戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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戯れ侯爵と報復者

 少しばかり忙しなく用意を済ませ、長ソファに座る2人とテーブルの上に置かれた3つのカップとソーサー、ティーポット。何故か片付けられた別のソファはアイテムボックスに収納され、まあまあ開けた不自然な空間が2人の視界に映る。少ししてヴァー・ヴィーのメール欄に噂の人物からの連絡が入り、どのような人物がやってくるのか興味を持って玄関口の方を見る。それに気づいたヴァー・ヴィーは笑みを零し、アイテム欄から何かのリモコンを取り出した。

 

 

「レン、そちらからは来ないぞ」

 

「え、どういうことですか?」

 

「こういう事だ」

 

 

 そのリモコンの大きな丸ボタンを押すと、不自然に開けた空間の天井が一部移動し大きめの真四角な穴を作った。直後にその穴から何やらレールのようなものが降下し床に着いたところで動きを止めると、機械音とともにその穴から誰かが降りてやって来た。

 

 ゆっくりと豪華なワインレッド色の大きなソファと共にまず見えたのは足首から上が肥大化した脚、次いでその脚に伴って着用しているシャツがはちきれそうなほど肥大化した上半身と、その体型に見合ったかのような大きさの頭部に白髪。そして両手指に着けられた見るからに豪華な指輪と、これまで見たことも無いような異質な存在をレンは目の当たりにした。それと同等にこのホームの天井から降りてくる光景を見たため開いた口が塞がらなかった。

 

 その男はヴァー・ヴィーの隣にいるレンを一瞥したのち、ヴァー・ヴィーのほうへと見やる。かなり親しげな様子で男は柔らかな話しかけてきた。

 

 

「おや、お客人ですか?」

 

「いや、リアルの知り合いだ。俺がヴェンデッタだって事も知ってる」

 

「成程、納得しました。そういえばこの商談に参加したのはイクスさん以来、彼女もリアルの知人と仰っていたのを思い出しました」

 

「あぁ。レン、コイツが俺をヴェンデッタと知ってる数少ないプレイヤーの1人だ。名前は──」

 

「『マーキ』と申します、お初にお目にかかります。レンさん、で宜しかったですかな?」

 

「……うぇ、は、はい!そうです!」

 

「ホッホッホッ、よいお返事で。見た事がありませんのでニュービーの方でよろしいですかな?」

 

「彼の付き合いで」

 

「ほほ、随分と仲のよろしいことで」

 

 

 マーキと呼ばれるこのプレイヤー、その口調から一見して無害そうに思えるのだが何処か掴みどころのなさが垣間見える。異質な風貌と穏やかな物言いに加えて柔らかな声色、総称してミステリアスな雰囲気を纏っているのだから尚のこと。そんなマーキだが思い出したかのようにアイテム欄から何かをオブジェクト化させる。

 

 

「ヴェンデッタ様、ご要望の品に御座います」

 

「いつも悪いな」

 

「いえいえ。悪いと思っているなら残りの金額を素直に受け取ればよろしいのですがね」

 

「あれでも俺にとっては大金の額なんだよ、少しは遠慮を覚えてくれ」

 

「遠慮したとしてもあの額を提示していたのは間違いありませんよ」

 

 

 マーキがオブジェクト化したのは金属製のシガレットケース、中にはヴェンデッタが愛用している葉巻が二十本以上も入っておりこのGGOの世界設定を考えるとこの本数を手に入れるのにどれ程の金が動くのだろうか。中身を確認したヴェンデッタはそれをアイテム欄に仕舞い、今度は彼の方からアイテムをオブジェクト化する。紅茶を1杯飲みカップをソーサーに置いたマーキはそれを見やる。

 

 

「じゃ、商談の話としようか」

 

「分かりました。して、どのような代物で?」

 

 

 現れでたのは若干縦長になったハートの形をした何かであった。それを取り出したは良いがレンとマーキは何であるのかということを知らない、興味津々でその代物を見つめているのはマーキだけであるが。ヴェンデッタはそれの裏側を弄り始めると、全貌が明らかとなる。

 

 突如そのハートの形から大きな両翼が現れ部屋を占拠する。マーキは感嘆の声を洩らし、レンは驚きの声を挙げた。

 

 

「な、ななな何ですかこれぇ!?」

 

「【フライングユニットE-8 AG】 簡単に説明するとコイツを使えば半永久的にこのGGOで空を飛べる」

 

「ほぉほぉ、それで?」

 

「スラスターには四基の反重力装置、それらにエネルギーを供給する為に小型核融合炉を採用。両翼には機械兵にも使用されてるナノ単位で編まれた伸縮性能の高いチューブとその内部に形状記憶合金、空気抵抗の増減操作に鳥型のネームド【スカイハイランダー】を倒した際に手に入れた軽量かつ耐久、耐摩耗性に優れた強硬金属を生成しこれを羽に採用。背部ユニットの方はっと……これを背中に付けると自動的に脊髄と直結しつつ胴体を取り囲むように固定具が射出、思考制御による飛行が可能となる。但しゲーム上とはいえ脊髄と直結するため装着時と着脱時の際にダメージが発生するし飛行経験のない奴はそもそも真面に飛ぶ事すら不可能だ。それらを考慮して滑空も可能にした機能を組み込んでいる──こんな所か」

 

 

 喋り疲れたヴェンデッタが砂糖とミルク入りカップの紅茶、自分の前にあるカップを取り満足するまで飲んだあとマーキの質問が始まる。

 

 

「着脱の仕方は」

 

「頭の中で“外れろ”と命令すれば良い。脳からの信号が脊髄を経由して命令を受諾、あとは勝手に簡単に外れる」

 

「発生する重力は」

 

「最大速度での飛行なら12G、機械計測でそう出た。だが通常飛行する分なら負荷によるダメージはない」

 

「使用可能な環境は」

 

「砂漠以外ならどこでも。羽がフラップの役割を果たす都合上、砂塵が隙間に入りこむとで機能不全になる」

 

 

 両翼側に再度向け、背部ユニットを弄ると両翼が畳まれあの縦長のハート型に戻る。一連の行動を初めて見たレンは何も言えずポカンとしており何か言いたかったはずだが、何を言いたいのか思い出せないという有りがちな状態に陥った。商談相手であるマーキは品を見つつ考え込み、指パッチン。

 

 

「7.6Mで」

 

「遠慮って言葉知ってるか?」

 

 

 ノータイムで応えたヴェンデッタが頭を抱える。いつもの事ではあるのだが金が関わっている以上、提示された金額の大きさで突っ込まざるを得ない。そこまでの金を持ち合わせているマーキの素性も不思議ではあるが。

 

 

「7.6メガ?」

 

「……現実換算で7600万」

 

「ほぉぅっ!?」

 

「いやいや、労力に見合った金額と存じますよ。スカイハイランダーの方もおひとりで倒されたのでは?」

 

「昔な。あとは部品持って金属生成しただけで労力はほぼ無い」

 

「いや金属作ってる時点でおかしいですからね?」

 

「レンさんの仰る通りでもありますよ。この金額は貴方の労力や使用した材質等を加味した上での価値なのですから」

 

「サラリーマンの年収を優に超える金が見合った価値ってのも毎度思うがどうかしてる」

 

「それはそう思いま……え、毎度?」

 

「おや、味方が1人減ってしまった」

 

「……分かった。それで満足ならな」

 

「商談成立ということで」

 

 

 そして発言通り、ヴェンデッタはそのアイテムを売り渡しマーキはそれを7.6Mで購入した。いい買い物をしたと満足気な笑みを浮かべたマーキは暫く紅茶を嗜んだあと別れを告げるとそのまま上昇し、レールも片付けられるとヴェンデッタにメッセージを送った。

 

 リモコンのボタンを押し、天井の穴を塞ぐと疲れた様子でソファの背もたれに倒れ自分が居る位置の天井を見上げるヴェンデッタ。彼とマーキの商談はいつもこう、しかし金額の大きさには未だに戸惑うこともある。

 

 

「あの、亮司さん」

 

「……Vと呼んでくれ。何だ?」

 

「毎度って、いつからあの人と交流があるんですか?」

 

「5ヶ月前。どこで知ったんだか分からんが、俺がああいう物を造ってることを知ってて依頼してきたのが初めて。その出来上がったものを15Mなんて大金積んで渋々買ってからだ」

 

「渋々って、あんなお金持ちの人がですか?」

 

「あぁ。()()()()()()()()()な」

 

「……まさか」

 

「元は38Mで買おうとしてたんだよアイツ。交渉に交渉を重ねて、残りの23M分は情報料として利用してる」

 

「三億はもう、現実味ないじゃないですかそれ。一体なんなんですかあの人」

 

「俺もよく知らんよ。分かるのはそこまでの大金を持ってて動かせる、GGOやら何やらに精通してる金持ちってぐらいだ」

 

「ああいう人、映画の中だけかと思ってました」

 

「会うまでは俺もそうだった」

 

 

 色々とあったが、今日はこれでお開きとなり2人とも現実世界に戻った。目を覚ました睦希は台所からジャーキーを取り出し、それを食んだ。本来ならば香蓮と狩りをして時間を潰す算段でもあったが、巡り合わせが良いのか悪いのか定かでないにせよ狩り以上に疲れる結果となった。そして現実世界でイザベラへの謝罪を考えることにした。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 平和な時間を過ごしている最中であっても、必ず裏には誰かの悪意が蠢き何かを成そうとしている。それは変わることのない普遍的な事実で、如何にそれを潰そうとも新しくまた芽生えるのが常である。その日、彼らは事件の始まりを知ることになった。否応にもそう思わざるを得ない“事件”というべき出来事に直面することとなるのだから。

 

 彼は死をもたらすもの。髑髏の仮面に隠された素顔はきっと使命感に浸ったものなのだろう。仮面越しのくぐもった声が画面向こうで起こった惨状を物語るかのように言った。

 

 

これが本当の力、本当の強さだ!

愚か者どもよ。この名を恐怖とともに刻め。

 

俺と、この銃と名は死銃(デスガン)だ!

 

 

 幕開けの時が来た。

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