346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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side rin

 

 

 これは、凛と幸輝がプールに行く少し前の日の話。

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 ……思わず誘ってしまった。

 

 

 

「り〜ん〜? 今度の日曜なんだけどさ」

「え、なに?」

「ちょっと花の配達を頼みたくってさぁ」

「あ、ごめんお母さん。その日私出かけるから」

 

 

 お母さんから店の手伝いをお願いされる。こういったことはよくあるから慣れてるけど、その日はアイツと約束をしてしまったから手伝いはできない。

 

 

「あらそう?どこ行くんだい?」

「プール」

「お、いいじゃないかい。もうすぐ夏も終わりだからね〜」

「まぁね」

 

 

 お母さんは文句一つ言うことなくニコニコと笑う。お母さんは私に店の手伝いを頼むことはあるけど、基本的にはこんな風に私の事情を優先してくれる。

 

 

 

 はぁ、でもどうしよう。あ、アイツと2人でプールとか……

 

 しかも……

 

 

『へぇ〜……アンタ私の水着が見たいんだ? どうしてもって言うなら見せてあげなくもないけど? 』(※言ってません)

 

 

 うぅ〜っ! 何アレ! 何あの誘い方! なんかめちゃくちゃナルシストみたいじゃん私!

 

 

『うわ〜……なんか渋谷さんドヤ顔で誘ってきてんだけど……別に一緒にプールとか行きたくはないけど、断りづらいから行くかぁ』

 

 

 とか思われてたらどうしよう…… (※思ってません)

 

 

「はぁ……」

「どうしたのさ、ため息なんか吐いて」

「別に……」

「ふーん。あ、そうだ」

「なに?」

 

 

「プール、誰と行くの?」

 

 

「……」ビクッ

 

 

「学校の友達? それとも卯月ちゃんとか?」

 

 

 

 お母さんがそんなことを聞いてきた。……別に隠す理由なんて無いけど、ちょっと面倒なことになりそうだから隠しておこう。

 

 

「ま、まぁそんな感じ。友達だよ、友達」

「いや、だから誰なのよ?」

「……」

 

 

 なんだか今日のお母さんはしつこい……

 

 

「はっきりしないねぇ……あ、もしかして男と行くのかい? なーんて……」

「うぇっ……!?」ビクッ

「……え、マジ?」

 

 

 し、しまった……つい過剰な反応をしてしまった。

 

 

「ふーん、へぇ〜」ニヤニヤ

「な、なに…?」

「いやぁ〜? べっつにぃ〜?」ニヤニヤ

 

 

 お母さんは面白いことを見つけたと言わんばかりの顔だ。ニヤニヤとしててちょっとムカつく……

 

 

「あんな小さかった凛もオトコ連れてプールデートに行くようになったか〜」

「で、デートじゃないし……」

「男と2人でプールだなんて、少なからずとも良く思ってなきゃ行かないって〜 アンタもそのくらい分かってんでしょ」ツンツン

 

 

 不貞腐れた様にテーブルに突っ伏してスマホを弄っている私の背中に、上からお母さんがのしかかってくる。 暑いから退いてほしい……

 

 

「でも一体誰と行くのかな〜? 凛に今まで男友達なんて……あ、そういえば1人いるか〜

凛と仲の良い男の子が〜」ニヤニヤ

「……べ、別に……違うし」

「ふふっ、分かりやすすぎだっての。白石君と行くんでしょ?」

「……」

「真面目な話、保護者としてはアンタが誰と遊びに行くのかは把握しとかないとだからさ。もし何かあった時に何も知らないと困るだろ?」

 

 

 ……急にそんな真面目に真っ当なことを言われると私も正直に言うしかなくなる。お母さんはズルい。

 

 

「はぁ……そうだよ」

「へぇ〜、やっぱり白石くんかぁ〜」ニヤニヤ

「あ、あのさぁ……」

「おっと、わかったわかった。もうイジんないから怒んないでよ」

「……」ムスッ

 

 

 お母さんは私の体の上から退いて手をヒラヒラと振る。こうなると私ももう怒れない。やっぱりお母さんはズルい。

 

 

「ぶっちゃけた話さ、好きなのかい?」

「……そ、そんなんじゃない」

「本当に?」

「本当だよ」

 

 

 これは本当だ……と思う。別に白石のこと嫌いじゃないけど、そういう意味で……す、好きな訳じゃないし。

 

 

 

 

「……気にもなってないような男を2人きりでプールに誘うかねぇ……」ボソッ

「……? 何か言った?」

「別に〜」

 

 

 お母さんが何か言ったような気がするけど……あのはぐらかし方からして話すつもりはないらしい。

 

 

「凛、気合い入れなよ!」

「……?」

「ポカーン、じゃないよ! 男と2人でプールデート……つまりは!」

「だ、だからデートとかじゃ……!」

 

 

「水着で白石くんを脳殺するんだよ!」

「は、はぁっ!?」

 

 

 い、いきなり何を言ってるんだろうこの人は……の、脳殺とか……

 

 

「なんだいアンタ、本当にただ遊んで帰ってくるつもりだったのかい? これはチャンスなんだよ! 水着でアピールすんだよ!」

「だ、だから何度も言ってるけど! 別に白石とはそういうんじゃ……!」

「もうそういうのいいから!」

「え、えぇ……」

 

 

 有無を言わさぬ勢いとはまさにこのことだ。

 

 

「高校生になって大分女らしい体つきになってきたんだからさぁ、それを活かすんだよ!」

「お、オッサンみたいなこと言わないでよ」

「胸も……アンタこの前高校に入って、バストが80台に乗ったって喜んでたじゃないかい」

「な、なんでそれっ……!」

「凛のことならお母さんなんでも知ってるんだからね!」

 

 

 べ、別に胸のことで喜んでた訳じゃないし……身長が伸びてたからニヤニヤしてただけだから。ほ、本当に……っ!

 

 

 

「女子高生の水着姿見せちゃえば、健全な男子なんてイチコロよ!」

「べ、別に……」

「例えばこんな水着とかさ……」

 

 

 お母さんはそう言ってスマホで何かを調べて、その画面を私に見せてくる。

 

 

「ぶっ…! な、なにこれっ!?」

「何って水着よ」

「馬鹿じゃないの!? こ、こんなんっ! ほぼ紐じゃん!」

「でもこんくらいの方が……」

「ドン引きされるよ!」

「そう?」

 

 

 て、ていうか何コレ本当に紐じゃん。こんなの着てたら……み、見えちゃうじゃん。

 

 

「まぁ、水着は普通のでもいいか……後はスキンシップだね! さりげないボディタッチでドキドキさせるんだよ!」

「だ・か・ら! そういうのいいから! 私もう寝るね!」

「あっ、ちょっと待ちなさい、り〜んっ!」

 

 

 私は背中にかけられるお母さんの声を振り払うようにして、早足で階段を駆け上り自分の部屋のベッドにダイブする。

 

 

「……はぁ」

 

 

 別に……好きとか、デートとか……そういうんじゃないし。

 

 

 でも、アイツ……私の水着見たらどんな顔するかな?

 

 喜んでくれる? 褒めてくれる?

 

 

 

「ふふっ……」

 

 

 まぁアイツのことだし、顔赤くしてるのが1番想像できるかな……

 

 

「……って、私何考えて……」

 

 

 別に喜んでもらうためにプールに行く訳じゃないのに……

 

 でも、喜んでくれたら……ちょっとだけ嬉しいかも。

 

 

 

「っ〜〜!!」ボフッ!

 

 

 私は勢いよく枕に顔を埋める。

 

 

 あ〜もうっ! お母さんが変なこと言うせいで、変に意識しちゃうじゃん…!

 

 へ、変なこと考えてないで今日はもう寝ようっ! 寝ればこの変な気持ちもスッキリしてるはずだから。

 

 

「……おやすみなさい」

 

 

 そうして私はゆっくり目を閉じた。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 それから数日が経って、プールに出かける日がやってきた。

 私は待ち合わせ時間10分前に到着するように、待ち合わせの駅までの道を歩く。

 

 

 今日も家を出る前にお母さんが色々とお節介を焼いてきた。

 相手と合流した時の一言目は〜とか、さりげなく私服をアピールするとか……まぁそれ以外にもたくさんアドバイスをもらった。

 

 

 でも私はそれらのアドバイスを実行するつもりはない。お母さんには悪いけど。

 

 

 変に取り繕ったりなんかしなくていい。自然体でいい。いつも通りの私でいい。

 

 

 待ち合わせ場所に近づくと、既にアイツは先に来ていた。そして何故か深く深く深呼吸をしている。

 

 ふふっ、緊張でもしてるのかな。

 

 

 私は足を進めて声をかける。いつもと同じテンション、いつも通りのトーンで。

 

 

「おまたせ」

 

 

 私はこれでいいんだ。

 

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