346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
あけおめ。
相葉さん改め、夕美と交際を始めてからはや数ヶ月が経過していた。
誰かが言っていたのを聞いたことがある。恋愛なんていうのは付き合うまでが1番ドキドキして楽しいものだ……と。
確かにそういう人たちもいるんだろう。でも俺は声高らかに宣言させてもらう。
そんな事全くない!!!
付き合ってから毎日が楽しい。日々を過ごすうちに夕美の好きな部分が増えていく。もう毎日毎時間毎分夕美のことを考えている。
恋愛ボケと言われても構わない。側からなんて言われようと俺は気にしない。
もう俺は夕美がいない生活なんて考えられないんだ!!!
「ごめんね幸輝くん……今度海外でのロケがあるからしばらく会えなくなるんだ」
「……………えっ」
俺の家でいつも通り夕美と楽しくトークをしていたその時……唐突に特大の爆弾が落とされた。
「……ど、どのくらい?」
「1週間くらいかなぁ」
「イッシュ…!?」
い、1週間!? 1週間って1週間か!?
む、無理だ…! 7日間も夕美に会えないのか!? 俺に死ねと言うのか!?
「お、俺もついて行く!」
「流石にそれは無理だよ〜」アハハ
「くっ…!」
「わわっ! だ、大丈夫?」
地に膝をつく俺を心配そうに覗き込む夕美。
可愛い。
そんな可愛い夕美に1週間も会えなくなるなんて……俺はその間何をして生きればいいんだ。
「………」ズ-ン
「も、もぅ……そんなに寂しいの…?」
「ざみじぃ……」
「そうなんだぁ〜 ふふっ」
崩れ落ちる俺を見て嬉しそうに微笑む夕美。サドなのかな? ドSなのかな?
「あ〜ごめんごめん。別に悲しんでる幸輝くんを見て喜んでる訳じゃないよ?」
「その割にはニッコニコだけど……」
「えへへ……愛されてるな〜って思って」
そう言うと夕美は俺の体をギュッと包み込むように抱きしめた。柔らかい体の感触と甘い香りが俺を包む。
あ〜癒されるんじゃ〜^
「寂しいのは私も一緒だよ…? だから、一緒に頑張ろ?」
「ううっ……夕美ぃ」
「ほら、シャキッとする!」
「は、はいっ!」
バシンッ!と音が鳴るほどの力で夕美が俺の背中に檄を入れた。それに連動するように俺の背筋もピンと張り詰める。
「よーしっ! それじゃあ……」
「ん?」
「い、今のうちに……イチャイチャ、しよっか…///」
「……え、えぇっ!?」
顔を真っ赤に染めて上目遣いでこっちを見る夕美。その視線に向けられるだけで俺の心臓はバクンバクンと騒ぎ出す。
「さっきも言ったけど……わ、私だって寂しいんだからね…?」
「う、うん」
「だから……今のうちに幸輝くん成分を補給しておきたいなって……ダメ、かな…?」
「だっ、ダメじゃない! 全然っ! ばっちこい!」
2人の視線が交わる。
腕を広げると夕美がすっぽりと収まる。
「……幸輝くん」
「ゆ、夕美…」
……あぁ、最高の時間だ。
〜〜〜〜
「はぁ……死にそう」
「なんなんだよさっきから」
夕美が海外ロケに出てから今日で5日が経過していた。 俺が大学の食堂でため息を吐くと、隣に座る友人が鬱陶しそうに声をかけてくる。
「……寂しい」
「あぁ〜、最近できたっていう彼女か? いい加減俺にも顔見せてくれよ」
「それは無理だ」
もちろん俺たちの関係は秘密だ。 知っているのは事務所に所属する夕美のアイドル仲間のうち数人くらいだと思う。
「可愛いのか? お前の彼女」
「可愛い」
「そうなん? 彼氏からの贔屓目線が入ってるとかじゃなくて?」
「10000人に聞いたら100000人が可愛いって言う」
「桁増えてんぞ」
そりゃもちろん可愛いよ。銀河一可愛いと言っても過言ではない。というかあんなに可愛い子が俺の彼女とか今更ながらいいのだろうか…?
「で、なんで彼女さんと会えないんだよ」
「えーっと……今ちょっと実家の方に帰ってるらしくて」
友人に嘘をつくのは忍びないけど仕方ない。馬鹿正直に海外ロケに行ってるなんて言ったら芸能人だっていうことがすぐにバレてしまう。
「どのくらい会えないんだよ」
「1週間。そんで今5日経った」
「じゃああと少しで会えるじゃんか」
「だからこそ寂しいんじゃないか……」
もう5日だぞ? 毎晩電話はしているけどそれだけじゃ全然足りない。 やっぱり生夕美と触れ合わなければ満たされないんだ…!
「はぁ……」
「ったく、仕方ねぇなぁ」
友人は一つ息を吐くと、カバンの中身をゴソゴソと探り始める。気になってジーッと見ているとカバンの中からは四角い箱が出てきた。
「何ソレ」
「彼女に会えないんじゃお前もホラ……発散できなくて困ってるだろ?」
「何を?」
「とぼけんなよ。溜まってんだろ?」
「………は、はぁっ!?」
大きな声を出して立ち上がる俺に周りの視線が一瞬だけ集まる。そしてゆっくりと席に座り直す俺のことを、諸悪の根源である男はニヤニヤと笑いながら見ていた。
「彼女とヤることヤってんだろ? それなのにその彼女がいないんじゃあ溜まっても仕方ねぇよなぁ?」
「あ、あのなぁ…!」
「そこでお前にはコレをやろう」
「だからなんなんだよソレ」
友人から手渡された箱を、手の中で転がしてパッケージを分析する。するとそこには、赤と白のツートンカラーで所々に縞模様が描かれた砂時計のようなフォルムの物の写真がプリントされていた。
こ、これはっ……TE◯GAっ!?!?
「ちょっ! お前なんてもの渡してんだよ!」
「いいから持って帰れって。使い古しとかじゃ無いから安心しろ」
「そういう問題じゃないって…!なんでそもそもこんなのもってんの!?」
俺は貰ったTE◯GAの箱をリュックの中に突っ込んだ。こんな物を手に持っていることがバレたらいい晒し者だ。
すると友人は文句を言う俺をよそに、ゆっくりと席から立ち上がると俺の肩を叩いてウインクをしてみせた。
「これで寂しさを紛らわせよ」
「使うかーっ!」
「じゃあそういうことで。俺は行くぜ」
「ちょっ! こんなの渡されても困るから!」
そんな俺の言葉に耳を傾けずに友人は手を振って食堂から出て行く。残されたのはリュックの中にTE◯GAを入れた不審者の俺……
「はぁ……どうすんだよコレ」
〜〜〜〜〜
帰宅した俺は箱から出したTE◯GAを机の上に置いて睨めっこしていた。
ギラギラとした赤いフォルムの主張が強い……
「はぁ……どうしよう。やっぱり捨てるしかないよなぁ」
友人に貰った物を捨てるのは良くないけど、貰ったというよりはほとんど押し付けられたようなもんだから仕方ないよな……
ピンポ-ン
「ん?」
その時、玄関から来客を知らせるインターフォンが鳴り響いた。俺は立ち上がり、置き場所に困ったTE◯GAをひとまず食器棚の上に置いて玄関へと向かった。
「はーい」
「こんにちは〜! 突然なんですけど私こういう者でして〜」
げっ…! セールスかよ……不用意に出るんじゃなかったなぁ。
その後、セールスの人と悪戦苦闘すること十数分。やっとの思い出セールスの人に帰ってもらうことに成功したが……
部屋の中に戻ってきた頃には、俺はもうすっかりと食器棚に置いておいたTE◯GAの存在を忘れ去っていたのだった……
〜〜〜〜〜
そしてそれから数日が経ち、夕美は日本に帰ってきた。
流石に帰ってきたその日はゆっくりと体を休めたいだろうと思ったので会う約束はしなかったが、明日以降会えるのが楽しみで仕方ない。
1週間ぶりの生夕美に会えるんだ……!
ピンポ-ン
「ん?」
誰だ一体? こんな夜遅くに……まさかまたセールスとかじゃないよな?
俺は前回の失敗を踏まえてドアの前に立つ人物をカメラで確認する。
「ゆ、夕美っ!?」
画面に映っていたのは、変装をばっちりと決めた愛しの夕美本人だった。
俺は慌てて玄関まで駆け寄り、勢いよくドアを開いて夕美を家の中に招き入れる。
「ゆ、夕美!? 今日は遅いから家に帰るって言ってたじゃないか!」
「えへへ……そのつもりだったんだけどね?」
「会いたくなったから来ちゃった……ダメ、かな?」
照れ笑いをしながら俺を見上げる夕美。そんな姿がたまらなく愛おしくて俺は思わず夕美に抱きついて体を包み込む。
「だ、ダメじゃないよ……俺も、早く夕美に会いたかった…!」
「ふふっ、嬉しい……」
あぁ……1週間ぶりの夕美だ。 電話越しじゃない生の夕美だ。
そのまま数秒間に渡って久しぶりの夕美を堪能する。そして満足した俺たちは体を離し、部屋の中へと入っていきソファーに腰をかける。
「合鍵渡してるんだし勝手に入ってきてもいいのに」
「えへへっ、お出迎えしてほしくって」
何その可愛い理由は。
「お土産いっぱい買ってきたからねっ!」
「お〜楽しみ」
「お菓子買ってきたから紅茶でも淹れよっか」
夕美はテキパキと動いて紅茶を淹れる準備を進める。俺も手伝おうとしたけど、そこに座っていてくれって言われたのでジッと待つことにする。
「ふんふん〜♪ あれ? なんだろうコレ……」
あぁ〜、やっぱり夕美は可愛いなぁ。 この1週間はこれまでの人生で1番長く感じたよ……
「ねぇ幸輝く〜ん」
「ん〜、どうかたした?」
「コレなぁに? 食器棚の上に置いてあったんだけど……」
「げっ!」
きょとんとした顔の夕美が持っているのは、俺が数日前に置いてそのままにしておいたTE◯GAさんだった。
し、しまった…! 捨て忘れてた〜っ!
「見たことない食器だったんだけど……随分派手な入れ物だね。何に使うのかな?」
「あ、あはは……ちょっとした貰い物でね」
ば、バレてない…? バレてないぞ…!
夕美はアレが何なのか知らないんだ。 そんな純粋な夕美も可愛いけど今はそんなこと言ってる場合じゃない! 早急にアレを夕美の手から奪い処分しなければ…!
「この穴の中に飲み物を注ぎ込むのかな?」
「あっ、あー! 早く夕美の買ってきてくれたお土産食べたいなぁ〜!」
「あっ! そうだそうだ! 美味しいクッキー買ってきたんだったよ〜」
そう言うと夕美はTE◯GAさんを机の上に置いてお土産の開封を開始した。
と、とりあえず危機は去ったな……夕美がTE◯NGを持っている絵面は俺の心臓に悪い。
「あっそうだ! 折角だしさっきの容器に紅茶注いでみよっか!」
「ぶーっ! そ、それはマズい!」
「ダメなの?」
「あっ、えーっと……ちょっと埃被ってるからさ! 一回洗わないと汚いというかなんというかですね……」
その後もよほど気になるのか、事あるごとにTE◯GAへと興味を示す夕美の興味を逸らしながら久しぶりの2人きりの時間を堪能した。
最後までなんとかバレずに済んだぞ。 後は夕美が帰ったら即座にアレを処分して……
「ね、ねぇ幸輝くん」
「ん? なに?」
「今日……泊まってもいいかな…?」
「……も、もちろん!」
ま、まぁ……捨てるのは明日でもいいか。
〜〜〜〜〜
「あっ! 美波ちゃんおはよ〜♪」
「おはよう、夕美ちゃん」
朝、事務所に行くとソファーに座る美波ちゃんを発見♪ 隣に座っちゃお〜!
「えへへっ、お隣失礼しま〜す」
「ふふっ、どうぞどうぞ」
ふぅ……美波ちゃんの隣は落ち着くな〜
「そういえば夕美ちゃん、海外ロケに行ってきたんだよね?」
「うん! 1週間くらいね!」
「大変だったでしょ?」
「うーん、確かに疲れたけど楽しかったよ!」
「そっちじゃなくて」クスッ
「……?」
「大好きな彼氏クンに会えなくて寂しかったんじゃないの?」
「えっ…!? そ、それは……」
一瞬で顔が熱くなる。図星だったからこそ余計に恥ずかしい……
美波ちゃんはそんな私のことを見つめて優しく微笑んでる。
因みに美波ちゃんとはよく仕事やレッスンで一緒になるので、幸輝くんとの関係は既に説明済みだ。
「ま、まぁ……確かに寂しかったけど……む、向こうの方が寂しがってたみたいだけどね!」
「ふふっ、そっか」
うぅ……つい強がっちゃったけど美波ちゃんには私の気持ちはお見通しみたいだ。
た、確かに私だって寂しかったけどさ……
「あっ! そ、そうだ! この前幸輝くんのお家にお土産を渡しに行ったんだけど、変わった容器が置いてあったんだよね!」
「へぇ〜、どんなのかな?」
照れ隠しに思い切って話題を変えてみたけど成功したみたい。
私は物珍しさから昨日こっそり写真を撮っておいたあの赤と白の容器を美波ちゃんに見せる。
「これなんだけどね? 見たことないでしょこんなの」
「どれどれ………えっ!? ゆ、夕美ちゃんこれは…!」
「ん?」
どうしたんだろう……写真を見た美波ちゃんが急に顔を赤くして、何か言いづらいことでもあるかのようにモジモジとしている。
どうしちゃったんだろう…?
「あのね……夕美ちゃん。ちょっと……」
「なになに?」
美波ちゃんが耳元に口を寄せて小さな声で囁く。綺麗な声が耳にダイレクトに届いて心地が良い。
「それはね……ンガって名前で……男の人がね……///」ボソボソ
「……………へっ?」
〜〜〜〜〜
「よしっ! これでTE◯GAの処分は完了したぞ!」
ふぅ……夕美に見られた時はどうなる事かと思ったけどなんとかバレる前に処分できたな。
それにしても、我が彼女ながら夕美はピュアでかわいいなぁ…… あーそんなこと考えてたら夕美に会いたくなってきた。
ガチャッ
「あれ、夕美?」
合鍵で扉を開けて夕美が部屋に入ってくる。何故かずっと下を向いていて、体は小刻みにプルプルと震えている。
それにしても、夕美に会いたくなってきたなんて考えていたら本当に来てくれるとは……なんて幸せな1日なんだ!
「夕美? さっきからどうした……あれ?」
「〜〜〜〜っっっ!!///」プルプル
「ゆ、夕美……?」
「幸輝くんのばかぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!」
「えぇぇっ!?」
な、なんで怒ってるんだ!? しかも顔めっちゃ赤いし!!
「もうっ! もうっ…! ばかっ! ばかぁ…!」
「ちょっ……お、落ち着いて! 何があったの!?」
「幸輝くんがちゃんと教えてくれないから! アレの写真をウキウキで美波ちゃんに見せちゃったじゃん!」
「アレってなにさ!」
「TE◯GAのことだよっ!///」
あっ……バレた。
「もうっ! すっごく恥ずかしかったんだからねっ! 美波ちゃんと次会う時恥ずかしくなっちゃうじゃん!」
「あ、あはは……ごめんなさい」
えーっとつまり……昨日のうちにアレの写真を撮った夕美が新田先輩にその写真を見せたってことか…? な、なんて事だ……!
「だ、大体っ! 何であんなの持ってるの! 私がいない間に使ってたの!? 私に不満でもあるの!?」
「そ、そんなわけないって! というか俺も友だちに押し付けられただけで…!」
「もうっ…! もうっ…! 知らないっ! 幸輝くんなんて知らないっ!」
「ゆ、夕美〜 そんなに怒らないでくれよ〜!」
使ってもないTE◯GAのせいで夕美をめちゃくちゃ怒らせてしまった……最悪だ。
「私すっごい恥ずかしかったんだからねっ!謝っても許してあげないんだから〜〜っ!」
「ゆ、夕美〜! 許してくれ〜〜!!」
この後、夕美は3日間も口を聞いてくれなかった……
その結果、俺はまたしても寂しさで死にそうになるのだった。
新年からこんなネタで申し訳ない(申し訳ない)