346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
その日、俺はいつも通り喧しい目覚まし時計の音で無理やり起こされた。その後に朝飯を食って服を着替えて、そして歯を磨きながら朝のニュース番組が映っているテレビへと目を向ける。
朝のニュース番組と言ってもガッチガチのお堅い系の番組ではなく、お笑い芸人や俳優女優なんかの芸能人が良く出てくるバラエティー寄りの番組だ。
真面目なニュース番組を見ることはもちろんあるけど、こういう朝のバラエティー番組も結構面白いから俺は結構見るタイプなんだよね。
『続いては朝の占いのコーナーです!』
占いか……
占いという言葉を聞いた途端に、テレビの内容への興味が薄くなる。
別に全く信じていないとか、占いを信じてる人はバカだとかそんな事を言うつもりは無い。
けれど信じてるか信じていないかと二択で問われれば、俺は占いは信じていないタイプの人間だっていうだけの事だ。
何で信じていないかと言われれば……根拠が無いとか、そんなモノに頼りたくないから、とか色々とあるかもしれないけど、俺が信じていない理由は占いが当たったことが無いからだ。
当たった事が無いから信じない。至ってシンプルな理由だと思う。逆に言えば一回でも的中すれば占いを信じる様になる可能性はある。
『朝の占いコーナーでーす! どうぞ〜!』
司会のアナウンサーが手招きをすると、画面の端から顔を覆い隠すようなローブを被ったやけに怪しくて胡散臭い占い師が現れた。
『このお方は、最近巷で評判のよく当たる占い師さんでーすっ! 本日はスペシャルゲストでスタジオにお越しいただきました!』
『……それでは、占いを開始します』
精気のない声でそう告げた占い師は、自分のカバンの中から丸い水晶やタロットカードや水晶ドクロを取り出した。そしてそれらに向かって手を添えて、何やらブツブツと小さな声を出しながら念を唱える。
……もうちょっと道具に統一感出せなかったのかな?
『……見えました。占いが導くとある未来が』
俺がボーッとしながら歯を磨いていると、あっという間に占いの結果が出たと言う占い師はドヤ顔を決めてみせた。
『今テレビの前で歯を磨いている、18歳の大学生で一人暮らしをしていて彼女のいないアナタ……』
「俺じゃん」
あまりにも自然と口から言葉が溢れる。今挙げられた特徴は全て俺に合致するモノだった。
まさに今リアルタイムで俺のことを監視しているのかと疑うレベルに俺のことだった。
『そんなアナタに要注意……。今日は多大なる不幸がアナタを襲うかもしれません。大人しく家の中にいるのが吉……かも。ラッキーアイテムは……』
プツンッ
最後まで聞くこと無く俺はリモコンの電源ボタンを押すと、小さな電子音を響かせてテレビの画面は真っ黒に染まった。
「………」
な、なんだったんださっきの占い……。 あの特徴完全に俺だったよね? 俺以外の何者でもないよね? めちゃくちゃピンポイントだよね?
そ、それに多大なる不幸って……
「………っ」ゾワッ
背中にゾワッとした感覚が広がる。その直後に俺は手をブンブンと振り回しながら、歯ブラシを口から出して大きな声を出す。
「なっ、無い無い! 占いなんて当たらないんだからさ…! た、多大なる不幸なんてそんなのあり得ないよなっ!」
手を大きく振り回し、額に冷や汗をかきながら大声を出す俺は側からみればかなりみっともない姿に映るだろう。 だけどそんな事を気にしている場合では無かった。
さっきの占いの恐怖を消し去るために、俺は今一度心の中で大きく叫んだ。
俺は……占いなんて信じないからな〜っ!
〜〜〜〜〜
ガチャッ
「よしっ、戸締まり確認完了!」
家の鍵を閉めた俺はドアに向かって敬礼をかます。そして家の鍵を上着のポケットに入れて適当に街の中をフラフラと歩いて回る。
え? あんな占いがあったのにどうして家で大人しくしていないのかって?
ま、まぁ……俺は占いなんて信じていないからね。あんな占いはハズレだって自ら証明するために、あえて外に出かけるのさ。どうせ今日も特に何も無く平和に1日が終わるはず……
グチャッ!
「ん?」
何やら頭に落ちてきた感触と不愉快な水音が響く。恐る恐る手を頭頂部へと伸ばして髪の毛をくしゃくしゃと弄ると……
「……さ、最悪だ…」
鳥のフンだ……。よりにもよってピンポイントに俺の頭を撃ち抜いてきやがった。
……一旦家に帰ろう。
それから一旦家に帰って、シャワーを浴びて服を着替え直して再び街の中を歩く。
ん? さっきの不運は占いが当たってるからで、大人しく家の中にいた方がいいんじゃないかって?
ち、違う…! さっきのは偶々運が悪かっただけで、占いが適中してるからとか全然そういうんじゃないし…! 絶対違うし…!
まぁ見ておきなさいって。そうそう不運なことなんて連続では怒らないから……
キキ-ッ!
「ん?」
耳をつんざくような大きい音が鳴り響く。反射的に後ろを向くと、視界には猛スピードでこっちに迫ってくる車が入ってきた。
「おわーっ!!」
情けない声を出しながら、目を見開いて咄嗟に道路脇へと飛び退けた。そして尻もちをついたまま、猛スピードで去っていく車の後ろ姿を睨み付ける。
「いってて……」
あ、あっぶねーな!! こんな狭い道であんなにスピード出してんじゃねーっ!!
今俺が避けてなかったら完全に轢かれて死んでたかも……!
「はっ…!」
『そんなアナタに要注意……。今日は多大なる不幸がアナタを襲うかもしれません。大人しく家の中にいるのが吉……かも。』
その瞬間、あの胡散臭い占い師の言っていた言葉を思い出す。
今の車に撥ねられていたら、確実に大怪我をしていただろう。それどころか死んでいてもおかしくはなく、正に多大なる不幸と言える。
「………っ」ゴクリ
最悪の未来を想像しただけで額からは嫌な汗がたらりと落ちる。
う、うううう占いなんて……信じてないけど、今日は家で大人しくしてた方がいいのかもしれない。 べっ、別にあの占い師の言うことを信じる訳ではないけどね…っ!
「よ、よしっ……! そうと決まればもう引き返して……」
ゴロゴロゴロ
「ん?」
嫌な予感を告げる音が鳴り響く。そして澱んだ色の雲が覆う空を見上げると、ポツポツと弱々しい雨が顔を打った。
ポツポツポツ……と、最初はその程度だった雨は一瞬でザーザーと激しく降り注ぎ始めた。
「マジかよ…っ!」
予想外に強くなってきた雨は、一瞬にして俺の体や衣服をぐしゃぐしゃに濡らしてみせる。家に帰るよりそっちの方が早いと判断した俺は、猛ダッシュで近くの公園にある屋根付きのベンチへと駆け込んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……ふ、不運だ…っ」
屋根の下に避難した俺は膝に手をついて呼吸を整える。公園へと視線を向けると、雨はより一層強く激しさを増して地面へと降り注いでいた。
今日は雨の予報なんて無かったハズなのに……こんな急にどしゃ降りとかなんなんだ本当に。まさかこれもあの占いのせいなのか…?
「はぁ……」
雨が止んだら大人しく家に帰ろう。なんだか今日は本当に危ない気がしてきた。
そんな事を考えながらボーッと激しい雨粒を見つめていると、遠くの方からこっちに向かって駆け寄ってくる人影が目に入る。
そしてソレは一目散に俺のいる屋根付きベンチの下へと走り込んで来た。
「はぁ…っ! はぁ…っ! はぁ……っ」
一目散に駆け込んで来たソレは、俺と同じように膝に手を当てて呼吸を整えている。
「はぁ……はぁ……ふぅ」
ソレの正体は、突然の雨のせいで服と頭をぐっしょりと濡らした少女だった。
息を切らす女の子は自分の呼吸を落ち着かせるためにゆっくりと呼吸をする。しばらくしてようやく一息ついたのか、自分の胸に手を当てて深く息を吐いた。
「ふぅ……急に雨が降るからビックリしちゃった……ひゃっ!?」
「えっ?」
「あっ、すみません……人がいた事に気が付かなかったので……」
俺の存在に気がついた女の子は、ビクッと体を震わせて俺を見つめる。しかしすぐに顔を下に向けて、ベンチの俺から離れた場所へと腰を掛けた。
「………」
「………」
特に会話もなく気まずい雰囲気が俺たちを包む。とはいえ名も知らぬ少女とどんな風に会話をすればいいのか分かるわけもなく、俺はただただうるさい雨音に耳を傾けて黙りこくる。
「………」
「………」
「……あ、あの」
「はい?」
「わ、私出て行きますね……お邪魔しました」
「えっ!? ちょ、ちょっと…!?」
女の子は申し訳無さそうに一礼をすると、そのまま立ち上がって、未だに激しく雨が降り続ける屋根の外へと出て行こうとした。
「まだ雨降ってるよ!?」
「は、はい……でも、お邪魔してしまったので」
「そ、そんな事ないって! というかココは別に俺の場所じゃないんだからそんな事気にしなくていいからさ!」
「……す、すみません。お気を遣わせてしまって」
俺が必死に呼び止めると女の子はとりあえず外に出て行こうとするのは止めたが、何故か申し訳無さそうな表情を浮かべて俺に謝った。
「………」
「………」
「あ、あのさ」
「……はい?」
再び訪れた静寂に耐えられなくなった俺は女の子に向かって声をかける。ただ声をかけたはいいが、何を話すかまでは決めていなかったので言葉に詰まる。
「……あ、雨強いね!」
「えっ? あっ、はい……そう、ですね」
何を言ってんだ俺は。そんな事は見れば分かるだろ…! 確実に女の子を困らせてしまったじゃないか。
「え、えーっと……このまま雨が止まなかったら大変だね」
「はい、そうですね……もしそうなったら濡れるのを覚悟して走って帰るしかないかと……」
「そ、そうだよね。あはは……」
「………」
「………」
だ、駄目だっ…! 会話が続きません! 誰かオラにコミュ力を分けてくれ〜!!
ただ一度会話をしてしまったからにはこの後もずっと無言でいるのは尚のこと気まずい……
あーもう! というかそもそも雨なんか降ってこなきゃこんな事にはならなかったんだよなぁ……いや、元を辿ればあんな占いがあったせいで…!
「はぁ……不運だ」ボソッ
「えっ」
「ん?」
突然、女の子が俺の囁きに反応するようにこっちを向いた。
「あ、あの……今不運だって」
「え? あぁ、うん。 さっきまで晴れてたのにこんな急に雨降ってきて不運だな〜って」
「……す、すみません」
「えっ!? な、なんで君が謝るの?」
突然謝ってきた女の子は本当に申し訳無さそうに目を下に伏せている。何故この子が謝っているのか全く意味が分からない俺は、ただ女の子に何故謝るのかと問うことしかできなかった。
それに対して女の子は、ゆっくりとしたテンポで、それでいてしっかりとした口調で語り出す。
「じ、実は……私、人より運が悪くって……不幸な目に遭うとこが多いんです。きっとソレに貴方を巻き込んでしまって……あっ、でも最近は少しだけ前向きに頑張れているんですけど」
「そ、そうなんだ……」
つまりは……この子は人より運が悪いから、その自分の不運に俺を巻き込んでしまったと思っている訳か。なるほど……
「実は私、前にいた事務所も倒産させてしまって……あっ、事務所っていうのは芸能事務所なんですけど……でも今いる事務所はとても居心地が良くて、それでいて皆さんとても優しくて……」
「うんうん」
「……って! す、すみません私ったら! 自分の事を長々と話してしまって…!」
「い、いやいや! 別に謝ることじゃないってば」
芸能事務所って事はこの子もアイドルか、それとも女優の卵とかモデルみたいな活動をしているんだろう。 それにしても今いる事務所の話をしている時、彼女があまりにも幸せそうな表情で話すもんだからついつい聞き入ってしまった。
「す、すみません私ったら……」
「本当に気にしてないからさ……ね?」
「は、はい……すみません」
怒ってない事を伝えようとなるべく優しい声色で話しかけてみたが、またしても申し訳無さそうに謝られてしまった。
この子は謝るのが癖みたいに、体に染み付いているのかもしれないな。
「そのさ……さっきの不幸の話なんだけどさ」
「は、はい?」
「まぁ君にも実際に色々とあったんだろうし、そんな不幸体質なんて無いだろ〜!なんて言わないけどさ、今日の俺に関しては君の体質とか多分関係ないから安心してよ」
「えっ…?」
女の子は驚いたように目を開く。それに対して俺は自虐的に笑って答えた。
「だって俺、今日は君に会う前からずっと不幸続きだし。ははっ」
「そ、そうなんですか?」
「うんうん。 家を出た辺りで鳥のフンを頭に落とされたし、物凄いスピードの車に撥ねられそうになったし……そもそも今の大雨も君に会う前に降ってきたやつだし」
「え、えーっと……大変でしたね」
このジメジメとした雰囲気を吹き飛ばそうとなるべくおどけた感じで話してみたが、女の子には笑うどころか同情するような視線を向けられてしまった。
「実はさ……」
そして俺は全部話した。今朝訳の分からない胡散臭い占いがあって……しかもそれがどう考えても俺のことを指してるようにしか思えないという事、そしてその占い通り俺が今朝から不運続きな事も。
「てことがあってさ、今日はずっと不運続きなんだよね。占いって信じてなかったけど今回のは当たってるのかな〜なんて」
「す、すごいですね……でもそれなら占いの言う通りお家で大人しくしていた方が良かったんじゃないですか…?」
「あ、あはは……それはそうなんだけど。そんな占いなんて絶対嘘だ!って自分で証明するためにあえてぶらついてるというか……占いに対する反抗というか……」
「……ふふっ」
女の子が口元に手を当てて静かに微笑んだ。ようやく見れたその子の笑った顔は、とても儚げで……どこか護りたいと思わせる綺麗なものだった。
「でもそれなら……やっぱり雨が止んだらお家に帰った方がいいと思います。さっきも言いましたけど私とても運が悪いので、私といたらその占いの効果と重なってもっと危ない目にあうかもしれないので……」
「あ〜、そうだね。雨が止んだら大人しく帰ることにするよ」
心配するような視線で俺を見る女の子を安心させるために笑いかける。
この子の言う通り、今日はもう雨が止んだら真っ直ぐ家に帰ろう。どうやら今日の俺は本当に運が悪いみたいだし、あの胡散臭い占いを認めてしまうことになるがこの際仕方ない。
「……っ」ブルッ
「ん?」
「あっ、すみません。なんでもないで……くしゅんっ!」
「もしかして……寒い?」
「そ、そんな事は……くしゅっ!」
大きなくしゃみを連発する女の子。ここに辿り着くまでにかなり雨に打たれてきたのか、よく見れば服が体にぺったりと張り付くほどに濡れている。
いかんな……あれじゃこの子が風邪を引いてもおかしくないぞ。
ここはお決まりのアレをやるべきか…? いや〜でもアレはイケメンにしか許されない行動なんじゃないのか…? なんだコイツ初対面なのにキモッとか思われたりしたら……
いや〜でもやっぱり、一度気づいてしまったからには見過ごす訳にはいかない…!
「あっ、あ〜! なんか暑くなってきたナ〜」
「えっ?」
「……だ、だから! 俺これいらないからさ……その〜、よかったら……」
「えっ? そ、そんな悪いですよ…!」
ゆっくりと俺の羽織っていた上着を差し出してみるが、女の子は驚いなような表情で手をブンブンと振り回す。
「い、いや〜でも俺本当に暑くてさ……ほらコレ髪濡れてんの雨じゃなくて汗だから」
「えぇっ!? そ、そんな訳ないですよね…!」
「と、とにかく俺の事はマジで気にしなくていいからさ。 このままだと風邪引いちゃうよ?」
「そ、それは……くしゅっ」
「ほらぁ、やっぱり寒いんでしょ?」
「ど、どうして貴方がそんなにドヤ顔なんですか…? ふふっ」
そう言うと女の子はゆっくりと手を伸ばして俺の持つ上着を掴んだ。
「じゃ、じゃあ……すみません、お借りしますね」
「どうぞどうぞ」
「……ふぅ」
女の子は濡れた服の上から俺の上着を羽織る。体格差があるから大きさは充分で、俺の上着はすっぽりと女の子の体を包んだ。
「温かいです……ありがとうございます」
「そ、そう? それなら良かった」
「はい……人の温もりを感じます」
女の子は安心したように頬を緩める。そんな姿を見ると、やっぱり勇気を出して渡して良かったと思えてきた。
「……ふぅ」
「……臭くない? 大丈夫…?」
「そ、そんな事ないです! 全然、本当に!」
一応聞いてみたけど大丈夫なようで一安心。コレでこの服なんか臭いな〜とか思われてたら泣いてしまう。
「あ、あの……お名前を教えてもらってもいいですか?」
「俺の?」
「そ、そうです…! あっ、それと上着は洗濯して返しますので……」
「いいよいいよ羽織っただけで洗濯なんて! それと俺の名前は白石幸輝っていうんだけど……よろしくね」
「白石さん……よろしくお願いします」
「私は白菊ほたるといいます。上着、本当にありがとうございました……白石さん」
これが……後に彼女が346所属のアイドルだと知って驚愕することになる白菊ほたるちゃんとの出会いだった。
そして俺はまだ知らない。彼女に出会った事で、この日この後、これまでの人生で経験した事の無いようなデンジャラスな1日を送ることになるのだった……
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