戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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Remnants Recollection
事件の考察


 現在のGGOは異様な噂が蔓延っている。MMOトゥデイの取材中に起きたゼクシードの不審な挙動と強制ログアウト、それが起きた時間と重なり合うように1人の人間が死亡したことが明らかとなった。頭が回る者、勘のいい者、悲観的な者、差異はあれども“殺されたのではないか”という根本的な統一がなされた主張が出てくる者が増えていった。しかしそのゼクシードのリアルとされる茂村(しげむら) (たもつ)は自宅のベッドで心停止の状態であったため、持病によるものか不健康による発作かといった事故によるものとしての見方が大きい。

 

 そしてゼクシードに続いて薄塩たらこまでもが死んだという事実が加えられ、話に尾ヒレが次々に付けられ根も葉もない噂だけが独り歩きしているというのが現状である。VR世界での殺人が現実世界に及んだというSAO事件に似通ったこともあって、その話題はVR界隈では有名になっていた。死銃事件と名の付けられた出来事を噂に噂を重ねて、彼らは話の種にする。自分には関わりのないことだとどこかでタカをくくって、しかしその事件に蔓延る噂に左右されず1人自らの頭で解明しようとヴァー・ヴィー(ヴェンデッタ)は思考を続けていた。そこに疑問がある限り彼の思考は止まらないのだから。

 

 そうして思考の海に耽ながら、筆記形式で思考を続ける彼に対しホームに居るレンとイクスはその様子をただ見てるだけであった。

 

 

「真剣ですね、亮司さん」

 

「気になる事は納得するまで調べようとするからねぇ彼。ホームズみたいにさ」

 

「あぁ……確かに探偵っぽいですね。言われてみれば」

 

「まぁでも、そろそろ休憩が必要ね」

 

「ですね。もう3時間ああやってますし」

 

 

 思考の海を泳いでいるヴァー・ヴィーの前に砂糖5個とミルクがたっぷり入った紅茶、の原型がないミルクティーが置かれる。カップとソーサーが僅かに当たる音で出されたミルクティーとそれを差し出し自分の分も用意しているイクスとレンを見やり、一旦休憩するとして目の前の世界に思考を戻した。

 

 

「ありがとう」

 

「なら店番の御礼が欲しいわね、勿論香蓮ちゃんの方にも」

 

「考えておく。必ず用意する」

 

「ならよろしい」

 

「……あの、亮司さん。どこまで分かりました? その事件」

 

「んぁ、あぁ……まだ仮説の段階で何とも言えんが多少は」

 

「どんな感じ?」

 

 

 出されたミルクティーを飲んで一息つき、一旦目を閉じる。そして短く息を吐いて目を開き両手を組んで杖のように扱うとゆっくりと話し始める。

 

 

「まず前提として、分かっていることがある。VRの世界で殺人起こそうが現実に影響はないということ」

 

「はぁ」

 

「SAO事件の再来、なんて呼ばれてるけどそれに関してはどう思ってる?」

 

「どうもこうも、今回の件はSAO事件ではなく前に起きたALOでの人体実験の方に酷似してるだろう」

 

「あーつまり……現実世界の第三者がやってるって?」

 

「ああ。そもそもSAO事件はナーヴギアだからこそ可能であって、立て続けにVR関連で事件が起きて波風荒れてるような時に、アミュスフィアにそういった機能があれば元も子もない」

 

「それもそうですね」

 

「しかも今被害を受けているのはザスカーの方だ。自分の首を絞める行為を態々やる意味が無い、誰かが勝手に何かしでかさん限りはな」

 

 

 それもそうか、と納得した言葉と頷きが2人から見られた。ヴァー・ヴィーはまたミルクティーを飲み一旦区切りを入れると、目の色に真剣味を帯びさせて話を再開し始める。

 

 

「そう、あくまでもこの事件は現実世界での死が引き起こしたものであって、あの死銃とやらの行為はカモフラージュのそれだ。タイミングよく何かしたと考えている」

 

「ん? 待ってください、じゃあ死銃って2人でやった事なんですか」

 

「複数犯、と考えるのが妥当だ。人数に関しては何とも言えんからな……とはいえ分かっているのはここまで。問題は」

 

「ちょっと良い?」

 

「何だ?」

 

「他殺の線で考えてるみたいだけど、被害者は心停止の状態で見つかったのよね? たまたま生活習慣病と重なったってことは?」

 

「無いな。偶然の一致にしては都合がよすぎる、そもそも他人が死ぬ日時が分かってたのなら豪運にも程がある。俺とてせいぜい他人の死期の一か月前ぐらいに特殊な頭痛がして漸く当人の死期が近い事が分かる程度なのに」

 

「いやそれは分かるんですか!?」

 

「分かるな。とにかく自然死、事故死の線は確率的にないと断定できる」

 

「なるほどね……で、問題って?」

 

「具体的に分からない所が多い、というのが1つ。例えばだが」

 

 

 先程筆記形式で色々と記述していた電子画面、その中の疑問点の箇所を2人に見せる。他殺という前提で現れてきたのは場所の特定、侵入方法、殺害方法を挙げている。

 

 

「まず、他殺の前提として“どうやって場所を特定したか”だが。そこから行き詰まってる」

 

「GGOで住所が分かるとなると……それだとザスカーが分かってるでしょうし、個人情報を盗んだとか?」

 

「……だとしても個人情報が引き抜かれた事など、今回の件で調べていたら分かりそうなものだがな。多分、ザスカーもそれは調べた筈だ」

 

「うーん……」

 

 

「考えても埒が明かないわね。次に進みましょ、侵入方法について」

 

「鍵の種類にもよるが、簡単に開けられる代物ではないだろう。こじ開けた形跡が無かったらしいしな」

 

「それだとピッキングの痕跡も多分無いわね。となると対応した鍵を持っていたことになるけど」

 

「もし仮にそうだとしてもだ、それらを持ってるのは不動産管理会社の人間ぐらいなものだ。そうなってくると関連性、犯人のな、それが分からないし何か納得しない」

 

「もしかしたら本当にそういう人たちだったりして」

 

「……ふーむ、芋づる式に見つかりそうなんだがな。ザスカーの社員が関わってるのなら」

 

 

「これも滞りそうだから、最後に殺害方法の話題をしよっか」

 

「死因が心停止によるものだろう……もしそうならどうやって止めたんだ?」

 

「薬、ですかね? 有り得そうだとは思いますけど」

 

「直接的な傷も無いらしいし、薬の線はありなんじゃない?」

 

「かもなぁ……心臓を止める要領は知ってるが全員知ってる訳では無いし」

 

「逆に何でそれを知ってるんですか」

 

「心臓近くの経絡をな、的確に狙って軽く突けば。実際に偶然の事故でそうなった前例もある」

 

「え、怖っ」

 

 

 ひとまずの区切りとして一旦3人とも紅茶とミルクティーを飲んで一息つき、今まで出てきた情報を整理すると場所の特定や侵入方法については未だに分からず、殺害方法は薬などによるものという大雑把な形が出来上がった。とはいえまだまだ真相に至っていないどころか迷走中、専門でもないことに首を突っ込んで何になるのかはヴァー・ヴィーのみが知る。

 

 そんな中、玄関口の扉が開いて入室してくるシノンがその様子を見た。

 

 

「3人揃って何やってるのよ」

 

「お帰りー、シノーン」

 

「はぁ……ただいま? で、何やってたのよ」

 

「最近話題の死銃事件について。色々と分からん事が多いのだ、どうやって場所を特定したかさえ判明してないのだ」

 

「ふーん。それよりV、ちょっと見繕ってほしいものがあるんだけど」

 

「被害者の共通点がGGOプレイヤー且つBoBの参加者ということしか分からんし」

 

「話聞きなさいよ」

 

「……ん?────あ」

 

 

 そういえば、と前置きし何かを思い出した様子で電子画面に書き込み始めたヴァー・ヴィー。まさかと思って書き連ねた一文は、少なくとも彼自身を納得させる材料にはなった。

 

 

「何か分かったんですか?」

 

「被害者はBoBの参加者であることなら、住所を入力する機会はあった。それなら話は変わる」

 

「というと?」

 

「BoBの賞品などだ。あれらを受け取るには個人情報に住所を記す必要がある、住所を見れば特定はできるからな。とはいえそれを確認するにしても、そんなプレイヤーはすぐに運営に通報されて垢BANがオチだしバレる。だがそれ以外に有り得ない」

 

「つまりBoBの際に個人情報を覗き見したってことよね、誰にも気づかれることなく」

 

「そうなる。だがそんな事どうやって……」

 

 

 勝手に思考の海にまた浸かろうとしていたヴァー・ヴィーに痺れを切らしたシノンが、苛立ちを隠さず大声で言い放った。それは彼の推理を前進へと導くものとは知らず。

 

 

もしかしたらアンタが造ってるようなトンチキアイテムでも使ったんじゃないのかしらねっ!

 

 

 一時の沈黙。だがその発言に何か歯車の噛み合わせが良くなったような、煮詰まった思考がスムーズに動き出した雰囲気を醸し出す。第一声はイクスであった。

 

 

「──そうよ、アイテム! 誰にも見られなくするアイテムがあっても可笑しくない! Vがあんなに造ってるんだし、例え造ってなくてもドロップアイテムであるかも!」

 

「そうなると話は変わってくるぞ、そんなアイテムを使って奴は住所を特定したとするなら……! 急ぎアイツに連絡して確認を取る」

 

 

 フレンド欄から彼は『マーキ』の項目を選択し彼に先程のアイテムの情報を求め、一旦画面を閉じるとシノンのもとに歩み寄った。

 

 

「助かったシノン、礼を言わせてくれ」

 

「どう……いたしまして?」

 

「その礼としてはなんだが、俺が出来ることなら何か言ってくれ。多少の融通は効かせよう」

 

「なら別のサブアームを見繕ってほしいんだけど」

 

「お易い御用だ」

 

 

 ヴァー・ヴィーは上機嫌で射撃場へと向かい、シノンは多少戸惑い呆れながらも後を付いて行った。

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