346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
今回から予告通り渋谷凛編です。
ここまでの話で凛ちゃんの登場する主な回は4話、20話、26話です
接近
「今日はいい天気だなぁ」
季節は9月の中盤、天気は快晴。雲一つない晴れた青空の下、俺は少し蒸し暑い風を体に感じながら見慣れた道を歩く。
「そろそろ夏も終わりだな〜」
今日はバイトもなければ大学もない。完全に自由な日ではあるのだが、俺はこうして街に出て特に目的もなくふらついている。
もしかしたら高森さんの散歩趣味に感化されたのかもしれないな……ははっ。
「お、コンビニだ」
これまた特に理由もなくコンビニに入る。なんとなく目についたから入ってみただけだけど、折角だしお菓子くらい買っていこうかな。
そんなことを考えながらコンビニに入店すると、店員さんからの感情のこもっていない事務的な挨拶を受ける。
そしてそのままお菓子が売っているエリアへ向かおうと、本棚の横を通り過ぎようとしたその時、とある雑誌が目に入った。
「あ、これって……」
………。
「お買い上げありっとうございやした〜」
うん、まぁ買うよね! 正直言ってめちゃくちゃ見たいし!
俺は店員さんの適当な挨拶を背中に受けながら、雑誌の入ったビニール袋を大事そうに抱えながらコンビニを後にする。
何を購入したかと言えば、以前渋谷さん本人から情報を仕入れた、渋谷さんの水着グラビアが載っているとされる雑誌だ。
スケベだのエロいだの何だかんだ言われてしまうかもしれないが、こればっかりは仕方のないことなのだ。
だって見たいもんは見たいんだから。
早く家に帰って読まねば(使命感)
特にやることのない今日だったが、やることを見つけた今、急ぎ足で俺は街の中を駆け抜けていく。
「ふぅ……。よし、ここを通るか」
家に帰る途中にそこそこ大きな公園があった。俺は近道をするためにその公園の敷地内を突っ切って行こうとしたその瞬間。
「あー! 危ない!」
「ん?……ぐぇっ!」
突如飛んできたサッカーボールが俺の大事な部分に直撃した。
大事な部分にダメージが入った時特有の、下腹部の痛みに襲われた俺はその場にうずくまる。
「おっ……ぉぉぉ……っ」ピクピク
「お、お兄さん大丈夫!?」
俺の元に子どもが2、3人駆け寄ってくる。前に遊んだ仁奈ちゃんたちと同じくらいの年齢だろう。
「だ、大丈夫……だよ……は、ははっ」
「本当?」
「ほ、本当だとも。ほら、俺は大丈夫だから君たちは遊びに戻っておいで……」
「うん! お兄さんごめんなさい! それとありがとう!」
子どもたちは俺にお辞儀をすると、向こうへと走っていきサッカーを再開した。
悪いことをしたらちゃんと謝ることができる。いい子たちじゃないか。
「うっ……ぐぐっ」
それにしても痛い。起き上がる気力すら全く起きないほどに下腹部が痛む。
子どもの蹴ったサッカーボールが当たってこの痛みなら、よく漫画なんかで見る思いっきり股間を蹴り上げられるやつってどのくらいの痛みなんだろうか。
ダメだ……想像したらなんか痛みが悪化してきたような……
「ねぇ、ちょっと」
「……えっ?」
「何してんの?こんなとこで」
「し、渋谷さん……」
突然呼ばれたので声がする方へと顔を上げると、そこには膝を曲げてしゃがみ込み、俺のことを覗き込む渋谷さんの姿があった。
こ、このアングルは……中々にまずい。って今はそんなこと気にしてる場合じゃないか。
「大丈夫? 生きてる?」
「し、死ぬ寸前……」
「顔色が悪いけど、何があったの?」
「そ、それは……」
サッカーボールが股間を強打してきて、その痛みで悶絶してたんだ!……なんて言えない。すごく情けないじゃないか。
「……あ、アリを見てたんだ」
「ふざけてんの?」ギロッ
「す、すんません」
ダメだ。渋谷さんめっちゃ睨んできたよ。これはもう正直に言うしかないのだろうか……
「じ、実は……」
〜〜〜〜〜
「ふっ……ふふっ……」プルプル
「わ、笑い事じゃないんだぞ……あの痛みは男にとって」
「ご、ごめんごめん。まさかそんな理由で地面に突っ伏してたなんて思ってなくて」
「そ、そんな理由!?」
「あーもう、痛かったのはわかったから怒んないでよ。ふふっ……」
あの後、公園にあるベンチに移動して渋谷さんに事情を説明した。
そしたら渋谷さんは堪えきれないと言った様子でプルプルと震えながら笑い出してしまった。まったく酷い話だよ。
「何してたの?こんなとこで」
「何をしてたのかって聞かれると……何もしてない?」
「何でアンタが疑問系なのさ」
「いや本当に、特に何もしてないからね。強いていうなら今から家に帰ろうかと思ってたくらいかな」
「徘徊してたんだ」
「……散歩とかって言ってくれないかな?」
特に中身のない会話を渋谷さんと交わす。遠くから聞こえてくる子ども達の遊び声と、生温かい風が心地良い。
渋谷さんと話してるとこうなること多いんだよなぁ。何か落ち着くっていうか。
「この前さ……白石、私の家来たじゃん?」
「え?あぁ……そうだね」
「お母さんがさ、また連れてきなさいってうるさいんだよね」
「えっ、そうなんだ」
「次はカレーだけじゃなくて、もっと美味いもん食わせてやるって……何かはりきっちゃってさ」
「あははっ、渋谷さんのお母さんって結構面白い人だよね」
「アンタがいると……何か妙に嬉しそうなんだよね、キャピキャピしちゃってさ。……別にそんなんじゃないのにね」
「……?」
あぁ、そういうことか。アレね、アレ。
友達を家に連れて行くと妙にお母さんが優しくなったりする現象か。お母さんあるあるだ。
「とにかくさ、お母さんがうるさいから今度一回だけでもいいからまた来てよ」
「いいの?」
「そりゃ……お母さんがいいって言ってるんだからさ」
「いや、渋谷さんはいいのかなって……俺がまた遊びに行っても」
「……わ、私は……」
あ、変なこと聞いちゃったな。これで「私は嫌なんだけどね」とか言われたらめちゃくちゃショックだぞ……
「別に……アンタが家に来ても…いいけ……」
「あ! 危ない!」
「「えっ?」」
突然大きな声がした。その声の方へと顔を向けるとサッカーボールが勢いよくこちらへと飛んできていた。
やばい!これ渋谷さんの顔に当たる…!
「ふんっ…!」
咄嗟の行動だった。考えてる暇なんてない。
俺は腕をめいいっぱい伸ばして渋谷さんの顔の前に持っていく。
ぼすっ…!と音を立ててサッカーボールが俺の手のひらに弾き飛ばされる。
「よしっ!って……うぉっ!」
「きゃっ…!」
あ、やば……バランスが……
無理に座ったまま体を伸ばしたせいでバランスを崩してそのまま倒れ込む。
「ってぇ……あ、渋谷さんごめん!だいじょう……ぶ…」
「……う、うん」
なんてこった。
バランスを崩した俺は、そのまま渋谷さんを下にしてベンチに倒れ込んでしまった。
つまり簡単に言うと、ベンチの上で渋谷さんが仰向けに倒れて、その上に俺が覆い被さっている状態だ。
「……」
「……」
驚いた様子で目を見開いている渋谷さんとバッチリ目が合う。この衝撃的な出来事に怯んでか、俺も渋谷さんも言葉が出ない。それどころか体が全く動かない。
まるでここの公園の中だけ時が止まったようだった。
自分の中で見慣れたつもりになっていた渋谷さんの顔を間近で観察する。
シミや汚れなんて一切無い綺麗な肌。小さくてぷるぷるしてそうな艶やかな唇。俺のことをジッと見つめている碧色のキラキラと輝く大きな瞳。
わかってはいた。わかってはいたけど改めて思う。本当に整った綺麗で可愛い顔だな…と。
あ、額に汗をかいているのか少し髪が張り付いる……そりゃそうだよな、まだ9月で今日は少し暑いし。
何て心の中で独り言を呟いていると、遂に渋谷さんが絞り出すように声を出した。
「ね、ねぇ……早く……どいてよ……」
「あっ」
頬を赤く染めた渋谷さんがそう言う。
うわ……なんだこれ。やばいぞ……これは。
完全に語彙力が飛んでしまった状態で、頭の中で独り言を繰り返す。
「だ、大丈夫ですか!?」
独り言を脳内で呟きながらゆっくりと体を起こそうとしたその瞬間、向こうのほうから数人の子ども達が走ってきた。
恐らくさっきと同じく、あの子たちがサッカーをしていてこっちにボールが飛んできてしまったのだろう。
「ごめんなさい……って、お兄さんとお姉さん……何してるの?」
「えっ……あ、あぁっ!」バッ
「……ぁ」
子どもに指摘されて、俺は渋谷さんの上から慌てて退く。
「ご、ごめんっ! 渋谷さん! い、痛くなかった…?」
「う、うん……平気……」
渋谷さんに手を差し伸べて、そのままゆっくりと渋谷さんの体を起こす。
渋谷さんの顔はまだ赤く、少しぼーっとしている様子だ。かくいう俺もまだ心臓がバクバク鳴って落ち着かない。多分顔も真っ赤だ。
「お兄さん、大丈夫?」
「あ、あぁうん! なんとか……け、怪我とかはなかったから……平気だよ」
「ごめんなさい。さっきも当てちゃったのに」
「……本当に大丈夫だよ。ちゃんと反省できて謝れるなんて偉いじゃないか」
「お、お兄さん……ありがとう!」
子ども達は頭を下げて、手を振りながら離れて行く。
「……」チョイチョイ
「ん?どうかしたの?」
1人だけその場に残った女の子が俺のズボンをクイクイと引っ張っている。
「お兄さん、お姉さん……場所と時間は考えた方がいいよ?」
「なっ!」
「っ……!」
「それじゃあね! 綺麗なお姉さんと優しいお兄さん!」
爆弾級の一言を残して女の子はその場から走り去っていった。
チラリと渋谷さんの顔を確認しようと視線を動かすと……
「っ……!」バッ
「うっ……」バッ
またしてもバッチリと目が合ってしまった。俺と渋谷さんは勢いよく顔を横に向ける。
ど、どうしよう……この空気感……
渋谷さんは下向いてて表情が見えないし、俺は多分まだ顔真っ赤だし、心臓バクバクでうるさいし……
「ね、ねぇ……」「あのさ……」
「「あっ……」」
「そ、そっちから……」「渋谷さんから……」
渋谷さんと俺の声が完全にシンクロする。あまりのシンクロ率に驚いた俺たちは、ポカンとした表情で顔を見合う。
「ふふっ」
「あ、あはは……」
そんな様子があまりにもおかしくて、ついつい口からは笑い声が溢れ出した。
……思いがけずに、少しだけいつもの空気感に戻ったような気がした。
「じゃあ私から」
「うん」
「その……庇ってくれて、ありがとう」
「咄嗟に体が動いただけだよ」
「それでも、守ってくれたことに変わりはないよ。ありがとう」
「……うん、どういたしまして」
「じゃあ次は俺が」
「うん」
「さっきは……その、ごめんなさい。驚かせちゃっただろうし、痛くなかったかなって」
「いいよ。さっきも言ったけど、守ってくれたんだって……わかってるから」
「そっか」
「……うん」
お互いがお互いの言いたいことを言い終えて、俺たちは再び口を閉じる。
なんだかとってもむず痒い。
「と、とにかく!さっきのは……もういいからさ。変に意識されるとこっちが恥ずかしくなる」
「わ、わかったよ」
「はい、じゃあこの話は終わりね」
ぱんっ! と渋谷さんが手を叩いて、強制的に話を終了させた。
はぁ……なんか疲れたなぁ。主に心臓が。
「ねぇ、そこに落ちてるのってアンタのだよね?」
「えっ?……あ、本当だ」
渋谷さんの視線の先には、俺がさっきコンビニで買った雑誌の入ったビニール袋があり、ベンチの下に落ちていた。
さっきまでのゴタゴタでつい落としちゃったんだろうけど、全然気づかなかったな。
「よいしょ」
「あ! い、いいよ渋谷さん! 俺が自分で拾うからさ!」
「別にいいって、こんくらい……ふぅ、なにこれ?本……?」
「あ〜、うん……まぁそんな感じかな。じゃあ、拾ってくれてありがとう」
渋谷さんに感謝しながら雑誌の入ったビニール袋へと手を伸ばす。
しかし、俺の手はビニール袋を掴むことなく空を切る。渋谷さんが俺の手からビニール袋を守るようにして、自分の体の方へと引き寄せたのだ。
「……渋谷さん?」
「何か怪しいね」
「え?」
渋谷さんはそう言ってニヤリと微笑むと、ビニール袋の中から雑誌を取り出した。
ま、まずい……! 俺が渋谷さんの水着写真目当てで買ったことが本人にバレてしまう…!
「し、渋谷さん…! は、早くそれをこっちに返しなさい!」
「その慌てようが怪しいんだってば……って、ただの雑誌じゃん」
「そ、そうそう。ただの雑誌だからさ……早くこっちに……」
渋谷さんは俺のことを一瞥すると、パラパラと雑誌のページを捲り始める。そしてあるページでピタリと止まった。
「……注目アイドル水着特集ページ」ボソッ
「うっ……」
「なるほどね、これが目的だったんだ」ジト-
「うぅっ……」
渋谷さんがページをパラパラと捲りながら、俺の顔をジト目で睨みつける。
やめてくれ渋谷さん。その冷ややかな視線は俺に効く。
「あっ、ウチのアイドルも結構載ってる……」
「………」ソロ-
雑誌に視線をやる渋谷さんの後ろに、そろ〜っと回り込んで雑誌を覗き込む。
すると丁度渋谷さんが開いていたページには及川雫、向井拓海と名前が表記されているアイドルの水着写真が載っていて、俺は思わず口から声が溢れ出る。
「うわっ、なんだこれ、すげーな〜……あっ」
「……」シラ-
「あ、あはは……」
振り返った渋谷さんは、絶対零度の突き刺すような視線で俺のことを見ていた。
あまりの迫力に俺は冷や汗を流しながら苦笑いをするだけで精一杯だ。
「ふーん」
「あ、あの〜……渋谷さん?」
「邪魔して悪かったね。後は家に帰って1人で満喫しなよ。じゃ」
「あ、ちょ、ちょっと!」
や、やばいやばい! このままだと渋谷さんが超絶不機嫌のまま帰ってしまう……!
ど、どうしよう……! な、何か声をかけないと……でも何て声をかければ……!
あ〜! ダメだ何も思いつかない! って、そうこうしてる間に渋谷さんもう立ち上がっちゃってるよ〜!
あ〜もうっ! 頭の中ぐっちゃぐちゃだ!
「ち、違うんだ渋谷さん!」
「……」ピタッ
「お、俺がこの雑誌を買ったのは……さ、さっきのページが目的じゃなくて!」
「……」
「し、渋谷さんの水着が見たかったんだよ!」
「………」ポカ-ン
「は、はぁっ!? あ、あんた…何言って…!」
「う、嘘じゃない…! この前渋谷さんからこの雑誌に水着写真が載るって聞いて…! それで偶々この雑誌を見つけて! と、とにかく、俺は渋谷さんの水着を見たくて!」
「っ……!」
自分が何を口走っているのかもわからない。とにかく思いついた言葉を大声で、ストレートに渋谷さんにぶつける。
何か声をかけなきゃ……と考えまくった結果、俺の頭はパンクしてオーバーヒートしてしまったようだ。
「え〜っと……その〜、とにかく俺は……んぐっ!」
「……こ、声が大きい……」
いつの間にか俺の前にまで戻ってきていた渋谷さんが、背伸びをして俺の口を手で塞ぐ。
その顔はとても真っ赤で、とにかく一旦落ち着けと俺に睨みを利かせている。
「……落ち着いた…?」
「……」コクコク
「はぁ……」
「渋谷さん、顔すごい赤いけど……大丈夫?」
「うるさい……アンタのせいでしょ」
渋谷さんは再び俺に睨みを利かせると、さっきと同じベンチに腰をかけた。
……と、とりあえず渋谷さんを引き止めることには成功した……のかな?
「……で?」
「うん?」
「どういうこと?さっきの……ちゃんと説明してよ」
「あ、う〜ん……言わなきゃダメかな……?」
「早く」
「あっ、はい」
俺は事情を包み隠さず全て説明した。
以前、渋谷さんと話した時に聞いた情報を思い出して、水着姿の渋谷さんが載っている雑誌を購入したこと。
他にどんなアイドルが載っているかなんて知らなかったことなど。
冷静に考えると、本人を前にして「キミの水着写真が見たかったんだ!」と報告するなんてヤベーヤツにも程がある。
きっと渋谷さんにも冷ややかな視線を浴びせられること必至だろう。
「はぁ……まぁ、何となくはわかったよ」
「う、うん」
「……お目当ては……わ、私だったってことでしょ?」
「はい……まぁ、その……そういうことになります。はい……」
「……エロ男」ボソッ
「うっ……!」
ま、まぁ……その通りなんだけどさぁ。
や、やっぱり怒ってるよなぁ……
「……もういいよ。顔上げなよ」
「えっ」
「別に怒ってないし……そんな萎縮した感じ出さないでって言ってんの」
「い、いいの?」
「だからそう言ってんじゃん。なに?もっと罵ってほしいの? それならもっと言ってもいいけど」
「そ、そんなことないよ! 俺にそんな趣味はないから!」
「じゃあシャキッとしなよ。本当に怒ったりとかしてないから」
「わ、わかったよ。ありがとう渋谷さん」
奇跡だ。まさか許されるなんて。絶対にもっと気持ち悪がられるとか思ってたぞ。
渋谷さんの寛大さに感謝だな。もしかしてアイドルになる為には心の広さとかも必要なんじゃないだろうか。だってウチの事務所にいるアイドルみんな心が広いし。
「どうしたの?」
「いや〜、渋谷さんは優しいなって。もしかして渋谷さんも天使やら女神の系譜なのかな?」
「は?頭大丈夫……?」ヒキッ
「ははっ」
「なんで嬉しそうなの……白石、アンタやっぱりそっちの趣味なんじゃ……」
「ち、違う違う! 俺はそんなへんな趣味を持った変態じゃないから」
「どうだか。ふふっ」
まずいな。どうやら渋谷さんには本当に俺がMの者なんじゃないかと思われてるみたいだ。なんとかして誤解を解かないといけないよなぁ……
「でもどうやって……」ウ-ン
「ねぇ」
「え? あぁいや、俺は本当にそういう趣味じゃないから!」
「いつまでその話してんの。違うから」
「あ、そうですか……」
どうやら渋谷さんは何か俺に言おうとしているようだ。さっきからそっぽを向きながら、髪の先を指でくるくるとしている。
なんだろう……
「……白石さ、そんなに私の……み、水着とか見たいの…?」
「へっ!?」
「いいから!……こ、答えなよ」
ど、どういうことだ……これは一体何の心理戦だ……?
いやでも考えても仕方ないか。だってもうさっき言っちゃってるんだし。
「ま、まぁ……その為に雑誌買ったくらいですし……はい」
「ふふっ、自分で言っちゃうんだ」
「ま、まぁね……」
「今度はアンタが顔真っ赤だね。ふふっ」
「っ……!い、いや〜! きょ、今日はまだむ、蒸し暑いからかな〜! あはは……」
渋谷さんが俺の顔を覗き込んで、目を細めてクスッと笑う。
なんだか無性にドキッとして、それが恥ずかしくて、照れ隠しからかアホみたいに大声を出しながら手で顔をパタパタと仰ぐ。
「それでさ……さっきの話なんだけどさ」
「あ……う、うん」
「そんなに……水着見たいんだったらさ」
「っ……」ゴクリ
「今度さ……プールとかにでも……行く…?」
「えっ……えぇっ!?」
どうやら俺の夏はまだ終わらないようだ。