戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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意思なき規範の寄生

 止めてあったマローダーに乗り込みグロッケンへの帰還中、車内の雰囲気は特に代わり映えのない会話を1つも交わさない様子であったが1人ヴァー・ヴィーだけが思考の海に囚われていた。いつもの葉巻を吸わない上に少し運転への意識が逸れている様子であることから完全に悩んでいる状態、流石にそれを見てたまらずシノンは訊ねた。

 

 

「ねぇ、何悩んでるのよ」

 

「んぁ……あぁ。先の狩りのことだ、何故見たことも無いモーションをしたのか分からんし俺自身に起きたことも分からん。答えに行き詰まっている」

 

「そういえば何があったのよ、あの時」

 

「言ったところで信じられんよ」

 

「私は貴方の非常識さをよーく知ってるのよ、今更常識外れなこと言われても驚かないわ」

 

「……言っておくが俺の技術は鍛えれば誰でも身に付けられるものだ。人外の技術ではない、それに今回のはそんな技術的な問題でもない。もっと別のものだ」

 

「何それ。まるで自分が速くなったみたいな言い草ね」

 

()()だ」

 

「……はい?」

 

「実際に速くなった。それで難を逃れたのだ」

 

 

 ヴァー・ヴィーの言い分はこう。強襲された時目標の口が開かれていたところを狙って撃とうとしたのだが、そのさい周囲の時間が遅くなったような感覚を覚えたと思えば自分の動きが遅くなった空間の中で普通に動けていた。ベネリ スーパーノヴァから発射された弾丸も何故か通常の速度で当たっていたため、そのまま残り全てを撃ち尽くし気が付けばポリゴンに変わっていたとのこと。俄には信じ難いそれを彼はしていて、彼本人でさえ出来た理由が分からないとなれば悩むのも無理はない。

 

 とはいえ、そんな事が有り得るのかと言われれば普通有り得ない事象であるのは間違いなく。現にシノンもどこか疑わしい様子なのは仕方の無いことだろう。

 

 

「……チート?」

 

「やってないぞ。今まで垢BANされたことは……いや、以前にもチートツールを疑われて停止されたがすぐに戻ったな」

 

「あったのね」

 

「昔あった。やってないのに傍迷惑にも程がある」

 

「まぁアンタの腕だと疑われても可笑しくないのよね。今回のは……あー、なんて言えば良いのかしら」

 

「俺が知りたいんだがな」

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 ところ変わって現実世界。GGOを世に広めたアメリカ企業ザスカーの日本支社、そこのGGO運営チームは日夜システム不備の有無の確認だったり新たなコンテンツの配信やGGOに向けられた不満や提案などの確認といった様々な業務に励んでいる。配信当初は残弾無制限バグや裏世界、エネミーの一斉消失バグなどの事態に見舞われたこともあったが時間とともに多少落ち着いていた。

 

 しかし第1回BoBの出来事でプレイヤーからの苦情が絶えなかった事実を抱えている。そこで参加したサトライザーと呼ばれるプレイヤーはどういう訳か本社のあるアメリカから参加していることが明らかになり、サトライザーの被害者やアメリカ人が日本のサーバーで荒らしたことに対する批判などが寄せられ一時期てんやわんやになっていた。

 

 とはいえBoB本戦の最終戦にて行われた1vs1の戦いの方にほとんどの人間はそちらへの興味に惹かれ、寄せられた批判等はサービス開始時のそれよりも多少少なかったため被害は少なく済んでいる。対応に追われていた過去が今では落ち着きを取り戻しそこそこの平穏の中にいた。

 

 そんな中でも無情にもやって来る運営への報告、コーヒーブレイク中であった1人が対応に入り、プレイヤーIDと届いた内容を確認すると奇妙な相手からこれまた奇妙な内容が書き起こされていた。そのID番号は『ヴェンデッタ(睦希 亮司)』のもので初めはその文面の内容を理解することに難があったものであった。

 

 

【ネームドエネミー『Desert Man Eater』対峙中に突如、当エネミーに確認されていない攻撃行動を行っていた。具体的にはプレイヤーの周囲を取り囲み逃げられなくするなど。可及的速やかな対処をお願いします】

 

 

 この文面の内容は対応者はよく分からなかったが、一先ずそのネームドエネミーに設定されているデータを調べることになった担当プログラマーは、これまた不可解な事象に出くわすことになり主任を呼ぶことを決める。

 

 

「主任! こちらに来て貰えますか?」

 

「はいよー、ちょっち待ってな」

 

 

 無精髭を生やした天然パーマの男、主任と呼ばれた人物はそのプログラマーのもとに向かい画面内に表示される奇妙なものを見て、同じように不可解なものを見たかのように唸り首を捻った。

 

 

「…………おい、誰か勝手に追加したのか?」

 

「自分はしてませんよ。というか少なくとも誰も手を加えてないと思いますけど」

 

「だとしてもだ、こんなんどう報告すりゃ良いんだ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて誰も信じられねぇぞ」

 

「どうします、これ」

 

「ツール使用の形跡は?」

 

「えっと……うっそぉ全くないです」

 

「益々訳が分からんぞ」

 

 

 目の前の現実が未だに理解できず混乱しており、これがクトゥルフ神話TRPGであれば0/1のSANチェックが入っていただろう。ついでに判定にマイナス20は入っていたとも考えられる。

 

 

「……一先ず、このデータはバックアップして調べてみる。そいつは前のデータに戻しておいてくれ、あと他のも同じようになってないか確認頼むわ」

 

「うぼぁ゙ぁぁ、残業ですね聞きたくなかった」

 

「オレだって嫌だわ。他の奴らにも頼んどくから先やっとけ」

 

「うーっす」

 

 

 厄介な面倒事が増えたと愚痴り始めると周囲から溜め息やら悲観的な感情が見え隠れし始め、けれど報告を受けたからには仕事として終わらせなければならず、GGOの運営に関係した時点で逃れられないことを自覚しながら取り掛かった。

 

 

 

 

 

「と、いうことがあったわけなのよ」

 

「うひゃあgênant(めんどくさっ)、まぁ今日は付き合うよ」

 

「ありがとぉぉぉ」

 

 

 日時は経ち、あくる日の夜のこと。といっても今は日付が変わった直後ぐらいだが、洋食系居酒屋で日頃の鬱憤を晴らすように飲んでいる緑髪の美人と、その隣で付き添いのような形で飲んでいるフランス人の2人が居た。2人とも若干酔いが回ってきているがお構い無しに飲み明かそうとしている、こうでもしなければやってられないのだろう。

 

 豪快にグラスに入った赤ワインを一気に飲み干し、また店員に同じものを頼んだ。横で見ていたフランス人の方は苦言を呈した。

 

 

「ちょっと、流石に悪い飲み方よそれ」

 

「こうでもしなきゃやってらんないよよ!」

 

「ダーメだこりゃ。すいませーん、水1つー!」

 

「うぅぁああ、独り身が恋しいよぉ! 誰か慰めてよぉ!」

 

「よーしよしよし、うんうん分かる分かる。ほら水飲んで」

 

「イザベラは良いよねぇ、彼氏居るし! しかも年下!」

 

「はいはい(みどり)、水来たよ飲んで」

 

 

 ついでに会計も済ませて帰る準備を整えていく。先程イザベラと呼ばれたフランス人女性と、“みどり”と呼ばれた日本人女性である『星山(ほしやま) 翠子(みどりこ)』の行動優先順位は違うが、無理矢理にでも家に帰らせるためにイザベラはいつもの様に介抱する。こんな時、翠子にも同居人が居ればと内心愚痴る。当人は仕事の愚痴をぶちまける。

 

 

「にゃにがバグよ、にゃんな残業(らんぎょー)よ! 予想できるかあんなものー!」

 

「よーしよしよし。あ、ごちそうさまでしたー」

 

「うぇぇぇぇ……わかんないわよぉ……しらない……ゴリ……なんれ……」

 

 

 何を言いたかったのかは定かでないまま眠ってしまったことで更にイザベラの負担が増えた。電話でその彼氏に連絡し先にタクシーで翠子の住んでいるマンションにまで向かい、そこに到着すると自室まで運んでいきベッドに寝かせて一息ついたところに彼氏──睦希亮司から連絡が入る。

 

 

Bonjour(もしもし)

 

『入り口に来たが、部屋の中か』

 

「そ。あとは連絡入れてスペアキーを借りて部屋出るだけ」

 

『……オートロックではないのだな』

 

「どした?」

 

『いや、鍵が無くても錠は掛けられるだろうなと』

 

「できるんだ……いや、できるの?というかやったことあるの?」

 

『昔な。おっと何か犯罪をしたわけではないぞ』

 

「ふーん」

 

 

 睦希の昔話はさておき、メモ用紙に伝言を書いておきスペアキーを借りて部屋から出てマンションを後にするとバイクに乗って待っていた睦希からヘルメットを手渡され、そのまま帰っていく。

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