346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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 今回から相葉夕美ちゃん編です。ただ夕美ちゃん編を投稿してる途中で前回までのような番外編を投稿する可能性もあるかもしれません。

 ここまでの話で主に夕美ちゃんが登場するのは5話と24話です。




相葉夕美編
プロデュース


 

 季節は9月、長い長い夏休みが明けてもまだまだ暑さは収まらない。少し走れば汗をかくしセミもまだ少しだけどうるさく鳴いている。

 

 あくまで俺の中のイメージだけど、夏っていうのは6〜8月の間で9〜11月が秋ってイメージなんだよね。でも実際のところは9月ってまだまだ夏と変わらない暑さだ。

 

 

「はぁ〜あっつい……」

 

 

 額にじんわりと広がる汗を手で拭う。ジリジリと照りつける太陽の光に鬱陶しさを覚えながら街を歩く。

 

 今日は大学もバイトもない完全にフリーな日だったから家でゆっくりしていたんだけれど、流石にずっと家にいるのも飽きてきて外に出て何かないか探していたんだよね。

 でもなんの目的もなく歩いてるだけじゃ面白いものなんて見つからないし、この暑さも鬱陶しいしそろそろ家に帰ろうかな……

 

 

「ん? あれって公園か…?」

 

 

 今来た道を戻って家に帰ろうとしたその時、チラリと視線を横に移すと森に囲まれた公園があることに気がついた。

 

 丁度いいや。こんな暑い日の下を歩いて帰るよりあっちの日陰を歩いた方が絶対にマシだ。

 

 そうして俺は日陰に吸い込まれるようにして公園の中に入っていった。

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

「ふぅ……さっきよりマシだけど、やっぱりそれでも暑いな」

 

 

 大きな木が作り出す日陰の下を歩き続ける。

さっきから疲れ果てたようにゆっくりと足を動かす俺の横を、公園で遊ぶ子どもたちが元気に走って抜かしていく。

 

 こんな暑い日にあんな走って疲れないのかな……? やっぱり子どもの体力はすごいなぁ。

 

 

 そんなことを考えながら歩き続けていると、いつの間にか木に囲まれた道の終わりが見えてきた。また鬱陶しい日差しを浴びることになるのかと嫌気が差すが、これはもう仕方のないことだと割り切って進む。

 

 そして森のような道を抜けるとジリジリした日差しが俺の体に襲い掛かるが、そんなことが気にならないほど美しい光景が視界に映り込んできた。

 

 

「おぉ〜。綺麗な花畑だな」

 

 

 木で覆われた道を抜けた先には、大きな広場があっていくつもの花壇が広がっている。そしてそこには様々な色や形の綺麗な花がいくつも咲いていた。

 

 

「へぇ〜、こんな綺麗な場所があったんだなぁ……」

 

 

 俺は花壇に咲いている花を眺めながらゆっくりと歩く。

 

 別に俺は特別花に詳しいわけとかじゃないけど、この花たちがよく手入れされているのはひと目見ればわかる。でもこの量の花たちをお世話するのはかなり大変そうだな……

 

 

 

「ふんふーん♪ ほーらお水だよ〜」

「ん?」

 

 

 すると広場の中で花壇に咲く花へと話しかけている人を見つけた。その人はニコニコと楽しそうに鼻唄を口ずさみながら、手に持ったホースから出る水を花へと浴びせている。

 

 その人物の後ろ姿と声が俺に、俺は心当たりがあった。

 

 

「あれ、相葉さん…?」

「えっ?」クルッ

 

 

 後ろから声をかけるとその人はクルッと振り返って俺に顔を見せる。そして俺の予想通りその人は相葉さんだった。

 

 相葉さん、本名相葉夕美さんは俺のバイトしている346プロに所属するアイドルであり、俺の通う大学の同級生でもある。

 

 

 そんな相葉さんは声をかけてきた相手が知り合いの俺であることに気がつくと、ニコリと微笑んで挨拶をしてくれる。

 

 

「あっ! 白石くん!おはよー」クルッ

「ちょっ! 相葉さっ…!」

「え?……あっ!」

 

 

 顔だけ後ろに向けていた相葉さんは、クルリと体全体を方向転換して俺の方へと向き直る。すると当然ながら相葉さんが手に持っていたホースも俺の方を向くわけで……

 

 

 ブシャ----!!!

 

 

「ぶふぉっ…!?」

「わーっ! ご、ごめん白石くんーっ!」

 

 

 ホースから勢いよく出る水が俺の全身へと浴びせられ、さっきまで暑かった体が一瞬で冷やされたのだった……

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 

「ご、ごめんね白石くん……」

「気にしなくていいよ。ほら、今日すごい暑いからむしろ気持ち良いくらいだから」

「で、でも服もビチョビチョで……」

「こんな暑いんだからすぐ乾くよ」

 

 

 全身水まみれの俺と相葉さんは、広場に置いてあったベンチ並んでに座っている。

 

 水が気持ち良かったのは本当だから俺は全然気にしてないのに、相葉さんはずっと謝りながら持っていたハンカチを俺の頭に当ててくれている。

 

 

「相葉さん、本当にもう大丈夫だからさ」

「ダメだよ! ほら、次は服を拭くからね」

「今のダジャレ?」

「……ち、違うもん」

 

 

 相葉さんは口をぎゅっと閉じて顔を真っ赤にさせながら俺の背中にハンカチを当てる。余程恥ずかしかったんだろう。

 

 ……指摘してあげないほうが良かったかな?でも高垣さんのせいで俺のダジャレセンサーが日に日に強化されてるんだよね。あとあの人はダジャレに指摘してあげるとめちゃ喜ぶから、ついついそれがクセになって相葉さんのにも反応しちゃったよ。

 

 

「ふぅ……じゃあ次は体拭くからシャツを脱いでね!」

「はいはい………はぁっ!?」

 

 

 ちょっ! こ、この人何を言い出すんだ!?こんな場所で服なんか脱ぐわけないだろ!?

 

 

「ん? どうかしたの?」

「い、いやいや! 流石にそこまでしなくていいから!」

「でもちゃんと拭かないと風邪引いちゃうよ!」

「いやもうほとんど乾いてるからさ!」

「そんな一目見たら分かるような嘘ついてもダメだよ! ほら早く脱いで!」グッ

 

 

 や、やだっ…… 相葉さんったら大胆っ…!

ってそんなことを言ってる場合じゃない!

 

 相葉さんは俺のシャツをガッチリと掴むと、力を込めてそれを脱がそうとしてくる。俺は当然それに対して抵抗するが、なかなか相葉さんは諦めてくれず膠着状態が続く。

 

 

「男の子でしょ…! 照れてないで早く脱ぎなさいっ…!」グググ

「いや男とか女とか関係なく外で脱ぐのなんて恥ずかしい行為だから!」グググ

「男の子はプールで上半身裸になるでしょ!」

「それはそうだけど…! ぬ、ぬぉ〜っ!

服が破ける〜〜っ!!」

 

 

 ま、まずい……! このままだと服が避けて家まで上裸で帰る羽目になってしまう…!

 全身びしょびしょ人間か上半身露出男なら明らかに前者の方がマシだ…!

 

 

「わ、わかった! わかったからとりあえず手を離そうか!」

「ほ、本当?」

「本当だってば…!」

「……わ、わかった」パッ

 

 

 そう言うと相葉さんはやっと俺のシャツから手を離した。そして「さぁ約束通り早く脱げ」と視線で訴えかけている。

 

 

「さぁ白石くん。早く脱いでね」

「わ、分かってるってば」

 

 

 そう言って俺は自分の腰に付いているベルトへと手をかけて、わざとらしくカチャカチャと音を立てる。

 

 

「ちょ、ちょっ…!? 何してるの!?」

「だって相葉さんが脱げって言ったんじゃないか」ニヤリ

「そ、そっちじゃなくて上に決まってるでしょっ!!」バシッ!

「ふごっ…!」

 

 

 相葉さんは顔を真っ赤にして俺から目を逸らす。そんな姿を見てしてやったりな表情を浮かべていると、背中にかなり強めの平手が飛んできた。

 予想以上の痛みに俺はその場で体をくの字に曲げて背中をさする。

 

 

「ちょ、ちょっとしたジョークのつもりだったんだけど……っ」プルプル

「じょ、ジョークになってないよ! バカ!エッチ!変態!スケベ! 童貞! 」

「そ、そこまで言う…!? ていうか今アイドルが言っちゃいけないような言葉混じってなかった!?」

 

 

 相葉さんは俺を罵倒してプイッとそっぽを向いてしまう。軽いジョークのつもりだったけどちょっとやりすぎてしまったようだ。

 

 

「ご、ごめんって。ちょっと悪質だったね」

「……もぅ」

「だから許してくれないかな…?」

「……うん」コクッ

 

 

 相葉さんは俺の方に向き直ると、まだ少し頬は膨れているけれど首を縦に振ってお許しの意を示してくれた。

 

 ほっ……なんとか許してもらえたぞ。

 

 

「で、どうしよっか?」

「何が?」

「いや……今から脱ぐ?」

「……も、もういいっ」プイッ

「あ、あはは」

 

 

 またしても相葉さんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。それに対して俺は苦笑いを浮かべる。

 

 とまぁ……そんなこんなで、俺が公園の中で上裸になって相葉さんに体を拭かせるという羞恥イベントは回避することができたのだった。

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 

 あれから数十分後、すっかり機嫌の直った相葉さんは花壇に咲く花への水やりを再開していた。俺はその横に立って作業をぼーっと見つめている。

 

 

「ここのお花さんたちはね? 私がボランティアでお世話させてもらってるんだ〜」

「えっ、そうなの?」

「うん!」

 

 

 なんとここに咲いてるとてつもない量の花たちは相葉さんが世話をしていたらしい。こんなに沢山あるのにすごいなと素直に感心した。

 

 

「白石くんもお水あげてみる?」

「えっ、でも俺ガーデニングの知識とか何にもないけど……」

「お水あげるだけだから平気だよっ! ほらほら!」ガシッ

「お、おぉ……」

 

 

 相葉さんは自然な流れで俺の手を握ってホースを渡してくる。少し触れただけなのに動揺していることを悟られたくなくて、俺は相葉さんから顔を隠すように花に水を浴びせる。

 

 

「あ、そっちはさっきあげたから別のとこにあげてくれる?」ズイッ

「うぉっ……わ、わかったよ」

 

 

 しゃがみ込んで水を浴びせる俺の体に、相葉さんはずいっと体を寄せてくる。少しビックリして声が出てしまったけど、相葉さんは花に夢中で俺が声を出したことには気づいていない。

 

 

「ふふっ……元気に育つんだぞ〜」

 

 

 俺と同じようにしゃがみ込んでいる相葉さんの横顔をチラリと盗み見る。

 目を細めて花のことを嬉しそうに見つめながら、自分の顔にかかった髪の毛を耳にかける仕草にドキッとする。

 

 さらに近くにいる相葉さんの匂いなのか花の匂いなのか分からないが、さっきからずっと甘い香りが鼻腔をくすぐっていて心臓はバクバクしっぱなしだ。

 

 

「ん? どうかしたの?」

「あっ……い、いやっ! 今そっちの方に蜂が飛んでたからさ!」

「えっ、本当〜?」キョロキョロ

 

 

 相葉さんの顔を見ていたことがバレてしまい咄嗟に嘘をつく。相葉さんがキョロキョロと蜂を探している間に、俺は深呼吸をして精神を落ち着かせる。

 

 

「あっ…!」

「どうかした?」

「ほら見て見て! 向こうにあるベンチ」

「ん?」

 

 

 相葉さんの指差す方へと視線を向けると、そこにあるベンチには学ランとセーラー服を着た男女が仲睦まじく手を繋いで座っていた。

 

 

「中学生カップルかな〜? 初々しくて可愛いね〜!」

「ちゅ、中学生ですとっ!?」

 

 

 ちゅ、中学生なのにもう彼女がいるのか!?なんて生意気な……! 俺の灰色の青春時代とはまるで真逆じゃないか!

 

 

「ぐ、ぐぬぬ……っ」

「はぁ……こーらっ」コツン

「ぐふっ」

「中学生に嫉妬しないの。もぅ」

 

 

 相葉さんが呆れたように小さく息を吐いて俺の頭を小突く。でも羨ましいものは羨ましいのだから仕方がない。

 

 

「あっ! あっちにも…!」

「なにっ!」

「ほら、向こうの方に……!」

 

 

 今度は大人のカップルだろうか、明らかに俺たちよりは年上の男女が手を繋いで公園の中を歩いている。

 

 

「み、見せつけやがって……ぐぬぬっ!」

「いや、私たちが勝手に盗み見てるだけだからね?」

「というかここカップル多くない?」

「そりゃ、お花畑ってデートとかするのに定番のスポットじゃない?」

 

 

 そ、そうだったのか……これは覚えておこう。いつか俺に彼女ができた時に使えるかもしれない。

 

 

「白石くんってさ?」

「ん?」

「やっぱり彼女とか欲しいの?」

「……欲しくないと言えば嘘になる」

「つまりは?」

「めっちゃ欲しい」

 

 

 そうさ、俺だって彼女欲しいよ! ていうか彼女が欲しくないっていう男の方が少ないと思うけどね!

 

 

「ふーん……そうなんだ」

「相葉さん? どうかしたの?」

 

 

 相葉さんはそう言うと、目を閉じて自分の顎に手を置き何かを考え込んでいる。

 しばらくそんな様子の相葉さんを眺めていると、急に目を開いた相葉さんがビシっと俺の方へと指を差して言葉を発した。

 

 

「じゃあ私が協力してあげるよっ!」

「きょ、協力って……?」

 

 

「私が白石くんのことをプロデュースしてあげるってこと!」

「ぷ、プロデュースぅ!?」

 

 

 相葉さんは見事なドヤ顔でそう言った。

 

 

「……つまり、どういうこと?」

「だから、白石くんが彼女ができるようなカッコいい男の子になるためのアドバイスを私がしてあげる!」

「お、おぉ……」

 

 

 つ、つまり……俺に色々とアドバイスをしてくれるってことなのかな……?

 

 

「いまいちピンときてない感じだね……」ジト-

「だ、だってさ……ちょっと急すぎて」

「白石くん、私現役の女子大生でアイドルだよ?」

「えっ? あ、あぁ……うん、そうだね」

「そんな私が! 女の子の視点から見た視点でアドバイスをしてあげるって事だよ! これってもう勝ったも同然なんだよ!」

「お、おぉ……そ、そうなのかな……?」

 

 

 相葉さんは自信満々にドヤ顔をキメて自分の胸を叩いた。

 

 まぁ確かに、女の子からの視点とかは俺じゃどんなに頑張っても分からないことだけどさ。

 

 

「とにかく! 今日から私が白石くんの師匠だからね!」

「し、師匠!?」

「うん! この恋愛マスターの夕美ちゃんに任せなさい!」

 

 

 そう言って相葉さんはとても楽しそうに笑っている。

 

 ……もしかしてこれ、相葉さん自分が楽しんでるだけじゃないかな…?

 

 

「恋愛マスターって言うくらいだし、相葉さんはそういう経験が豊富なの?」

「………」

「相葉さん?」

「と、とにかくっ! 今後恋愛方面の相談事があったら私に相談すること! わかった!?」

「りょ、了解であります…!」

 

 

 その相葉さんが出すあまりの迫力に気圧されて、俺は思わず敬礼を決めてしまった。

 

 急な決定でいまいち自分でもよく分かっていないがとにかく、相葉さんが俺の彼女作りに協力してくれることになったということらしい。

 

 まぁ……相葉さん自らがすすんでそう言ってくれているんだから、ありがたく協力してもらうことにするか。

 

 

「じゃあ早速質問よろしいでしょうか、相葉先生!」

「うん! 何でも聞いてね!」

「どうすれば彼女ができますか!」

「えっ…?それは……えーっと」

 

 

 早速恋愛マスターに質問を投げかけると、マスターは目を丸くして焦ったように目をぐるぐると動かしている。

 

 

「そ、そういう抽象的な質問には答えられませんっ!」

「え、えぇ……」

「もっと具体的な質問にしてね!」

「……じゃ、じゃあどうすれば女の子にモテるようになりますか!」

「うんうん! それはね〜……」

 

 

 ………

 

 

「あ、相葉さん……?」

「……ちょ、ちょっと今度会う時までに調べてくるね!」

「えぇ……」

「こ、こらっ! 師匠に向かってそんな顔しないの!」

 

 

 相葉さんは顔を真っ赤にしながら、腰に手を当てて俺のことを叱る。

 

 

 だ、大丈夫か……? これ……

 

 

 こうして俺と相葉さんの間に奇妙な関係性が出来上がったのだった。

 

 

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