346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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 久しぶりにしぶりんを書きたくなったのでしぶりんの話です。




渋谷凛after I love your smell

 

 渋谷さ……あっ、また間違えた。

 

 渋谷さん改め、凛とのお付き合いを始めて数ヶ月が経過した。

 俺にとっても凛にとっても初めての異性との交際で、他の恋人たちがどんな風に過ごしているのかは分からないけど、普通に仲良くしてるし多分交際は順調だ。

 

 

 ちなみに俺は未だに癖で凛のことを「渋谷さん」と呼んでしまうことがあるけど、これをすると凛はめちゃくちゃ不機嫌になる。

 本人曰く彼氏なら堂々と名前で呼んでこいとの事だけど、凛の方は未だに俺のことを「白石」とか「ねぇ」とか「アンタ」って呼んでいるのは理不尽な話だよな。

 

 

 って、話が逸れたな。今はそんな事を報告しようと思ってたんじゃなかった。

 

 

 話を戻すが、初めての彼女である凛との交際は順調に進んでいて、今まさに人生の幸せの絶頂期を迎えている俺だが……実は最近一つだけ悩み事がある。

 

 いやまぁ、本当に困ってるかと言われたらそうでもないというか……どちからと言えば嬉しい悲鳴的な感じなんだけど。

 

 

 その悩みとは……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、もうちょっと腕ずらしてよ」

「え? あっ、あぁ……うん」

「ん」

 

 

 渋谷さ……凛が背を向けたまま俺の肩にもたれかかってきた。その後は特に何をするでもなく、俺の部屋にあった漫画を黙々と読み続けている。

 凛が体をくっつけてきた瞬間に彼女の温かくて柔らかい体の感触と、甘くて爽やかな匂いが俺の体に伝わった。そして俺の心臓はぶっ壊れてしまったのかというくらい速いスピードでバクバクと鳴る。

 

 

 そう、俺がさっき言っていた悩みとは凛のスキンシップのことだ。

 

 

 凛と交際を始めて、より仲を深めて一つわかったことがある。実は凛は結構スキンシップが激しい方だということだ。

 いや、他の人がどれくらいスキンシップするのかとか知らないけど多分凛は結構激しい方だと思う。

 

 スキンシップと言ってもキャッキャウフフしてるような物ではなく、例えば俺がスマホを弄っていると静かに背中にもたれかかってきたりするみたいな感じのやつだ。

 

 ただそれだけでも俺にとっては大ダメージな訳で、密着している凛の体の柔らかさと甘い匂いとかその他諸々……とにかく今俺は凛のスキンシップにより悶々とした生活を送っているのです。

 

 

「ねぇ」

「ん、どうかした?」

「さっきから何してんの? ずっとスマホ見てるけど」

「えっ、普通にゲームだけど」

「ふーん……見てもいい?」

 

 

 ギュッ…

 

 

「っ……!」ビクッ

 

 

 凛はむくりと体を起き上がらせると、俺の背後に回りそこから手を体に回して優しく抱きしめる。そして俺の肩にちょこんと顔を乗せる体勢のままスマホの画面を覗き込む。

 

 

「ふーん、スマホのゲームでも結構迫力があるんだね」

「そ、そそそそうだねっ!」

 

 

 耳元で凛の芯が通った綺麗な声が響く。頬と頬が触れ合いそうなほど近い距離感に動揺している俺はもうゲームになんか集中できるはずもない。

 

 や、やばいやばい……いい匂いするし柔らかいしもう何がなんだか分からない! り、理性が……俺の理性がけずられていくぅー!

 

 

 

「ちょっと、やられそうなんだけど」

「えっ? あっ本当だ」

「集中しなよ」

 

 

 だ、誰のせいで集中できてないかわかっているんですかねぇ……?

 

 と、とりあえず落ち着こう。一旦落ち着いてゲームに没頭するんだ。そうすれば俺の心も少しは平静を取り戻せるはず……

 

 

 

「ほら、今のうちに攻撃しないと」

 

 

 ムギュッ

 

 

「ちょわっ…!?」

「何変な声出してんのさ」

 

 

 後ろから凛がより一層体を密着させてくる。それにより俺の背中には凛の発展途上中の双丘が押し付けられた。

 

 

 お、おおお落ち着け俺ッ! 鎮まれ俺のオレッ! 意識するな、やましいことを考えるな、お母さんの顔を思いだせぇぇッ!!

 

 

 

「……ねぇ、顔赤くない?」

「そ、そう……かな?」

「赤いよ。それに、ほら」ピトッ

「ひょわっ!?」

 

 

 凛は俺の胸板へと手を伸ばして、手のひらをぺったりと押し当てる。

 

 

 

「……心臓の音、すごいね」

「ちょっ! り、凛さん…?」

「ドキドキしてる。これってさ、私のせい?」

「い、いや……そ、それはですね」

 

 

 心臓がうるさい。ドキドキとかいう可愛いレベルではなく、もはやバクバクバクとえげつない音を出して今にも破裂しそうだ。

 

 

「……アンタって本当に女の子に免疫ないんだね」

「い、いや……例え免疫があっても、凛にこんなにくっつかれたら……男なら皆こうなると思うんだけど」

「……そうなんだ」

「そ、そう……だと思う」

 

 

 顔がオーバーヒートしそうなくらい熱い。見てもいないのに顔が真っ赤なことが自分でもわかる。

 というかさっきから凛がずっと胸板をさわさわしてきてめっちゃくすぐったい。

 

 

「あ、あの……凛さん? なんでずっと俺の胸撫でてんですかね…?」

「いや、別に……意外と硬いなって」

「そりゃ、柔らかいわけないでしょ。俺は男なんだし」

「それもそうだね」

 

 

 とか言いながらも凛は俺の胸板を触るのを止めない。それどころか手のひらはゆっくりと下がっていき、今では腹筋の辺りを撫でている。

 

 ……腹筋ならギリセーフ。これ以上下に行かれると流石にアウト。

 

 

 

「……俺の体なんて触ってもそんなに楽しくないだろ…?」

「普通、かな」

「じゃ、じゃあそろそろ離してくれないかな〜なんて……」

「でもさ、恋人の体に触ってみたいって思うのは……普通でしょ?」

 

 

 そ、それは当然だけどさ。俺だって本当はめちゃくちゃ触りたいし……

 

 

 

「アンタもさ……私の体とか、触りたいなって思わないの?」

「んなっ! り、凛さん!?」

「いいから、答えて……」

「っ……!」

 

 

 

 そ、そんなの……

 

 

 

「お、思ってるよ……もちろん」

 

 

「……じゃあ、いいよ」

「り、凛! 何言って……!」

 

 

 俺は勢いよく自分の顔を横に向けると、凛の綺麗な顔が目の前に来ていて心臓がドクンと鳴り響いた。

 凛の顔も俺と同じように真っ赤に染まっていて、綺麗な碧い瞳はうるうると潤んでいる。

 

 

 そして凛は目をぎゅっと閉じ、俺に向けて唇を突き出した。

 

 

「ちょっ! え、えぇっ!?」

「ほら、早く……」

「えっ……あ、あぁ……うん」

 

 

 ちょ、ちょっと待ってくれ……! こ、こんないきなりとか、まだ心の準備が……!

 

 

 

 ブ-! ブ-! ブ-!

 

 

 

「……! で、電話が…! ちょっと待ってて!」

「あっ……」

 

 

 俺は床に落としていたスマホを拾い上げて、逃げるようにベランダへと走っていった。

 

 

 

 

 

 

「……意気地なし」ボソッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 

 ブ-! ブ-! ブ-!

 

 

「……! で、電話が…! ちょっと待ってて!」

「あっ……」

 

 

 そう言うとアイツはスマホを拾ってベランダへと逃げていった。

 

 

 

「……意気地なし」ボソッ

 

 

 私の口から思わず言葉が漏れる。

 

 

 そして1人残された私は行き場を失った手を握り締めると、ムカムカをぶつけるように勢いよくアイツの使っているベッドへと飛び乗った。

 

 

 ギシィ…

 

 

 勢いよく飛び乗られたベッドからは軋むような鈍い音がした。

 

 

「……ばか」

 

 

 また口から悪口が出てしまった。でも謝る気も訂正する気もない。だって悪いのはアイツなんだから。

 

 普通あの雰囲気で彼女より電話を優先する?

まぁ……急ぎの電話とかだったら確かに大変だけど、それでもやっぱりムカムカする。

 

 

 ……軽い気持ちで家になんか来ないのにさ。

 

 

 

「ばーか」ボソッ

 

 

 ベッドの上に置いてある枕を抱きしめて、なんとなく顔をくっつけて鼻を鳴らしてみる。

 

 なんてことない、特別いい匂いがする訳でも特別臭いとかそんな事はない。普通の洗濯洗剤の匂いと……ほんの少しだけするアイツの匂い。

 

 

 ……ムカつく。ムカつくのに、落ち着く匂いだ。

 

 

 なんとなく布団も手繰り寄せて鼻に当ててみると、それも枕と同じ匂いがした。

 アイツがまだ戻ってこないのを確認して、さっきよりも強く大胆に鼻を鳴らしてみる。

 

 

 自分でも引くほど匂いを吸う音が大きくなっていく。匂いを吸うたびに全身をアイツに包まれているような感覚になる。

 

 

 ……ムカつく。ムカつくけど、私は今、自分からアイツの匂いを求めている。

 

 

 

「……あっ」

 

 

 ベッドの上にアイツが脱ぎ散らかしたままの上着を見つける。流石にそれは変態っぽいのではと自分でも一瞬考えたが、私は気付けばその上着を抱きしめて、また鼻に当てていた。

 

 

「……んっ、はぁ」

 

 

 ……ヤバい、私、完全に変態だ。

 

 

 布団や枕よりアイツの匂いが濃い。それも当然、だってさっきまで実際にアイツが着てたんだから。

 

 

 でもそれでいい。それが嬉しい。だって私が求めてたのはこの匂いだから、強い方が断然いい。

 

 

「はぁ……すぅ……んっ、はぁ……」

 

 

 

 

 はぁ……好きだ。 やっぱり好きだ。 ムカつくけど大好きだ。

 

 もっと関係を深めたい。 軽いスキンシップなんかじゃ物足りない。

 

 もっと、もっと強い繋がりがほしい。……もっと直接アイツと触れ合いたい。

 

 

 

 あぁ……ヤバい。私、変なトコ入ってる? これ以上続けてたら、本当に変態になっちゃう。

 

 

 体がアツい。切ない。寂しい。早く戻ってきてほしい。

 

 早く、戻ってきて……そして私を……

 

 

 

 

 

 

「り、凛?」

「……………え?」

 

 

 

 声がした。私の求めていた声。

 

 

 そっちの方へと顔を向けると、そこにはアイツがスマホを握りながら私のことを見つめていた。

 

 

「……あっ」

 

 

 私はベッドの上で彼氏の服を匂いながら顔を赤く染めている。おまけに枕も抱えて服もだらしなく乱れている。

 

 ……客観的に見れば完全に変態だ。

 

 

 

 

「いやっ、その、こっ……これ……は」

「う、うん……大丈夫。とりあえず落ち着こう?」

 

 

 み、見られた。痴態を……見られた。

 

 

 

「〜〜〜〜ッッッッ!!!」

 

 

 頭の上から何かがボフンと爆発する音が聞こえた。

 次の瞬間に私の顔は一瞬で茹で蛸のように真っ赤に染まり、焼け石のように熱くなった。

 

 

 

「か、帰るッッ!!」

「えっ! ちょっ、渋谷さ……凛!」

 

 

 私のことを苗字で呼びそうになるくらい動揺してるアイツに背を向けて、そのまま小走りで玄関へと向かう。

 

 

「ちょっ! 凛!? どうしたの!」

「じゃ、じゃあねッ!」

 

 

 さっきとは逆に、今度は私がアイツから逃げるように部屋の中から飛び出して行く。

 そしてそのまま全力疾走でアイツの家から離れていった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 家からかなり離れた場所で電柱に手をついて息を整える。まだ顔は熱いままだ。

 

 

 あ〜もうっ! 次会う時にどんな顔して話しかければいいのか分からない…!

 

 

 

 

 

 私たちの関係が進展するのは、もう少しだけ先になりそうだ。

 

 

 





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