346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
346のアイドルには子どもから大人まで幅広い年齢層の人が存在している。 そして学生アイドルにとって必ずつきものなのが……
そう、勉強だ。
いくらアイドルとして活躍をしている彼女たちでも、本分である勉強を疎かにすることは許されない。346の事務所でも、同年代の学生アイドルが休憩所で固まって勉強をしている光景をよく見かける。
あ、噂をすれば今日も勉強をする学生アイドルの姿が……
「あーもう疲れちゃったよ〜! 千夜ちゃ〜ん、もう終わりにしな〜い?」
「ダメですよお嬢様。そちらの課題は明日が期限なので今日やらないといけません」
「え〜! じゃあ残りの分は千夜ちゃんがやってよ〜」
「それもダメです。私が課題をやってしまってはお嬢様のためになりません」
事務所の休憩所では、制服を見に纏った2人の女の子がノートと睨めっこしていた。
偶然その場を見かけた俺は、特に話しかけたりすることもなくその場から立ち去ろうとしたのだが……
「あっ! 白石さ〜ん! やっほ〜」
「……ど、どうも〜」
「ふふっ、そんな逃げようとしなくてもいいのに〜。ほらほらっ、こっち来てよ〜」
「ちょっ! お、押さないでよ黒埼さん!」
俺のことを見つけた女の子は、俺の肩を掴んでノートの広がっている机のほうへと押してくる。
彼女の名前は黒埼ちとせ。 綺麗な金髪に妖艶な魅力を持った掴みどころのない人だ。ちなみに自称吸血鬼とかいう濃ゆい要素も持ち合わせている。
何故俺がそんな黒埼さんに名前を知られているかというと理由は単純で、前に一度だけ黒埼さんを車に乗せて送迎をしたというだけだ。
「さ〜さ〜! 座って座って〜」
「わ、分かったから押さないで!」
「ほ〜ら千夜ちゃん、強力な助っ人捕まえちゃったよ〜♪」
「ど、どうも……白雪さん」
「……どうも」
俺は黒埼さんに半ば無理やり机の前に置かれた椅子に座らせられる。そして目の前には警戒するような視線を俺に向けてくる、黒埼さんと同じ制服を見に纏った女の子がいた。
彼女の名前は白雪千夜。ぱっつん前髪に黒髪のショートカットで、黒いセーラー服の下にはタートルネックのインナーを着ている。性格に関してはとんでもないくらいクールな印象だけど、黒埼さん曰くとてもキュートな人らしい。
俺が白雪さんと顔見知りな理由も黒埼さんと同じで、彼女を車に乗せて送迎をしたからだ。
「ねぇ白石さん、勉強教えてよ〜」
「うっ……やっぱりそれが狙いなのか」
「だって白石さんって大学生でしょ? それなら私のやってる課題なら簡単に解けるんじゃないかなって。ほら私JKだからさ」
「い、いや〜。でもそれはさぁ……」チラッ
「お前、絶対に手伝うんじゃないぞ。お嬢様のためにならない」
「わ、わかってるよ」
黒埼さんは俺の肩に手を添え、体を寄せて甘えるようにしておねだりをしてくる。それに困って白雪さんの方を見ると、彼女は俺に冷たい眼差しを向けてきた。
何故白雪さんが俺に対してこんなに冷たいのかと言うと、以前俺が2人を同時に送迎した際に、かなり近い距離感で接してくる黒埼さんに対して俺がかなりデレデレとしていたから、警戒心を抱かせてしまったというのが理由らしい。
それ以来俺は白雪さんに「お前」と呼ばれるようになった。悲しいなぁ……
「ねぇねぇ白石さ〜ん。私の宿題代わりにやってよ〜?」
「ぐっ! そ、そんなに甘えるような猫撫で声を出してもダメだぞ!体を寄せてきてもダメ! 胸元のボタンを一つ外してもダメ!俺はそんな分かりやすい誘惑には屈しない!」
くっ……お、俺はこんな分かりやすいハニートラップには引っかからないぞ…! 心を無にしろ! 煩悩をかき消せ! お母さんの顔を思い出せ!
「あはっ♪ なんかすっごいブツブツ独り言言ってて面白〜い♪」
「お嬢様、今すぐその獣から離れてください。襲われてしまいますよ」
「襲うか!!」
白雪さんは俺のこと一体どんな目で見ているんだ…? 人をそんな年中発情期モンスターみたいな言い方してさ。
「もぅ〜、千夜ちゃんもっと白石さんと仲良くしなきゃダメだよ? ほら、苗字に同じ『白』を持つ者同士でさぁ」
「……お前、今すぐ苗字を変えなさい」
「無茶苦茶言うね君!! そんなに俺と同じ文字が苗字にあるのが嫌なの!?」
「嫌です」
「ハッキリ言うなよぉ!! 傷つくだろ!」
くっ……! これもう好感度0どころかマイナス500くらいだろ。
白雪さんは氷のような視線を俺にぶつけてくるし、横にいる黒埼さんはそんな様子を見て楽しそうに笑ってるし……もうヤダお家帰りたい。
俺が何とかしてこの場から逃げる方法を考えていると、休憩所に別の学生アイドルがやってきた。
「おはようございま〜す! あっ! 3人で勉強会してるの!? 楽しそう〜♪」
「わーお。隙間時間を有効活用して勉強とは学生の鑑ですね。そんな皆さんには凪ポイントを5ポイント贈呈しましょう」
「それポイント貯まると何かあるの?」
「100ポイント集めると、凪がこれまで愛用してきたシャーペン……の芯が貰えますよ」
「えっ、いらな〜。てか100ポイントとか無理じゃない?」
こ、濃ゆいなぁ……。 ここにやって来て僅か数秒で久川ワールド全開だぞ。
休憩所にやって来たのは双子アイドルの久川凪と久川颯だ。物静かな方が姉の凪ちゃんで、元気でハキハキとした方が妹の颯ちゃん。
この2人とも事務所で少し前に話したことがあって一応知り合いだ。
「おはよ〜、颯ちゃん。凪ちゃん」
「ちとせちゃんおはよー! あっ! 折角だしはーも勉強会混ざっちゃおっかな〜!」
「おいでおいで〜♪ 今白石さんに勉強教えてもらうとこだったんだ〜」
「えーっ! 白石さん勉強教えられるの!?」
黒埼さんの言葉を聞いた颯ちゃんが、口元に手を当てて驚愕の表情を浮かべながら大きな声を出した。
ん? もしかして俺ってそんなに馬鹿に見えるの…? 流石にちょっと凹んじゃうぞ?
「白石さんって美波ちゃんと同じ大学に通ってるって聞いたからさ? 勉強できるんだろうな〜って♪」
「えーっ!? 美波さんと同じ大学なの!?
白石さん頭よかったんだ……ちょっと意外かも!」
「脳ある鷹は爪を隠すというやつか。さしもの凪も驚きを隠せません。ちなみに凪は今、爪ではなくポケットにちくわを隠しています」
「……人間誰しも一つは取り柄があるものですね」
「俺が勉強できたらそんなに以外なの!?」
新田先輩と同じ大学に通っているという事実を聞いた途端、白雪さんや久川姉妹は驚きを隠せないと言ったような表情を浮かべた。
そ、そんなに驚かれるって……俺って普段そんなに馬鹿そうに見えるのかな? もうちょっと自分の行動を省みないといけないかもな……
なんて事を考えていると、颯ちゃんは持っているバッグからノートと教科書のような物を取り出して机に広げた。きっと学校から直接事務所に来たから丁度持っていたんだろう。
「よーし! やるぞ〜!」
「頑張れ〜♪」
「お嬢様もご自分の課題を進めてください」
そんなこんなで事務所の一角にて、学生アイドルによるお勉強タイムが始まったのだった。
……俺絶対ここにいらないと思うんだけどなぁ。
〜〜〜〜
お勉強が始まってから30分が経過した。最初は中々集中していなかった黒埼さんも、段々と口数が減っていき今ではしっかりと課題に向かっている。
白雪さんは予想通り黙々と課題を片付けているし、意外と颯ちゃんも喋る事なくペンを動かし続けている。集中するべき時はちゃんと集中するタイプなんだろう。
そんな中、特にやるべき課題も無い俺は……
「はい、次凪ちゃんの番だよ」
「中々やりますね白石さん。ここまで追い詰められたのは実に20年ぶりですよ」
「君まだ14年しか生きてないでしょ。ほら、早く引いて」
何故かトランプを持っていた凪ちゃんとババ抜きをして遊んでいた。周りが真面目に勉強している中で遊んでいるのは申し訳ないが、凪ちゃんにやろうと誘われたんだから仕方ない。
「あ、また揃った。俺そろそろ上がるよ」
「ふむ……では凪はここで手札から速攻魔法を」
「いや、コレそういうカードゲームじゃないから」
「なるほど、それでは凪は手札からダイヤの7を表側守備表示で召喚してターンエンド」
「いやだからコレそういうんじゃない……って、手札俺に教えちゃダメでしょ」
相変わらず独特な感性を持ってるよな。まぁ話してる分には結構面白いからいいんだけど。
「凪ちゃんや、君は宿題とかしなくていいのかね?」
「必要ありません。既に片付けてきました」
「おー、それは偉いね」
「ゴミ箱に」
「前言撤回。ちゃんと後で回収しとくんだよ」
そんな感じで特に中身のない会話をしながら凪ちゃんとババ抜きを続けていると、これまでずっと集中してきた颯ちゃんが声を上げた。
「あー! この問題わかんないよ〜!」
「どれどれはーちゃん。凪に見せてみてください」
「えっ? なーわかるの?」
「わかりますよ」
「すごーい! さっすが〜!」
「明日の給食の献立はハンバーグです」
「ちょっ! そんな事聞いてないよ! でもハンバーグは嬉しいかも!」
ボケをかます凪ちゃんに対して颯ちゃんはテンポ良くツッコミを入れる。
まるでベテラン漫才師のやり取りみたいだ。これぞ双子ならではのコンビネーションだな。
「うー……白石さん教えてよ〜」
「えっ俺? まぁいいけどさ」
「やった〜! さっすが大学生! 頼りになる〜!」
「ふっふっふっ、そう言われると悪い気はしないね」
おだて上手の颯ちゃんに乗せられ気分を良くした俺は、颯ちゃんの隣に座って苦戦中の問題に目を通す。
「あー、こういう問題はね? まず先にココをかっこでくくって、その次にココに代入をして……」
「あー! なるほどー! 分かった気がする!」
「そっか、じゃあ残りは自分で解いてごらん」
「はーい! 白石さんありがとう!」
ふぅ……俺にも分かる問題でよかった。 一応それなりに勉強はしてきたけど、流石に中学の範囲は忘れちゃったりしてるかもしれないしね。
「あー! 颯ちゃんにだけ教えてズルい〜 私には教えてくれないのにぃ〜」
「いや、黒埼さんに教えたら俺が白雪さんに叱られるし……」
「ぶーっ! 千夜ちゃん厳しい〜!」
「お嬢様のためを思ってのことです」
ぶーぶーと文句を垂れる黒埼さんを宥めるように白雪さんが言い放つ。
なんか駄々をこねる子どもとそのお母さんみたいだな……こんな事言ったら白雪さんに怒られそうだから絶対言わないけど。
「あーっ! もう疲れたぁ〜。勉強飽きちゃったよ〜! 白石さん血ぃ吸わせて〜」
「いけませんお嬢様、病気になってしまいます」
「俺の扱い酷くない?」
白雪さんの中での俺の扱いって一体……? もう話を聞いてる限りだと俺のことバケモノか何かだと思ってるよね?
「ちなみにどんな病気なのですか? 凪は興味があります」
「……狂犬病とかその類でしょう」
「あっ、犬扱いなんだ」
犬扱いならまぁいいか(感覚麻痺)もっと酷い奴とか想像してたし。
「あーもう疲れた〜。勉強終わり〜!」
「お嬢様、まだ課題が終了していませんよ」
「もう集中力きれちゃった。残りは家でやるからさ〜。それよりせっかく人数がいるんだから何か楽しいことしようよ!」
「はぁ……まったくお嬢様は」
目をキラキラとさせて何かを企んでいる黒埼さんを見た白雪さんは小さくため息を吐いた。恐らくもう何を言ってもダメだと悟り諦めたんだろう。
「みんなで何かしようよ〜。千夜ちゃんは参加決定として、凪ちゃんもいいよね?」
「凪と遊ぶと火傷しますよ。だがいいだろう。軽く遊んでやるとします」
「やった〜♪ 颯ちゃんもいいよね? あっ、因みに白石さんは拒否権無しね♪」
「まさかの強制参加!?」
くっ……どさくさに紛れてそろそろ帰ろうと思ってたのに退路を断たれてしまった。
「はーも別にいいよ? 宿題も急いでる訳じゃないし!」
「やった〜♪ じゃあ何して遊ぶか皆で考えよ〜!」
黒埼さんがそう言うと各々が何をして遊ぶかを考え始めたので静かになる。俺も一応考えてみるけど中々妙案は浮かばない。
……遊ぶったってまさか、かくれんぼとか鬼ごっこをする訳にもいかないしなぁ。
「むっ…!」
「なー、何か思いついたの?」
「はい。いいマンションポエムが」
「もー! 今はそういうのいいから〜」
真顔で突拍子もないことを言う凪ちゃんの肩を颯ちゃんが掴んでぐわんぐわんと揺らす。久川姉妹のこういうやり取りは見てて微笑ましい。
……ところでマンションポエムってなんだ? 誰も聞かないってことは俺以外の皆は知ってるのか…? き、気になる……
「んー、何も思いつかないね〜」
「そうだね〜」
良い案が浮かんでいないのは俺だけじゃないようで、何も決まらないまま時間だけが過ぎていっていたその時……
「あっ! 良いこと思い出した!」
「黒埼さん、何を思い出したの?」
「前に早苗さんに聞いたんだけどね? 男女が集まった時にすることと言えば……」
「王様ゲームなんだって!」
「えっ!? お、王様ゲーム!?」
黒埼さんのまさかの発言に俺は大きな声を上げてしまったが、他の3人は首を傾げているあたり王様ゲームを知らないのだろう。
「ちとせちゃん、王様ゲームって何〜?」
「凪も知りません。1人の王様を決めるまで戦い続けるバトルロイヤルですか?」
「物騒だなオイ」
「私もやったことは無いんだけどね? 王様ゲームっていうのは……」
黒埼さんが皆に向けて説明をする。そしてそれを聞いた颯ちゃんが真っ先に声を上げた。
「楽しそう〜! はーやりたい!」
「やった〜♪ 他の皆はどうかな?」
「……私も構いませんよ」
「凪もです。王様になった場合の国名と政策を今のうちに決めておかねばいけませんね」
「いや、全然そういうゲームじゃないけど凪ちゃん説明聞いてた?」
「よ〜し! じゃあ王様ゲームに決定〜♪」
若干一名、本当にルールを理解したのか怪しい人がいるけど、とにかく王様ゲームをやることに決まってしまったらしい。
ただ、王様ゲームを誰一人としてやったことのないこの状態でちゃんとゲームができるのだろうか。
……でも女子と王様ゲームとかちょっとだけドキドキするかも。
「あれ? でも王様を決めるくじが無いよ?」
「心配無用ですよはーちゃん。偶然にも凪のバッグに割り箸がいくつか入っています」
「わーい! さっすがなー!」
……何で凪ちゃんのバッグに割り箸あんなに入ってるんだ? まぁでもめんどくさいから聞かなくていいか……
と、そんなことを考えていると、黒埼さんや久川姉妹が割り箸のくじを作り始めた。
俺も手伝おうとしたその時、いつの間にか背後に立っていた白雪さんに肩をめちゃくちゃ強い力で掴まれる。
「……な、なにかな? 白雪さん」
「お前、よく聞きなさい」
白雪さんは俺の耳元に唇を寄せて小さな声で囁く。
なんかこれ囁きボイスみたいでくすぐったいな。あと白雪さんから漂う甘い匂いが……
そんなことを考えていると、後ろから伸びてきた白雪さんの手が俺の首を掴み、喉仏の辺りを指で叩いた。
「お嬢様に妙な命令を出したり、妙な事をした場合……わかっていますね」ボソッ
「……ハ、ハイッ」
それだけを告げると白雪さんは俺から離れて黒埼さんのもとへと向かっていく。俺は一瞬で全身の血の気が引くのを感じた。
「あれ、白石さんどうかしたの? 顔が真っ青だよ?」
「な、なんでもないよっ! あ、あはは……!」
さっきまで感じていたドキドキが別の意味でのドキドキに変わる。
……ま、まずいんじゃないか…? これは。 だって俺はもちろんそんな変な命令とか出すつもりは無い……っていうか、今まさに出せなくなった訳だけどさ。
俺じゃない誰かがそういう肉体的な接触のある命令を出して、それがもしも俺と黒埼さんが指名されてしまった場合……!
「……」チラッ
「……」ギロッ
「ん? 千夜ちゃんどうしたの? そんなに怖い顔しちゃって」
「……何でもありません。少し警告を出していただけです。そこにいる大きな虫に対して」
「えっ虫!? やだ〜! なー退治して〜!」
「安心してください颯さん。虫が何かした場合私が責任を持って……"駆除"しますから」
こ、殺される……! !
この王様ゲーム、俺の命がかかってる…っ!
「よーし、くじできたよ〜♪」
「はー王様やりた〜い!」
黒埼さんが手に割り箸を握りしめる。そしてソレを囲むようにしてそれぞれが割り箸へと手を伸ばす。
「「「王様だ〜れだ!」」」
こうして、俺にとっては命がけの王様ゲームが開幕したのだった……
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