346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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side rin

 

 

 〜12月中旬、渋谷家〜

 

 

 

「凛〜? ちょっといいかい?」

「ん、何?お母さん」

「24日なんだけどさ、何か予定ある?」

「……何で?」

 

 

 少し前のプールの時のやり取りを思い出す。というか完全にデジャブだ。

 私は少し警戒の色を孕んだ声のトーンでお母さんに返事をした。

 

 

「いや、何もないんだったら家でケーキでも食べようかって思ったんだけど……予定があるんならそっちに行ってくれていいんだよ?」

「予定は……ある」

「あらそうかい。誰と会うんだい?」

「……卯月と未央」

「ふーん……」

 

 

 自然と口から嘘が出た。ここで正直に言えば以前のプールの時の様に揶揄われてイジられまくるのが目に見えていたからだ。

 

 

「凛、嘘ついてるでしょ?」

「……な、なんで?」

「アンタ嘘つく時、そっぽ向いて頬杖付く癖があるんだよ」

「えっ……嘘っ!?」

「うん、ウ・ソ♡」

「〜〜ッ!!」

 

 

 や、やられたっ……! お母さんったらどうしてこんなに小狡い事を思いつくんだろう……!

 

 

 

「ふーん……嘘ついてたんだ〜」ニコニコ

「そ、それは……」

「で? 本当はどんな用事で、誰と会うんだい?」ニヤニヤ

「っ……」

 

 

 こ、この女っ……! 絶対に分かってて私を揶揄ってる…! お母さんはいつもそうだ……私を揶揄う時はいつもニヤニヤと笑っている。

 

 

 

「それで? 白石くんとどこ行くんだい?」

「……やっぱり分かってるんじゃん」

「いやいや、凛の態度見てれば一発で分かるよ。卯月ちゃんとか加蓮ちゃんとかと遊ぶ時はそんな感じじゃないもん」

 

 

 やっぱり分かってたんじゃん……分かってるくせに誰と行くのか聞いてくるなんて意地が悪いと思う。

 

 

「ふーん、でもそっか〜。クリスマスデートかぁ〜」ニコニコ

「な、何でお母さんがそんな嬉しそうなのさ」

「いや〜? 何かお父さんとクリスマスにデートしたこと思い出してさ〜」

「うっ……な、何か聞きたくない」

「何でよ〜? あ、私がアドバイスしてあげよっか!」

「い、いらないって…!」

 

 

 何が悲しくて両親のラブラブエピソードを聞かなきゃいけないのか。複雑な気持ちになるから絶対聞きたくない。

 

 

「あ、そうだ凛」

「なに?」

「ちゃんと日付け跨ぐ前には帰ってくるんだよ? 朝帰りは流石にまだ早いからね」

「ばっ…! ばかじゃないの!?」

「いやいや、ちゃんとそこは注意しとかないと若気の至りってのがあるからね。お母さんも昔はお父さんと……」

「だ、だから聞きたくないってば…!」

 

 

 あーもうっ…! お母さんってば本当に何を考えてるんだろう……! そんな事になる訳ないじゃん!

 

 

「あ、あとニンニク料理とかは控えときなよ?」

「別に食べる予定なんてないけど……何で?」

「え〜? だってぇ〜、キッスする時にそんな匂いがしたら台無しでしょ〜?」ニヤニヤ

「き、きっ……!?」

 

 

 そ、そんな……そんな事ある訳ないし……

というか別に付き合ってる訳でもないのに……そんな事に、なる訳ないし……

 

 

 き、キスとか……

 

 

「………」

「あ、もしかして想像しちゃった?」ニヤニヤ

「んなっ!? ち、違うからっ!」

「男なんてのは狼だからね。こう肩をガッと掴まれたらもう相手のなすがままに……」

「な、なすがままに……?」

「こう、頭の後ろに手を添えられて……ジッと真剣な目で見つめられたらもう……」

「……」ゴクリ

「あ、今絶対想像したでしょ?」

「えっ?……あっ」

 

 

 一瞬で頭の中が真っ白になる。何も考えられない。恥ずかしくて顔が熱いことしかわからなくなる。

 そんな真っ赤な顔をお母さんに見られたくなくて、咄嗟に机に突っ伏して隠した。

 

 

「ま、この様子じゃ朝帰りの心配とかは無さそうだね」

「……うっさい」

「ふふっ、まぁ冗談は置いておいて……しっかりやんなよ?」

「……」

「もうさ、正直なとこ聞かせてよ。好きなんだろ?」

「………好き」ボソッ

「ふふっ」

 

 

 もういいや、否定する体力も残っていない。そうだよ好きだよ。きっかけとかいつからとかハッキリとは分かんないけど……好きだよ。

 

 

「でも好きな相手をクリスマスに誘うなんてやるじゃないか」

「いや……誘ってきたのは向こうからだけど」

「えっ?そ、そうなの?」

「うん」

「じゃあ……向こうにもその気があるんじゃないのかい?」

「……」

 

 

 正直な事を言うとそれについても考えたことはある。だって好きな相手がクリスマスイブにデートに誘ってきたのだから、期待くらいするのが普通だろう。

 

 だからアイツには確認を取った。クリスマスに女子を誘う意味を解っているのかと……その返答を聞いたら益々期待してしまった。

 

 もしかしたらアイツも私のことが好きなのかもしれない……と。

 

 

「凛?」

「…そういうのは考えないようにしてるから」

「何でさ?」

「だって……期待して勘違いだったら、悲しくなるじゃん」

 

 

 でも、もし……もしもそれが思い違いだったらと考えると怖くなって仕方がないから考えないことにした。

 

 

「凛……」

「じゃあ私もう寝るから。おやすみ」

「あ、うん。おやすみ」

 

 

 お母さんに挨拶をして私は部屋に戻る。

 

 

 

 

 

「ったく……肝心なとこで奥手なんだから」

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 

 

(24日……どんな日になるんだろう)

 

 

 私は布団の中で数週間先の日のことを考える。

 

 

(……楽しみだな)

 

 

 早く24日にならないだろうか。いや、それより前に早く明日にならないだろうか……明日になればアイツに会えるかもしれない。

 

 

(寝る直前までアイツのこと考えてる……)

 

 

 私、本当にアイツのこと好きなんだなぁ。

 

 

「ふふっ」

 

 

 それが何だか面白くてついつい笑みが溢れた。これじゃあまるで昔読んだ少女漫画の中に出てくる恋する乙女みたいだ。

 

 

「……早く、会いたいなぁ」

 

 

 誰にも聞こえないような声でポツリと呟いて、私はゆっくりと目を閉じた……

 

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