346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
「そろそろかな……」
先日、塩見さんから突然取り付けられたお出かけの約束。俺はその集合場所である駅の前で塩見さんのことを待っている。
いや、でもよく考えたら塩見さんだけが来るのかは分からない。何人で来るのか、どこに行って何をするのかなど俺は何も聞かされていないというのが現状だ。聞かされてるのは今日ここで待っていろという事だけ。
「……何すんのかねぇ」
待ち合わせ時間15分前になったその時、向こうの方から見覚えのある人物が俺に向かって歩いてきているのを見つけた。
「あれ、ありすちゃん?」
「……こ、こんにちは。白石さん」
モジモジと動き、髪の先を指で弄り回しながら挨拶をするありすちゃん。相変わらず目を合わせてはくれない事がやっぱりショックだ。
「ありすちゃんも塩見さんに呼ばれたんだね」
「……そ、その事なんですけど」
「ん? あ、ごめんちょっと待って。塩見さんからメールだ」
ポケットの中で振動するスマホを取り出すと塩見さんからのメール。画面にはとても簡素な文章で行けなくなったとだけ記載されていた。
「え、塩見さん来れなくなったんだって」
「来れなくなったと言いますか、最初から来る気は無かったと言いますか……」
「ど、どういうこと?」
「実は……」
ありすちゃんからの説明を聞くとどうやら俺は塩見さんにハメられたようで、元々ここにはありすちゃんと俺だけが集まる予定だったという事らしい。
でもどうしてそんな事を……塩見さんがそんなしょうもない嫌がらせなんかするとは思えないし、何か理由がありそうなんどけどな。
「俺とありすちゃんを2人きりにした理由か……」ボソッ
「し、白石さん…?」
……はっ! わ、分かったぞ! 2人だけの時間を作ってやるから、ありすちゃんとのぎこちない雰囲気を修復しろっていう塩見さんなりの気遣いだな!
きっと何かしらの理由でありすちゃんが俺と目を合わせてくれない事を知った塩見さんが、わざわざ一芝居打って俺にありすちゃんと仲直りする機会を設けてくれたんだ!
「塩見さん……なんていい人なんだ」
「あ、あの、白石さん?」
「ん? あ、あぁごめんごめん。ちょっと考え事してたからさ」
「そ、それならいいですけど」
さてと、問題はどうやってありすちゃんとの関係を修復するのかだけど……
「ありすちゃん、これからの事なんだけど」
「は、はいっ……なんでしょうか」フイッ
とりあえず話でもしながら考えようと思ったが、やっぱりありすちゃんは俺が声をかけるとそっぽを向いてしまう。
どうしたものかと何気なくありすちゃんのことを見つめていたが、ふと彼女の姿にいつもと違う違和感を覚えた。
あれ、なんかいつものありすちゃんと違うような……あっ、髪の毛か!
よく見ると、ありすちゃんの特徴の一つでもある綺麗な黒髪の先が少しだけカールされている。しかもそれだけじゃなくて、唇にも少しだけ色付きのリップが塗られているようだ。
「ありすちゃん、その髪って……」
「……! い、いえこれは……その、そういう気分だったので」
そう言ったありすちゃんは、俯きながら自然にカールされた毛先をくるくると指で弄くり回した。そんな仕草が可愛らしくて思わず微笑んでしまう。
「あっ、それと服も可愛いね。 俺あんまりファッションとかよく分かんないから上手く言えないけど……似合ってるよ」
「あ、ありがとう……ございます」
ありすちゃんはひざ丈のニットワンピースの上に、白くてもこもこのカーディガンを羽織っている。そして後頭部にはベレー帽のようなものがちょこんと被せられている。
少なくとも俺は今まで見たことのない服装だが、なんというかオシャレだなぁって思った。
「何だか……今日はありすちゃん、凄いお洒落だね。あっ! いや普段も充分お洒落で可愛いと思うけどね!?」
「お、落ち着いてください! 褒めてくれてるのは分かっていますから! そ、それより……変じゃないですか?」
「変なワケないよ。 すっごい可愛いと思うよ」
「…! そ、そうですか……なら、よかったです」
嬉しそうなありすちゃんを見てると何だかこっちまで嬉しくなってくるな。
この調子で今日が終わる頃には、以前までみたいに普通に話せる関係性に戻ってるといいんだけどなぁ。
「さてと、ありすちゃん」
「は、はい?」
「折角集まったのにこのまま何もせず解散ってのは寂しいからさ、これから俺とどっかに遊びに行かない?」
「も、もちろんです…!」
よし、とりあえずどっか行くことは決まったんだけど……どこに行こうか。 ありすちゃんはどういう所に行ったら楽しんでくれるんだろう?
「あ、あの! 白石さん!」
「ん?」
「その、行く場所なんですけど。 私に……任せてくれませんか?」
絞り出したような声でありすちゃんはそう言った。その時、久しぶりにありすちゃんと目が合ったような気がしたのはきっと勘違いじゃないだろう。
〜〜〜〜
「おぉ〜、美味しそうだね」
「は、はい! そうですね!」
あの後カフェにやってきた俺たちは、前々からありすちゃんが目をつけていたというイチゴのパンケーキを食べに来ていた。
テーブルを挟み向かい合って座る俺たちの前には、シロップと大きくて甘いイチゴがたんまりと乗せられたスフレのパンケーキが置かれている。甘いもの好きにはたまらないだろうなといった感じだ。
「いただきます」
「い、いただきます!」
ナイフで切ったケーキをフォークで刺して口に運ぶ。口の中には程よい甘さとイチゴの酸味が広がって自然と口角が上がってしまう。
そして視線をケーキから正面に座るありすちゃんへと向けると、若干興奮気味の彼女は目をキラキラと輝かせながらパンケーキを口いっぱいに頬張っている。
「……ふふっ」
「どうしたんですか?」
「いや〜、美味しそうに食べるなってさ」
「んなっ! あ、あまりジロジロと見ないでください……」
顔を赤くしたありすちゃんは照れを隠すようにそっぽを向いてしまう。折角いい感じにリラックスしていたのに余計なことを言ってしまっただろうか。
「そういえば、前にもこんなことあったね」
「えっ?」
「ほら、前もありすちゃんとこうしてイチゴのスイーツを食べに行ったなって。その時は他にも鷺沢さんとか塩見さんとかいたけど」
「……そうでしたね。ふふっ、なんだか懐かしいです」
まぁあの時は俺を入れて6人もの大所帯だったから、今日の2人きりの状態とは結構違うんだけどね。そう考えると、ありすちゃん的には今日も鷺沢さんとかいた方が良かったんだろうな。鷺沢さん大好きっ子だし。
「今度はまたあの日みたいに、塩見さんとか鷺沢さんとも一緒に遊びに行けるといいね」
「はい、そうですね……で、でも!」
「ん?」
「……確かに文香さんたちとお出かけするのも楽しいですけど、私は白石さんと2人でいるのも……た、楽しいです」
「あ、ありすちゃん…!」
な、なんていい子なんだ……ありすちゃんは天使なのかな?
思わぬありすちゃんの言葉を受けて目頭がジーンと熱くなり泣きそうになるが、俺はそれを隠すために残りのパンケーキを勢い良くガツガツと口に詰め込んだ。
「ど、どうしたんですかいきなり」
「……ごめんごめん。ちょっとお腹が空いてたからさ」
「そうでしたか……そ、それでしたら私の分もどうぞ」
「いやいや、そんな悪いよ……って、ありすちゃん何を…?」
俺の正面に座るありすちゃんは、パンケーキの刺さったフォークを俺の方へと向けてきている。目一杯伸ばされた腕はぷるぷると震え、そんな行為をしている彼女の顔は真っ赤に染まり今にでも爆発してしまいそうだった。
「ど、どうぞ……」
「いやいや、どうぞと言われましても……」
「ケーキの事でしたら、私1人で食べるには少し多かったので……お気になさらず…!」
「そ、そういう問題じゃないんだけどなぁ」
要するに、これはアレだよな? あーんして食べさせようとしてくれてるってことだよな。流石にそれは……こんな小さな子に食べさせてもらってるとか絵面的にもヤバいし、そもそもありすちゃんは急にどうしてこんなことを…?
「は、早くしてください……」
「いや〜、流石にそれは……くれるって言うんなら自分で食べるからさ。あはは……」
「つ、つべこべ言わずに早く食べてください! 恥ずかしさで気絶しますよ! 私が!」
「だったらやめればいいんじゃないかな!?」
ど、どういう脅迫なんだそれは。 いやしかし、ありすちゃんが腕を下げる様子は全くないし、この前みたいにオーバーヒートを起こして本当に気絶されたら大変だ。ここは俺が折れて早いとこ食べた方がいいのかもしれない。
「じゃ、じゃあ……いただきます」
「どうぞ……」
俺は周りに見られていないことを確認すると、意を決して口を開いてフォークの先のケーキに食いついた。
「どう、ですか…?」
「いや……うん、まぁ美味しいよ」
「ど、ドキドキ……したりしましたか?」
「えっ? あーうん、ある意味では…?」
まぁ、周りの人に見られてないか気になるって意味では……心臓バックバクだったけど。
とりあえず周りには見られていないようでホッと一息をついたが、ありすちゃんはまたしてもフォークにケーキを刺して俺の方へと突き出してきた。
「でしたら、残りの分もどうぞ……」
「えっ!? いや、もういいって!」
「は、早くしてください! 気絶しますよ!」
「だからそれどういう脅迫ゥ!?」
結局、ありすちゃんの勢いに押された俺はその後も4回ほどあーんでケーキを食べさせてもらった。
それにしても……いきなりあーんだなんて、一体どういう風の吹き回しなんだろう…? 俺は揶揄われていたんだろうか? でもそれにしてはありすちゃんの方がダメージを負っていたようにも見えたし……うーん、謎だ。
〜〜〜〜
「ありすちゃん、今日は任せてくれって言ってたけど次行くとこも決まってるのかな?」
「はい、もちろんです」
カフェを後した俺は、ありすちゃんと並びながら次の目的地へと向かう。
そういえば、いつの間にかありすちゃんは普通に顔を見て話してくれるようになった。まぁこれを言うとまた元の状況に戻っちゃうかもしれないから言わないけど。
「で、今はどこに向かってるの?」
「……水族館です」
「水族館? へぇ〜」
「い、嫌でしたか?」
「いんや、そんな事ないよ。 もうしばらく行ってないから久しぶりだな〜って」
水族館、か……土曜日に駅前で待ち合わせして、その後カフェ行って水族館に行くってなんというかーーー
「なんかデートみたいだな……」ボソッ
「へっ!?」
「あっ、ごめんごめん。今日のプランってなんかデートみたいだなって思ってさ」
「そ、そうですか……デート、ですか」
……我ながらちょっとキモい発言をしてしまったような気がする。 いくら無意識だったとはいえ、ありすちゃんからすればただ遊びに出かけてるだけなのにデートとか言われたらびっくりするよな。折角普通に話してくれるようになったのにまた下を向いちゃってるし。
でもカフェからの水族館とかって、まさに王道のデートプランって感じだったから思わず口から出ちゃったんだよ……まぁ俺デートしたことないけど。
「あ、あの……白石さんは、私とデートするって……どう思いますか?」
「えっ? ど、どういう意味?」
「別に、ただの時間潰しの雑談です。 それじゃあ質問を変えます。 年の差がある恋愛については……どう考えますか?」
「ん? んんー?」
ありすちゃんからの問いに対して俺は首を傾げる。 いきなり何の話なんだろうと思ったが、暇つぶしの雑談ってことならそこまで深い意図はないのだろうか。
にしても年の差か……まぁ法に触れなきゃ別にいいんじゃないかと思うけどなぁ。 大人と子どものはダメだけど、大人同士なら年の差があろうと関係ないし……いやでも結局は本人同士が愛し合ってるならいいのか…?
「ぐ、ぐぬぬ……」
「あの、大丈夫ですか?」
「ごめん、色々と考えてたら頭こんがらがってきて……まぁ月並みな意見になるけど、法に触れないで本人同士が本気で愛し合ってるならいいんじゃないかな?」
「……そうですか」
俺の答えに対して、ありすちゃんは平坦な声で一言だけそう呟いた。
か、感情が読めない……俺の今の答えはありすちゃんからして正解だったのか不正解だったのかどっちだ…?
「あ、ありすちゃんはどう思ってるの?」
「私ですか? 私は……」
何か話を繋げないといけないと思った俺は、ありすちゃんにも同じ問いを投げかけた。すると彼女はチラリと俺の顔を見上げた後に前を向きながらゆっくりと語り始めた。
「私は……否定的でした。以前までは」
「へぇ〜そうなんだ。でも以前はって事は今は違うの?」
「……昔読んだ小説に、教師と生徒が禁断の恋に落ちる話がありました」
「あー、割とドラマとか小説にはよくあるよね。そういうの」
俺の言葉にありすちゃんは一言、「そうですね」とだけ答えて静かに笑った。
「2人の立場や年齢からすれば、その恋を法律や世間が許してくれるはずありません。例え本人同士が本気で愛し合っていたとしても。当時の私もそっち側の意見で、法で禁止されているのならダメに決まっていると思っていました」
「まぁ……そうだよね」
「ですが、例え世間や社会のルールが許さないとしても……自分ではどうしようも無い程に愛おしい人ができてしまった。最近は、そんな感情も間違いではないのかな……と、思うようになりました」
お、おぉ……なんというか、ありすちゃんは本当にしっかりしてるな。 俺12歳の頃にこんな事全く考えたことなかったぞ。
「それで、その小説の話は結局どうなるの?」
「……その2人は、結局結ばれませんでした。ふふっ、まぁ私の予想通りでしたけど」
そう言って笑うありすちゃんの横顔は、どこか悲しげな表情をしていた。俺は何故かそんな彼女に対して何を言えばいいのか分からなくて、口から何も言葉が出てこなかった。
「…………あっ、白石さん。見えてきましたよ」
「おー結構立派だね」
「早速入りましょう!」
「ははっ、そうだね」
目を輝かせて水族館の方を指差すありすちゃんは、先ほどまでの大人びた雰囲気とは真逆に年相応の反応といった感じだ。ちゃんと12歳の一面を見るとなんだか安心する。
そして俺たちは水族館の中に入っていくのだが、正直都内の水族館って時点でこじんまりしたモノを想像していたが考えを改めないといけない。中はちゃんと広いし水槽も大きく、アシカなんかが見れるショーの類もやっているようだ。
「久しぶりに来たけど、やっぱりいいモンだね。 なんというか気分が安らぐよ」
「わかります。 水の中で悠々と泳ぐ魚を見ていると落ち着きますよね」
「……あと魚食べたくなるよね」
「それは全くわかりません」
マジか……めちゃくちゃ白い目で見られてしまったぞ。 まぁでも確かに、水族館の食堂で海鮮丼とかあると少しだけ複雑な気分になるのは分かるかもしれない。
と、まぁそんな会話をしながら俺たちは水族館の中を進んでいく。色々な水槽の中で泳ぐ様々な魚やペンギンを見たありすちゃんは楽しそうに笑っていたのだが、その中でも特に熱心に眺めていたヤツがいた。
「………」ジ-
「ありすちゃん、さっきからすごい見てるけど気に入ったの?」
「そ、そんなに見ていましたか…? ですが、はい。 実は以前お仕事で見たことがありまして……その時に可愛いなと思ったので」
そう言ってありすちゃんが見つめる水槽の中には、土の中から細長い体を出して一生懸命に上を向いているニシキアナゴという魚がいた。
土の中からにょろにょろと沢山のアナゴたちが体を出しているその光景は、俺的には面白いって感じだけどありすちゃん的には可愛いと思ったようだ。
「ふふっ」
ニシキアナゴも確かに可愛いのかもしれないけど、俺からすればソレを夢中になって見つめているありすちゃんの方が可愛らしいと思ったのは内緒の話だ。
〜〜〜〜
大方のエリアを回った俺とありすちゃんは水族館の出口にまでやってきていた。 満足感に包まれながら外に出ると既に空はオレンジ色に染まっていた。
「ふぅ、楽しかった〜」
「ほ、本当ですか?」
「もちろん! 久しぶりの水族館、満喫させてもらったよ。 これもありすちゃんのおかげだね」
「そ、そんなことは……」
俺が礼を言うとありすちゃんは顔を赤くして目を逸らすが、この前までの避けられてる感じのやつではないので問題は無い。ただ照れくさかっただけだろう。
「そういえば白石さん、その紙袋は何なのか聞いてもいいですか?」
「よくぞ聞いてくれたね、ありすちゃん」
「はい?」
「ふっふっふっ……じゃーん!」
俺は紙袋から、オレンジと白の縞模様をした大きなニシキアナゴのぬいぐるみを取り出す。ソレを見たありすちゃんは目を丸くしてぬいぐるみを見つめている。
「ど、どうしたんですかそれ…?」
「さっきお土産コーナーで見かけたからさ。ありすちゃんへのプレゼントだよ」
紙袋から取り出したぬいぐるみをありすちゃんに渡すと、彼女はそれをぎゅっと抱きしめながら俺の顔を見た。
「……あ、ありがとうございます…!」
「いいのいいの、今日はありすちゃんのおかげで俺も楽しかったからさ。そのお礼ってことで」
「で、ですがやはり私だけ貰うというのは……」
「ふっふっふ、実は俺のもあるんだよね」
「えっ?」
俺は袋からもう一つのぬいぐるみを出す。ありすちゃんに渡したニシキアナゴのやつとは色違いの青と白の縞模様だ。驚いた顔をするありすちゃんの顔を見て得意げに笑う。
「なんか俺も欲しくなっちゃってさ。同じやつ買っちゃった」
「そ、そうだったんですか」
「お揃いだね、ありすちゃん」
「っ……!は、はい……!」
嬉しそうにぬいぐるみを抱くありすちゃんを見ていると、買ってよかったという気持ちになる。
今日は俺自身もすごく楽しかったし、ありすちゃんも普通に話してくれるようになったしで良いこと尽くしだな。
「あ、あの白石さん! この後はーーー」
「あーいや、そろそろ帰ろっか。あんまり遅くなると良くないし」
「あっ………も、もうそんな時間……ですか」
名残惜しいけどそろそろお開きにしよう。ありすちゃんみたいな子どもを遅くまで連れ歩く訳にもいかないしな。
「あ、あの……もう少し、だけ」
「んー俺もそうしたいけどもう遅いから。暗くなると危ないし……なにより今日は俺がありすちゃんの保護者みたいなもんだからさ、責任を持って家まで帰さないとね」
「保護者……です、か……」
弱々しく呟いたありすちゃんの声は俺の耳に届かない。俺は前を向いてゆっくりと帰り道に向かって歩き出したのだが……
「さてと、じゃあ帰ろっか……ん?」
「ま、待って……ください」
「ありす……ちゃん?」
歩き出そうとした俺の手を、後ろからありすちゃんの小さな手が掴んで離さない。何事かと思って振り向くと、そこには紅潮した頬と潤んだ瞳で俺のことを真っ直ぐ見つめてくるありすちゃんの顔があった。
今まで見たことない彼女のそんな表情を見た俺の心臓は何故かどくんと大きく跳ねた。
「いや、です……保護者なんて」
「え?」
「……私はもっと、白石さんと…! た、対等な関係で……いたいです!」
今にも泣き出してしまいそうなほど悲痛な叫びを上げるありすちゃん。俺の体はいきなりの展開について行けずに固まってしまう。
「まだ……一緒にいたい、です」
「あ、ありすちゃん? 急にどうしーーー」
「まだ、白石さんと……一緒にいたいんです!」
駄々をこねる子どものような事を言い出すありすちゃん。いや、彼女はまだまだ子どもだから別におかしくはないのだが、普段のありすちゃんらしくはない。
「私が……私が子どもだから早く帰らなくちゃいけないんですか…?」
「あ、ありすちゃん? 何を言って……」
「私が、私がもし白石さんと同じ年齢で、子どもじゃなかったらまだ一緒にいられたんですか…!?」
段々とヒートアップしていくありすちゃんを落ち着かせようと、俺は屈んで目線を彼女と同じ高さにする。そして肩を優しく掴み無理やり笑みを作って声をかけた。
「い、一旦落ち着こっかありすちゃん。 ほら、遊びに行くんならまた今度行けばいいーーー」
「好きです」
「……は?」
え、今なんて……?
「あ、ありすちゃん…?」
「好き、好きなんです…! 自分じゃもうどうしようもないくらい……好きなんです!」
な、何……を、言って……
俺は固まったままの表情でありすちゃんの顔を見るが、彼女の顔は真剣そのもので全く冗談を言っているような雰囲気ではない。
……ありすちゃんが、俺のことを好き…?
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