346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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 荒ぶる凛ちゃんVS白石くんを狙う(?)女の話がメインですが、凛ちゃんと白石くんは死ぬほどイチャつきます。

 今回は全編凛ちゃん視点です。




渋谷凛after 仁義なき女の戦い

 

 これは、私とアイツが大人になって結婚した後の話。

 

 

 

 閑静な住宅街にひっそりと佇む花屋。その花屋こそ、私こと渋谷凛改め、白石凛とその夫である白石幸輝が営む店だ。

 

 私たちの花屋はすっごく客が多い訳ではないけど、地元の人たちなんかには好評でそれなりに上手くやっている。

 それとウチの旦那が花屋にもIT化の波が〜とか言い出してさ……最近はオンラインでの花の予約に販売なんかも始めて、最初は私も半信半疑だったけど今ではそっちの稼ぎがすごい良いんだよね。

 

 てな感じで、出会った時は頼りない印象だったアイツも今ではそれなりに頼りがいのある花屋の店主になってる。

 

 

「凛、中村さんから注文が入ってる花のことなんだけどさ」

「あっ、うん」

 

 

 噂をすれば影。店の奥からやってきたアイツが年相応に落ち着いた笑みを浮かべながら私に話しかけてくる。

 

 顧客リストに目をやりながら話を続ける彼のことを本人にバレないようにジッと見つめる。

 根本的な優しげな顔立ち自体は変わっていないのに、昔よりもどこか大人びた様に見える顔。日常的に繰り返される花屋での肉体労働で鍛えられたのか、ガッチリとした体つきに腕まくりから見える筋張った腕。

 

 

 ……好き。カッコいい。

 

 

「ん、どうかした?」

「……別に、なんでもないよ」

 

 

 ちょっと見過ぎた? 不思議に思ったのか目の前の男はキョトンと首を傾げた。そんな姿も可愛らしくて胸がキュンとする。

 

 結婚して数年が経ったら夫婦の愛情なんて薄れていくものだって聞いたことがある。互いの良くない部分が沢山見えるから、もうお互いに男と女として見れなくなるとかなんとか。

 なのに、私が特別なのか私の想いが薄れる様子は全く無い。 悔しいけど今でもこの人のことが大好きなんだ。絶対に離婚なんかしたくないし離れたくもない。

 

 

「凛? やっぱり何か俺の顔に付いてる? ジーッと見られてる気がするんだけど」

「……ん」

「えっ? い、今…?」

「……うん」

 

 

 私が唇を少し突き出すと、意図を察した彼は少し顔を赤くして照れくさそうに頬を掻いた。

 

 

「……嫌?」

「……嫌なわけないだろ?」

「ふふっ、えっち」

「うるさい」

 

 

 アイツのゴツゴツとした腕が私の背中に回り腰をがっしりと掴む。男の人の強い力で掴まれたらもう私に逃げる術は無い。

 

 ふふっ、逃げるつもりなんて無いけどね。

 

 

「んっ」

 

 

 そして次の瞬間には、私とアイツの唇は一つに重なった。

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 さっきも言った通り、アイツは大人になってちょっとカッコ良くなった。私の前では以前のような姿を見せることも少なくないが、仕事相手のお客様には大人の余裕を持った対応をする。

 

 旦那が格好良いのは私にとってはとても嬉しいコトでもあるけど、それが原因で私にとっては面白くないコトも起きている。

 

 

 

「いらっしゃいませ」

「こんにちは〜、また来ちゃいましたぁ〜

部屋に飾れるようなお花が欲しくてぇ〜」

「それでしたら、こちらなど如何でしょうか」

「わぁ〜! 可愛いですぅ〜!」

 

 

「………」ジ-

 

 

 私にとって面白くないコトとはコレだ。

 

 最近よく来るあの若い女の子、よほどウチの旦那が気に入ったのか頻繁に店に来てはアピールをしている。

 

 そう、ウチの旦那は私と付き合うまでは男子校通いだったから全然モテたことなかったのに、よりによって私と結婚してから人生初のモテ期を迎えているのである。しかもそれに本人は全く気づいていないから私だけがモヤモヤとした思いを抱いてる。

 

 

「こちらなど、お客様にお似合いだと思いますよ」

「えぇ〜? ちょっと可愛らしすぎませんか〜?」

「あははっ、そんなことありません。とてもお似合いかと」

 

 

「……」ムスッ

 

 

 

 簡単に言うとアレだ。 アイツが私の眼の前で他の女と楽しそうに話してるのを見ていると……こう、ムカムカする。

 

 もちろん相手はお客様だから「店に来るな!」なんて事は言わないけど、それでも1人の女として、アイツの嫁としてアイツが私以外の女と仲睦まじげに話す姿を見せられるのは面白くない。

 

 

「ひゃっ!」

「ど、どうかなさいましたか?」

「ふ、服の隙間から葉っぱが入ってきちゃってぇ〜」

「えっ」

「店主さ〜ん、とってくれませんかぁ〜?」ムギュ

「あっ、いや……その、それは……あはは」

 

 

「……」イライラッ

 

 

 女は胸元が大きく開いたトップスを見せつけるように前屈みになり、甘い声を出しながらクネクネと体を揺らしている。それに対してアイツは少しだけ顔を赤くして困ったように苦笑いを浮かべるしかない。

 

 何アレ? あんな露骨なアピールに何タジタジになってんのさ。確かにあの女胸はデカいけどさ……あームカつく、普通既婚者にあんな露骨なアピールしないでしょ。

 

 

 私はつかつかとわざとらしく音を立てて2人のもとへと歩いて行き、女の胸元に手を突っ込んで(恐らく)自分でわざと入れたであろう葉を掴んで放り投げる。

 

 

「これでよろしいですか、お客様」ニコッ

「……ありがとうございますぅ〜、店員さん」ニコッ

 

「り、凛?」

「……ふんっ」プイッ

 

 

 ──少しやりすぎだよ。という意味を込めての牽制。

 

 これであの女も大人しくなるだろうと考えていたが、私が店の裏に回ると何とあの女はまたしてもアピールを再開した。

 

 

「相変わらずお綺麗ですねぇ〜奥さん」

「え? あ、あぁ……そうですね。俺には勿体ないくらいです」

「え〜? 店主さんも素敵だと思いますけど〜」

「いえいえ、俺なんか凛……えーっと妻に出会うまでは女性に縁なんて全くなかったですから」

「硬派な男性なんですねぇ〜 素敵ですぅ〜」

「いや硬派っていうか、ただモテなかっただけなんですけど……」

 

 

「……」フン

 

 

 そうだよ、その人私以外の女と付き合ったことなんて無いんだから。デートもキスも……もちろんそういう事も、全部私が初めてなんだよ。

 

 と……心の中でマウントをとって優越感に浸っていると、女はアイツの手をとってベタベタと触り始めた。

 

 

「えっ!? お、お客様…?」

「店主さん手ぇ大きいんですねぇ〜 でも少しカサついちゃってるからケアした方がいいですよぉ〜?」

「い、いや……仕事柄水に触れることも多いのでこの時期はどうしても」

「そうなんですか〜? ふぅん……私がケアしてあげたいなぁ〜、なんて……うふっ」

「ご、ご冗談を……あはは」

 

 

「………っ」イライライラ

 

 

 何なのあの女……よくもまぁ人の旦那に対してベタベタと。 これはもういい加減に、本腰入れて牽制しないとダメだね。

 

 

「お、お客様……そろそろどの花にするか決まりましたか?」アハハ 

「あっそうですよねぇ〜 お花を買いに来たんでしたぁ〜。ついつい店主さんとのお話しが楽しくってぇ〜」

「あはは……」

「う〜ん、そうですねぇ〜 あれ、向こうのシールが貼ってあるお花はなんですかぁ〜?」

「申し訳ありません。あちらは他のお客様からの予約が入っている品ですので」

 

 

 アイツが申し訳なさそうな顔をして謝ると、女は一度考え込んだ後にわざと声のボリュームを上げて私に聞こえるように話を続ける。

 

 

「そうなんですかぁ……残念です」

「どうしてもあちらが宜しいのでしたら、予約をしていただけますと後日ご用意することができますよ?」

「う〜ん、じゃあそうしようかなぁ〜? ごめんなさい店主さん、ワガママ言っちゃって」

「いえいえ、構いませんよ」

 

 

 

「私ぃ〜、 人の物だって分かってても欲しくなっちゃうんですよねぇ〜 燃えるっていうかぁ〜」チラッ

 

 

「……は?」

 

 

 あの女……今こっちを見た…? つまり今のは私に向けての……宣戦布告ってこと?

 

 ふ、ふーん……そっか、そういう事言っちゃうんだ。今までお客様だから見逃してあげてたのに、上等じゃん。

 

 

「ふ、ふふっ……」ピクピク

 

「ん? ヒェッ」

 

 

(な、なんか凛がめっちゃ怒ってる……や、やべぇ……笑顔なのに青筋がぴくぴくしてるんだけど!?)

 

 

 私はゆっくりと立ち上がって泥棒ネコの元へと向かった。そして旦那の隣にピッタリとくっつくように立ってとびきりの営業スマイルを浮かべる。

 

 

「お客様、"コレ"は既に人のものですので、お客様に差し上げることはできません」ニコニコ

「ちょっ、凛…?」

 

「ふふっ、その説明はさっき聞きましたよぉ〜? でもぉ……どうしても欲しくなったらもう奪っちゃうしかありませんよねぇ〜」ニコニコ

「奪っ!? お、お客様それはマズいですよ!」

 

 

「「ちょっと黙ってて!!!」」

 

「は、はいぃっ!!」

 

 

 怯んだ彼が一歩後ろへと下がる。私は自分の体でソレを隠すように女の前に立つ。

 

 

「いけませんお客様、人のものを盗ったら泥棒になってしまいますよ?」ニコニコ

「ふふっ、それなら盗られないようにしっかりと見張ってなきゃいけませんよぉ〜?」ニコッ

「ええ、ですからこうして泥棒ネコが入り込まないよう見張ってるんです」ニコニコ

「そうなんですかぁ〜? それにしてはセキュリティーが薄いような気が……泥棒ネコは、もう"見張りさん"がいない内に何回か(店に)入り込んでますよ〜?」

 

「そうなの…?」ギロッ

「うぇっ!? というか2人ともさっきから何の話を……」

 

 

 この女……私が留守の間を狙って店に来てるってこと? よくもまぁぬけぬけと……

 

 

「ねぇ、裏で事務処理の仕事がやりかけなんだけどさ、ちょっとアンタやってきてくれない?」

「え? でも今はまだお客様が」

「いいから! 行く!」

「は、はいっ! 了解ですっ!」

 

 

 私の言葉に反応して彼は店の裏へと回る。これでここに残されたのは私とこの女だけだ。

 

 私は店用のエプロンを外して、仕事の時はいつも1つに纏めている髪の毛も解く。目の前の女はその様子を不思議そうな表情で見つめていた。

 

 

「これでもう私は店員じゃないし、アンタは私の客でもない。ここからは1人の女と女の話だよ」

「……望むところです〜」

 

 

 腕を組み、目を細めて女を威圧するが、向こうは怯む様子も無く妖しげな笑みを浮かべた。

 

 

「単刀直入に言うけど、"私の"旦那にちょっかいかけるのやめてくれる?」

「嫌です〜。どうして私の恋愛の邪魔をするんですかぁ〜?」

「叶わぬ恋に胸躍らせてる姿を見るのは忍びなくってね」

「……そうですかぁ」

 

 

 ここまでずっと薄ら笑いを浮かべていた女の顔が初めて崩れる。明確に私への敵意を露わにした顔だ。

 だからといってこっちも引く訳にはいかないし、なんならこっちの方がやりやすいくらいだ。

 

 

「あなたってアイドルの渋谷凛ですよね」

「……知ってたんだ、私のこと」

「もちろん、私小学生の頃に結構憧れてたんですよ?」

「それはどうも、というかさっきまでの変な喋り方やめたんだ」

「ふふっ、あなたに媚びる必要はありませんからね」

 

 

 この女、私のこと知ってたんだ。まぁ今はもう引退したしアイドルではないんだけどさ……

 

 

「でも、憧れてたのは昔の話です。今のあなたはもう……ただの花屋のオバサンじゃないですか?」クスッ

「……へぇ」

「渋谷凛がデビューしたのは15歳でしたっけ? それから数十年が経ったから……もう30歳くらいですよね?」ニコニコ

「算数もできないんだ。今は27だよ」

「ふふっ、アラサーですね」

 

 

 一々癪に触る女だ。早いとこ諦めさせて帰ってもらわないとストレスで胃がやられそう。

 

 

「ふぅ……年齢の事とか昔の話は置いておいてさ、もう一回言うけど私の旦那にちょっかい出さないでくれる?」

「嫌です、これは……"復讐"なんですよ。渋谷凛さん」

「……はぁ?」

 

 

 復讐? 何を言ってるんだこの女は。 そもそもこの女と会ったことなんて無いし、恨まれる要素なんて何もないはずだ。

 

 

「言ってる意味が分からないんだけど」

「ふ、ふふっ……あなたが知らなくても関係ありません。私はあなたを許しません……っ」

「説明してよ、意味が分からない」

「いいですよ、説明しますよ。あなたは……」

 

 

 

「私の大切な彼を奪った張本人じゃないですかっ!!」

「……えっ?」

 

 

 何? 大切なカレー? かれ、かれ……加蓮?

あっ、彼か。いやいや、さっぱり分からない。

 

 私が奪ったって……どういうこと?

 

 

「ふふふ……とぼけないでくださいよ。アレは私が高校生だった頃……今から数年前の話です」

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 あの日、私は高校3年間片想いをしていた彼に想いを伝えたんです。それなのに……

 

 

『す、好きです! 付き合ってください!』

『ごめん、俺しぶりんみたいな子がタイプなンだわ。てかしぶりんと結婚するから』

 

『…………っっ!!!』ガ-ン

 

 

 ゆ、許さない……許さないっ! 渋谷凛…っ!

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

「あの日から! 私はあなたを恨み続けてきたんですよ! 彼を奪った渋谷凛……あなたをねぇっ!!」

「…………」ポカ-ン

 

 

 …………えっ? い、今のが理由…?

 

 

 

「い、いやいやいや! 逆恨みじゃんソレは! 私何もしてないし!」

「あなたが何と言おうが私は許しませんよぉっ!」

「……てことは、アンタの復讐って」

 

 

「そうですよっ! 私の大切な彼を奪ったあなたの大切な男を奪うことですよ!」ムキ-!

 

 

 え、えぇ……どうしよう、すごい逆恨みだ。これはまた面倒な子に目付けられたものだ……

 

 ん?という事は……この子。

 

 

「ちょっと待って、私への復讐が目的って事はアンタ私の旦那の事は……」

「全然好きじゃないですよっ! あんな女慣れしてなさそうな優男なんて!」

「…………はぁ〜」

 

 

 なんか……一気に力抜けちゃった。

 

 つまり何だ、この女は最初から私の敵でもライバルでも何でもなかったのだ。 最初から同じステージになんか立っていなかった。

 

 

「アンタ……なんというか、はぁ……」

「な、何よその可哀想なモノを見る目は! 確かに昔のアンタは可愛かったわよ! 私の憧れだったわよ! でもそんなアンタに復讐するために私も女を磨いたのよ! 見なさいこのバストをっ!!」

 

 

 そう言って女は必死の形相で自分の胸を手で持ち上げて見せた。

 

 まぁ……確かに大きいけどさ。 昔の愛梨くらいかな。

 

 

「この体を使って迫ればアンタの旦那なんてすぐに堕ちるんだからね! さっきだって私の胸チラチラ見ちゃってさ!」

 

 

 ……それについては一回アイツを殴るとして。

 

 あぁ、どうしよう……さっきまで物凄く憎らしかったこの女が急に可哀想にしか見えなくなってきた。

 これがもし私の戦意を削ぐための演技だとしたら大したものだけど、この必死な様子を見る限りそんな事も無いのだろう。

 

 

「とりあえずアンタもう帰んなよ、なんかアホらしくなってきた……」

「うっさい貧乳!」

「……は?」ピキッ

 

 

 ダメだ、やっぱりこの女は憎たらしいやつだ。

 

 

「別に私小さくないんだけど」

「うっさい! 昔クラスの男子が言ってたんだから! 渋谷凛はニュージェネの貧乳枠だって!」

「卯月と未央が大きいだけだから! 相対的にってだけでしょそれ!」

「トラプリでも貧乳枠のくせに!!」

「奈緒と加蓮がデカいだけだから!!」

 

 

 ギャ-! ギャ-!

 

 

「お、おい凛? どうしたんだ一体」

「はぁ……はぁ……なんか、変な因縁つけられて」

「因縁?」

 

 

「う、うぅ〜! えっぐ……ひぇっぐ……うわ〜ん!」

 

 

 女はいきなりその場にしゃがみ込んだかと思えば急に泣き出してしまった。

 

 な、なんかもう……私も疲れたんだけど。

 

 

 

「凛、説明してくれよ」

「……はぁ」

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「それって逆恨み……」

「わかってる、だから私も困ってて」

 

 

「ひっぐ……うぅ、ひぅ……っ」

 

 

 2人して困ったように顔を見合わせる。流石にこのまま放っておく訳にもいかない。

 

 

「……わかった、ちょっと俺に任せてくれ」

「はぁ……うん、じゃあお願い。私ちょっと疲れちゃって」

 

 

 そう言うと彼はしゃがみ込む女の横へと同じようにしゃがみ込む。そしてその大きな手のひらで優しく背中を摩り始めた。

 一瞬だけムッとした想いが胸をよぎったけど、まぁ泣いてるあの子を慰めるためだし我慢しよう。

 

 

「大丈夫? ほら、ゆっくりでいいから深呼吸してみて」

「……ぐすっ、……すぅーはぁ〜」

「落ち着いた?」

「……はい゛っ」

 

 

 顔を上げた女の目元は涙やら何やらでぐしょぐしょになっていた。 その顔を見てるとどこか申し訳ない気持ちも湧いてくる。

 

 

「凛から聞いたよ、復讐のこと」

「……はい」

「まぁ……その、確かに彼の事は残念だったけどさ、いつまでも悪い思い出ばっかり引きずってたら楽しくないでしょ?」

「それは……まぁ」

 

 

 優しく、子どもに言い聞かせるような声色で彼は話を続ける。

 

 

「君はまだ若いし人生これからじゃないか。きっとこれからいい出会いもあるさ、俺みたいな奴でもあんなに素敵な人に出会えんだ。君にもそんな出会いが絶対にあるよ」

「……そう、ですかね」

「うん、絶対にあるよ」

 

 

 素敵な人って……ほんと、サラッとそういう事言うよね。

 

 顔、熱くなってきた。

 

 

 

「というか、君は復讐に心を囚われすぎて視野が狭くなってるのかもね」

「どういう、ことですか…?」

「復讐に囚われてるから、いつまでも嫌な思い出を引きずってるんじゃないかなって。きっと君の周りには、素敵な出会いの可能性がいくつも転がってると思うよ?」

「なんで……そんな事言えるんですか…?」

 

 

「え、だって君は可愛いじゃないか」

 

 

「……えっ」

「ちょっ!?」

 

 

 何をキョトンとした顔で女を口説いているんだこの優男は……しかも妻である私の前で。

 

 はぁ……本当に、人に優しいというか甘いというか。

 

 

「それだけ可愛いんだからさ、きっと君のことを好きになる人もいっぱいいるよ」

「そ、そうですかね……? 私、可愛いでしょうか…?」

「え? あ、うん」

「店主さん……わかりました!」

 

 

 そう言うと、女は立ち上がって自分のスカートをぽんぽんと叩いて埃を落とす。スッキリとした顔を見るに吹っ切れたようで、というか薄らと頬が赤い気がする。

 

 ……女の勘が言う。嫌な予感がする、と、

 

 

 

「ありがとうございました店主さん! 私、なんだか元気出てきました!」

「そう? ならよかった」

「それと渋谷凛さん」

「え、なに…?」

「私、あなたへの復讐心はもう捨てることにします! これからは……これからは…!」

 

 

「新しい恋に生きることにします!」

 

 

 そうして、私への復讐心に燃えていた女は物凄いスピードで走って店から去っていった。

 

 不穏な捨て台詞を残して……

 

 

 

「行っちゃったね」

「はぁ……疲れた」

「ははっ、今日はもう店じまいしようか」

 

 

 言われて気づいた。上を見上げると青かった空はすっかりとオレンジに染まり、ノスタルジーに浸らせるような鳥の声が響いている。

 

 

「そうだね、じゃあもう閉めよっか」

「了解」

 

 

 アイツはそう言って微笑むと、大きな音を立てて店のシャッターが閉められた。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

「はぁ〜! 今日は何か大変だったなぁ〜」

「そう、だね……」

 

 

 確かに、今日はちょっと疲れた。色々とあったからだけど疲労感がすごい。

 それに、今日のところは一旦解決…? したけど、今後ももしかしたら私の敵は現れるかもしれない。

 

 そんな事を考えると、胸がざわついて、どうしようもなく不安になる。

 

 

 

「……ちょっとこっち来て」

「ん? ちょっ、凛!? 」

 

 

 店の裏……つまり私たちの住居スペースを歩いているアイツの腕を引っ張っていく。そのまま有無を言わさず引っ張り続けてリビングに連れ込んだ。

 

 

 

「ど、どうしたんだよ凛」

「ザワっとする」

「え?」

 

 

 口からポロッと溢れた私の言葉に、向こうは不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「胸が、ざわざわして落ち着かない」

「だ、大丈夫か? びょ、病院行くか!?」

「アンタが!!」

「……っ!」ビクッ

 

 

「アンタが……あの子に、可愛いとか言うから……私は、胸がざわつくんだよ」

「り、凛……」

 

 

 みっともない嫉妬心。 それをこの人にぶつけても何も意味がないことなんて分かっているのに、どうしようもなく不安になって口から溢れてしまった。

 

 

「ごめん、俺が悪かったよ。不安にさせちゃったよね」

「……私こそごめん、こんな……八つ当たりみたいな」

「凛」

「……ん」

 

 

 大きてゴツゴツとした体が私を包む。首筋に顔を埋めて鼻を一度鳴らすと、柔軟剤の匂いと彼本来の匂いを感じられて心が落ち着く。

 

 

「アンタは誰にでも優しいから……そういうとこ見てると不安になる」

「ごめんね……」

「みっともないよね。こんなの……アンタを信用してないみたい」

 

 

 本当、みっともない。夫婦なのに……私、全然この人全然のこと信用できてない。

 

 

「……凛、それを言うならみっともないのは俺も同じだよ」

「えっ」

「実は俺も凛と同じ気持ちになったこと、何回もあるよ」

「そうなの…?」

 

 

 体を離して彼の顔を見ると、少しだけ恥ずかしそうに頬を掻きながら笑う。

 

 私の好きな表情だ。

 

 

「凛は綺麗で可愛いから、2人でいる時もよく男の人は凛のこと見てた。 それに、共演する芸能人は俺なんかよりずっとカッコいい人が多くて……そんな時、俺勝手に不安になったり嫉妬したりしてた」

「……そうなんだ」

「うん、本当に俺でいいのかなって何回か考えたよ。ある日突然、凛が別の人のとこ行っちゃうんじゃないかとかさ。凛がそんなことするはずないのにな」

 

 

 初めて知った。いつもお気楽そうだったけど……そんなふうに思うこともあったんだ。

 

 

「同じだね、私たち」

「うん、同じだ」

 

 

 顔を見合わせて静かに笑い合う。

 

 そっか、私たち2人して同じ気持ちを抱えてたんだ。心のどこかでは不安だったんだ。

 

 

 

「だからさ、もう一回ここで気持ちを確認し合わない?」

「えっ……い、嫌だよ恥ずかしいし…」

「ははっ、でも……こういうのは偶には口に出して確認するのが大切だって前にどっかで見たよ? それに……」

「それに?」

 

 

「俺が、安心したいんだ。ダメかな」

「……ふふっ、私も安心したい」

 

 

 お互いの肩を抱き合い、目を見つめ合う。

 

 ……なんか、結婚式の時を思い出すな。ふふっ。

 

 

「じゃあ、言うよ?」

「ん」

 

 

「俺が好きなのは凛だけだよ。絶対他の人に靡いたりなんかしない……愛してるよ」

「私も、アンタのことが好きだよ。他の男なんか全然興味無い……愛してる」

「あはは……照れるな」

「うっさい、アンタがやろうって言ったんでしょ」

 

 

 でも、やっぱり言葉にしてもらうと嬉しいな。 ふふっ、愛してる……か。

 

 

「どう?安心しましたか? 旦那様」フフッ

「うん、安心した。凛の愛がひしひしと伝わってきたよ」

「ばーか」

 

 

 気がつけばさっきまでの不安感や胸のザワつきは何処かへと消え失せていた。我ながら単純だとは思うけど、言葉にしてもらって安心したのかな。

 

 でも、まだ足りない。

 

 

 

「ねぇ、ちょっと屈んでよ」

「なんで?」

「いいから」

「これでいい?」

 

 

 素直に言うことを聞いて屈むのが少しだけ可愛らしい。本人に言ったら怒るかもしれないけど、なんか犬みたいで。

 そして私は彼のシャツを少しだけはだけさせて、無防備に晒された首筋に……

 

 

 歯を突き立てた。

 

 

 

「い゛っっ!?」

「あむ……んぐ」

「ちょっ、凛!? 凛さん!? いだっ! いだだだだっ!」

「……ぷはぁ」

 

 

 口を離して彼の首筋を見ると、目論み通り立派な歯型が残っていた。……でもちょっとやりすぎたかもしれない。

 

 

「な、なんだったの?」

「シルシだよ」

「え?」

「アンタが私のだっていうシルシ。ふふっ」

「……そんな犬みたいな」

 

 

 なんとか視線をズラして歯形を確認しようと悪戦苦闘する姿が、なんだか子どもみたいでクスクス笑ってしまう。

 

 

「そんなこと言ってちょっと興奮してたりして……アンタそっちの気あるもんね」

「だ、誰がMじゃい!!」

「ふふっ、冗談だから怒んないでよ」

「よーし決めた。そんなら俺も凛が俺のだっていうシルシつけるかんなー」

「ふーん、どうやって?」

 

 

「歯形には……歯形返しじゃい!」

 

 

 そう言って私めがけて飛び掛かってくる。その後はもう、じゃれあいという名の取っ組み合いの始まりだ。

 

 

「ちょっ、嫌だって! 他の人に見られたら恥ずかしいじゃん!」

「俺だってこんな目立つ歯形つけられたら明日からお客さんに丸見えだっつーの!」

「わ、わかった! 謝るから! ちょっと強くやりすぎたって! だから離し……くふっ! こ、こらっ! くすぐりはズルいって!」

 

 

「ほーれほれ、くすぐられたくなかったら早いとこ首を差し出せい!」

「あはっ、あはははっ! ちょ、そこっ、やめ……てっ! く、くふっ……こ、このっ!」

「あだっっ!! ま、また噛んだな!? 歯形2個目だぞっ!?」

「あはははっ!」

 

 

 あーおっかしい……私ってば、何をウジウジと不安がってたんだろ。

 

 この人となら、きっといつまでも2人で一緒にやっていける。 そう、ずっと一緒にね……

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

ー後日ー

 

 

 

「ねぇ……コレはどういうこと?」ゴゴゴゴ

「り、凛!? い、いやぁ俺にも何がなんだかさっぱり……」

 

 

「あ、あのぉ〜 店主さん……そのぉ、今度お食事にでもぉ……」モジモジ

 

 

 翌日、店を開けてしばらくすると昨日の女がやってきて、またしても私の旦那に対してアピールを始めた。

 

 

「ちょっとどういうこと!? アンタ、ウチのには興味無いって!」

「で、ですけど……それは昨日までの私でぇ〜、今日からの私は復讐心を捨てて新しい恋に生きるんです〜!」

「はぁ……」

 

 

 嫌な予感が当たった。 この女……やっぱり昨日のアレで本気に……

 

 

「店主さん!店主さん! このお花、私に似合いますかね?」

「え、えーっと……あはは、困ったな」

 

 

「帰れ〜〜っ!!!」

 

 

 この後、私のうなじにくっきりと浮かぶ歯形を見せつけたら諦めて帰っていった。めでたし、めでたし。

 

 

 





 そろそろまた凛とか夕美ちゃんみたいな誰か√編を書きたいような気持ちが出てきました。
 ただ気持ちがあるだけで全然内容は考えてないので、またここ最近のように短編を投稿し続けていくかもしれません。要は全くの未定です。

 ただ、もしかしたらやるかもしれないという事だけはお伝えしたかったので書かせていただきました。


 
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