346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
一体何事…?
「…………」チョイチョイ
急に現れた女の子、多分小学生ぐらいの子が俺の服の裾を引っ張っている。
「えーと、どうかしたのかな?」
「あ……その………」
女の子は下を向きながらモジモジと口を動かしている。途切れ途切れに聞こえてくる小さな声が、この女の子の性格や内面を表しているようだった。
うーん、なんとかして緊張を解いてあげたいな。
「よいしょ。 なんか困ったことがあるなら言ってごらん?」
「…………うん」
俺は女の子に目線を合わせて、精一杯の笑顔で語りかける。 なんとか俺が悪い人間じゃないことは伝わっただろうか。
「……人を……探しているの……」
「人? お母さんとか?」
「……違う。……一緒に出かけてた……」
「じゃあお友達ってことかな?」
「……うん……」
つまり迷子かな? この子が迷子なのかお友達が迷子なのかはわからないけど。
「えーっと、まず君の名前を教えてくれるかな?」
「……佐城……雪美……」
「雪美ちゃんね。俺は白石幸輝っていうんだ。よろしくね。」
「うん……よろしく……」
あれ?てっきり俺が探すつもりでいたけど、よく考えたら警察にお願いした方がいいような気がしてきたぞ…… 相手の子が雪美ちゃんぐらいの年齢なら一刻も早く見つけないとだし。
「雪美ちゃん。このことおまわりさんに伝えたりは……」
「………」ブンブン
「えーと、今からお兄さんと一緒に交番に行こう?」
「………」ブンブン
めっちゃ首振ってる。これはどういうことだろう? あんまり大事にしたくないってことなのかな?
うーん……なんにせよもう少し話を聞いてみるか。
「じゃあ雪美ちゃんが探してるお友達の特徴を教えてくれるかな? 見た目とか持ち物とか」
「……千秋は……20歳……」
「えっ!?」
20歳って大人じゃん。 完全に雪美ちゃんと同い年ぐらいの子だと思い込んでたけど……じゃあ迷子なのは雪美ちゃんの方か。
「千秋さんはどんな人なのかな?」
「……髪が長い……黒い髪……」
「うんうん」
「……綺麗……美人……」
「うんうん」
「………」アワアワ
これ以上何を伝えればいいのか分からないといった様子で雪美ちゃんはアワアワとしている。
でも流石にそれの情報だけで探すのは中々に大変だぞ。 東京には綺麗な人たくさんいるからなぁ……もう少しだけ何か情報を探らなければ。
「もう少しなんかないかな〜?」
「……その……あの……む、胸が大きい……」
ほう…… ってそんなこと考えてる場合じゃないわ!
「今日はどんな服着てたかな?」
「……黒い……ドレスみたいな……綺麗な服…」
これは中々に有力な情報だ。 とりあえず雪美ちゃんから得た情報をまとめると
・千秋さん(20)
・黒髪ロング ・美人 ・胸が大き……スタイルがいい ・黒いドレスのような服装
なんか俺の頭の中の千秋さんがすごいハードルが上がってきてるぞ。 この情報だけ聞いたらとんでもない美人さんだもん。
「雪美ちゃん、今日歩いてきた道はわかるかな?」
「……」コクコク
「よし! じゃあ一緒に千秋さんを探そうか」
「……いいの?」
「俺今日はこの後暇なんだ。全然平気だよ」
「……ありがとう……」ニコッ
雪美ちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせる。最初話した時に比べて俺への警戒や緊張的なのも大分薄れてきたようでよかった。
そして、俺は雪美ちゃんと一緒に今日歩いていたという道を戻りながら千秋さんなる人物を探し始めた。
「今日はどこかお店に入ったりしたの?」
「……今日は……おさんぽ……してた……」
「そっか。それで千秋さんとはぐれた後に俺を見かけたのか」
「………」コクコク
「でも雪美ちゃん結構勇気あるよね」
「………?」
「だって自分よりずっと年上の人に話しかけるのって結構勇気いると思うよ? しかも初対面で」
「……幸輝は……何歳……?」
「俺は18だよ」
「……8しか……変わらない……」
「え? あははっ! すごいなー雪美ちゃん。俺だったら8個も違うって考えちゃうよ」
引っ込み思案な子かと思ったけど結構肝の座った女の子だな。 それに自分が迷子になったっていうのにすごい落ち着いてるのもすごい。
「……それに……幸輝……悪い人じゃない……」
「え? どうしてそう思ったの?」
「……子どもに……優しかった……」
もしかして子どもにボール投げ返したあれか? そんな大したことじゃないとは思うけど……
「……私の……予想通り……」フンス
「まぁ確かに俺は優しさに定評がある人間だからね。雪美ちゃんは人を見る目があるよ」
「……ふふっ……」
雪美ちゃんとも少しは打ち解けられたようだ。俺は意外と子どもと話すのが得意なのかもしれない。女の子ではあるけど流石にこんな小さな子には緊張はしないしからね。
「………」ジ-
「ん?」
雪美ちゃんが見つめているのはクレープの移動販売店。なんだっけ……キッチンカーって言うんだっけああいうの。
「雪美ちゃん、あれ食べたいの?」
「え……いや……」
「遠慮なんてしなくていいよ。ほら行こう?」ギュッ
「……あ……うん……」
キッチンカーに付いているショーケースの中には、様々な種類の食品サンプルのクレープが並んでいる。
雪美ちゃんはそれを目を輝かせて張り付くように見つめている。
「…………」キラキラ
「何か食べたいのはある?」
「……これ……」
雪美ちゃんが指を刺したのは、イチゴがこれでもかと言うほどたっぷりと入っているものだ。
「よし!すいません、このいちごのやつを一つください」
「はい。かしこまりました〜」
「………幸輝……食べないの?」
「ん? あぁ、俺はお腹空いてないからね。遠慮しないで雪美ちゃんは食べてね」
「…………うん……」
「お待たせいたしました〜」
「お、きたきた!はい雪美ちゃん。」
「……美味しそう……えへへ……」
キッチンカーから離れたベンチに2人で座り、雪美ちゃんはクレープをもぐもぐと食べ始める。 小さな口を一生懸命に動かしているその姿は小動物みたいだ。
「……美味しい……」
「そっか、ならよかったよ」
「……………」
半分ほど食べ進めた時、雪美ちゃんはクレープから口を離してそのクレープをじっと見つめだした。
「雪美ちゃん? もしかしてお腹いっぱいになっちゃった?」
「……幸輝も……食べて……」
「え?」
ずいっと食べかけのクレープを俺の方に差し出してくる。 もしかしてこのままかぶりつけってことだろうか。
「い、いや……俺は今別に……」
「……食べて?」
「じゃ、じゃあ自分で食べるよ……」
「……いいから……食べて……あーん……、して……?」
意外と押しが強いのね……。 うーん、まぁ大丈夫だよね……?
「じゃあ貰うね。………うん、美味しいよ!」
「……ふふっ……食べさせてあげると……男の人喜ぶ……友達が言ってた……」
「へ、へぇー」
一体どこのどいつだ、こんな小さい子にそんなことを教えるなんて。
「……嬉しい……?」
「え、うんまぁね。 あーんとかしてもらうの初めてだし……あ」
「……そうなんだ……喜んだなら……よかった……」
いらんこと言ってしまったな。 これじゃあまるで俺がモテたことのないやつみたいじゃないか……まぁその通りなんですけどね!
「……ご飯は……1人で食べるより……、みんなで食べる方が……美味しいから……」
「雪美ちゃん……そうだね。」
いい子だ……こんなにいい子がこの世に存在するとは……早いとこ千秋さんを探して安心させてあげなければ(使命感)
「よし!じゃあ早く千秋さんを探そう!」
「……うん……」
その後も千秋さんを探すべく雪美ちゃんの記憶通りに様々な場所を探したが中々に千秋さんは見つからない。 気づけば空もオレンジ色に染まってきている。
うーん……流石にあともう少しして見つからなければ警察にお願いするしかないな。雪美ちゃんは大事にしたくないみたいだけど……
「雪美さんっ!」
「ん?」
「……あ……」
向こうの方から女性がすごいスピードで走ってくる。 長い黒髪によく似合う黒のドレスのような服、そしてめちゃくちゃ美人でスタイルが良い。これは……もしや?
「雪美さんっ! どこに行っていたの!?」
「……千秋……ごめんなさい……」
「もうっ、心配するじゃないっ……」ギュッ
やっぱりこの人が雪美ちゃんの探していた千秋さんっぽいな。 確かに雪美ちゃんが挙げていた特徴は全部当てはまる。
ていうかめちゃくちゃ美人。はっきり言って俺の頭の中のハードルが上がりきっていた千秋さん像を余裕で飛び越えて行かれた気分だ。
「もしかしてあなたが雪美さんを……?」
「あ、いえ、俺はちょっと一緒に探していただけで……雪美ちゃんは1人でもとても立派でしたよ。とても落ち着いていました。」
「そう、本当にありがとう。感謝してもしきれないわ」
「いえいえ、そんな」
「……幸輝……、優しかった…… 」
「雪美さんもこう言っているわ。本当にありがとう」
そう言うと千秋さんは見惚れるほど綺麗なお辞儀を披露した。その横で釣られて雪美ちゃんも頭を下げている。
なんか背中がむず痒いな……こんなに感謝されるとは。
「……あーん……してあげたら……喜んでた……」
「えっ?」
「ちょっ!」
雪美ちゃんの発言を聞いた途端、千秋さんの俺を見る目が一瞬にして何かを疑うような目になる。
ま、まずい……これじゃ俺が小さな女の子にあーんをさせた変態ロリコン男みたいじゃないか!?
「あーんですって……?」
「ちょ、誤解ですよ!雪美ちゃんにクレープを買ってあげたら、それを分けてくれただけで!」
「そ、そうよね! ごめんなさい私ったら……雪美さんを助けてもらったのに……」
「あ、あはは。大丈夫ですよ」
焦った〜 危うく通報モンだったぞ……
「それじゃあ私たちはそろそろ。雪美さん、次ははぐれないでちょうだいね?」
「……うん……じゃあね……幸輝……、また会える……?」
「え? ……うん、またいつか会えるよ」
「……そっか……じゃあ……、またね……」
雪美ちゃんはそう言うと手を振りながら千秋さんに手を引かれていった。
千秋さんの方は最後にもう一度、俺に向かって綺麗なお辞儀をして去っていった。
なんか急に1人になっちゃったな……べ、別に寂しくなんかないけど! ……嘘です、なんか寂しい気分です。
「じゃあ俺も帰るか」
まぁ2人がちゃんと再会できてよかったな。我ながら良いことをしたもんだ。 自分へのご褒美として、帰りに少し高いアイスでも買っていこう。
ご意見・感想等ございましたらよろしくお願いいたします。