346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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4話 衝撃的な光景は記憶に残りやすい

 

 3人との会話を終えた俺は、掃除を進めて色々な部屋のゴミ箱からゴミを回収してパンパンになった大きなゴミ袋を運んでいた。

 

 

「重い……」

 

 

 そんな不満を口にしながらもゴミ捨て場へと足を進める。

 

 いやだって本当に重いんだもん……紙って集まると本当に重くなる。

 

 

「ここか……よいしょっと!」

 

 

 はぁ……重かった。やっぱり2つ一気にじゃなくて1個ずつ運べばよかったな……

 さっき千川さんは、それを運んだら今日は終了だから帰っていいって言ってたし今日はこれで終わりかな。

 すっごい掃除したから想像以上に疲れた。

 

 

「ふぅ……綺麗な空だなぁ」

 

 

 ゴミ捨て場の近くにある、この綺麗な事務所には不釣り合いなボロくさい階段の1番下の段に腰を掛ける。

 ふと空を見上げると、すでに空はオレンジ色になっていた。

 

 

(とりあえず今日はこれで終わりかぁ……始まる前は少し不安だったけどなんとかなったかな。まぁ今日は掃除しかしてないけど)

 

 

 上を眺めていると階段の先にドアがある。きっとこの階段は非常階段で、あのドアは非常用出口といったところだろう。

 

 

 キィ--...

 

 

 甲高い音が響いてドアが開く。

 

 

(あ、誰か出てくる……)

 

 

 俺はこれから見る光景を一生忘れることはないかもしれない。 後になって考えると、なぜあんなに扉から誰かが出てくるところを見つめていたのだろうか……?

 多分ちょっとだけ疲れていたからだろう。

 

 

 ガチャ

 

 

 扉から出てきたのは制服に身を包んだ黒髪ロングがよく似合うクールな雰囲気の女の子だった。

 下にいる俺からすれば自分より上にいる女の子がスカートを履いていると当然その中が見えてしまうわけで……

 

 

(あ、黒か……)

 

 

 ぼけ〜っとそんなことを考えている時に、視線を上に動かすとその女の子と目が合う。

 

 

 あれ……?ちょっと待てよ、この状況はまずくないか?

 あの女の子からすれば俺は下から自分のスカートの中をガン見してくるやべーやつに見えているんじゃないか……?

 

 

「……!」バッ

 

 

 はっと我に返って、その場から飛び上がり階段から離れる。

 

 女の子はそんな怪しさ100%の俺を一瞥すると無言のままコツコツと音を鳴らして階段を降りてくる。

 

 や、やばいやばい……俺完全に変態じゃないか。

 

 

「………」スッ

 

 

 女の子は階段を全て降りると、こちらに見向きもせずにポケットからスマホを取り出す。

 

 ま、まさか……つ、通報!?

 

 

 

「ちょ! ちょっと待ってください!」

「は?」

 

 

 怖っ! めっちゃ睨んでる! でも今だけは怯むわけには……

 

 

「つ、通報するのだけは勘弁してください!」

「え……」

「え? いやだから! 通報するのだけは!」

「さっきから何の話?私、友達と連絡をとってただけなんだけど」

 

 

 え、え?じゃあ俺の勘違い……?

 

 

「通報されるかもって思うってことは、何かしらやましいことがあるってこと?」

「え……い、いや〜 それは……」

「はぁ……まぁ構わないけどね。今日は結構お気に入りの青いやつだし。見られて恥ずかしがるようなもんでもないしね」

「え? いや、黒でしたよね?」

「……やっぱり見たんだ」

 

 

 皆さん……僕はバカです。

 

 

「そんなつもりはなかったけど、やっぱり通報しようかな」

「い、いや!それはその……ご、ごめんっ! 確かにスカートの中を見てしまったのは事実だけど! それに関しては本当に申し訳ない! でも信じてほしい! 決してわざとじゃなくて……あ〜その〜 た、タイミングが悪くて!」

 

 

 あ〜……ダメだ、何を言ってるんだ俺は。完全に不審者の言い訳だよ!

 

 

「はぁ……別にいいよ。」

「本当にわざとじゃ……! え?」

「だから別にいいって。通報なんかしないよ」

「ほ、本当?」

「本当」

 

 

「スゥゥゥ...はぁ〜〜〜〜……よかったぁ……。ほ、本当に通報されると思って……」

「う……ごめん。そんなに怖がらせるつもりはなかったんだけど」

 

 

 女の子は心底安堵している俺の様子を見て、やりすぎたと反省しているようだ。さっきまでのクールな雰囲気はなくなり、まるで叱られた子どもの様に下を向いている。

 さっきまでは怖い子かもと思ってたけど優しくていい子なのかもしれない。ていうか悪いのは普通に俺なのに……

 

 

「あ、謝らないでくださいよ。俺が下着を覗いてしまったことは事実なんですから……」

「あれはタイミングが悪かったからでしょ。わかってるよ、だからアンタは悪くないよ。」

「いや、確かにタイミングが悪かったのはそうだけど、俺が下着を見たことに変わりはないんだからあなたが謝ることはないんですよ。 それにあなたの下着を見ながらぼーっとしてた俺が悪くて……」

「あ、あのさぁ……!」

 

 

 俺が慣れないながらに必死にフォロー?をしていると、女の子は顔を赤くして俺の言葉を遮るように大きな声を出す。

 

 

「そんなに下着を見た見たって連呼しないでよ。な、なんか恥ずかしくなるじゃん……」

「あ、す、すみません。」

 

 

 やらかした…… 確かにめちゃくちゃ無神経だった。

 

「と、とにかく! もうさっきのことはいいから。アンタも早いとこ忘れてよ」

「わ、わかりました……」

「じゃあ私もう帰るから。じゃあね」

 

 

 そう言って女の子はスタスタと歩き出した。

 

 俺も帰るか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 困ったことになった……。 先に歩き出した女の子に続いて俺も事務所から出たのはよかったのだが……

 

 

「………」

「………」

 

 

 まさかまさかの帰り道が一緒なのかもしれないという非常事態が発生している。 もう事務所を出て5分ほど経つが全然別々の道になる気配がない。

 

 あんなことがあった後にこれは気まずすぎる……ていうかあっちも多分気づいてると思う。 あれ? 俺そしたらストーカーみたいじゃない?

 どうしよ……思い切って追い抜かすか? でも抜かすために急スピードで向かっていくのもなんか気持ち悪いよね? じゃあこのまま最後までこの距離感で行く? いや、そもそももう少し歩いたら別々の道になる可能性も……

 

 

「ねぇ」

「ん?うわっ!?」

 

 

 声をかけられたから顔を上げたら、目の前に前を歩いていたはずの女の子が立っていた。

 

 全然気づかなかった……

 

 

「あのさ、さっきからずっと後ろにいるよね」

「いや!これはストーカーとかじゃなくて!」

「わかってるって…… 動揺しすぎだよ。」

「そ、そっか……」

「帰り道こっちなの?」

「まぁ……そうですね」

「じゃあ一緒に帰ればいいじゃん。 わざわざ距離を開けてついて来られるのも、なんかムズムズするし」

「え?」

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 

 おいおいおい……とんでもないことになってしまった。まさか夕暮れの中を制服姿の女子と一緒に帰ることになるなんて……

 

 え?これがまさか共学の人たちがやっていると噂される伝説の制服下校デートってやつなのかな!? あ、いやよく考えたら俺制服じゃないしそもそもデートでもないや。

 

 

「………」チラッ

 

 

 ちらりと横を歩く女の子を見る。凛とした顔立ちにスラリとした体。そして揺れる長い黒髪…… うん、文句のつけようがない美少女です。 こんな子と並んで歩くことになるとは……

 

 あれ? ていうか俺この子の名前すら知らないぞ……? 名前も知らない子と一緒に歩くのってどうなんだ? 変な話だよな。

 え、え?名前聞いてみるか? 俺の方から…… は、ハードルが高すぎやしないかそれは……! ていうか俺って頭の中での独り言多いくせに、女の子の前だと全然言葉が出てこないんだよなぁ!

 

 

「あのさ」

「は、はぃぃぃ!」

「え、何?急に……」

 

 

 完全に引いてるよ…… でも考え事してた時に急に話しかけられてびっくりしたんだよ……

 

 

「なんで事務所にいたの? 社員の人じゃないよね?」

「あ、あぁ……俺はバイトで雇ってもらってるんですよ」

「ふーん……女の子の下着を覗く仕事?」

「ぶっ…! ち、違いますよ! ていうかこんな道のど真ん中でそんなこと言わないでください! 聞かれたらどうするんですか!」

「あははっ、ごめんごめん」

 

 

 あ、笑った。 これがギャップってやつか、いいな……

 

 

「あなたはやっぱりアイドルですか?」

「そうだよ。 ていうかあなたって……ふふっ」

「あ、あな……! いや、君だって俺のことずっとアンタって呼んでるじゃないですか!」

「それもそうだね。 じゃあ自己紹介しよっか。 私は渋谷凛、15歳だよ」

「俺は白石幸輝です。年は18です」

「なんだ年上じゃん。 なんで敬語なの?」

「そ、それは……」

「……?」

 

 

 じょ、女子と話し慣れてなくて距離感がわからないからとか言ったら情けないよな…… でも嘘を言うのもな……

 

 

「うーん……もしかして、いい人のフリをして女の子と親しくなって下着を覗くためとか?」

「ち、違うって! だぁぁぁ〜!もう! じょ、女子と話すのは緊張するんだよ! きゅ、急にタメ口とかだと馴れ馴れしく思われるかと思ったんだよ!」

「そうなの? 彼女とかはいないの?」

「いないよ……てか俺中高と男子校だったから、女の子と話したこともあんまりないんだ…」

 

 

 め、めちゃくちゃ情けない…… 3つも年下の子にこんなことを言うなんて……

 

 

「ふーん、 今は大丈夫なの?」

「え?」

「ほら、だって私と話してるじゃん」

「き、緊張してるに決まってるでしょ……」

「ふふっ、顔真っ赤じゃん」

「うっ……」

 

 

 と、年下の女の子にイジられている…… 女性経験0のクソ雑魚なめくじの俺にいきなりアイドルとの会話はレベルが高すぎるんだ。

 

 そういえば渋谷さんはどうなんだろう。

 

 

「渋谷さんはさ、彼氏とかって……アイドルって言ってたか」

「まぁアイドルとか関係なしに彼氏なんていないけどね。 でも恋愛を禁止されてるわけでもないけど、あんまり興味がないんだ」

「へぇ〜 そういうもんなんだ〜」

「なんなら試しに付き合ってみる?」

「は、はぁぁぁっ!?」

「あははっ、冗談だって。今日出会ったばっかの人と付き合ったりするわけないじゃん」

「か、揶揄わないでよ……」

「ふふっ、もっとシャキッとしなよ」

 

 

 めちゃくちゃ揶揄ってくる……もしかして渋谷さんはSなのかな?

 

 

「渋谷さんは……」

「凛でいいよ」

「え……」

「友達からは大体凛って呼ばれてるし」

「さ、流石にそれは……ハードルが高いかな」

「ヘタレなんだね」

「うっ!」

 

 

 しょ、しょうがないだろ……女友達すらまだ全然いないのに、いきなり名前呼びなんて。

 

 

「あ」

「どうかしたのか?」

「家着いちゃった」

「え、ここって…え?渋谷さんの家って花屋なの?」

「そうだよ」

「へぇ〜 でもなんか、花の世話してる渋谷さんはいいね。 見たことないけど、似合いそう」

「……ふーん」

 

 

「あら凛、おかえり!」

「あ、お母さん。ただいま」

 

 

 店の中から出てきた綺麗な人が渋谷さんと挨拶をしている。 今の会話的にお母さんか……綺麗な人だなぁ

 

 

「なんか凛の声が聞こえた気がしてね……って」

 

 

 渋谷さんのお母さんはギョッとしたような目で俺のことを見る。

 …俺何かやっちゃいましたか?

 

 

「凛。 彼氏かい?」

「えっ!」

「お、お母さん!違うから!」

「いやだって……」

「きょ、今日知り合ったばっかりだから!」

「そ、その通りです!」

「今日知り合ったばかりにしては……楽しそうだったねぇ。楽しそうな声が聞こえてきたよ」

「だ、だからぁ!」

「まぁまぁ♪ お母さん邪魔はしないから〜 この後デートにでも行くのかい? あ、流石に夜には帰ってきなさいよ? 出会って初日で泊まりは……ねぇ?」

「もうっ!お母さん!」

 

 

 渋谷さんが大きな声を出すと渋谷さんのお母さんは、「邪魔者は消えるわね〜♪」と言いながら店の中へと入っていった。

 

 

「ごめん! じゃあ私はここで! お母さんの誤解を解かなくちゃいけないから! じゃあまたね、白石!」

「え、あ、うん。」

 

 

 渋谷さんは慌ててお母さんの後を追うように店の中に入っていく

 

 

「凛?彼氏くんはどうしたの?」

「だからさぁ!」

 

 

 

 恐らく店に入ってすぐのところで話しているのであろう。声がダダ漏れだ。

 

 

「仲良さそうな親子だなぁ」

 

 

 俺はそんな感想を呟いてまた歩き出した。

 

 

 そういえば俺にしては、結構上手に女の子と会話できてたんじゃないか? 

 とも思ったけど……あれは渋谷さんにイジられてただけかな。

 

 まぁでも楽しかったからいいか。

 




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