時は流れ、第2回BoB本戦開催日。この日GGOで行われた大会で集まった強者がバトルロワイヤル形式で互いの技術を競い合いただ1人の勝者として勝ち上がるべく戦いに挑む。仮想世界という舞台にて行われるその戦いの中に第1回優勝者たるあの2人はここに居ない、何の意図があって参加したか分からないサトライザーはともかくヴェンデッタもいないとなれば、勝者は誰に定まるのかは検討がつかない。
そんな本戦まで勝ち進んだ参加者の中にシノンは入っていた。残り4名となった舞台であの4週間で染み込んだCQCの動きが『闇風』と相対した時になって活躍するとは思わなかった彼女はメインウェポンであるへカートⅡを捨てPP-2000とレオニダ スパルタン2バイオネットサバイバルナイフを装備し、ゲリラ戦法のそれで挑んでいる。決して留まることなく動き続けることを前提としたものだったが辛くも敗退し、4位。M900Aを破壊できたことだけがせめてもの置き土産だったろうか。
何もかもが終わって、第2回BoB優勝者はゼクシードに決まった。しかし大会終了後にゼクシードに対する批判の声が強くなっていった。当人がAGI型最強説を唱えた手前、強力なアイテムによる優勝であったことが原因である。自らの発言とは異なる行為により反感を買ったが、やはりというかここでも彼の名前は出ることになる。
ヴェンデッタに殺されろ、彼の名前はやはりGGOにおける影響力が強すぎた。次第にヴェンデッタに依頼し徹底的に殺し続けようという声が挙がりそれに周りは賛同していく。その
そんな閉店中の店に向かう2人の人物、店側の出入り口ではなくプレイヤーホーム側の扉のほうへと近付きインターホンを鳴らす。
『はーい、てシノンじゃないの。
「あー……久しぶり。こっちは私の知り合い」
『そう。それより今日は何か用?』
「Vに会わせてくれないかしら」
『…………んー。いいけど、ゼクシード関連のことじゃなければ。今のVピリピリしててさ』
「察するわ。大丈夫、依頼の方じゃないから」
『なら良いかな、ちょっと待って。Vー! シノンと彼女の知り合いが来てるけど良いー?──大丈夫そう、少し待ってて』
すぐに自動扉が開かれ2人は中へと入っていく。住居のような設備が整われた部屋では長ソファに座っているヴァー・ヴィーが、しかしヘッドホンとアイマスクを付けており背もたれに体を預けているといった様子。完全に外からの情報を遮断しているような装いだが、視覚と聴覚を塞いでいるにも関わらずヴァー・ヴィーは2人を一瞥することなく口を開く。
「何の用だ。もう店番にも来なくていいと言ったんだがな」
「……違う、今日来たのはアンタに頼みたい事があるの」
「あ?」
訝しげな声を出し、アイマスクとヘッドホンを外してシノンの方に向き合う。その時シノンの傍らに居た男性プレイヤーにも目に入った。
「そこの奴は?」
「リアルの知人。聞きたいことがあるらしいけど、その前に」
「──頼み、だったな。なんだ」
「もう一度、私を強くして」
ヴァー・ヴィーが背もたれから起き上がる。生気のない瞳をした彼が見つめる先は覚悟を持った強さを追い求める者、今という現実に納得しない“氷の狙撃手”とは思えないほどの熱。決意に満ち溢れたそれであり、おそらくはどう足掻こうとヴァー・ヴィーは面倒なことにしかならないだろうと考え、せめてまだマシな方を不本意ながら選ぶことにした。
「……どうせ俺が何を言おうと、お前は自分が納得するまで梃子でも動かんのだろうな。その目を見れば否応でも理解させられる」
「じゃあ」
「前にも言ったが遠慮なんてものはない。徹底的にやらせてもらう」
「分かった……!」
嫌に目を光らせているような印象を与えるシノン、ひとまずヴァー・ヴィーは葉巻を取り出し咥えて火をつける。口内に広がる煙を味わいながらゆっくりと吸い、暫くして吐き出す。煙は換気によって外へと排出され部屋に篭もることはない。クリアな視界が維持されたままの状態でまたもう一服と煙を味わっている。
「あの……」
シノンの傍に居る男性プレイヤーから声が発せられるが、それに一瞥することなくヴァー・ヴィーはソファを指し示す。座れと伝えており銃士Xが誘導して座らせた、煙を上に向かって吐き出し一部灰となった葉巻を持って先の者に視線を向けて話をし始めた。
「名は?」
「『シュピーゲル』です。シノンとはリアルで付き合いがあって、貴方と交流があると聞いたので会って話がしたいと思ったんです」
「…………話ねぇ。予想だが何故ゼクシード殺しの依頼を受けないのか、といった所か?」
「! 何で分かったんですか?」
「誰でも察せる話題だ。結論から言えば面倒な手間がかかるからやりたくない」
また葉巻を咥え一服。葉巻と紙タバコでは持続時間の違いもあるため彼はゆっくりと葉巻の煙を味わいながらも、シュピーゲルと名乗ったプレイヤーへの意識を忘れずに。煙を吐き出してまた言葉を続けた。
「……先日、そのゼクシードを完膚無きまで殺せと依頼されたことがある。しかも奴の持ってるXM29 OICWがドロップするまでとな、こんな馬鹿げた依頼を奴に受けさせるような真似は出来んよ」
「うっわぁ……」
「それにだ、そんな馬鹿げた依頼に600Kだと? せめてその10倍の費用がかかると思えと言ったら今度は情に訴えかけた始末だ。受けてられるかあんなもの」
言葉の端々に怒気が込められている。思い出すだけでピリピリするほどらしく、ヴァー・ヴィーの中でタブーになりつつある話題になっていた。それに付き合う銃士Xも中々辟易としているらしい、どちらかといえばヴァー・ヴィーの苛立ちが伝染しているといった様子だが。
兎も角、彼はもうゼクシード関連の依頼を受けるつもりは無いらしい。無論まったく無いわけではなく相応の依頼料を貰えれば仕事はするとのこと、いずれにせよ彼が今話題のゼクシードを殺すにはそれ相応の見合った報酬が必要不可欠である。その事自体はいつもの事なのだが。
「……の…………が」
「あん?」
シュピーゲルが何か言ったようだが、ヴァー・ヴィーには聞き取れてはいなかったものの何かは聞こえてたらしい。表情は変わっていなかったが何かを察したのか、シュピーゲルの方を見つめて葉巻を吸う。少しして煙を吐き出し気だるげに言い始めた。
「……何か不満らしいが、少なくとも仕事内容に沿った報酬でなきゃ誰も仕事なんてやる訳ないだろう」
「──不満だなんて、そんなこと」
「はん……そうか。なら悪いがさっさと帰ってくれ、もう用は済んだはずだ」
「あー!そうそう、今日リアルで仕事の準備しなきゃいけないんだった! ごめんなさいね2人とも、Vの方も準備しなきゃいけないのよ」
ね? と柔和な笑みを浮かべてヴァー・ヴィーへと向ける。彼の方もため息をつきながら頷き肯定し、シノンとシュピーゲルの2人をプレイヤーホームから退出させていく。2人が出ていったあと、銃士Xは疲れた様子を見せながらもヴァー・ヴィーの隣に座り訊ねた。
「ねぇ、シュピーゲルだっけ? 彼に対して当たりが強かったようだけど」
「……確かに当たりは強かったな。だが不満の声を漏らしておいてあの取り繕ったような表情、どうにも胡散臭いのだ」
「彼が何を言ったのよ?」
「そこは聴き取れなかった。だが声の抑揚でまず間違いなく不満か俺に対する悪口かだ、迷惑甚だしい」
「……何を言ったか分からないのに強く当たるのもどうかと思うけど?」
「その声自体聞き取れてなかったのに、俺にとやかく言うな。──悪いが先に戻らせてもらう」
「はぁ……分かった。私からはこれで
「そうしてくれると有り難い」
ヴァー・ヴィー達のプレイヤーホームから退出したあと、シノンはリアルに戻って用事を済ませることにし、シュピーゲルも同じくリアルに戻ることになった。そうして朝田詩乃が現実に戻ってきた時、彼女はしばらく自分のベッドの上から起き上がらずに考えていた。あのとき隣にいた彼女からは僅かながらシュピーゲルの言っていたことがよく聞き取れていた。けれど想像できなかった。
『金の亡者が』
そう、確かに聞こえていた。でも何かの間違いと思いたいと考えている。
だがあれを聞いていたらしいヴァー・ヴィーの機嫌は間違いなく悪いものになっていた。耳ざといというのだろうか、あの2人も現実に戻ると言っていたが、どう考えても方便なのは明白であった。けれどあの時のヴァー・ヴィーの言葉がもしも……頭の中で考えを過ぎらせるが明確な答えが出る訳でもなく、朝田詩乃は一旦思考を止めた。
※ロストジャッジメントやってて楽しかったです
【XM29 OICW】
OICWとはObjective Individual Combat Weaponの略称。製造にはドイツのH&K社とアメリカのアライアント・テックシステムが携わっている。
アサルトライフルであるが20mm炸裂弾(グレネード)を発射できる機構を備えた次世代個人携行火器のプロトタイプとして開発。標的捕捉・射撃管制システムを搭載しており、更に戦術コンピュータやヘッドアップディスプレイを駆使した相互通信を可能にしている。
欠点として砲弾1発の値段が非常に高いなどコスト面の問題がある。