346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
「はい、これ2つね」
「ありがとうございます」
俺は販売スタッフの人からジュースを両手で受け取る。キンキンの容器を握った手のひらが冷たくて気持ちいい。
「はぁ……」
そんな冷えた手のひらとは裏腹に、俺の頭の中はオーバーヒートを起こして今にでも沸騰爆発してしまいそうだ。
『わ、私ね……この前から暇さえあればキミのことずっと考えてるの……』
『白石くん……私……っ!』
さっきの相葉さんの言葉と表情を思い出す。
体をプルプルと小さく揺らして、真っ赤になった顔で緊張したような表情を浮かべて俺のことを真っ直ぐ見つめていた。
……そういえば昔読んだ漫画のヒロインが告白する時ってあんな感じだったな。
「………って! いやいや!」
なにを考えてるんだ俺は! それじゃあまるで相葉さんが俺に告白をしようとしていたみたいじゃないか!!
自惚れるなよ白石幸輝18歳。お前は18年生きてきて女の子に告白されたことなんて一回も無いじゃないか。
それなのにあの相葉さんが、そんな俺に告白だなんて有り得るわけ無いだろ……
「は、ははは……」
なんか言ってて悲しくなってきたぞ。
……でも、もし本当に相葉さんに告白をされたとしたら俺はどうする? いや、こんな妄想をすること自体が相葉さんに失礼だけど……
「って、そんなこと考えてる場合じゃなかった!」
相葉さんのこと待たせっぱなしだ! 早く戻らないと!
俺はジュースを溢さないレベルに気を遣いながら、さっきまでいた場所へと走っていく。
〜〜〜〜
さっきの場所に戻ってきたはいいけど……相葉さんとどんな風に接すればいいんだろう。
さっきのが告白とかそういうのじゃなかったとしても、膝枕してもらったりしてたのは紛れもない事実だし……なんか照れくさいな。
「相葉さん、待たせてごめん………ね?」
あれ、相葉さんいないぞ?
おかしいな、確かにここのベンチだったと思うんだけど……
ベンチの上に相葉さんの姿は見えない。キョロキョロと視線を動かしてみるけど、周辺のどこにも相葉さんはいない。
「……おっかしいなぁ」
「わぁっ!」
「ぎゃ〜〜っっっ!!!」
相葉さんがいないことを不思議がっていたその時、突然背後から耳元で大きな声が響いて肩を強く叩かれる。
「なっ! なんだなんだ!?」
「ふふっ、あはははっ! 白石くんリアクション良すぎるよ〜!」クスクス
後ろを振り向くと、相葉さんがお腹を抱えながら楽しそうに笑っていた。
「あ、相葉さん……びっくりしたぁ」
「えへへっ、ごめんね。 ちょっとびっくりさせようと思って」
「どこに隠れてたの?」
俺がそう尋ねると、相葉さんはベンチの横に置いてある大きなゴミ箱を指差した。
……なるほど、あの後ろに隠れてたのか。
「あっ! それもしかして私に買ってきてくれたの?」
「ん? あ、あぁ……もちろんだよ!」
「えへへっ、ありがと♪」
相葉さんは俺が渡したジュースを美味しそうに飲み始めた。ゴクゴクと勢いよく、いつも通りのニッコリとした笑顔を浮かべながら。
……なんか、相葉さんいつも通りだな。
「はぁ〜っ! 美味しい♪ ねぇねぇ白石くんっ! 次はどこに行こっか?」
「……」
「白石くん?」
「あっ……な、なんでもないよ! ごめんごめん! じゃあ次はあそこなんてどうかな?」
相葉さんはさっきまでの変な雰囲気なんて微塵も感じさせないような振る舞いだ。いつも通りの元気な相葉さん。
……やっぱりさっきのは告白とかそういうんじゃなくて、俺の勘違いだったんだ。
なんか……残念だな。
「ん、残念……?」
「えっ、どうしたの?」
「い、いやなんでもないよ!」
い、いつまでも勘違いを引きずっても仕方がないよな。 せっかく相葉さんと遊びに来てるんだから楽しまないと!
そして、俺と相葉さんは次に乗る乗り物へと向かって歩き出した。
〜〜〜〜
あれから俺たちは時間の許す限り、色々な乗り物に乗って遊園地を満喫した。
俺も途中のハプニングはすっかり忘れて、これまで通り相葉さんと普通に接して………
嘘です。全然普通に話できませんでした。めちゃくちゃ意識してしまいました……
俺はずっとあの時の相葉さんの表情が忘れられずにいた。あの真っ赤に染まり、何かを俺に伝えようとしていたあの顔が忘れられない。
あー……もぅ。 何でこんなに胸がザワザワするんだよ。
「今日は楽しかったね! 白石くん」
「う、うん……そだね」
「……白石くん、もしかして元気無い?」
「えっ? あっ、いやそんなことは」
「ちょっと待ってて!」
そう言って相葉さんはどこかに向かって走り去っていく。
「はぁ……」
あークソっ…! 何をやってるんだ俺は……
ずっと余計なことばっかり考えて、そのせいで相葉さんに余計な気まで遣わせて……
「白石くん、こっち向いて?」
「えっ……相葉さ……んぐっ!」
相葉さんに呼ばれて振り返ると、口の中に何やら甘くてサクサクとした何かを突っ込まれる。
こ、これって……チュロス…?
「どう? 美味しい?」
「んぐっ、ぷはぁ……お、美味しいよ…?」
「えへへっ、よかった♪」
微笑みながら相葉さんもチュロスを齧りだした。 状況がよく理解できていない俺は、間抜けな顔をしながらチュロスを齧る。
「あ、相葉さん……これって」
「ん? そ、それはね……白石くん、なんだかちょっと元気が無いふうに見えたからさ、甘くて美味しいモノでも食べたら元気になるかなって」
「えっ、じゃあ……俺のためにわざわざ」
相葉さん……なんて優しいんだ。
そうだよ、思い返してみれば相葉さんは初めて出会った時からずっと優しいよな……
大学で初めて会った時には、女の子と話し慣れてなくてキョドってる俺に優しく接してくれた。
その後も大学でよく話しかけてきてくれて、カフェでお茶に誘ってくれたり。
俺なんかのために真摯になって恋愛相談に付き合ってくれたり。
怪我した俺に対して、涙を流して心配してくれて……その後はお見舞いにも来てくれて。
そして今日は、こうして俺を遊びに誘ってくれている。
「相葉さんってさ、優しいよね。すごく」
「ふぇっ!? ん、んんっ! ど、どうしたの白石くん急に…!」
「いや、俺ってさ……相葉さんには、すごいよくしてもらってるなって思って」
「そ、そんなことないよ……! て、ていうか急にどうしたの!? 急に褒められると……は、恥ずかしいよぅ」
そう言うと相葉さんの顔はみるみるうちに赤く染まっていく。相葉さんはそれが恥ずかしいのか、自分の手で顔を覆って俺から隠そうとする。
そんな相葉さんがすごく可愛くて、俺は思わず口元が緩んだ。
「も、もぉ〜……ふふっ」
「あれ、どうして笑ってるの?」
「ん〜? 白石くんが笑ってくれてよかったな〜って」ニコッ
「っ……!」ドキッ
俺を見上げて笑う相葉さんの顔を見た瞬間、心臓が飛び跳ねるようにドクンと揺れた。
あっ、俺ってもしかして相葉さんのこと……
「ありがとう、相葉さん。何か元気湧いてきたよ」
「えへへっ、よかった」
心の中のザワザワとしたモノが消えていく。
自分の気持ちを自覚した途端、相葉さんを前にしているだけなのに、いつもの10倍は胸の鼓動が強く速くなったような気がする。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか……」
「あ、うん……そうだね」
「私その前にちょっとお手洗い行ってくるね!」
そう言って相葉さんは走っていく。
「はぁ……もう終わりかぁ」
1人残された俺はポツリと呟く。
なんて言えばいいのか……とにかく寂しい。もっと相葉さんと一緒にいたかった。
また一緒に遊びに来れるだろうか。次は俺の方から誘ってもいいのかな。
「なんか今日、ずっと相葉さんのこと考えてるな。ははっ」
そう言って俺は相葉さんに貰ったチュロスに齧りついた。
その後も相葉さんの帰りを待ちながらポリポリとチュロスを齧り続けるが、相葉さんは中々戻ってくることはなく俺はチュロスを食べきってしまった。
「……相葉さん、遅いな」
お腹痛いのかな? まぁそれなら別に良いんだけどさ……いや良くはないか。
「……よしっ、ちょっと行くか」
俺はなんだか無性に胸騒ぎがして、居ても立ってもいられずその場から歩き出した。
〜〜〜〜
お手洗いを済ませた私はトイレから出て、すぐに白石くんのいる場所へ戻ろうと早足で歩き出す。
「……今日は楽しかったなぁ」
でも、もう帰らなくちゃいけないんだよね。
もっと白石くんと一緒にいたいなぁ……今日は遊園地だったけど、もっとそれ以外の場所にも白石くんと遊びに行ってみたい……
次も誘っていいのかな…? 断られたりしないかな…?
「はぁ……私って肝心な所で臆病だなぁ」
今日だって、ちょっといい雰囲気になって……ちょっとハプニングが起きちゃったから最後までは言えなかったけど。
あの後、白石くんが戻ってきて告白の続きをすることだってできたのに、私は無かったことにしていつも通りの感じで白石くんに接した。
「ほんと、臆病だなぁ」
本当はすぐにでも白石くんに好きって伝えたい。でもできない……だってもし断られたりしたらって考えると怖いから。
さっきのは雰囲気と勢いと流れに任せて言いそうになっちゃったけどさ……
白石くんは私のことどう思ってくれてるんだろう。 一緒に遊園地に来てくれたってことは嫌われてはない……と思うんだけど。
「……ふふっ」
あーあ、何か私……最近は本当にずっと白石くんのことばっか考えてるなぁ。
そんな自分がおかしくて思わず笑みが溢れた。
「……本当に、好きなんだなぁ」
最初大学で会った時はこんなことになるなんて全然思ってなかったのになぁ。 優しそうな人だなぁ〜って思ったくらい。
でもそんな彼だから話しかけやすくて、大学で見かける度に声をかけて……一緒に講義を受けたりカフェでお茶したり。
そしたらいつの間にか一緒にいることが多くなっていって、白石くんの恋愛相談に乗る師匠になって……
ていうか、私って白石くんの恋愛面に関する師匠なのに、そんな私が白石くんを好きになっちゃうって……なんか悔しいなぁ。
それに、白石くんに彼女ができるようにアドバイスをするとか……今だったら絶対にしたくない。
「……って! 早く白石くんのとこに戻らないと!」
思い出に浸ってる場合じゃなかったよ! 早く戻らないと!
「あのー、すみません」
「えっ?」
白石くんの待ってる場所に向かって走り出そうとしたその瞬間、後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはチャラチャラとした感じの男の人が2人いてニヤついいた。
……こういうのは大抵碌な事にならないって私の経験上よく分かってる。
「君可愛いねぇ〜、1人なの?」
「俺らと遊ばない?」
「あ、あの……一緒に来てる人がいるので結構です」
私は変装用のメガネをしっかりとかけ直して顔を下に向ける。
諦めのいい類のナンパだったら一言しっかりと断れば帰ってくれるんだけど、どうや、今回の人たちは諦めの悪いタイプらしい。
「えー? ツレってもしかして女の子?」
「それなら全然構わないよ。その子も一緒に遊ぼうよ」
「い、いや……男の子なので」
私がそう告げると、ナンパ男は一瞬だけ眉をピクリと揺らしたけど、次の瞬間にはニタニタとした笑みを浮かべて体を近づけてきた。
私は反射的に後ろに下がる。けれど後ろにある壁がそれ以上後ろに下がることを許さない。
「えー、絶対俺らの方が楽しいよ〜?」
「そうそう! 大体、こんなとこに女の子ほったらかしてるって碌な奴じゃないっしょ」
「それ! 絶対ヘタレのしゃばい奴っしょ」
「し、白石くんのこと悪く言わないでください! 何にも知らないくせに!」
あっ……つ、つい怒鳴っちゃった。
私はやってしまったと言わんばかりに自分の口を手で塞ぐ。
こういう相手は何するか分からないから刺激しちゃいけないのに……
それでも、白石くんのことを何も知らないような人が、彼のことを悪く言うのは許せなかった。
「ビックリしちゃったなぁ……そんなに怒鳴らなくてもいいじゃん」
「そうそう、あとあんまりうるさくされると周りに怪しまれちゃうからさ、静かにしてよ」
「てか早く行こうよ〜。あんまり焦らされると俺ら我慢できなくなっちゃうよ」
「っ……! は、離して!」
ナンパ男の1人が私の手首をガッチリと掴んだ。
「だ、大体っ…!もう遊園地は閉まる時間じゃないですか! それなのに今から遊ぶなんて無理ですっ!」
「じゃあさ、ここじゃないとこで遊べばいいじゃん。例えば……ホテル、とかさ」
「っ……!」
ナンパ男が私の体をジロジロと眺めながら下卑た笑みを浮かべた。
「そうと決まれば……ほらっ!」グイッ
「ほらほら〜 早く行こうよ〜」
「いやっ! や、やめてっ……! 」
痺れを切らしたナンパ男は私の腕を強く引っ張って無理やり連れて行こうとする。
私は手を振り回して振り払おうとするが、相手の力の方が遥かに強くて全く離れない。
怖い……
圧倒的な力の差を実感させられた途端、私の心の中を恐怖の感情が埋め尽くした。
怖いよ……助けて、白石くんっ…!
「あの! ちょっといいですか!」
「あ?」
「誰? お前」
嫌な空気を切り裂くように聞き慣れた声が響いた。その声を聞いた途端、私の心の中の恐怖心がパーッと晴れていき、安心した私の目にはジンワリと涙が浮かぶ。
「し、白石……くん……っ」
〜〜〜〜
俺が相葉さんを探し出してからすぐに彼女を見つけることはできたが、どうやら嫌な予感は当たってしまったようだ。
相葉さんはチャラそうな男2人に壁際へと追い込まれて絡まれている。どこからどう見てもナンパだろう。
「マジかよ」
相手は俺よりも明らかに強そうで、いかにもなワル系の男2人。俺が今すぐ飛び込んでもボコボコにされるだけだろうし、冷静に行動をするならすぐに警備員かスタッフの人を呼ぶべきなんだろう。
でも、そんな理屈とか自分の身の危険とかを考える暇もなく、俺の体はその光景を見た瞬間に動き出していた。
自分でも驚いてる。俺ってこんなに熱くなるタイプだったのかと……
いや違う、多分普段ならここまで熱くはならない。ただ絡まれてるのが相葉さんだったからだろう。
男がニヤついた気色の悪い笑みを浮かべながら相葉さんの手を掴んだその瞬間、俺の腹の底に煮えたぎるようなドス黒い感情が生まれる。
それは単なる怒りや不快感から生まれたモノじゃない。相葉さんに触れて欲しくないという嫉妬の怒りだ。
こんな気持ちになるってことは……やっぱりそういうことなんだろう。
俺は男2人と相葉さんの間に割って入り大きく声を荒げた。
「あの! ちょっといいですか!」
「あ?」
「誰? お前」
男2人は明らかに敵意を持った視線を俺に向けてくる。普段の俺ならそれだけでビビり散らしてるだろうけど今はそれどころじゃない。
「し、白石……くん……っ」
俺の方を向いた相葉さんの目には薄らと涙が滲んでいた。体のデカい男2人に思いきり腕を掴まれて相当怖かったんだろう。
そんなことを考えた途端、俺は無意識に相葉さんの腕を掴む男の腕を思いきり掴んでいた。
「ってぇな、離せよガキ」
「嫌がってるのが見てわからないんですか」
「あ? つかお前誰? 邪魔すんなよ」
「いいから早くこの腕離せよ……っ」
「てんめぇ……いい度胸してんじゃねぇか」
ナンパ男は大きく腕を払い俺の手を払い除けた。そのおかげで自然に相葉さんの腕も解放されたので、俺は相葉さんを後ろに隠して男2人と対峙する。
あー、やっぱりこれって喧嘩になるパターンだよね……
いやまぁ正直それは何となく覚悟はしてたんだけど、ただでさえ俺なんて喧嘩強くないのに2人相手とか絶対にボコボコにされるぞ。
でも、相葉さんだけは絶対に護らないと……
「し、白石くん……」
「相葉さん、危ないから俺の後ろに隠れてて」
「で、でも……」
「大丈夫、心配しないで」
小さく震える相葉さんが俺の背中をギュッと掴む。カッコつけて心配するなとは言ってみたけど、恐らくこの後はボコボコにされるとこを見せてしまうことになるだろう。
「つーかテメェ誰だよ。ガキ」
「俺は、この子の……友達だよ」
「アァ? 彼氏でもねーのかよ。じゃあとっとと引っ込んでろ……」
「だけど!」
「この子は俺にとって大事な人だ! お前らなんかに渡すわけにはいかないんだよ!」
「……えぇっ!? し、白石くん!?」
俺はしっかりとナンパ男の目を見てそう伝える。引く気なんて一歩も無いという意思表示だ。
「えっ、えぇっ!? し、白石くん今なんて…!?」
「ちょっ……あ、危ないから下がっててよ!」
「だ、だって今のって……うぅ〜っ!!」
相葉さんが後ろから肩を掴んでグラグラと揺らしてくる。 危ないからちゃんと後ろで大人しくしててほしいんだけど……!
「て、テメェら……っ、何をイチャこいてんだコラ……」ピクピク
「バカにしてんのか? アァン!」
男2人はプルプルと小さく震えながら、額にくっきりと青筋を浮かばせている。
「相葉さん、ほんと危ないから下がってて!」
「だ、だって白石くん! さ、さっき……!」
「ちょっ! マジで腕離して!? ほらあの人たち向かってきてるから! ヤバいって!」
男は拳を振り上げて俺の方へと突進してきている。俺も抵抗しようと腕を構えようとするが、相葉さんが掴んでいて動かしづらい。
ぼ、ボコられる覚悟はしてたけどこんな形でやられることになるなんて思ってなかったぞ!? ていうかこのままだと相葉さんも危ないんだけど……!
俺と相葉さんがわちゃわちゃとしている間に、男の拳は俺の顔に迫ってきていてもうダメだと思ったその瞬間……
「ママ〜、あの人たち何してるの?」
「「えっ?」」
いつの間にか近くに来ていた小さな子どもが俺たちのことを指差していた。
「こ、こらっ! 何してるのっ! 危ないから早くこっち来なさい!」
「お兄さんたち喧嘩はダメだよー!」
「アんだと? うっせぇぞガキ!」
「ひぃぃっ! け、警備員さーん!!」
女の子に向かって男が大声を出した瞬間、その子のお母さんが大きな声を出して周りの注目を集める。
そして俺たちの周りにザワザワとした雰囲気が漂い出す。
「相葉さん、あの子って……」
「あっ、お昼に会ったあの子だよ!」
その小さな女の子は今日の昼に、俺が相葉さんに膝枕をしてもらってる時に声をかけてきたあの子だった。
「け、警備員さーん!!」
「チッ……行くぞ」
「くそっ、ババァが……邪魔しやがって」
男たちは注目が集まりばつが悪くなったのか、捨て台詞を吐いて逃げるように去っていった。
それを見て俺はすぐさま、パニックを起こしている女の子のお母さんに声をかける。
「あ、あの…! もう大丈夫ですよ。 アイツらどっか行ったんで」
「えっ? そ、そうなの……?」
「はい。 あの……助かりました。ありがとうございます」
「あっ、いえ……私、パニックでとにかく大声を出してただけで……」
「いやいや、本当に助かりました」
女の子のお母さんを落ち着かせるために、ゆっくりと優しく話しかける。すると段々落ち着いてきたのか、安心したように一息をつく。
俺は次に相葉さんのもとへと向かう。相葉さんは小さな女の子の前で屈んで話している。
俺も女の子に視線を合わせるためにその場で屈んだ。
「さっきはありがとうね。キミに助けられちゃったよ」
「……?」
「ふふっ、私もさっきお礼を言ったらおんなじリアクションだったよ」
女の子は何で俺たちにお礼を言われてるのかまるでわかっていない様子だ。不思議そうに首を傾げて俺たちのことを見つめている。
何も問題が起こらなかったからか、俺たちの周りを囲んでいたザワザワとした雰囲気もいつの間にか消え去っている。
「あの、本当にありがとうございました」
「い、いえいえ」
「じゃあ俺たちはこれで」
「ばいばーい!」
お母さんにお辞儀をしてその場から離れていく俺たちに向かって、女の子は手をブンブンと振っている。それに対して俺と相葉さんも小さく手を振り返した。
……いやぁ、まさか昼間の女の子に助けられることになるとは。 あの子は俺にとって救世主だな……。
「相葉さん、もう大丈夫だと思うけど一応ここからは離れよっか」
「あっ……う、うん」
そして俺たちは遊園地の出口の方へと向かって歩き出した。
〜〜〜〜
「し、白石くん…!」
「……な、なに?」
出口へと向かう道の途中、相葉さんが後ろから俺の服の袖を掴んで声をかけてくる。
「さ、さっきの……さ、 その……っ」
「……」
「だ、大事な人って……その……」
振り向いて相葉さんと向き合う。顔を赤くした相葉さんはチラチラと上目遣いをしながら俺のことを見ている。
さっきは勢いに任せた感じで言っちゃったけど、あれは……俺の本心だ。
「……あ、あのさ!」
「っ……!」
相葉さんの手を握って目を見つめる。
今にでも心臓が口から飛び出しそうだ。
「さっきの……ことなんだけどさ」
「な、ナイス起点だったね!」
「えっ?」
「い、いや〜! あ、あぁやって言えばあの人たちが手を引くって思ってたんだよね!?」
「……相葉さん」
違う、そんなんじゃない。
「相葉さん、聞いてほしいんだ」
「あ……ぅ」
もう一度相葉さんの手を強く握る。
「さっきのは……俺の、本心だよ」
「っ……!」
「俺、相葉さんのこと好きだ」
……い、言った。 俺、言ったぞ。
「相葉さんは優しくて、明るくて……相葉さんと一緒にいるとすっごく楽しいし、一緒にいるとドキドキするんだ」
「……ぅ」
「さっきアイツらに相葉さんが絡まれててさ、俺それを見てすっごく嫌だったんだ。 俺、相葉さんのこと……誰にも渡したくないっていうか」
「も………ぅ」
か、顔が熱い。 心臓が爆発しそうだ。
でも言わなくちゃ。 俺の本心を伝えないと。
「だからさ、相葉さん……俺と」
「も……もぅ……」
「……相葉さん?」
「も、もう無理だよ〜〜ぅ!!!」
「えっ!?」
「は、恥ずかしい〜〜!!!」
「ちょっ、相葉さん!? ま、待って!」
え、えっ!? な、何が起こった!?
相葉さんの頭がボフンと音を立てて爆発する。そしてそのまま大きな声を出しながら走って遊園地から出て行ってしまった。
人生初の告白のまさかの結末に、俺はその場で呆然としながら相葉さんの走って行った方角を見つめる。
「も、もう無理……? えっ、ど、どういうこと……?」
もしかして……フられた?
「そ、そんなぁ……」
俺はショックで目の前が真っ暗になった……
ちなみに相葉さんは無事家に帰ったそうなのでそこは一安心だ。
次で夕美ちゃん編ラストです。