346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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 ここからの3話は既に公開済みなんですけど、実質ありすちゃんルートの導入みたいなもんなのでこっちに移しました。





橘ありす編
1人より2人で食う飯のが美味い 1


 

 

「……ただいま」

 

 今日もアイドルとしての活動を終えた私は帰宅して挨拶をするが、その声に対して返事が返ってくることはない。でもそれも当然だ、だって今この家には私以外誰もいないのだから……

 

 手を洗ってうがいをしてリビングへと入っていくと、机の上にある置き手紙が視界に入った。恐らくお母さんからのだろう。

 

 

 〜ありすへ〜

今日もお仕事で家に帰るの遅くなります。本当にごめんね、夜ご飯は冷蔵庫に作った物を入れておくからチンして食べてね。

 

 

「……お母さん」

 

 

 別に謝らなくていいのに。だって、仕事じゃあ仕方ないのだから。

 

 私だって仕事の関係で予定が狂う事なんて普通にあるからよく分かる。だから一々こんな事でお母さんに文句を言っても仕方ない。それにお母さんもお父さんも一時期よりは私との時間を増やそうとしてくれるのは感じている。

 

 実際、ここ最近はずっと一緒に夜ご飯を家で一緒に食べていたし……

 

 それでも、私との時間を増やそうと頑張ってはくれていても、どうしても仕事が忙しくなる時期はある。正に今がその時で、恐らく今日から数週間は忙しい時期が続くんだろう。

 

 

 大丈夫、寂しくないと言えば嘘になるけど、少しの間なら我慢できる。

 

 早くご飯食べて、宿題しないと……

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

「ん〜! ふぁぁ……」

 

 

 事務所の中を掃除している途中、凝り固まった腰を少し曲げてみれば思いのほか気持ちが良くて気の抜けた変な声が出た。

 

 てか、今すげぇボキボキ鳴ったんだけど俺の腰大丈夫かよ。

 

 

「あら、こんな所で変な声なんて出してどうしたのかしら?」

「えっ? は、速水さん!?」

 

 

 俺が機敏な動きで後ろに振り向くと、そこには魅惑的な笑みを浮かべる速水さんが立っていた。

 

 えっ、ていうかさっきの見られてたの……?うわぁ……めっちゃ恥ずかしいんだけど。

 

 

「い、いや……今のはですね…?」

「くすっ、そんなに照れることないじゃない。別に誰かに言ったりなんかしないわよ」

 

 

 羞恥から顔をタコのように赤くしてあたふたする俺を見た速水さんは、口元に手を当てながらクスクスと笑っていた。

 

 や、やべぇ……超恥ずかしいんだけど。誰もいないと思って鼻唄を歌ってたら、実は後ろに人がいた時くらい恥ずかしいぞ。

 

 

「今のは私と貴方だけの……2人だけの秘密ってことにしておきましょう?」ズイッ

「ふ、2人だけの!?」

「ふふっ、貴方ってやっぱりチャーミングね」

 

 

 体をズイッと寄せてきた速水さんは上目遣いに俺の顔を見る。黄金色の瞳に見つめられた俺の体は蛇に睨まれた蛙のように、ピタリと動きを止めた。

 

 というか、速水氏は胸元が随分と緩すぎやしませんかね……? 大丈夫?制服でそんなに胸元開けてたら男子とかに絶対ガン見されるよ?

 

 

 なんて事を考えているのがバレたらヤバいと思った俺は速水さんから視線を逸らす。するとその先に見慣れた姿が見えて、俺は目の前にいる速水さんから逃げるようにその人に声をかけた。

 

 

「お、おーい! ありすちゃーん!」

 

 

 俺が大声でそう叫ぶと、ありすちゃんはこっちを向いてゆっくりと近づいてくる。でもなんだか俺はその姿に少しの違和感を覚えた。

 

 

「……おはようございます。白石さん、奏さん」

「あ、うん……おはよう、ありすちゃん」

「おはよう、ありす」

 

 

 ありすちゃんは俺と速水さんの前にまで歩いてくると、ぺこりと綺麗なお辞儀をして挨拶をした。

 

 

「ありすちゃん、今日はレッスン?」

「……はい。ですから、失礼します」

「えっ? あっ、うん。レッスン頑張ってね」

 

 

 そう言うとありすちゃんはもう一度お辞儀をして俺の前から去っていった。

 

 なんだろう、今のありすちゃんは……いつもと違う…?

 

 

「ねぇ速水さん」

「どうかしたの?」

「ありすちゃん、なんか元気無かった…?」

「あら、そう見えたかしら?」

 

 

 一見いつものありすちゃんと違いは無いようにも感じたけど、やっぱりどこか元気が無いように見えた気がする。

 別にありすちゃんはいつもニコニコとしているタイプではないけど……なんていうか、いつもはもっと目に力が篭ってる感じがするんだよなぁ。

 

 

「うん、俺にはそう見えたってだけだから、違うならそれで全然いいんだけど」

「貴方、結構人のことちゃんと見てるのね」

「えっ?」

 

 

 そう言うと速水さんは、自分の頬に掌を当てながら目を細くして静かに語り出した。

 

 

「貴方の言う通りよ。確かに最近のありすは少しだけ元気が無いように見えるわね……とはいえ普通に仕事もレッスンもこなしてるし、あくまで"そう見える"ってくらいだけど」

「……そっか」

 

 

 どうやら速水さんも俺と同じ事を思っていたらしい。さっきまでありすちゃんがいた方向を心配そうな表情で見つめている。

 

 

「そうだ、白石さんちょっと探りを入れてみてくれないかしら?」

「えっ、俺が?」

「えぇ、まぁ私が聞いてもいいんだけど……あの子、貴方には結構懐いてるみたいだし」

 

 

 そう言って速水さんはニヤリと笑ったが、ありすちゃんに懐かれているという実感の無い俺は首を傾げる。

 

 

「俺、そんなに懐かれてるかな? いやまぁ嫌われてはないと思うけど」

「ふふっ、そうね……少なくとも私の目に映るありすは貴方と話してる時、楽しそうにしてるわよ?」

「うーん……そっか」

 

 

 まぁ速水さんが言うなら……そうなのかもしれない。というか懐かれてるって言われて悪い気はしないしね。

 最初出会った時はあんなに俺のことを警戒していたありすちゃんが、本当に懐いてくれているとしたらとても嬉しいことだ。

 

 

「わかった、じゃあ今度会った時にそれとなく聞いてみるよ」

「えぇ、お願いね」

 

 

 よしっ、やるからにはちゃんとやらないとな! 前に千川さんに悩んでるアイドルの子たちの力になってあげたりするのも仕事だって言われたし、何より俺個人としてもありすちゃんのことが心配だからな。

 

 

「もし上手く解決できたら……そうね、私から貴方に感謝の印として……ご褒美をあげようかしら?」

「えっ!……ご、ご褒美……とは?」ゴクリ

 

 

「あら……私のどこを見て、何を想像したのかしら…?」

 

 

 そう言って速水さんはプルプルで潤んだ唇に自分の指を当てると、わざと俺に聞こえるようにリップ音を鳴らした。

 

 いやもうこれご褒美って……ま、まさか……き、ききききキs……!?

 

 

「〜〜ッッ!!! さ、流石にそれはマズイと思いますぅぅっっっ!!!」ダッ

「あら」

 

 

 変な想像をしたせいか、頭の上が熱くなって大爆発を起こした俺はその場から走って逃げ出した……

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、やっぱりチャーミングね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 速水さんと別れてから数時間が経った後、俺は必死に脳みそをフル回転させながら事務所内を歩いていた。

 

 元気の無いありすちゃんの様子を探るとは言ったものの、その方法は全く頭の中に浮かんでいない。

 最悪の場合は「今日元気ないね、どしたん?話聞こか?」的な感じでストレートに聞いてみるのも一つの手段かもしれないけど……

 

 まぁやると決めたからには何かしらの方法でありすちゃんの力になってあげたい。決して速水さんのご褒美とやらに釣られた訳ではない……マジで。

 

 

「ん?」

 

 

 噂をすればありすちゃん……と、鷺沢さんも一緒にいるな。あの2人はよく一緒にいて本当に仲が良いんだろうなぁ……うんうん、仲良きことは美しきかな。

 

 バレないように近づいて少しだけ様子を見てみるか。

 

 

 

 

「お疲れ様でした……ありすちゃん」

「い、いえっ! 文香さんの方こそお疲れ様です!」

 

 

 ソファーに並んで腰をかけた2人は互いに労いの言葉を掛け合っている。会話の内容からしてレッスン後だろうか。

 

 

「文香さんは今日もとても綺麗でした! それにボーカルレッスンの時にも美しい歌声で……!」

「ありがとうございます……ふふっ」

 

 

 ありすちゃんは興奮気味に大きな声を出して鷺沢さんを褒めちぎる。前から思ってたけどありすちゃんは鷺沢さんによっぽど懐いているのか、鷺沢さんと話している時は尻尾をぶんぶんと振り回す子犬みたいだ。

 

 ……これありすちゃんに言ったら絶対に怒ると思うけど。

 

 というか、意外と元気そうだな……大好きな鷺沢さんといられて嬉しいからだろうか。

 

 

 

「そ、それでですね……文香さん、この後は予定とかありますか? よ、よかったら一緒に下のカフェで食事でも……」

「……すみませんありすちゃん……実はこの後お仕事の予定が入っていまして」

「あっ……そ、そうですか。なら仕方がないですね…! お仕事頑張ってください!」

 

 

 あっ……また一瞬だけ、ほんの一瞬だけだけど違和感を感じた。今のは鷺沢さんに誘いを断られたから…?

 

 なんというか、すごく寂しそうな顔だった。

 

 

 

「では……失礼します。ありすちゃん……また今度ご一緒しましょう」

「は、はい……お疲れ様でした」

 

 

 そうしてフリフリと手を振る鷺沢さんはその場から去っていき、ソファーの上には俯いたありすちゃんが1人ポツンと残される。

 

 

「……」

 

 

 俯いたありすちゃんはその場から動こうとしない。ジーッと自分の膝の辺りを見つめて動かないありすちゃんの寂しそうな瞳が見ていられなくて、気がつけば俺の体は自然と動いていた。

 

 

「ありすちゃん」

「えっ? し、白石さん…!?」

 

 

 俺の姿を見たありすちゃんは驚いたように目を見開いていた。俺はそんなありすちゃんの横に座り声をかける。

 

 

「よいしょ」

「い、一体いつからそこに……」

「ごめん、ちょっと前から」

 

 

 俺がそう言うとありすちゃんは少しだけムッとした表情を浮かべた。それに対して俺は謝罪の意を込め手のひらを合わせる。

 

 

「覗き見なんて趣味が悪いですよ」

「ははは……返す言葉もございません」

「まったく……まぁ、別にいいですけど」

 

 

 ありすちゃんのその言葉を最後に静寂が訪れる。

 

 ……どうしよう。勢いに任せて出てきちゃったけど、どうやってありすちゃんに対して探りを入れるべきか……

 

 必死に脳みそを回転させるがいい案は出てこない。こんな時対人関係に強い人とかだったらいい感じに話を持っていけるんだろうけど……

 

 

 ええい! こうなったらもう真っ向勝負だ! いつまでも考えていても何も始まらない!

 

 

「ありすちゃんさ、何かちょっと……元気無い?」

「えっ? ……そう、見えますか…?」

「うん、ちょっとだけね」

 

 

 俺がストレートな質問をぶつけると、ありすちゃんは唇を強く噛み締めた後に一度だけ深く息を吐いた。

 

 

「……そう、かもしれません」

「お、おぉ」

「なんですかそのリアクションは」

「い、いやごめん……正直そんな素直に認めるとは思ってなかったから」

「ば、馬鹿にしてるんですか!」

「ご、ごめんごめん!」

 

 

 ありすちゃんは頬をぷくと膨らませて俺に抗議の視線を送る。そんな仕草が可愛らしくてついつい頭を思いきり撫でたくなったけど、確実に怒られるだろうからそんな事はしない。

 

 

「……理由、聞かないんですか?」

「聞いてもいい?」

「別に、聞かれて困るような物じゃないですから。それに強がって隠しても意味ないですし」

「じゃあ、聞かせてもらってもいいかな」

 

  

 俺がそう言うとありすちゃんは予想に反して意外にも淡々とした声のトーンで語り出した。

 

 

「……最近、両親のお仕事が忙しくて、あまり家にはいないんです」

「……うん」

「だから、その……家に帰っても一人でいることが多くて……えーっと、その……」

「寂しい?」

 

 

 俺がそう尋ねるとありすちゃんは一瞬だけ固まったように見えたが、またすぐに淡々とした様子で言葉を発する。

 

 

「……そう、ですね」

「そっか」

「こ、子どもっぽいですよね……家に両親がいないから寂しくて元気が無いなんて」

「別にそんなことはないと思うよ。親に会えなくて寂しいなんて普通だよ」

 

 

 意外にもありすちゃんは自分の胸の内を正直に話してくれた。なんとなくそういうのは強がって隠そうとしたりするタイプだと思ってたけど、速水さんの言う通り俺にも心を開いてくれてるってことなんだろうか。

 

 

「ていうか俺もそうだよ?」

「えっ?」

「もちろん子どもの頃家に親がいなくて留守番とかしてる時は寂しかったし、なんなら今なんて毎日寂しい生活してるからさ」

「どういう意味ですか?」

「ん? いやほら、俺って今一人暮らしだからさ、ふとした時に寂しさを感じたりするもんなんですよ」

 

 

 別に毎日寂しさを感じてるとかいう訳じゃないんだけど、本当にふとした瞬間に寂しいって実感する瞬間があるんだよね。

 特に誰かと一緒にいた後とかに、誰もいない家に帰ってきた時とかもうめちゃくちゃ寂しい気分になる。

 

 

「彼女でもできればそんな寂しさも和らぐのになぁ〜とか考えたり」

「なんですかそれ……ふふっ」

 

 

 ようやくありすちゃんが笑顔を見せてくれた。それがなんだか嬉しくて、すごくホッとした気持ちになる。

 

 ……さて、じゃあどうしようか。ありすちゃんの元気が無い原因は分かったけど、俺が何か助けになることはできるだろうか。

 

 何かいいアイデアは……あっ。

 

 

 

「ありすちゃんさ、ご両親はいつまで忙しいの?」

「えっ? えーっと……忙しくなって1週間くらい経ったので、あと1週間とちょっとぐらいかと」

「その間はずっと1人でご飯食べてるんだよね?」

「そう……ですね。はい」

 

 

 一人でいるのが寂しいのなら、一人でいる時間を減らしてあげればいいんじゃないだろうか。

 

 

 

「じゃあさ、その間はなるべく俺と一緒にいようよ。ほら、夜ご飯は一緒に食べたりさ」

「えっ……えぇっ!?」

 

 

 俺の突然の提案に、とても驚いた様子のありすちゃんは大きな声を出したのだった……

 

 

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