346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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家庭訪問

 

 入院をしてから3日目の朝、俺は堂々と病院の正面玄関から外へと飛び出した。

 

 くぅ〜っ! やっぱりシャバの空気は美味いぜ!

 

 

「あっ、白石く〜んっ!」

「あれ、相葉さん?」

 

 

 病院の正面玄関から外に出ると、相葉さんがブンブンと手を振りながら俺の方へと駆け寄ってきた。まさか相葉さんがいるなんて思ってなかった俺は目を丸くして驚く。

 

 

「退院おめでとうっ!」

「ありがとう。でも入院って言ったってほんの数日だけだったけどね」

「それでもだよっ! とにかくおめでたいからいいの!」ニコッ

 

 

 

 俺の人生初の入院生活はあっという間に終了した。今後は日常生活を送りながらの自然治癒と定期的な外来の通院によるリハビリで治療を行っていくらしい。

 

 骨が完全にくっつくのはまだまだ先で数ヶ月かかるらしいけど、リハビリの一環として1〜2週間後には手を使った軽作業を開始してもいいって先生は言っていた。

 だから運転とかは出来ないけど簡単な事務作業とか掃除くらいならいいらしいし、思ってたよりも早くバイトにも復帰できそうだ。

 

 そして骨がくっ付いたら、手術で入れた俺の手首の中のプレートを抜去して晴れて完治になる。

 

 

「退院はしたけど、何か困ったことがあったらなんでも私に相談してね!」

「うん、ありがとう。すごく頼もしいよ」

「ふふっ」

 

 

 入院初日、少しだけ相葉さんとハプニングがあったが、その次の日も相葉さんは再びお見舞いにやってきてくれた。

 俺はなんとなく顔を合わせるのが気恥ずかしかったけど、相葉さん側は全くそんな素振りはなくいつも通りだった。

 

 まぁ……あれだ。要するにドキドキしてたのは俺の方だけだったってことで、恋愛マスターで師匠である相葉さんからしたら大したハプニングでも無かったんだろう。

 だから俺もいつまでもあのハプニングを引きずっていないで切り替えていかないとな。

 

 

「この後はどうするの?」

「どうするって……うーん、普通に家に帰るかな?」

「そっか! じゃあ行こっか♪」

「うん、行こう……って、えっ?」

 

 

 相葉さんはくるりと振り返って俺に背中を向ける。

 

 

「い、行くってどこに…?」

「え? 白石くんの家にだけど」

「えぇっ!? な、何で!?」

「だって家に帰るまでに何か危ない事が起こらないとも限らないでしょ? だから私が白石くんを無事に家まで届けるの!」

 

 

 相葉さんはケロッとした表情で俺を家に送り届けると言い出した。流石にそこまでしてもらうのは悪いし……というよりアイドルである相葉さんが家にとかマズいだろう。

 

 

「あ、相葉さん……別にそこまでしなくてもいいんだよ? 俺はお見舞いに来てくれただけで本当に嬉しかったからさ」

「ダメ! これで帰り道にまた白石くんが怪我したら私絶対に後悔するもん」

「そ、そうそう危ない事なんて起こらないよ」

「とにかく行くよ! 家に帰るまでが入院なんだからね!」

「そんな遠足みたいに……」

 

 

 相葉さんはそう言うと1人先にスタスタと歩き出してしまった。

 

 お、押しが強い……というかこういう勢いだけでゴリゴリ押していく感じ、やっぱり相葉さんは割と頭パッションだ。

 

 

「……あれ?」

 

 

 そんな事を考えていると先に歩き出した相葉さんがこっちに戻ってきた。相葉さんは頬を膨らませながら手を振り上げてプンプンと怒っている。

 

 

「って! 私は白石くんのお家の場所知らないんだから、白石くんが着いてきてくれないとどこに行けばいいか分かんないでしょーっ!」

「えぇ……コレで怒られるのは何か理不尽だ」

「と、とにかく早く行くよ!」

「へーい……」

 

 

 まぁ……相葉さん絶対引かないだろうし、しょうがないか。もうちょっと家に近づいたら自然と解散する流れになるだろう。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 

 おいおいおい、まずいぞ……相葉さんが全く帰る気配が無い。

 このまま俺が家の中に入って行ったら、普通に自然な流れで相葉さんも入ってきそうなくらいの勢いだ。

 

 

「あ、あの〜、相葉さん?」

「どうしたの?」

「そ、そろそろ俺の家着いちゃうからさ……

ね? ほら……ねっ?」

「……? あっ!」

 

 

 俺の言いたいことに気づいてくれたかな?

 

 

「心配しないでもちゃんと最後まで送り届けるよ! 何かあったら大変だしね!」パァッ

 

 

 ち、違う〜〜〜!!! そんな心配をしているんじゃないよ!

 

 花が咲くようないい笑顔を見せながら、俺の思っていた事とは違う発見をする相葉さん。

どうやらもっと直接的に言わなきゃいけないらしい。

 

 

「相葉さん、もうここまでで大丈夫だよ」

「えっ、どうして?」

「いやほら……一人暮らしの男の家まで着いてくるのは色々とマズいと思うんだよね。アイドル的にも、1人の女の子としてもさ」

「それに関しては……私って実は変装できるから安心して! ほら!」

 

 

 そう言って相葉さんはカバンから取り出した派手派手のサングラスを装着する。

 

 いや……変装できてないしめちゃくちゃ相葉さんだけどね。相葉さんって意外と天然っぽいとこがあるのかな?

 

 

「これで周りの目は心配無し!」フンス!

「う、うーん……そうかなぁ」

「それで? 白石くんの家まではあとどのくらいなの?」

「……」

「白石くん?」

 

 

 

「じ、実は……もう着いてるというか」

「えっ!?」

「ほら、あそこに見えてる……」

「えーっ! びっくりだよ〜!」

 

 

 俺が指を差す先には既にマイホームが見えている。だからこそ必死に相葉さんに帰るよう促しているのだが、相葉さんは帰るどころか俺の家へと向かって歩き始めた。

 

 

「じゃあ早速レッツゴーだね!」

「ちょっ! ちょちょちょっ! 待った!!」

「わっ、びっりした……どうしたの?」

「あ、相葉さん! まさか家の中に来るつもり!?」

「うん」

 

 

 入るに決まってるでしょ? みたいな目をして相葉さんは返事をした。何をそんなに慌てているのか分からないみたいな目を向けられても困る。

 

 

「ダメなの?」

「ダメに決まってるでしょ!」

「え〜? どうして?」

「ど、どうしてって……そりゃあ」

 

 

 え……だ、ダメだよな? 普通ダメだよね?

俺がおかしいのか……?

 

 

「相葉さん、アイドル! 俺、一般人!」

「何でカタコト? それに私は変装してるから大丈夫だよ?」

「うっ……申し訳ないけど、相葉さんのソレは変装になってないような気がするんだよ……」

「あははっ! うっそだ〜♪ だって私昨日のうちに鏡で確認したもん。どう見ても私には見えなかったよ?」

 

 

 相葉さんと俺には何か違うモノでも見えているんだろうか? こんなのどこからどう見ても相葉夕美そのものでしょ。

 

 

「お、俺は一人暮らしの男で……その家に女の子である相葉さんがホイホイ上がるのは良くないと思うんだ…!」

 

 

 

「……白石くんは、私にヘンなこと……するの?」ジッ

「す、すすすする訳ないだろぉ!?」ドキッ

「じゃ、何の問題も無しだねっ!」ニコッ

「あっ……ちょっ!」

 

 

 くっ……い、一瞬だけ色っぽい雰囲気を出した相葉さんを見て思わずドキッとしてしまった。

 

 相葉さんはスッと表情を元に戻すと、狙い通りだとでも言いたげな笑顔を浮かべ、スタスタと俺の家の方へと歩いて行ってしまった。

 どうやら俺はまんまんと相葉さんの思惑通りに動かされてしまったらしい。

 

 

 

「ここだよね? 白石くんの部屋って何階?」

「2階だけど……って! ちょっとちょっと!」

 

 

 相葉さんは腰の後ろで手を組みながら、ウキウキと楽しげな足取りで俺の住む小さなマンションの中に入って行った。その後ろから俺も慌てて後を追いかける。

 

 

「あ、相葉さんマジで来るつもりなの…?」

「うん! ちひろさんに、白石くんの家にお見舞いに行ってもいいですか? って聞いたら別にいいって言ってたし」

「えぇ……」

「それにほら、こんなとこで揉めてる方が人目につくと思うよ?」

「うっ……そ、それは確かに」

「ここにずっと留まってる方がマズいと思うんだけどな〜?」ニヤニヤ

「うぅっ……」

 

 

 相葉さんはニヤニヤと微笑みながら俺のことを見つめている。一見可愛らしい表情に見えるが、今の俺からすればそれは小悪魔のような笑みにしか見えなかった。

 

 こ、こんなのほとんど脅迫だ……

 

 

「さ〜て、白石くんの部屋はどこかな〜♪」

「ぐぅっ……!」

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

「へぇ〜、ちゃんと片付いてて綺麗だね〜!」

「はぁ……」

 

 

 け、結局入れてしまった。

 

 俺の部屋に入った相葉さんは、まるで玩具屋さんを訪れた子どものように部屋の中をキョロキョロと見回している。

 

 

「あっ! ゲームとか漫画がある〜♪」

 

 

 楽しそうに笑う相葉さんとは対照的に、俺は笑顔を浮かべることもなく玄関で下を向いたまま心臓をバクバクと鳴らしていた。

 

 

 

 お、俺の部屋に……女子がいるっ……!!

 

 

 

 スキャンダルに対する恐怖や、相葉さんにここまでお世話してもらって申し訳ないという罪悪感など、さっきまで色々な感情が俺の中で渦巻いていたけど今はそんなモノ吹き飛んでしまった。

 

 生まれて初めて女の子が俺の部屋に来ている。その事実がどうしようもなく俺の胸に緊張感や期待感などの様々な感情を与える。

 

 女の子が自分の部屋に来てキョドっている童貞がここに1人誕生してしまったというのが現状だ。

 

 

「あれ、白石くん? そんなとこに立ってないでこっち来なよ〜♪」

「そ、そっち行っていいんですかい!?」

「何でそんな変な喋り方なの…?」

 

 

 俺の手足はまるでロボットのようにぎこちない動きを披露する。右足と右腕、左足と左腕を同時に揺らして部屋の中に進む。

 

 くぅ……ま、マジで俺の部屋に相葉さんがいるぞ…!

 

 

「ふぅ……なんか動いてたらちょっと暑くなってきちゃった」

「あ、ごめん。冷房入れる?」

「ううん、そこまでじゃないからお気遣いなく!一枚脱いじゃえば……よいしょっ」

 

 

 相葉さんはそう言うと羽織っていた上着を一枚脱いで薄着になった。

 たった一枚上着を脱いだだけなのに、それを見た俺の胸は何故かバクバクと音を鳴らす。

 

 な、何を意識してるんだ俺は。 別に何もないだろう……暑いから服を脱いだ。ただそれだけのことじゃないか。

 

 

「さてと、じゃあお掃除しよっか!」

「え、掃除?」

「うん。だって入院してたから2.3日家に帰ってないでしょ? ちょっと埃とかも溜まってると思うし」

「そ、それはそうだけど……それなら俺が後でやるから大丈夫だよ! わざわざ相葉さんにさせるようなことじゃ……」

「ふふっ、そんな腕で無茶しちゃダメだよ?

安心して! 私はそのために白石くんのお家までついてきたんだからっ!」

 

 

 可愛らしいガッツポーズを作った相葉さんは、意気揚々とゴミ袋や掃除機の準備をする。

 

 

「掃除機使っちゃっていいよね?」

「あ、うん。それは大丈夫だけど……やっぱり俺も手伝うよ」

「だーめっ! 白石くんはそこに座ってて?」

「うっ……」

 

 

 そう言って相葉さんはテキパキとした動きで掃除を開始した。俺はといえばその様子を何をするでもなくただジーッと見つめている。

 

 や、やっぱり自分の家なのに、人にだけ働かせてこっちは何もしないのは居心地悪いな……

 よしっ、やっぱり俺も何か手伝おう。別に全く動けない訳じゃないんだし俺にも何かしら出来ることはあるはずだ。

 

 

「よいしょっ……」

「あーっ! 白石くん、ジーッとしててって言ったのに〜!」

「やっぱ相葉さんだけに掃除させるのは申し訳なくてさ。 ね? 一緒やろうよ」

「……もう、仕方ないなぁ」

 

 

 相葉さんは少しだけ納得がいってないように頬を膨らませているが、俺はとりあえず小さな簡易タンスを開けて整理を始める。

 

 

 ブ-! ブ-! ブ-!

 

 

「あれ……母さんだ」

「どうしたの?」

「ごめん、ちょっと電話が……俺向こうの部屋に言ってるから!」

 

 

 ったく、せっかく掃除を始めたところだったのに。一体なんの用事だ?

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

「よしっ! とりあえず、ざっとだけど掃除機はかけ終わったかな?」

 

 

 私はグォングォンと音を出す掃除機の電源を切って額に浮かび上がった汗を手で拭う。

 

 

「………」キョロキョロ

 

 

 白石くんのいなくなったリビングの中を見回す。

 ごちゃごちゃと物が多くて色のついた家具が多い私の部屋とはまるで違う。部屋の中は白や黒を基調としたシンプルな配色で、家具もごちゃごちゃとしていなくて最低限の物しかない。

 

 

 私、本当に男の子の部屋に来ちゃったんだ。

 

 

 その事実を意識すると、ほんの少しだけ顔に熱が篭り胸がトクンと鳴るのを感じた。白石くんの家に来てからずっと少しだけ体が暑いのは、多分だけど外の気温のせいだけじゃないと思う。

 

 

 改めて考えると私結構大胆なことしちゃってるよね?

 気になってる男の子の部屋にいきなり入り込むなんてさ、我ながらびっくりの行動力だよ。

 

 ……大丈夫かな、ガツガツ行きすぎて引かれたりしてないかな?

 

 

「はぁ……」

 

 

 1人残された部屋の中に深いため息の音が響いた。

 

 部屋に来てドキドキしてる。骨折した彼のために何かしてあげたい。相手にどう思われてるのかすごく気になる……

 

 私って本当に、白石くんのこと……

 

 

 

 

「好き、なのかな……?」ボソッ

 

 

「何が?」

「えっ……」

 

 

 突然声がして驚いた私が後ろに振り返ると、そこにはきょとんとした顔で私のことを見ている白石くんがいた。

 

 も、もしかして今の聞かれて……!?

 

 

「し、しししし白石くん!? 電話はどうしたの!?」

「いや、まだ電話の途中なんだけどさ。

あ、電話って母さんからだったんだけど、ちょっとこっちの部屋にある物を取りに来てね」

「へ、へぇ〜!」

 

 

 私が目をキョロキョロと動かしながら大きな声を出して誤魔化していると、白石くんは引き出しの中から何やら通帳のような物を取り出していた。

 

 

「じゃあ俺また戻るから」

「う、うん! いってらっしゃ〜い!」

 

 

 そう言って白石くんは別の部屋へと向かって歩き出す。何とか誤魔化せたようだと私が胸を撫で下ろしていると、白石くんはクルリと振り返って私に問いかけてきた。

 

 

「そういえば相葉さん、さっき好きとか何とか言ってたけど何の話だったの?」

「うぇっ……………そ、掃除のことだよ…?

やっぱりお掃除って楽しくて私好きだな〜って!」

「へぇ〜、相葉さん偉いなぁ……俺なんて掃除は面倒くさいから全然好きじゃないや」

「あ、あはは……こまめに掃除しなきゃダメだよ〜?」

「いや〜、耳が痛いです」

 

 

 白石くんはそう言って苦笑いを浮かべると、今度こそ別の部屋の中へと入って行った。

 

 

 はぁ〜! あ、焦ったぁ〜………

 

 白石くんったら急に現れるんだもん…! 心臓止まっちゃうかと思ったよ……

 

 

「ふぅ……あれ?」

 

 

 チラリと視線を横に移すと、さっきまで白石くんが整理していた簡易タンスの棚が開きっぱなしなのが視界に入った。

 

 

「もぅ、ちゃんと閉めないとダメだよ」

 

 

 簡易タンスに近づいていき、開いた棚を閉めようと手を伸ばすと、何やら布のような物が一つだけピョコンと飛び出していた。

 

 

「なんだろう、これ?」

 

 

 私はぐちゃぐちゃになっているソレを畳み直して棚の中に仕舞おうと思い、手に取って広げた。

 

 

「えっ……こ、これって…!」

 

 

 手に取ったソレを広げてみて私は目を丸くした。

 

 こ、ここここれって! し、ししし白石くんの……ぱ、パンツ!?!?

 

 

 

「ごめん相葉さん、電話終わった……よ?」

「し、ししし白石くん!?」バッ

 

 

 し、白石くん戻ってきちゃった…!?

こんなとこ見られたらまるで私が下着を漁ってたみたいだよ…!

 

 私はとりあえず手に持ったソレを咄嗟に自分の体の後ろに隠した……

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

「ふぅ……」

 

 

 母さんってば心配しすぎだよな。まぁ心配してくれるのは嬉しいしありがたいけど、ちゃんとお金があるのかも心配してたし。

 346は自給いいからこれでもそこそこお金は貯まりつつあるんだよね。

 

 

「ごめん相葉さん、電話終わった……よ?」

「し、ししし白石くん!?」バッ

「……?」

 

 

 電話を終えてリビングに戻ると何やら相葉さんの様子がおかしい。そういえばさっきもだけど俺のことを見て驚いてるみたいだし、今は顔もすごく真っ赤だ。

 

 ……ていうか今、何か後ろに隠した?

 

 

「……相葉さん、今何か隠した?」ジ-

「うぇっ!? か、カクシテナイヨ-?」

「急にカタコト!? 怪しさマックスだよ!」

 

 

 な、何を見られた…!? いやでもあのタンスの中には見られて困る物なんて無いはずだ。あの中には衣類が入ってるだけだし……女子に見られたくないような物は別の場所にあるから大丈夫なはずだ…!

 

 ……じゃあ相葉さんは何を隠したんだ…?

 

 

「相葉さん、ちょっとバンザイしてみようか?」

「……ど、どうしてかな?」

「いや、特に理由は無いけどさ」ジ-

 

 

 相葉さんは未だ体の後ろに両手を隠している。はっきり言ってめちゃくちゃ怪しい。

 

 

「あーっ! 白石くん! ベランダに変な人がいるよ!」

「えっ!?……って、そんな訳ないでしょ」

「あ、あはは……」パッ

「……今ポケットに何か入れなかった?」

「……イ、イレテナイヨ-?」

「だから怪しいって!」

 

 

 相葉さんは俺から目を逸らして口笛を吹いている。……口笛の音出てないけど。

 

 

「絶対に何かポケットに入れたよね!」

「……しょ、しょうがないなぁ。……はい!」

「は、ハンカチ?」

 

 

 観念したようにスカートのポケットの中に手を突っ込む相葉さん。そしてその中から出てきた手には綺麗に折り畳まれた花柄のハンカチが握られていた。

 

 

「ぽ、ポケットにはこれしか入ってないよ?」

「えっ……で、でも何か隠して…」

「そ、そもそも何も隠してなんかないの!

白石くんが急に戻ってきてビックリしちゃっただけなの!」

「……えぇ」

 

 

 そ、そうなのかなぁ……? でもあの動きは完全に何かを隠したように見えたんだけど……。

 

 

「あ、あーあ〜! 白石くんに疑われてショックだなぁ〜」

「えっ?」

「私は何も隠してないのに疑われて悲しいなぁ〜」

「うっ……」

 

 

 相葉さんはわざとらしく声を出して俺のことをチラチラと見る。

 

 ……さっきの相葉さんの動きは確実に怪しかったけど、もし本人の言う通り冤罪だったらかなり失礼だよな。

 

 

「わ、わかったよ。疑ってごめん。もう疑ってないからさ」

「ほ、本当?」

「本当に」

「じゃ、じゃあ……はいっ! この話はこれでおしまいね!」

 

 

 相葉さんはパンっと手を強く叩いて話題を強制的に終了させる。

 

 

「ふぅ……あ、危なかったぁ…」ボソッ

「え、何か言った?」

「な、なんでもないよ! そ、それより白石くんお腹空かない!?」

「あー、そういえばちょっと空いてきたかも」

「じゃ、じゃあお昼ご飯にしようよ! 」

「うーん、それもそうだね」

 

 

 時計を見て時間を確認すれば既に昼の12時手前だ。言われるまで気づかなかったけど、確かに少しだけ空腹感が出てきた気がする。

 

 

「キッチンにレトルトのカレーと、パックのご飯があるけどそれでいい?」

「うん! 私が用意するね!」

 

 

 元気に返事をした相葉さんは小走りでキッチンへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

「本当は私が何か作ってあげようかと思ってたんだけどな〜」モグモグ

「えっ……て、手料理、ですか?」

「うん、だってその腕じゃ白石くんご飯作るのも大変でしょ?」

「い、いや〜……俺ってあんまり自炊してないから関係ないかな」

「えっ? ダメだよちゃんと栄養取らなきゃ!」

「き、気をつけます……」モグモグ

 

 

 俺と相葉さんはテーブルの前に向き合って座り、レトルトのカレーを口に運びながらも雑談を交わす。

 

 というか俺は相葉さんの手料理を食べそびれてしまったのか……くそっ、冷蔵庫の中身が空じゃなければ…!

 

 

 

「そういえば白石くん、さっき私が何かを隠したんじゃないかって疑ってたけど……何か見られたら困る物でもあるのかな〜?」

「……ソ、ソンナモノナイヨ-」

「あれあれ〜? 今度は白石くんがカタコトだぞ〜?」ニヤニヤ

 

 

 カレーを食べ終わった相葉さんはニヤニヤと小悪魔のような笑み浮かべながら俺のことを見つめてくる。

 

 

「えへへっ、ちょっと探しちゃおっかな〜♪」

「ちょ、相葉さん! マジで何も無いから!」

「男の子はベッドの下に物を隠すっていうのが定番だってよく言うよね〜」ゴソゴソ

「っ……!!」

 

 

 相葉さんは俺に背を向けてそのまま四つん這いになりベッドの下を覗き見る。そうなると自然に俺の方へと尻が突き出される訳で……

 

 

「うーん……何にもないかなぁ〜?」

 

 

 相葉さんがベッドの下へと手を伸ばしてゴソゴソと動く度に、フリフリと揺れる相葉さんのほどよい大きさのお尻がスカート越しにその綺麗な形を主張してくる。

 

 

 け、警戒心ッ…!!

 

 警戒心とか無いのか!?相葉さんには!!

 

 ここは俺の部屋で今この部屋には俺と相葉さんが2人きりだ。もしも俺がその気になれば危ない目に遭うのは相葉さん本人だぞ。

 

 相葉さんはもうちょっと男と2人きりで部屋にいるという現状に対して警戒心を持った方がいいと思う。

 あ、それとも俺なんか男として見られていない可能性もあるか…?

 

 

「うーん……何にもないなぁ〜」

「あっはっは! 俺はそんな安直なとこに隠したりしないよ」

「あ、隠してることは認めたね〜?」ニヤニヤ

「あっ」

「これは大捜索する必要があるね♪」

「あ、相葉さん……そろそろ帰った方がいいんじゃない?」

「ふふっ、まだ帰らないよー♪」

 

 

 相葉さんは四つん這いの体勢から体を起こして座り直す。

 

 

「ふぅ……ちょっと汗かいちゃった」

 

 

 そう言って相葉さんはスカートのポケットからハンカチを取り出して額を拭きだし……

 

 

 ん? あれハンカチか…?

 

 

 え? い、いやいや。 あ、あれってさ……

 

 

 

 

 

 俺のパンツじゃね?

 

 

 

 

「あ、相葉さん……そ、それ……」

「えっ?」

 

 

 俺が恐る恐るソレに向かって指を差すと、相葉さんはソレを顔から離してジッと見つめる。

 はらりと広がったソレはやはりハンカチではなく、どこからどう見ても俺のパンツだった。

 

 

「…………あっ」

 

 

 目を大きく見開き小さな声を出した相葉さんの顔がジワジワと赤く染まっていく。そして10秒もすればゆで蛸のようになってしまった。

 

 

「な、なんで……相葉さんのポケットから俺のパンツが……?」

「ち、ちがっ! こ、これは違うの!」

 

 

 相葉さんは軽くパニックを起こしているようであたふたと大きく手を振り回しているが、彼女よりも俺の方が数倍パニックだ。

 

 何で相葉さんのポケットから俺のパンツが…? だめだ、脳みそフル回転させてもさっぱり分からないぞ。

 

 まさか、相葉さんにはそういう収集癖があるのか…?

 

 

 

「相葉さん」

「し、白石くんっ! これはね! えーっと……その……ね? 別に盗ったとかいう訳じゃなくって!」

「大丈夫、誰にも言わないからさ」ニコッ

 

 

「だ、だから違うのーっ!!! お願いだから弁明の機会を頂戴〜っ!!!!!」

 

 

 

 

 その後相葉さんから事情を説明されて、今回の騒動は棚を開けっぱなしにした俺と、パンツを咄嗟に隠した相葉さんの両方が悪いということで決着した。

 

 

 あー、マジで焦った。

 

 

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