主殺しが転生するのは間違っているだろうか   作:黒っぽい猫

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第二話

「それで、ベル君はそんな女の子を拾ってきちゃったの?」

「えっと……その…………放っておけなくて」

 

 ダンジョンから地上に出て、先ずベルが向かったのはギルドという組織の本拠だった。どうやらそこが冒険者の雇い先に近い役割を果たしているらしい。ダンジョン内で拾った光り物──魔石というらしい──を換金してくれる場所なのだという。

 ベル曰く、ギルドの機能はそれだけでなく、自分に宛てがわれた職員から自分の身の振り方について助言をしてもらえるのだと。悩める冒険者の相談役、といったところだろうか。

 

「それで、君がその助けられた女の子?狐人(ルナール)みたいだけど、所属ファミリアは?」

 

 そして今、自らをエイナ・チュールと名乗った女性に限りなく尋問に近い聞き取りをされていた。一見すると無表情を装っているがエイナ殿の眉間にはシワが刻まれており、その声には若干の困惑が見て取れる。

 

「そのファミリア、という物はベルから聞き及んでいるので知っているが、私はそのような組織には所属していないのだ、エイナ殿」

「え……それってつまり、神から恩恵を授からずにダンジョンに潜っていたってこと!?なんの為に!?」

「その潜る、という表現も正確ではない。私は気がついたらあの場に居たのだ。そんな風に怒られても私には何がなにやらわからぬよ」

 

 嘘でしょ……と呟きこめかみを抑えるエイナ殿には若干申し訳なさを感じはするものの、そこで嘘をついても仕方が無いので素直に答える。

 

「それに、そこまで心配をしてもらうほどではない。あの辺りにいる獣を狩った時に落としたこの魔石とやらが金になり、同時に自身が獣に打ち勝ったことの証明になるのだろう?それであればそこそこ貯めてある」

 

 尾を揺らせばそこに埋め込んでいた魔石がジャラジャラと落ちる。100には届かないが70程度は獣を殺している。体感ではあるが少なくとも三日はあの場にいたのだからそれなりの数の獣と出会ったし、その度に襲ってくるものだから返り討ちにもしていた。

 

「え……ええっ?!ちょっとそれ、拾ったわけじゃないのよね?!」

「む?あぁ、あの洞窟内でこちらに向かってくる獣を殺して得たものよ。無論、他人から盗んだものでもない。そも、ベルと出会うまで他の誰とも出会わなんだ」

「恩恵を授からずにこの数のモンスターを倒すなんて……」

 

 落ちた魔石を拾い上げていると、エイナ殿は何か考え込むように俯き、ブツブツと呟き始めた。そのさまを横目に見つつ、拾った石のおおよそ半分程度をベルに差し出す。全部渡してしまってもいいが、それでは今後身を振るための最低限度も残せない。

 

「そうだベル。これは金になるのだろう。そうであれば少ないが今日の礼だ。飯も食わせてもらい、ダンジョンの外まで案内してもらった。その駄賃として受け取ってくれ」

「そ、そんな。受け取れないよ!」

「ならばこう考えろ、ベル。これは私からお前への報酬だ。お前が私を助けたことに対して支払う報酬だ。だから受け取れ」

 

 そう言い、半ば強引に魔石を突き出す。しばらく見つめあった後、ベルの方が先に折れ受け取ってくれた。その事に安堵しつつ残った半分の魔石は袖口に入れた。ここで換金ができるのであれば、後でしておきたい。

 

「して、エイナ殿?そろそろこちらに戻ってきて欲しいのじゃが」

「…………」

「ほれ」

「ひゃっ?!」

 

 未だに現に戻らないエイナ殿の目の前でパン!と柏手を打つとようやく目が合った。どうやら、お役所務めの彼女にはあまりに予想を超える事態であったらしい。

 

「私は、これからベルに主神殿の所へと案内をしてもらわねばならぬ。できれば日の落ち切る前に向かいたいのだが、宜しいかな?」

「あ、うん──ちょっと待って?君は神ヘスティアのファミリアに入るの?」

「うむ、そのつもりである。何せ、神から恩恵とやらを授からねばダンジョンに潜るのは許可されぬのだろう?そうでなければ金を稼ぐため密かにダンジョンに入らねばならなくなる。それはできるなら避けたいのでな」

「それはそうなんだけど……うーん。記憶がないってことは、どこかのファミリアに所属してるかもしれないしなあ。一応、名前を聞いてもいいかな?冒険者なら絶対ギルドに名前がある筈だから少し確認だけしておきたいの」

 

 名前、か。水零(前世の名)を名乗っても良いが、あれはどこまで行ってもあの土地で生きた私の名前でしかない。この私は全く違う存在であるのだから異なる名前が良いだろう。

 だが、本当であれば前の世での記憶は今世において忘れられるべきものである。それを覚えているということに、もしかするとそれに意味が有るのやもしれん。

 

「──澪。それが私の名だエイナ殿、ベル。これからよろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベ〜〜ル〜〜く〜〜ん〜〜?」

「な、なんで怒ってるんですか神様!」

 

 ベルに案内されるままダンジョンを抜け、そのまま連れていかれたベルの家に入ると、待っていたのは突然ベルに抱き着く1人の女子(おなご)だった。そんな彼女は、私の姿をベルの後ろに認めた瞬間にベルの頬を涙目で抓り始めたのだった。

 

「痛い、痛いですよ神様〜! !!」

「この浮気者!スケコマシ!まさか本当にダンジョンで女の子を落としてくるなんて想像出来るもんかうわーーん!!!」

「意味わかんない事言わないでください神様!その子はダンジョンで出会っただけのファミリアへの加入希望者です!」

 

 ほとんど絶叫のようなその言葉に耳を傾けたのか、女子の動きが止まる。少しの間があってギギギ、とその首が私を向いた。その顔には表情がなく、昔どこかで読んだ物語にでてきた妖の類に似た動きをする様は少し怖い。

 

「……君、ボク達のファミリアに入りたいのかい?」

「私としては根無し草でも構わないのだが、ダンジョンでモンスターを殺すという仕事で生計を立てるには神々の加護を受けるのが良いと聞いた」

「ん?ベル君はダンジョンで君に出会ったと言っていなかったかい?」

「その認識で間違っていない。私はダンジョンでベルに命を救われた。そもそも、私はファミリアというモノにとんと聞き覚えがない」

「という事は、これまで君はボク達(神々)の恩恵を受けずにダンジョンへ潜っていたのかい?ギルドがそれを許すとは思えないけどなぁ。君、本当にファミリアに所属していないのかい?」

 

 これまで、というかダンジョンで目覚めたのでダンジョンに潜っていた、という表現では適切ではないだろう。ベルと二人でこれまでの経緯を掻い摘んで説明した。ベルと出会う前ダンジョンで目を覚ましたこと。そこに出る獣、もといモンスターを狩りつつ進んでいたが行き倒れてしまったこと。そしてベルに食料を分けてもらいここまで来たこと。

 初めこそ彼女は此方を値踏みし、疑うような目を向けていた。だが、全てを聞き終えた彼女はとても真剣な表情をしていた。

 

「なるほど、だいたい分かったよ。君達の言葉に嘘はほとんどない。ミオ君の出自には確かに謎が残るけれども、それでも君がベル君に恩を感じているというのも嘘ではないらしいね」

「神様。ミオさんには行く宛がないみたいで、それで──」

「皆まで言う必要は無いさベル君。ミオ君がファミリアに入ることには賛成さ。ただね、うーん……」

 

 ジロジロとこちらを警戒するように見る女子の目が私の体の一点──胸部を見て、その後自身の体に目を落とした。その表情が段々と勝ち誇ったような表情に変化していく。

 

「いや、問題ないね。よしミオ君、今日から君はボクの眷属だ」

「なんなのだ?今の視線は」

「いや、気にしないでくれたまえ。さぁてベル君!今日は記念すべき日だからね、普段より少し豪勢にいこうじゃないか!」

「はい!神様!!」

 

 かくして、なんとも締まらない形で私は神ヘスティアの二人目の眷属となった。

──何故だかこの時向けられた視線が物凄く不愉快ではあったが、その理由は結局わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだ、これは……」

 

 小さな灯りに照らされる中、ヘスティアは一枚の紙に改めて目を落とす。ミオもベルも寝入った今、その深刻な表情に気づくものはいない。

 

 

『冒険者:スイレイ・ミオ

 

Lv.1

 

力:I55

耐久:I3

器用:I88

敏捷:I57

魔力:I0

 

《魔法》

【⠀】

【⠀】

【⠀】

 

《スキル》

【破滅願望】

・早熟する。

・耐久の増加に大幅なマイナス補正

・死に魅了される

 

 

【殺人技巧】〈業:400〉

 

・業の数に応じた一時的ステータスの向上

・業の数に応じた一時的レベルの向上

・発動後、耐久が減少』

 

 

 

 

 恩恵を刻んだことで可視化されたミオのステータスそのものにおかしな所はない。駆け出しの冒険者の中では平均程度だ。それ自体におかしな所はない。

 魔法が発現していないのも、別におかしいことではない。強いて言うのなら三つの空欄(可能性)があるのは特殊な事例ではあれども、別段異常では無い。

 

問題は発現している二つのスキルだ。

 

「こんなスキル、見た事がないぞ……?」

 

 

 スキルは、それ自体が発現することは大して珍しくない。憧憬や願望、欲望でもいい。それらの感情を強く抱いた時、神々の恩恵を刻まれた者にはスキルが宿る。

 だが、憧れや願望を強く持った時にイメージされるのは多くの場合『目標とする人物』である。それ故、発現するスキルの大半は既出のスキルと同名であるか、それに類する名前になる。

 だが、ヘスティアが持つ紙に書かれたスキルはどう考えてもそれらとは一線を画している。

 

「恐らくはミオ君の唯一無二(オリジナル)なのだろうけど、これはあまりにも……」

 

 一つ目のスキルはそれでもいい。ミオが自分の破滅を願っている、そう解釈すればこのようなスキルが発現しても絶対に有り得ないとまでは言えないのだから。

 ヘスティアを絶句させているのは二つ目のスキルだった。一時的にステータスを向上させる代わりに自身の耐久を削るスキル。これは本来ならば存在し得ないスキルだ。

 ステータスは冒険者の身体そのものであり、それは成長し、衰えることはあれども基本的にはそれだけだ。そのステータスを減少させるということは、文字通り使用が()()()のスキルだということに他ならない。

 自身の身体を命を削り用いるスキル。それに対して得られるのはあくまでも「一時的」な、ステータスの補正。

 

「こんなの、釣り合うわけが無い……滅茶苦茶だ」

 

 あくまでも願望を現実にするための手段として恩恵が与える副次効果、それがスキルだ。それがこのようにまるで自分を傷付けるかのような形で存在することがヘスティアには信じられない事だった。

 それにもう一点、ヘスティアが気になったのは『業』という文字の横に記された数字だ。今は《400》と記されているそれは、文字通りに受け取るのならミオが感じている業の数なのだろう。スキルの名と照らし合わせるのであればきっとそれは───

 

「全く、ベル君も困った拾い物をしてきたものだなぁ」

 

 あーやだやだ、とボヤきながら地下に戻ると、ベルとは別のソファで眠るミオの姿が目に入った。尻尾を抱き眠るその無垢な寝顔に思わず苦笑いを零したヘスティアは、そっとミオの頭を撫でる。

 

「キミが何者なのかも、背負う(モノ)も、ボクは知らない。でもボクはキミを絶対に見捨てはしない」

 

───ボクはもう、キミの神様になったのだから。

 

 そう呟いたヘスティアの目は、我が子を慈しむ母親のようなものだった。

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