

「しょーもな……はぁ」

 

 

 我ながらなんておめでたい夢を見ていたのだろうと少し恥ずかしくなった俺は、誰もいない部屋の中全体に響き渡るくらいの大きなため息を吐いた。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 それから時間は過ぎ大学へと向かった俺は、一緒の講義を受講していた男友達2人と食堂で昼食を取っていた。

 

 

「白石、今日はなんか調子良さそうだな」

「えっ……そうかな?」

「さっきの講義の時もすげー集中してたじゃんかよ」

 

 

 あー……それは少し誤解されているな。

 

 実は講義に集中していたというよりは、今朝見た夢の内容を思い出していただけだ。

 

 今思い出しただけでも胸の中が温かくなる。ただの夢なのにあんなに胸が満たされる事があってもいいのだろうか。それだけあの夢の内容は俺にとって、充実感に幸福感など全てが至極の物だった。

 

 

 ………まぁ結局は全部夢なんだけどね!

 

 

 

「実は今日いい夢を見てね」

「夢?どんなやつ?」

「シークレット」

「なんだそりゃ」

 

 

 まぁ言えないよ。女の子といちゃいちゃする夢を見て講義中ずっと思い出に浸っていたとか。自分でも中々に痛いヤツだと思ってるし。

 

 でもそれだけ幸せな夢だったんだよなぁ。彼女がいるってあんな感じなのかな……いいよなぁ、現実に彼女がいる奴は実際にアレを味わえるんだもんなぁ……羨ま憎たらしい。

 

 

「っていうかお前は何さっきからスマホばっか見てんだよ」

「ん?あぁ……わりぃわりぃ」

 

 

 俺たちが会話をしている間にも、もう1人の友達はずっとスマホを眺めて何やらニヤニヤと笑っている。

 

 

「漫画でも読んでたの?」

「いや、ちょっと連絡をな……」

「誰とだよ」

「……彼女」

 

 

「「は、はぁっ!?」」

 

 

 えっ……今なんて? かっ、彼女とか聞こえた気がするんだけど。

 

 

「お前彼女できたのかよぉ!?」

「うん、数週間前から」

「おぉ〜! そりゃめでたいな! な、白石!」

「……彼女いる奴って実在したんだ」

「お前……何言ってんだ…? 大丈夫か……?」

 

 

 いやだって……ずっと男子校にいたからってのもあって、俺と仲良いような奴らは全然彼女とかいなかったし……

 

 

「ていうか、彼女なら俺もいるぞ?」

「……ゲームとかの話?」

「殴るぞ」

 

 

 

 こ、こいつ……彼女なら俺もいるぞって言ったのか? え、こいつら2人とも彼女いたんだ……

 

 えっ、ちょっと待って? ていうことは……

 

 

 友達→彼女持ち

 友達→彼女持ち

 俺 →彼女無し、童貞、非モテ

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

「だ、大丈夫か白石!? そんな断末魔みたいな声出して…!」

「頭抱えて絶叫してるよ……余程ショックだったのか」

「お、お前ら……」

「うん?」

「どうした?」

「彼女いたのかよぉぉぉぉぉぉ…っ!」

「だからさっきからそう言ってるだろ!」

 

 

 だ、だって……こんなのあんまりじゃないか……あんまりにも無様じゃないかぁ……

 

 だってこいつら、俺が今日夢の中で得た幸福感を現実でも味わってるんだろ……? め、めちゃくちゃ羨ましい……!

 

 

「白石、目から血の涙とか出てきそうな勢いだな……」

「そんなに羨ましかったのか……」

「羨ましいに決まってるでしょ!?」クワッ

「わ、悪かったよ」

「やめて! 謝らないでぇ! 俺がもっと惨めになる!」

「めんどくさいなこいつ!」

 

 

 あー、ダメだ。あまりのショックで頭がぼーっとしてきたぞ……

 

 

「……彼女、いつからいるの……?」

「俺? 俺は高校の時からずっと付き合ってる子が……」

「め、めちゃくちゃいいじゃんかそういうの……っ!」

「な、何でだよ……」

「だって高校の時からずっととかさぁ!めちゃくちゃ純愛じゃん!そういうのすごくいい!」

「お、おう……さんきゅな」

 

 

 くそ〜っ! コイツめちゃくちゃ青春経験者じゃないかよ〜! 俺なんて高校に女子いなかったんだぞ!?

 

 

 

「はぁ……羨ましいよ…」

「写真見る?」

「……見る」

 

 

 こんなん見たら絶対にもっと羨ましくなるだけなのに……でもそれとは別に、気になるもんは気になってしまう。

 

 

「おぉ……この子が彼女なの…?」

「そうだよ」

「すごい可愛い子だね」

「だろ!」

 

 

 普通に可愛かった……ますます羨ましい……

 

 

「いいなぁ2人とも、まさか彼女がいたなんてさぁ」

「白石は?彼女とかつくんないの?」

「彼女のつくりかたなんて俺は知らないよ……」

「大学にいい感じの子とかいないの?」

「いないよ。そもそも女の子の知り合いなんて…いや、いることにはいるか……でも無理だなぁ。俺には高嶺の花すぎるよ」

「大学以外では?」

「それも知り合いならいるけど……高嶺の花すぎるなぁ」

「お前どんだけ高嶺の花とつるんでるんだよ」

 

 

 だって事実だしなぁ。俺の女の子の知り合いってバイト関連で知り合ったアイドルの子ばっかりだし……そりゃ高嶺の花でしょうよ。

 

 

「白石、彼女欲しいのか?」

「そりゃあ……まぁ、俺もそういうことには興味あるよ」

「彼女はいいぞ……祭りとかプールとかさぁ、クリスマスとかバレンタインとかめちゃくちゃ楽しいぞ〜」

「や、やめやめ! マウントやめい! くっそ羨ましくなっちゃうだろ!」

 

 

 あぁ〜! 俺も彼女と一緒にそういう楽しいイベントとか過ごしてみたい…っ!

 

 

「白石、見た目も悪くないし、中身は普通にいい奴なんだからさ……ちょっと勇気出せばすぐできると思うぞ?」

「か、簡単に言ってくれるね……」

「というかお前まずさ、今好きな子とかいんの?」

「好きな……子?」

 

 

 あれ、そういえばいない…… 彼女欲しいとかいう抽象的な願いは持っていたけど、具体的に誰と付き合いたいとか考えたことはないな。

 

 

 

「今は……いないな」

「じゃあまずはそっからだ! 好きな子、若しくはいいなぁって思う子を見つけて、そっからは猛アタックだ!」

「うわぁ……ハードル高いなぁ……」

 

 

 好きな子見つけて、仲良くなってアタックをして、告白して成功してようやく彼女ができる……本当にハードルが高いなぁ……

 

 

「まぁ確かに彼女つくるのも簡単じゃないけど、お前なら頑張れば絶対できるって」

「そうそう、頑張れよ白石」

「……ありがとう2人とも」

「よし!じゃあさっさと飯食って次の講義の教室行こうぜ!」

「うん!」

 

 

 そうして俺たち3人は、ハイスピードで昼食を胃袋の中にかき込んだのだった。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 時刻は16:00ピッタリ。4時限の講義を終えた俺は、友達と別れ1人で家に帰ろうと大学の構内を歩いている。

 

 先ほどあんな話をしたからだろうか、大学の中でもカップルらしき人たちが歩いているのがよく目に入ってしまう。そういう人たちを見ていると、途端に1人で歩いている自分が寂しい奴なのではないかという気持ちが溢れてくる。

 

 

「はぁ……」

 

 

 もしかしてこの中で恋人いないの俺だけでは?……なんて言うあり得ない妄想に駆られながら、俺は1人歩き続けて帰宅した。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ………」

 

 

 家の中に入るなり今日1番のため息が漏れる。

 

 

「見せつけてくれちゃってさぁ……」

 

 

 大学の構内を抜けた後、街中でも今日はやけにカップルのような人たちを見かけた。

 こんな日に限ってあんなにカップルがいるなんて、神様の俺へのいやがらせだろうか……

 

 

 

 

「彼女かぁ……そりゃ俺だって欲しいとは思うけど…」

 

 

 ……俺にはとてもじゃないけど作れる気がしないよ 。

 

 こんな時アニメや漫画なら突然美少女が現れたりして、そのままなんやかんやあってラブロマンスが始まったりすることもあるだろうが、まぁ現実にそんなことはあり得ない。

 

 

 俺は1人悲しくカチカチとパソコンで『彼女、作り方』なんて言うまさに彼女ができない奴が調べるようなワードを検索する。

 

 

 カチッ

 

 

「えーっと……なになに?」

 

 

 マッチングアプリの紹介がめっちゃ出てくる……知りたいのはそういうことじゃないんだけどなぁ。

 

 

「自分を磨け、趣味を増やせ、女友達を増やせ……大体検索しなくても分かるようなことばっかだな」

 

 

 はぁ……やっぱネットで検索してポンポンといい案なんて出てくる訳ないよな。

 

 そもそも俺には女の友達なんて……

 

 

 ん?いや待てよ……今まで知り合ってきたアイドルの子たちって俺にとって女友達ということになるのだろうか?それなりに仲良くしてもらってる子もいるけど……

 

 いやいや、それこそ待てよ。友達じゃなくて仕事仲間に分類される可能性もあるよな。 向こうからしたら俺は友達じゃなくてタクシーの運ちゃん的な人かもしれないし……

 

 というかそもそも友達の境界線とは……?

何をしたら、どこから友達と呼べるようになるんだ? そもそも友達って……

 

 

「あぁ…! ダメだダメだ!」

 

 

 変なこと考えすぎて頭の中ぐっちゃぐちゃになってきた。こうなってはもうダメだ。一旦彼女欲しい問題から離れよう。

 

 

 ブ-! ブ-! ブ-!

 

 

「ん? 母さんからだ……」

 

 

 突然スマホが揺れ出したと思ったら、着信画面には母さんからの文字。

 

 珍しいな……どうしたんだろう。

 

 

「はいもしもしー」

『あ、お母さんだけど、今時間いい?』

「いいよー」

『まぁ大した用事がある訳でもないんだけどね、ちょっと声聞こうと思っただけ』

「何だよそれ。ははっ」

 

 

 まぁ……母さんなりに俺のことを心配して電話をかけてきてくれたのだろう。 ありがたいことだ。

 

 

『どうだい? 大学生活は順調?』

「まぁ、それなりに順調かな」

『それなりにって何よ〜! そこはハッキリと順調です!って言い切りなさい!』

「あはは……」

 

 

 画面の向こうから聞き慣れた母の大きな声が聞こえてくる。注意をされているはずなのにどこか安心してしまう声だ。

 

 

『そうだ!あんたそろそろ彼女でもできたのかい?』

「母さんまで彼女の話かよ……そんなの俺にいると思う?」

『だってアンタ東京行く前は大学で彼女つくるって言ってたじゃない』

「まぁ確かに彼女つくるのも目標ではあるけど……今はバイトが忙しいの!」

『じゃあバイト先にいい子とか』

「俺がバイト先は芸能事務所だって前に行ったでしょ?そんな子たちと付き合える訳ないじゃないか」

『あんたねぇ……男が最初っからそんな弱腰でどうすんのよ〜』

 

 

 うぅ、母さんのぐちぐち説教タイムが始まってしまった。こうなると結構長いんだよなぁ……母さん。

 

 

 〜10分後〜

 

 

『んまぁとにかく、ちゃんとご飯食べて勉強頑張りなさいね? 風邪には気をつけるんだよ?』

「わかりましたって」

『あと彼女できたらちゃんと紹介しなよ?』

「できたらね、できたら」

『じゃあそろそろ切るね。何かあったら連絡しなよ?お母さん、いつでもアンタのこと応援してるからね!』

「……ありがとう」

 

 

 プツッという電子音と共に母の声が聞こえなくなる。

 

 ……いかんいかん、最後の一言でちょっとジーンと来てしまった。 最後の最後でいいこと言うなんて言い逃げみたいでズルい。

 

 

 まぁでも……母さんにあんなこと言われちゃあな、もう少しだけ頑張ってみるか……

 

 

 

 カチッ カチッ カチッ

 

 

 おぉ! これは…!

 

 まさか……俺がモテないのはこれが原因だったのか? それなら……いけるかもしれないぞ!

 

 

 暗い部屋の中にはカチカチとしたクリック音と、俺の薄気味悪い笑い声だけが響いていた。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「あら、おはようございます、白石く……えっ……!?」

「おはようございます、千川さん」

 

 

 後日、俺はいつも通りバイトをするために事務所へと向かい、事務室の中で何かのファイルと睨めっこをしている千川さんに挨拶をする。

 

 

「ど、どうしたんですか白石くん……いつもと様子が……」

「そうですか?……もしかして、ワルい男に見えちゃってますか?」

 

 

 そう、俺が昨日インターネットで見たのは、女の子は少しくらいワルい男に惹かれるというものだった。

 

 優しいだけじゃ物足りない。刺激のある日々を求めているとかなんとか……

 

 

 今日の俺は髪をワックスで固めてギッチギチに上げ、友達に貰った金のネックレスをつけて止めにサングラスをTシャツの胸元に引っかけている。

 

 どこからどう見ても危険な香りのする男。これで優しいだけの俺から一歩前進だ…!

 

 

「白石くん……」

「どうしました千川さん? 今の俺に迂闊に話しかけたら火傷します……」

「何を考えているのかよく分からないんですけど……似合っていませんよ?」

「え?」

 

 

 に、似合ってない…!? そんな馬鹿な!

 

 

「じょ、女性はこういう危険な香りのする男に惹かれるんじゃないですか!?」

「あ、あぁ〜 そういう……でも私個人としては……ナシですかね。あはは……」

「そ、そんなっ…!?」

 

 

 せ、せっかく慣れない格好してここまで来たというのに…!

 

 

「と、いう訳で……早くいつもの白石くんに戻ってきてください。その訳の分からないワックスも落としてきてくださいね?」ニコニコ

「えっ、でもこれめちゃくちゃ時間かかって……」

「何か言いましたか?」ニコニコ

「アッ...ハイ」

 

 

 胸の前で手を合わせてニコニコと笑う千川さん。

 

 何故だ……とても素敵な笑顔なのに妙な迫力と圧力を感じる。 逆らってはいけないと俺の本能が叫んでいる…!

 

 

「はい、駆け足♪」ニコッ

「は、はいっ…!」

  

 

 俺のちょいワル作戦は始まる前に終わりを告げられてしまった。

 

 はぁ……どうやら俺の彼女作りは前途多難のようだ。というか、やっぱ俺に彼女なんてできる日が来ないんじゃないだろうか?

 

 自信無くなってきた……

 

 

 





次回から渋谷凛ちゃん編になります
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