346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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 バレンタインになんとか間に合ったな()
 という訳でありすちゃんルートです。

 ※前の3話は既に公開済みの話なんですけど、実質ありすちゃんルートの導入みたいなもんなのでこっちに移しました。










2月は恋の季節

 

「ねぇねぇ、ありすちゃんは誰かにあげたりするの?」

「えっ?」

 

 

 放課後、授業が終わってクラスメイトたちがザワザワと騒ぎ始める中、私は荷物をまとめて下校の準備をしていた。しかしそんな時、1人のクラスメイトの子がキラキラとした表情を浮かべて私に話しかけてきた。

 

 

「あげるって……何を?」

「チョコだよ、チョコ! もうすぐバレンタインでしょ〜!」

「……あっ、言われてみれば」

 

 

 本当に忘れていた。去年までのバレンタインなんて、お母さんと2人で選んだ売り物のチョコをお父さんにあげるくらいだったし。

 そういえば事務所でもバレンタインの仕事がどうとか言っている人がいたのを今になって思い出した。

 

 

「ありすちゃんアイドルだし〜! 誰かイケメンの芸能人にチョコ渡したりするのかな〜って!」

「わ、私そんなに親しいタレントさんとかいないから……同じ事務所なら仲良くさせてもらってる人いるけど全員女の人だし」

「え〜、じゃあ友チョコだけ? 近くにある小学校の男子で気になる人とかいないの〜?」

 

 

 私の通う小学校は私立の女子校なので男子生徒はいない。でも近くに共学の小学校はあるから、登下校の最中に同年代の男子を目にすることはそれなりにある。

 

 ただ……

 

 

「……興味ないかな」

「え〜そうなの?」

 

 

 目の前のクラスメイトはつまらなさそうな顔をしている。

 それでも同年代の男子になんてこれっぽっちも興味が湧かないのは本当のことだ。だってこの前なんて下校中に鼻をほじっている姿を見かけたこともある。そんな姿にキュンとくるハズもない。

 

 

「同年代の男の子なんて子どもっぽいし、全然興味が湧かないというか……」

「ん? じゃあ同年代じゃない人で興味を持ってる人はいるってこと?」

「……んなっ!?」

 

 

 な、何を言い出すかと思えば……! 今のはあくまで同年代に興味が湧かないというだけの話であって、だからといって同年代以外には気になる人がいるとかそんな話ではなくて…!

 

 

「てことは年上だぁ〜! ありすちゃんは年上に好きな人いるんだ〜!」

「か、勝手に話を進めないでください! そもそも私、親しい間柄の男性なんてーー!」

 

 

 自分ではそんな事を言いながらも、頭の中には1人の男性の存在がチラつく。

 迷子になった私を必死に探してくれたり、一緒にスイーツを食べに行ったり、私の寂しさを埋めるため2人でしばらくの間ご飯を作ったりと……私のために色々としてくれたあの人の笑顔が脳裏にこびりつく。

 

 で、でも……っ! 確かに白石さんには色々とお世話にはなっていますし、嫌いでは全然ないですけど! だからと言ってす……好きとか、全然そういうのでは…!

 

 

「ありすちゃん、顔真っ赤だけど大丈夫?」

「だ、だから別に好きとかじゃなくって…!」

「えっ、好き? 何が?」

「あっ……」

 

 

 全身が、つま先から頭の先端までが熱くなっていくのを体感する。きっと今、私の頭からは瞬間湯沸かし器の如くプスプスと湯気が出ていることだろう。

 

 

「し、失礼します…! また明日!」

「えっ! あ、ありすちゃ〜ん!?」

 

 

 私はクラスメイトから逃げるように走って教室から出て行く。これ以上この話を続けたくなかった……続けていたら何か変なコトになってしまう気がしたから。

 

 

(あ〜もう…っ!!)

 

 

 冬だというのに未だ私の体の熱は引かない。それもこれも全部白石さんのせいだということにしておこう。

 というか段々と腹が立ってきた。私はこんなに恥ずかしい思いをしたというのに、脳裏にこびりついた白石さんはヘラヘラと笑っている。

 

 

(今度白石さんに会ったら文句の一つでも言ってやりましょうか……でもそしたら、何で私が怒ってるのかわからない白石さんは慌てそうですね。ふふっ)

 

 

「……ハッ!」

 

 

 こ、これじゃあまるで私が白石さんに会うのを楽しみにしてるみたいじゃないですか…! べ、別にそんなことありません! 本当に白石さんのことなんて……!

 

 

「別に……好きとか、そういうんじゃ……」

 

 

 私は首を大きく左右に振って余計な思考を振り払う。そして急ぎ足で事務所への道を歩き出した。

 

 

 レッスンでもして、早いところこの変なモヤモヤを吹き飛ばしてしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 季節は2月、未だに寒い季節が続くというのに世間は若干浮ついている。

 なぜそんな空気になっているのかは俺にだって分かる。だがしかし、俺には全く無縁のものだ。少なくともこれまでの18年間では母さんにしか貰ったことがない。

 

 えっ、さっきからなんの話をしているのかって? 皆だって分かるだろう…?

 

 2月、リア充、突如出現して街中を占拠したチョコの広告たち。これらのヒントから導かれる答えはもう一つしかない。

 

 

 

「バレンタインのチョコ俺も貰ってみたいなぁ……!」

「うるさいぞ白石」

 

 

 大学の敷地内にあるカフェテラスで、友人とレポートを進めながら雑談を交わす。話の内容は季節柄自然とバレンタインの話になり、俺とは無縁の世界のキラキラした話に打ちひしがれ、大きな声で情けない欲望を吐き出しながらテーブルの上にぐったりとうな垂れる。

 

 

「だってぇ……俺も女の子からチョコ貰ってみたいよぉ……」

「情けない声出すなよ。今年は貰えないかもしれないけど、お前だってこれまでの人生で一回くらいは女の子からバレンタインのチョコ貰ったことくらいあるだろ?」

「母さんからしか貰ったことないぞ」

「……なんかスマン」

 

 

 あ、謝るなよ……俺が余計惨めになるだろ。

 

 

「クラスの子から義理チョコとか貰ったりしないのか?」

「……俺のクラスメイトはムサい男だらけだったぞ」

「あー、お前男子校だったんだっけ……そういえば」

 

 

 懐かしいなぁ……あの頃はバレンタインの時期になるとクラスの男子がソワソワし始めて、下駄箱の中とか机の引き出しにチョコが入っているんじゃないかとドキドキしてたもんだ。

 

 まぁ学校には男子しかいないから勿論入ってる訳がないんだけどね。ははは……笑えねぇ。

 

 

「ん? というかその言い方だとそっちはクラスの女の子から義理チョコ貰ったりしたことあるのか!?」ガタッ

「お、おぉ……すげぇ食いついてきたな。 まぁ……貰ったことあるよ。 というかなんなら義理じゃなくて本命もーーー」

「や、やめてくれぇぇ! そんな話は聞きとうないっ!」

「お前が聞いてきたんだろうが……」

 

 

 こ、コイツ……リアの充の者であったか! 同級生の女の子にチョコを貰うとか、俺なんかの灰色の青春とはまるで違う青春時代を送ってきたんだろうなぁ。

 

 

「あ、ワリィ俺そろそろ行くわ」

「どこ行くんだよ」

「彼女が呼んでる」

「お、お前いつの間に!?」

 

 

 驚愕の声を上げる俺を尻目に、ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべる友人は席を立った。

 

 

「それじゃあな〜」

「裏切り者めーッ!!!」

「はーっはっは!」

 

 

 これまた憎たらしい高笑いをしながら歩き去っていく。1人寂しく取り残された俺はテーブルの上に突っ伏しながら、誰にも聞こえないような声で呟いた。

 

 

「羨ましい……」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 大学を出て家に帰ろうと街を歩く。すると今日みたいな傷心してる日に限って、イチャイチャと楽しそうに歩くカップルの姿が目に映る。

 すれ違うカップルたちの会話を耳を澄ませていると、やれどんなチョコが欲しいとか、今年は手作りにするね♡ とかそんなバレンタイン丸出しの会話をしている人たちが多い。

 

 そして何と、ランドセルを背負った小学生の男女までもが甘ったるい会話を繰り広げているのを視界に捉えた。

 

 

「ねぇねぇ、今年はお母さんと一緒にチョコ手作りするね〜!」

「本当? ありがとう!」

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 さ、最近の小学生はこんなに進んでいるのか!? 俺なんて小学生の頃はもちろん彼女なんていなかったし、それどころかバレンタインの存在すら大して認識してなかったのに…!

 

 

「俺は同級生どころか、小学生よりも遅れているのか……?」

「一体なんの話ですか」

「ん?」

 

 

 俺が嫉妬の炎に身を焦がしていたその時、後ろから突然声をかけられた。振り返ると、そこには白い目で俺のことを見ているありすちゃんが立っていた。

 

 

「おぉー、ありすちゃん。こんにちは」

「こんにちは白石さん。街中で独り言を呟いているなんて側から見たらとても不気味ですよ」

「うっ……聞かれてたのか」

 

 

 知り合いの、しかも年下の女の子に恥ずかしいトコを見られてしまった。俺は動揺を悟られないように、頭の中に浮かんだ話題を反射的に振った。

 

 

「そういえばそろそろバレンタインだね」

「そうですね、先程クラスメイトの方ともそんなお話をしました」

「へぇ〜そうなんだ」

 

 

 ありすちゃんもクラスメイトとそういう話をするんだなぁ……

 ん? というかもしかしたら、ありすちゃんも誰かにチョコ渡したりするのかな? こんなに可愛い子なんだし、もしかしたらさっきの小学生みたいにそういう相手がいたりして……?

 

 

「ありすちゃんは誰かにチョコ渡すの?」

「な、なんでふか急に…!?」

「いや、話の流れでちょっと聞いてみようかと」

「……わ、私が誰かにチョコを渡すのか、そんなに気になるんですか…?」

「えっ、あーうん……まぁ」

 

 

 頬を赤く染め、上目遣いでジーッと俺のことを見つめるありすちゃん。まさかこの反応的に本当にチョコを渡す男がいるのだろうか…?

 

 もしかしてエリート美少女小学生のありすちゃんには、エリート美少年小学生の彼氏がいたり……? それともまさか、ありすちゃんの純粋さに漬け込んだ悪い男が……!?

 

 

「お父さんそんなの許しませんよ!」

「な、何を言ってるんですか急に」

 

 

 くっ……ありすちゃんとは色々あって今では結構仲も良いから、娘とは言わずとも妹のように見ている部分はある。あくまでも俺が一方的にってだけだが。

 そんなありすちゃんが、チャラチャラした金髪唇チェーン鼻ピアス男とかを連れてこようもんなら……

 

 

「ありすちゃん、付き合う男は慎重に選んだ方がいい……」

「だ、だからなんの話ですか! そもそも、私は交際している男性なんていません!」

「えっ、そうなん?」

「そうです。大体、どうしていきなりそんな話になっているのかこっちが聞きたいんですが」

 

 

 どうやら俺の早とちりだったようで、悪いチャラ男に騙されるありすちゃんはいなかった。本当によかった……

 

 

「……で、では逆に私からも問います。白石さんには、その……そういう相手はいないんですか?」

「彼女ってこと? 残念ながらいないけど」

「……そうですか。ではもう一つ聞きます、もし女の子からチョコを貰えたら嬉しいですか?」

 

 

 強張った表情で、チラチラと俺のことを見上げながら質問をするありすちゃん。そんな彼女の問いに、俺はもちろんこう答えた。

 

 

 

「そりゃあ嬉しいよ! もう狂喜乱舞だね!」

「……! そ、そうですか……ありがとうございます。質問は以上です」

「面接官みたいな口調だ」

 

 

 今のやり取りでありすちゃんは何を思ったのかは分からないが、俺の返答を聞いた彼女の口元は僅かに緩んで見えた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 ありすちゃんと歩き始めてから数十分後、俺たちは見慣れた事務所の玄関に到着した。今日は別にバイトの予定は入ってないんだけど、何となくありすちゃんに着いてきて事務所まで来てしまった。

 

 

「さて、それじゃあ私はレッスンに行ってきます。白石さんはお仕事ですか?」

「俺? 俺は特に予定無いから帰るけど」

「えっ!? あ、アルバイトは…?」

「今日は無いよ。だからこの後はフリーなんだ」

 

 

 バイトが入っていないと伝えるとありすちゃんは大きな声を出して驚く。確かに事務所まで来てるんだから何かしら用事があるはずだと思うのが普通だよな。

 

 

「それなら別に……私に着いて来ないで家に帰ってくれてよかったのに」

「いいのいいの。ありすちゃんと話すの楽しかったからさ」

「……! そ、そう……ですか」

 

 

「おーいお2人さーん、何してんの〜?」

「ん? あっ、塩見さん」

「周子さん、こんにちは」

 

 

 俺たちの背中に飄々とした印象を与える声がかけられる。振り返るとそこには小さく微笑みながら手を上げる塩見さんが立っていた。

 

 

「いや〜寒いねぇ……2人は一緒にここまで来たの? まさかデート?」

「デッ…!?」

「……見られちゃったか。誰にも見られないようにお忍びデートだったんだけど」ハァ

「し、白石さんまで何を言ってるんですか!? へ、変な冗談はよしてください!」

 

 

 塩見さんの冗談に悪ノリしてありすちゃんの様子を伺うと、ありすちゃんは顔を真っ赤にしてぷりぷりと怒っている。そんな様子がなんだか微笑ましくて、ついつい俺は口元が緩んでしまう。

 

 

「いや〜、2人とも仲が良いね〜」

「ははは……あれ、塩見さんそれ何持ってるの?」

「ん? あぁコレね、さっきそこでほぼ無理やり渡されちゃってさぁ〜」

 

 

 そう言って塩見さんは手に持った赤い紙を俺たちに見せつけるようにして広げた。その紙にはハッピーバレンタインの文字と、様々な種類のチョコレートがプリントされている。

 

 なるほどなぁ、街中で配られてるバレンタイン広告のビラを無理やり渡されたってことか。

 

 

「いやぁ〜、あたしって案外押しに弱いんかなぁ……それにしても世間はバレンタイン一色だねぇ〜」

「チョコレートの広告とか増えてきたしね。あと街中でイチャこくカップルが多い」

「あっはは〜! 確かに独り身には肩身が狭い時期かもね〜ん」

 

 

 そう言って塩見さんはケラケラと笑う。上げる側と貰う側、立場こそ違えど独り身の者がバレンタインで肩身の狭い思いをするのは変わらないらしい。

 

 

「白石くんはチョコ貰える予定あるん?」

「もちろん」

「おぉ〜、凄い自信だね〜。よっ、色男〜!」

「毎年一つは確定で貰ってるからね」

「あっ……なんかゴメン」

 

 

  謝らないでくれよ……余計惨めになるじゃないか。はははっ……

 

 

「ありすちゃんは誰かにチョコあげるの? お父さん以外で、好きな人とかにさ」

「し、周子さんには関係ありませんっ…!」

「ふ〜ん、じゃああげる人いないんだ」

「い、いないとは言ってません……ただ、迷っているだけで」チラッ

「ん?」

 

 

 なんかありすちゃんにチラ見された気がするけど……気のせいか?

 はっ! それともモテない俺の前でそういう類の話をすることに気を遣っているのか!?

 

 

 

「ほ〜ん……そういうコトね」

「どうかしたの塩見さん?」

「いんや、別になんでもないよ〜ん。ただ、ありすちゃんは可愛いなぁ〜ってね」ニヤニヤ

「っ……! わ、私これからレッスンなので! 失礼します…!」

 

 

 そう言ってありすちゃんは逃げるように走り去ってしまった。別れの挨拶をする暇もなかったが、とりあえず去っていく背中には手を振っておく。

 

 

「さてと、じゃあ俺もそろそろ行こうかな。じゃあね塩見さん」

「ねぇ白石くん」

「ん?」

 

 

 ありすちゃんも無事見送ったことだし家に帰ろうと塩見さんに別れの挨拶をすると、いつも飄々とした態度の塩見さんらしくない真剣な眼差しを向けられる。

 

 

「一つ、聞きたいことがあるんやけど」

「え? 何かな」

「じゃあ遠慮なく。 ありすちゃんのことなんだけど……どう思ってる?」

「ありすちゃん?」

 

 

 いきなりの質問だった。その質問の意図が読めない俺は一瞬だけ体が硬直する。

 しかしいつもとは様子が違って真剣な表情の塩見さんに対して、茶化すようなマネはできないので真剣に答える。

 

 嘘偽りのない、俺が素直に思った言葉を口に出す。

 

 

「"妹"みたいで可愛いなって思うよ。あっ、でも今のはあくまでも俺が一方的に思ってるだけだからさ、ありすちゃんには内緒の方向で」

「妹……か。まぁそうだよねぇ」

「塩見さん?」

「……んーん、何でもないよ。ごめんね急に変なこと聞いたりして」

 

 

 その意味深な態度に何か引っかかる所はあるが、塩見さん本人が何でもないと言っているのでこれ以上の追求はやめておこう。

 

 

「じゃあ俺は帰るよ、またね塩見さん」

「はいよ〜」

 

 

 さっきまでの真剣な眼差しは何処へやら、手をひらひらと振る塩見さんは俺がよく知るいつもの飄々とした態度に戻っていた。

 そして俺は塩見さんに背を向けて、振り返ることなく帰路に着いた。

 

 

 

「妹かぁ……難儀やなぁ、ありすちゃん」

 

 

 1人残された塩見さんのポツリとこぼした独り言は誰の耳に届くこともなく、空気と混じり合って静かに消えた。

 

 





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