戦術マニアのGGO日和   作:(´鋼`)

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Wild instinct

 両脚に取り付けられた砂漠地帯特化型強化外骨格から独特なジェネレーターの駆動音が鳴り、その音とともに砂漠を走り抜けるヴァー・ヴィー。体重が掛けられるとそれに応じて沈み満足に力を伝えることの出来ない砂地を走るために、着地面への力が必ず地面と水平になるようにさせるバランサーと、内部機関に砂塵が入り動作不良を起こさないように骨組みや配線をカーボンファイバー製のカバーで密封しているものを使用。

 

 目標であるネームドとその取り巻きのエネミーがジェネレーターの音と砂漠を駆け抜けるヴァー・ヴィーの足音を聞き取り、ターゲットを1人に限定する。ブッシュマスターACRを構え周りの取り巻きから始末を開始、円を描くように走りワーム系エネミー特有の弱点である口内を狙って撃つ。とはいえ現在の位置からワームの口を狙うには高低差があり、また攻撃に当たらないように動き回っているため狙いが定まりにくく弾の当たり具合にズレが生じていて倒すのに時間がかかってしまう。

 

 とはいえ相手の方も攻撃後の隙というのは必ず出来るため、粘液射出のさいはその対象に近付いて光剣の斬りつけ、肉体を使った範囲攻撃のさいは距離を取りつつ射撃するなどしてダメージリソースを稼ぎ、ネームド以外の掃討が終わると目標への攻撃を開始する。

 

 

「3カウント」

 

『了解』

 

 

 目標が地面へ潜るモーションを見せたところでヴァー・ヴィーはシノンの方へと誘導する。盛り上がった砂地が彼に向かって移動しちょうど真下にまで移動すると砂地が元に戻った。

 

 

─「1」─

 

 

 強化外骨格の出力を上昇させその場から飛び出すように離れていくと、先程居た場所から目標のネームドが姿を現す。捕食者のそれを彷彿とさせるが、その攻撃は距離を取っていたため当たることはない。ヴァー・ヴィーは携えていたスタングレネードのピンを引き抜きながらカウントを数えた。

 

 

─「2」─

 

 

 スタングレネードを目標に目掛けて投げ、目標へ向けて接近。ヴァー・ヴィーが近付いたことで肉体による範囲攻撃のモーションを始めたが、カウントは既に刻まれている。

 

 

─「3」─

 

 

 目を閉じ、耳を塞いで口を開けた途端にスタングレネードが起動しその場に閃光と轟音が発生する。それを間近で受けた目標はモーションを中断し一時的に怯み状態へと移行する。すぐさま装備をベネリ スーパーノヴァの方に切り替えたヴァー・ヴィーは接近。その直後、後方からシノンの射撃が確認された。

 

 今回使用している特殊溶解弾【CUTTER】が一瞬の隙を生んだ目標の口内へと吸い込まれるように射出され、弾丸が内側へのダメージを表示が行われると同時に目標のHPバーの1本目が1/3ほどにまで減少した。HPが一気に減少したことで目標は一時的な気絶状態に入り、その気を逃さないヴァー・ヴィーが口もとまで移動し、ベネリ スーパーノヴァに装填されたCUTTERを三発口内に叩き込む。その時点で目標のHPバーが1本全損し2本目を少し削ったところでそのネームドが起き上がった。

 

 

『速い、もう1本削れてる……!』

 

「弱点部位の検証は済んだ。次は弱点以外の部位に当てて計測する、1発のダメージ確認のあとは好きに撃て。その時になれば合図する」

 

『了解ッ』

 

 

 少々気が流行る様子を見せたシノン、それに構わず装備しているベネリ内の残弾を1つ減らし追撃を加えるとヘイトがヴァー・ヴィーに向けられまたその場から距離を取り続ける。品質がほぼ最高値の溶解弾1発の威力はやはり通常の実弾兵装よりもダメージを与えられ、わざわざ光学銃に切り替えずとも十二分に減らせられる事が確認できた。

 

 あとはシノンが撃つ12.7×99の分、その他にも口径の違う弾丸の威力を検証しなければならないが今は目の前に集中する。またも地中からの飛び出しを行った目標から距離を取っていく。

 

 

「撃て」

 

 

 2発目の発砲音、今度は胴体に当たり目標のHPバーは1/4ほどの減少を確認した。

 

 

「確認した。あとは好きに撃て」

 

『えぇ、好きにさせてもらうわ』

 

 

 続けざまに3発目が発射され胴体に着弾、先程と同じく1/4の減少が確認され目標が怯む。その怯んだすきにヴァー・ヴィーはクアッドロードによる装填を行い新しく4発補充、振り向いてベネリ スーパーノヴァの銃口を向けると目標はまたも地中に潜っていた。

 

 すぐさま距離を取り、地中から出現した目標だがすぐにヴァー・ヴィーを狙って急降下し始めた。影の肥大化によってすぐに気付き急激な方向転換を行い離れたものの、対処が若干遅かったためか風圧を受けて宙に浮いた。体を小さく丸め受身を取って立ち上がるが、目標が上下にうねりながらヴァー・ヴィーを取り囲むように旋回している。この事態には2人とも妙だとすぐに気付いた。

 

 

『V、何だか様子が』

 

「あぁ。この手のエネミーのモーションは初めて見た。運営からの連絡もないが……バグだったら面倒だ、最悪延々と戦わねばならんぞ」

 

『経験でもあるの?』

 

「昔な。やってもやってもムービーシーンに移らんバグに直面したことが」

 

『ご愁傷さま、そこから撤退しましょう』

 

「援護は頼む」

 

『了解』

 

 

 口を大きく開いた目標がヴァー・ヴィー目掛けて突進する。その場からすぐに離れ、移動方向から考えた隙間部分を探すがこのタイプのエネミーは全長が長くそのため地中に潜って一部を出している設定がある。つまるところその全長を計り知ることが通常ならば出来なかったが、この状況になって()()()()()()()()()()()()ほどの図体を有していることが分かった。

 

 

「作戦変更、このまま倒す」

 

『倒せる確証はあるの?』

 

「無いが、やるしかない」

 

 

 そのデカい図体が砂地に潜り込まれ、またも囲まれることとなった。しかし今度は確実に仕留めるつもりか徐々にその範囲が狭まってきていることが伺える。すぐにシノンは4発目を撃ち胴体に着弾、目に見えて減っていくHPは戦闘の終わりが近付く狼煙のようなものだったがそれでも止まらない。残りは1と1/4本。

 

 ヴァー・ヴィーもまたベネリ スーパーノヴァでの射撃によって目に見えてHPを減らしていくが、胴体では決定的に与ダメの数が足りない。またこのダメージを出せる溶解弾も残り3発のみ、シノンの方も溶解弾は残り4発といった状態。しかし無常にもドンドン狭まっていきヴァー・ヴィーの周囲に目標の肉体が分厚い壁となって追い詰めていく。

 

 壁になっている分、狙える範囲は大きくなるためシノンも連続で5発目、6発目と撃ち続ける。ようやく残り1本を切った状態になったとしても未だにその行動を止めようとはしなかった。まるで死に物狂いに、せめてヴァー・ヴィーだけでも殺そうとしているようにも思えた。そして7発目、ようやく最後の半分に到達し目標のHPがレッドゾーンに移行する。包囲網の中心に居るヴァー・ヴィーは何かを覚悟した表情へと変わる。

 

 そして最後の弾丸、シノンの射撃は胴体に直撃し目標のHP残量を消し飛ばした───だが、まだ足りない。

 

 

『ッ、V!』

 

 

 インカム越しに聞こえたその声を無視し、ヴァー・ヴィーは上から強襲する目標のネームドをその目で捉え続けた。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 シノンの目には中心にて包囲されているヴァー・ヴィーへの攻撃モーションを取っている目標が見えていた。先の溶解弾は既に使い切り、通常の12.7×99mmの入った弾倉を取り出そうとした。しかしこのタイムロスによりヴァー・ヴィーの体力は全損してポリゴンとなって消えるだろう、その事実を覚えていればなんて事ないはずだがシノンの瞳には何故か焦燥感があった。ヴァー・ヴィーは強く、規格外であることをシノン自身が身をもって知っている筈なのに、焦っていることに彼女自身が気付いていなかった。

 

 目標のネームドはシノンが弾倉を実体化させた直後、ヴァー・ヴィーに向けて強襲した。たまらず彼女は叫ぶ。

 

 

「っ、V!」

 

 

 その場所から砂地に突撃したとは思えない揺れと音が発生した。発砲音は聞こえなかった、そしてヴァー・ヴィーの居る位置である場所に頭を突っ込んでいる目標。すぐに彼のHPを確認しようとしたが、生憎とフレンド交換を行っていなかったためその残量や生存確認さえも出来やしなかった。嘘だと思い視線をその場所へと移した。

 

 するとどうしたことか。ゆっくりと目標が作り出した肉壁が崩れ落ち突っ込んでいた頭さえも重力に従って倒れ伏していく。音と揺れがまた発生した途端に目標はポリゴンとなって消え去った、その光景に呆気に取られていたところでヴァー・ヴィーの声がインカム越しに届いた。

 

 

『こちらV、対象の殲滅を確認』

 

「……っ、V! 生きてるの!?」

 

『耳元で叫ぶな。あと声が聞こえてるのだ、ロストしておらん。すぐに合流するから待っていろ』

 

 

 安堵の息を吐いたシノン、その表情は安堵しきった様子だったがどこかオーバーにも見える。いや、ヴァー・ヴィーが生きていたことに安堵した表情をすることに違和感を持つべきなのだろう。幾らなんでも赤の他人、過ごした時間が短い上に本来ならば恨んでもおかしくないような日々を過ごしていたのだ。だがアミュスフィアは彼女の表情をそう出力した。ヴァー・ヴィーもまたシノンの発言に何か引っかかっていた。

 

 ()()()()()、この言葉がどうにも頭から離れなかったのだ。


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