346プロの雑用バイト君   作:焼肉定食

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side arisu

 

 

「あ、あの……周子さん」

「ん? どったの」

 

 

 周子さんが急に取り付けた白石さんとのデー、お、お出かけ。 本当に急だけど、折角行くなら少しくらいは白石さんとの仲を深めたいと思うのは……いけない事でしょうか。

 

 

「その……男性から意識してもらうためにはどのようにすればいいのでしょうか」

「……ふーん」ニヤリ

「っ! や、やっぱり何でもないです!」

「あーごめんごめん、揶揄うつもりは無いってば〜。ちゃんと協力するってば」

 

 

 周子さんは謝りながら手をヒラヒラと動かしている。どうやら本当に協力をしてくれるつもりはあるらしいので、今回は素直に力を借りることにしよう。

 

 

「ん〜、やっぱり男の子に意識してもらうにはドキドキさせるしかないよね〜」

「ど、ドキドキですか」

「うん。 ね〜、文香ちゃん」

「…申し訳ありませんが、そういった類の話には疎いものでして……」

 

 

 小さく挙手をした文香さんは申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 流石は文香さん。分からないモノは分からないと素直に意見を述べることのできる心……とても素敵です。

 

 

「具体的なやつだと……さりげないボディータッチとか、あとは色仕掛けとか」

「い、色仕掛け!?」

「まぁ白石くんも男だしね。 やっぱり女の子の体とかには興味津々っしょ」

「…しかし周子さん、そのような事はありすちゃんにはまだ……」チラッ

「文香さん!?」

 

 

 ふ、文香さん!? それって一体どういう意味ですか!?

 

 

「ん? あ、あー……そうだね。 ごめん、ありすちゃん」

「どうして謝るんですか!? 今、どこを見て謝ったんですか!」

「まぁそんな怒んないでよ〜。 ほら、色仕掛けはもうちょい成長してからってことで。ね?」

「くっ……」

 

 

 自分の胸部を手で摩りながら、目の前にいる周子さんと文香さんの胸部へと視線を向ける。衣服の上からでもはっきりと膨らみが見て取れる程の大きさを持った2人のソレは、確かに私のソレとは全く違う……

 

 で、でも私だって今のお2人と同じ年齢になる頃にはきっと…! きっと……きっと……

 

 

「はぁ……」

「ほ、ほらほらありすちゃん! そんな落ち込んでる暇ないよ〜? 作戦考えよっか!」

 

 

 珍しく私に気を使うようにあたふたと手を動かす周子さん、その横では文香さんが高速で頭を上下に揺らして頷いている。

 

 ……そうですね。今は遠い未来の話ではなく、すぐやってくる白石さんとのお出かけに集中しなくては…!

 

 

「周子さん、文香さん……よろしくお願いします」

「うんうん、その意気その意気〜」

「…お力になれるか分かりませんが……尽力致します」

「じゃあまずは服でも買いに行こっか〜、デート用のとびきり可愛いヤツをね〜」

 

 

 こうして、私は周子さんと文香さんのお力を借りて、デートのプランや当日の服装からドキドキさせるためのテクニックなどを学んだ。

 

 力を貸してくれたお2人のためにも、今度のお出かけで絶対に白石さんとの距離を少しでも縮めてやります…!

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 よ、よし……! 多分、大丈夫…!

 

 

 手提げバッグの中にある手鏡を取り出して、今日何度目になるかも分からないチェックをする。

 周子さんたちのアドバイスを参考に選んだ服や、いつもとは違うヘアスタイルも違和感なく馴染んでいる……と思う。

 

 

『彼氏がいたことあるっていうあたしの友達が言ってたんだけどさ、デートの時はいつもと違う自分を見せることで相手をドキドキさせられるんだってさ』

 

 

 周子さんの言葉を思い出しながらもう一度自分の姿を確認する。

 白石さんには見せたことのない綺麗な洋服、そしていつもならやらない毛先のカール。いつもと違う自分にはなれてると思うが、肝心なのは白石さんがドキドキしてくれるかだ。

 

 

「あっ……」

 

 

 到着した待ち合わせ場所には、既に白石さんが立っていた。 そもそも今日私が来ることも知らない彼は、私が1人だけでやって来たらどう思うんだろうか。

 

 ……い、今はそんな事考えてないで早く白石さんのとこへ行かなくては! あまり待たせてもいけません!

 

 

「あれ、ありすちゃん?」

「……こ、こんにちは。白石さん」

 

 

 私に気がついた白石さんは、少しだけ驚いたような顔を浮かべたが、すぐにいつも通りの柔らかい笑みを浮かべた。

 

 ……う、うぅ、やっぱり白石さんの顔がまともに見れない。 あの優しい笑みを向けられるだけで、胸がドキドキして、全身がすごく熱くなってしまう。

 

 

「ありすちゃんも塩見さんに呼ばれたんだね」

「……そ、その事なんですけど」

 

 

 そして私は白石さんに事情を説明する。今日ここに来るのは私だけで、周子さんは来ないのだという事を。

 丁度、タイミングを見計らったかのように周子さんからメールも来たので説明はスムーズに済んだ。

 

 

 さて、ここからが本番だ。 今日は2人きりという事が白石さんにも伝わったのだが、ここからが肝心で、どうにかして白石さんとの仲を進展させなくてはならない。

 

 私がプランを頭の中で思い返しながら復習をしていると、何かに気がついた白石さんは一瞬だけ目を見開いた。

 

 

「ありすちゃん、その髪って……」

「……! い、いえこれは……その、そういう気分だったので!」

 

 

 気付いて欲しかった部分に気付いてもらえた喜びと驚きから、頭の中が真っ白になった私は早口で捲し立てるように言葉を発する。

 しかし、そんな私などお構いなしに白石さんは褒め殺しという名の攻撃を続けてくる。

 

 

「あっ、それと服も可愛いね。 俺あんまりファッションとかよく分かんないから上手く言えないけど……似合ってるよ」

「あ、ありがとう……ございます」

 

 

 あぁ……顔が熱い。 無意識に口元がにやけて、全身がぽわぽわといい気分だ。

 少し褒められただけで我ながらチョロすぎるんじゃないかと思ったけど、嬉しいモノは嬉しいんだから仕方ない。

 

 あれ……そういえばさっきから私の方ばかりがドキドキさせられてる気がする。 私が白石さんをドキドキさせないといけないのに……

 

 い、いや! まだこれからです! 1日は始まったばっかりなんですから!

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

「いただきます」

「い、いただきます!」

 

 

 あれからカフェにやってきた私たちは、机の上に置かれたイチゴのパンケーキを前にして手を合わせる。

 

 ふっふっふ、上手いこと白石さんを私の考えたプランに誘導することができました。 ここから周子さんたちと考えた作戦を実行して白石さんをドキドキ……

 

 

「……っ」ゴクリ

 

 

 お、美味しそうなケーキとイチゴの甘くて芳醇な香りが鼻をくすぐる。

 

 ……せ、折角のケーキですし、ここは一旦作戦は置いておいて食事を楽しむことにしましょう。決して誘惑に負けた訳じゃないですけど。

 

 

「んっ……」モグモグ

 

 

 口の中いっぱいにケーキを運んで何度か咀嚼をすると、生地とクリームの程よい甘さとイチゴの酸味が広がる。

 

 こ、これは……美味しいですね。 やはり私の見立てに狂いはありませんでした!

 

 

「……ふふっ」

「どうしたんですか?」

 

 

 何やら視線を感じたので正面に座る白石さんの方を見ると、彼は食事の手を止めて何か微笑ましいモノを見るかの様に笑っていた。

 

 

「いや〜、美味しそうに食べるなってさ」

「んなっ!」

 

 

 ま、まさかそんなに見られていたなんて。 口いっぱいにケーキを頬張るなんて、子どもっぽく見られてしまっただろうか。

 

 あぁ……私のばか。恥ずかしくて顔が熱い。

 

 

「そういえば、前にもこんなことあったね」

「えっ?」

「ほら、前もこうしてーーー」

 

 

 白石さんが語るのは、以前に文香さんと周子さんと奏さんと飛鳥さんも一緒にイチゴのスイーツを食べに行った時の思い出話だ。

 

 

「今度はまたあの日みたいに、塩見さんとか鷺沢さんとも一緒に遊びに行けるといいね」

 

 

 そう言って白石さんは笑う。 確かにまた大人数で出かけるのも絶対に楽しいだろう。だけど、私はそれだけじゃなくて……

 

 

「……確かに文香さんたちとお出かけするのも楽しいですけど、私は白石さんと2人でいるのも……た、楽しいです」

「あ、ありすちゃん…!」

 

 

 勇気を振り絞って思いを伝える。 心臓はバクバクとうるさい程に元気だ。

 

 "2人で"なんて言葉を強調したから、もしかしたら私が白石さんに好意を持っているのがバレてしまったのではないかと恐る恐る視線を正面に戻すが、彼は何故か感動したかのような表情を浮かべていた。

 そして白石さんはそれを隠すように、いきなり物凄い勢いでパンケーキを口の中に放り込み始めた。

 

 

「ど、どうしたんですかいきなり」

「……ごめんごめん。ちょっとお腹が空いてたからさ」

 

 

 はっ! こ、これは……周子さんの言っていたアレをやるチャンスなのでは!?

 

 

 

『いい? ありすちゃん。 一緒にご飯行くような展開に持ち込んだら、あーんして食べさせてあげるんだよ。そしたら距離も縮まるし、白石くんもありすちゃんのこと意識してドキドキする……はず!』

 

 

 お、訪れてしまいました。そのチャンスが! ですが……あ、あーんなんてそんな恥ずかしいこと本当にやらなきゃいけないんでしょうか。

 

 で、でも……ここで逃げる訳には…!

 

 

「そ、それでしたら私の分もどうぞ」

「いやいや、そんな悪いよ……って、ありすちゃん何を…?」

「ど、どうぞ……」

「いやいや、どうぞと言われましても……」

 

 

 顔が爆発してしまいそうな程の羞恥に耐えながら、フォークにケーキを刺して白石さんの口元へと差し出す。

 想像通りといえば想像通りだが、白石さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。流石に簡単には食べてくれない。

 

 

「け、ケーキの事でしたら、私1人で食べるには少し多かったので……お気になさらず…!」

「そ、そういう問題じゃないんだけどなぁ」

 

 

 くっ……は、早く食べてくださいよ白石さん! 早くしないと、恥ずかしすぎて私の方が持ちません!

 

 

「つ、つべこべ言わずに早く食べてください! 恥ずかしさで気絶しますよ! 私が!」

「だったらやめればいいんじゃないかな!?」

 

 

 私はもう何がなんだかよく分からないまま、思ったままの言葉を口から吐く。 するとどうやらこの言葉が効果が有ったようで、観念した白石さんは私に向かって大きく口を開いた。

 

 震える腕に鞭を打って私はフォークを彼の口の中に運ぶ。もう辺りの音や声は私の耳に届いておらず、自分の心臓のバクバクとしたうるさい音しか聞こえていない。

 

 

「どう、ですか…?」

「いや……うん、まぁ美味しいよ」

「ど、ドキドキ……したりしましたか?」

「えっ? あーうん、ある意味では…?」

 

 

 む……なんだか煮え切らない返答ですね。ここはもう一押し…!

 

 

「でしたら、残りの分もどうぞ……」

「えっ!? いや、もういいって!」

「は、早くしてください! 気絶しますよ!」

「だからそれどういう脅迫ゥ!?」

 

 

 やはり気絶脅しは有効なようで、白石さんは残りのケーキも私のあーんで大人しく食べきってくれた。

 でも結局、白石さんがあーんでドキドキしてくれたのかは分からず終いだ。私の方はかなりドキドキしたけど……

 

 

 周子さん、文香さん……コレは本当に効果があったんでしょうか…?

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 カフェを出た私たちは、次なる目的地である水族館への道を進んでいる。カフェでお茶をしてから水族館だなんて……これぞまさしく王道のデートなのでは?

 

 って! わ、私ったら何を考えて……! これをデートだと思っているのは私だけで、きっと白石さんからすれば普通に遊びに出かけてるだけなのに。

 

 

「なんかデートみたいだな……」ボソッ

「へっ!?」

「あっ、ごめんごめん。今日のプランってなんかデートみたいだなって思ってさ」

 

 

 突然、横を歩く白石さんが小さな声で呟いた。しかもその発言の内容が私の考えていた事と全く同じだったので、コレに驚くなと言うのは無理な話だろう。

 

 デート、デート……か。 今の発言は、白石さんもそう思っていたってことですよね…? という事は、少しは私のことを意識してくれているんでしょうか。

 

 ……期待しても、いいんでしょうか。

 

 

「あ、あの……白石さんは、私とデートするって……どう思いますか?」

「えっ? ど、どういう意味?」

「別に、ただの時間潰しの雑談です。 それじゃあ質問を変えます。 年の差がある恋愛については……どう考えますか?」

「ん? んんー?」

 

 

 ……少し踏み込み過ぎただろうか。 質問の意図がわからないといった様子で白石さんは唸りながら首を傾げている。

 

 ……でも、大事な質問だから。

 

 

「ごめん、色々と考えてたら頭こんがらがってきて……まぁ月並みな意見になるけど、法に触れないで本人同士が本気で愛し合ってるならいいんじゃないかな?」

「……そうですか」

 

 

 白石さんから返ってきたのはそんな答え。社会のルールに触れることはせず、かと言って本人同士の気持ちも尊重する。真面目で優しい、実に彼らしい答えだ。

 

 

「あ、ありすちゃんはどう思ってるの?」

「私ですか? 私は……」

 

 

 そんな白石さんからのカウンターに私は言葉が詰まった。自分では質問をしておいて、自分が聞かれた時の解答を考えていなかったなんて何とも間抜けな話だ。

 

 

「私は……否定的でした。以前までは」

「へぇ〜そうなんだ。でも以前はって事は今は違うの?」

 

 

 そう、今は違う。 違うというよりも、変わった。いや、アナタに変えられた。

 

 

「昔読んだ小説に、教師と生徒が禁断の恋に落ちる話がありましたーーー」

 

 

 2人の立場や年齢からすれば、その恋を法律や世間が許してくれるはずがない。それは当時の私も同じで、法で禁止されているのならダメに決まっていると思っていた。

 でも最近は……そんな周りの目やルールの様な小難しい事がどうでもなくなる程に、愛しい人が出来てしまったという人の気持ちも分かるようになった。

 

 

 何故なら、私も恋を知ってしまったからだ。

 

 

 禁断の恋を題材にした恋愛小説や恋愛マンガ、それと恋愛映画に登場する架空の人物たちが理解できなかった。

 なぜ社会のルールを破る様な、危険な橋を渡ってまで恋に走るのか。実際に作中ではそのせいで社会的に危ない目に遭っている作品もいくつかある。そんな人を見ておかしいんじゃないかと私は思っていた。

 

 でも……おかしいのは、私も同じだった。

 

 

 

 

「それで、その小説の話は結局どうなるの?」

 

 

 自分でも無意識に何かを語っていたらしく、何を口にしていたのか覚えていない。私は白石さんからの問いに対して、少しだけ慌てたのを悟られない様、努めて冷静に答える。

 

 

「……その2人は、結局結ばれませんでした。ふふっ、まぁ私の予想通りでしたけど」

 

 

 フンと鼻を鳴らして強がりを見せる。当時は2人が結ばれなかった事に対してそりゃそうだろうと冷めた意見を持ったが、今改めてその結末を思うと胸が締め付けられた。

 作中での2人は本当に愛し合っていたのに、年齢という理不尽な壁によってその恋はかき消されてしまった。

 

 私の恋も、そうなるのかな……?

 

 

 あぁ……そうならないといいな。なんてどこか他人行儀な考えに浸っていると、視界の先には目的地である水族館が見えてきた。

 私はこの薄暗い気持ちを悟られないように、なるべくいつも通りな自分を演じて白石さんに声をかける。

 

 

「…………あっ、白石さん。見えてきましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 水族館は心が落ち着くから好きだ。 薄暗い館内の雰囲気や、水の中でゆらゆらと自由に泳ぐ魚を見ていると自然にリラックスできる。

 

 

「久しぶりに来たけど、やっぱりいいモンだね。 なんというか気分が安らぐよ」

「わかります。 水の中で悠々と泳ぐ魚を見ていると落ち着きますよね」

 

 

 それは横にいる白石さんも同じだったようで、水族館をプランに入れて良かったとバレないように一つ息を吐く。

 

 

「……あと魚食べたくなるよね」

 

 

 すみません、それは全然分かりません。

 

 

 それから私たちは館内を歩き回って、色々な水槽やエリアを見て回った。最初は周りにいる家族連れの人たちやカップルの多さが少しだけ気になっていたけど、白石さんと何気ない会話をしながら魚たちを見ていたらいつの間にか気にならなくなっていた。

 

 やっぱり、白石さんと一緒にいると楽しいな……

 

 ずっとこうして、これからも……一緒にいられたらいいのに。

 

 

 

「あっ……」

 

 

 ふと視線を横に向けるとそこにある水槽の中には、土の中からにょろにょろと長い体を半分だけ出しているニシキアナゴが沢山いた。

 

 前に仕事で見たけど……やっぱり可愛い。

 

 

「ふふっ」

 

 

 ニシキアナゴに夢中な私は、自分の横で静かに笑った白石さんの声に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

「ふぅ、楽しかった〜」

「ほ、本当ですか?」

「もちろん! 久しぶりの水族館、満喫させてもらったよ。 これもありすちゃんのおかげだね」

「そ、そんなことは……」

 

 

 白石さんに褒められて恥ずかしくなってしまった私は、つい顔を逸らしてそっぽを向いてしまう。しかしそんな私の態度も白石さんは気にすることなく笑っている。

 

 そういえば、さっきから気になっていた事が一つある。白石さんが手に持っている大きな紙袋は、お土産か何かでしょうか…?

 

 

「そういえば白石さん、その紙袋は何なのか聞いてもいいですか?」

「よくぞ聞いてくれたね、ありすちゃん」

「はい?」

「ふっふっふっ……じゃーん!」

 

 

 得意気な顔で歯を見せ笑った白石さんは、大きな紙袋の中に手を入れて何かを取り出した。

 

 あれは……ニシキアナゴのぬいぐるみ…?

 

 

「ど、どうしたんですかそれ…?」

「さっきお土産コーナーで見かけたからさ。ありすちゃんへのプレゼントだよ」

 

 

 そう言って白石さんは私の手にソレを渡してくる。私はソレを力強く抱きしめて白石さんにお礼を言うと、彼は嬉しそうに笑った。

 

 

 プレゼント……白石さんから、私に……

 

 

 

「っ……」

 

 

 あぁ……嬉しいな。 我ながら単純すぎて嫌になるけど、好きな人からプレゼントを渡されたという事実が嬉しくてたまらない。

 

 

「実は俺のもあるんだよね」

「えっ」

 

 

 すると白石さんはもう一つ、私とは色違いのぬいぐるみを取り出して自分の手に抱いた。

 

 

「お揃いだね、ありすちゃん」

「っ……!は、はい……!」

 

 

 どくん、と心臓が大きく跳ねる。"お揃い"という単語を聞いただけなのに、私の心はそのただの単語によって大きく掻き乱されてしまう。

 

 ぬいぐるみの柔らかさを確かめるように、手のひらで左右からニシキアナゴを圧迫して遊んでいる白石さんを見る。ただそれだけのことなのに、元々うるさい鼓動が更にうるさくなる。

 

 

 あぁ……どうしようもない。 もう、自分じゃどうしようもない程、好きっていう気持ちが抑えられない。

 

 

 もっと、一緒にいたい。

 

 

「あ、あの白石さん! この後はーーー」

「あーいや、そろそろ帰ろっか。あんまり遅くなると良くないし」

 

 

 帰ろうと言われただけなのに、私の心はキュッと締め付けられてズキズキと痛む。

 

 そうか、もうそんな時間だったのか。まだ一緒にいたいのに……もっと、白石さんと話していたいのに。

 

 

「あ、あの……もう少し、だけ」

「んー俺もそうしたいけどもう遅いから。暗くなると危ないし……なにより今日は俺がありすちゃんの保護者みたいなもんだからさ、責任を持って家まで帰さないとね」

「保護者……です、か……」

 

 

 ズキン、さっきのやつとは比べ物にならない痛みが胸に走る。それはきっと、白石さんの言った保護者っていう言葉を聞いたからだ。

 

 保護者ってことはつまり、大人と子どもの関係で……白石さんからしてみれば私は特別な女の子でもなんでもなく、面倒を見ているだけの小さな子どもだっていうこと。

 

 

 あぁ……気付きたくなかった。 でも、どこかそんな予感はしていたけど、目を逸らしていた。

 

 

 白石さんからしたら、私はただの子どもなんだ。

 

 

 

 

「さてと、じゃあ帰ろっか……ん?」

「ま、待って……ください」

「ありす……ちゃん?」

 

 

 嫌だ、そんなのは嫌だ。 帰って欲しくない。まだ一緒にいたい。

 

 子どもじゃなくて、1人の女の子として……見てほしい。

 

 

 気付けば私は、白石さんを引き止める様に手を握りしめていた。

 

 

 

「いや、です……保護者なんて」

「え?」

「……私はもっと、白石さんと…! た、対等な関係で……いたいです!」

 

 

 何を言っているんだろう私は。

 

 

「まだ……一緒にいたい、です」

「あ、ありすちゃん? 急にどうしーーー」

「まだ、白石さんと……一緒にいたいんです!」

 

 

 こんなこと言っても、白石さんを困らせるだけなのに。

 

 そんな私の想いとは裏腹に、私の口は一向に止まる気配は無い。

 

 

「私が……私が子どもだから早く帰らなくちゃいけないんですか…?」

「あ、ありすちゃん? 何を言って……」

「私が、私がもし白石さんと同じ年齢で、子どもじゃなかったらまだ一緒にいられたんですか…!?」

 

 

 止まらなきゃ。 これ以上は、ダメなのに。

 

 今日はまだ、そんなつもりじゃなかったのに。

 

 本当はもっと、仲を深めてからのつもりだったのに。

 

 

 

「い、一旦落ち着こっかありすちゃん。 ほら、遊びに行くんならまた今度行けばいいーーー」

 

 

 でも……

 

 

 

 

 

 

「好きです」

 

 

 あぁ……もう止められない。

 

 

 

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