4つの弾倉を全て空にしたシノンは手に持っていたベレッタM93Rを台に置き、後ろで整備されたPP-2000を壁に隠された銃ケースに戻すヴァー・ヴィーを見る。ケースが自動で戻ったところで彼もシノンの方を見て彼女に近寄った。
「シノンの筋力値なら活かせると思って見繕ったが、感想のほどは?」
「ストックが必要な理由がよく分かった」
「なるほど、お前さんでも難しいか」
「かなりね。両手で使っても反動を卸しきれない」
「……ふん。なら教えるべきか」
「何を?」
「まぁひとまず貸せ、実演としよう」
置いていたベレッタM93Rとマガジンを渡し、別の射撃台で弾込めを済ませ準備を済ませる。撃つ前にシノンを彼の右隣の台に移動させ、それを確認すると銃を構える。但し普通の構えではなく銃本体を胸と密着させグリップを前と後ろで押さえ付けるもの、そして標的の位置は僅か1.5mという超至近距離。
それらの調整を済ませたあと、3連バースト射撃を2回行った。結果は心臓と頭の集弾率が高くなっており他の場所に穴が空いていないという“技術の差”を見せつけた。
「これぐらいか、どうだ」
「すっご……いや的確すぎて。どんな理屈よ?」
「実際の技術だ。名前をCARシステムという」
「カーシステム?」
「Center Axis Rockの頭文字を取った略称だ。近接戦闘においてこの手法は非常に役立つ」
「近接戦闘の重要性は教えられたから分かるけど、ここまで近いと先にやられそうなんだけど」
「大丈夫だ意外と死なん。それにこれはあくまでも例の1つで、本来は3m以内の範囲で有効なものだ。近いとは思うが3mもあれば十分。他にも構えはあるのでな、使い分ければ尚よし」
早速色々とシノンに教えていくヴァー・ヴィー。強さを求める彼女のお眼鏡に叶うかどうかはさておき、教える側の隠された熱量が見え隠れしながらも分かりやすい指導法によってシノンの実力は前までと比べて違うと実感できるほどの技術が身に染み込まれている。強くなったと確証が持てるほどの実力をシノンは有しているのだ。
それでもまだ足りないものがあると判断して、今も尚こうして強くなろうとし続けている。過去を払拭しようという根源を強く持って、どれだけ時が経つことになったとしても。一通りの構えとCARシステム特有のグリップの握り方、そしてひとつまみの理論を知りいざ実証というところでヴァー・ヴィーにメールが届く。内容を確認した彼は目つきを変え画面を閉じる。
「すまんが急用だ。暫くは繰り返し確認して、満足したら狩りに出るなり好きにしてくれ」
「用?」
「死銃に近付く情報だ」
開かれた自動ドア通り抜け、扉が閉まればこの空間にはシノンただ1人のみとなった。ともかく彼女はCARシステムの技術を自分のものにするために練習に励むことを選んだ。
イクスが先に現実世界に戻りレンと2人だけその長ソファに座り、リモコンのボタンを押し天井に穴が開くとレールが先に現れ、それに沿ってワインレッドの大きなソファに座りながら降下してくるマーキ。長ソファに座るヴァー・ヴィーとレンを一瞥し何か話そうとする前に彼の手が前に出され、言葉を止める。
「悪い、今射撃場に客が来ててな。偽名の方で頼む」
「成程分かりました。では……V様、お話といきましょう」
「ああ」
ヴァー・ヴィーはこの死銃事件の推理内容の分かっている部分、そうでない部分を説明し今回マーキに来てもらった主旨を伝えた。一通りの事情を聴き終えた彼は差し出された紅茶を1口飲んで語る。
「先に結論から申しましょう。そのアイテムは確かに実在します」
「名前は?」
「メタマテリアル光歪曲迷彩。光学迷彩のことで間違いないかと」
「そうか……! これで辻褄は合うぞ」
「とはいえ、まだ凶器も侵入方法も分からないのでしょう?」
「まぁそうだが、それでも1歩前進したのは間違いない」
「ホッホッホッ。まるで探偵のように喜びますねぇ」
「あのー、光学迷彩って?」
「使用すれば周りの景色に溶け込めるアイテムだ。死銃はそれを使って住所を割り出した……いや、盗み見たというのが正しいだろうな」
かなり大雑把な回答ではあったが間違いではない。住所を割り出した方法に納得を感じているヴァー・ヴィーにマーキは語りかけた。
「しかしながらV様、何故貴方は真相を求めるので?」
「あん?」
「貴方は事件の関係者でも無く、ただ1人悩み真相を暴こうとしている。誰からも感謝されることなく、貴方はただ思考を巡らせ続ける。それは何故?」
「自己満足」
「ノータイムでしたな」
「俺は自分で不思議に思った事を納得いくまで調べ尽くさないとストレスが溜まる性分らしい、例えそれが自分に関係あろうが無かろうがな。結局のところ、それだけの為に動いてるだけだ。打算なり何なりは全く考えていない」
「成程、理解しました」
「とはいえ今回は事が事だ。推理通りなら個人情報の流出という被害は確実に起きている、見過ごせはせんよ」
マーキはそれを聞き、自身の所持しているシガーケースを取りだし葉巻を一本手に取った。何も言わずヴァー・ヴィーに向けて確認すると、部屋の換気機能を作動させて了承をする。葉巻の先端を切りマッチで火をつけると軽く五分ほど葉巻を味わう。触発されたのかヴァー・ヴィーも葉巻を取り出し、レンに確認をとって了承を貰ったのち葉巻を味わい始めた。
マーキの葉巻が半分近くまで減った頃合いに、シノンが射撃場から戻ってくる。何故かこの部屋に居る初めての相手に驚いた様子だったが、軽く自己紹介を済ませるとヴァー・ヴィーの交友関係にどこか納得いった表情を見せた。喋るために手に持った葉巻はそのままに、彼は語り始めた。
「ひとつ、今私が過ぎった考えをば。宜しいですかなV様?」
「何だ」
「犯人の侵入方法について考えていたのですが、ふと思いましてな」
「ほう?」
「その様子ですと興味おありのようで。では僭越ながら……住居には必ず錠とそれに見合った鍵が必須であるのはご存知でしょう」
「まぁそれはな。対応した鍵が無ければ開かん」
「えぇ、それは極々当たり前の事です。しかし何事にも例外はあるように、不動産管理会社では当該物件の鍵や限定的なマスターキーを必ず所有しております。まぁそれらを不正使用するにしても、どこでどの時間に使用されたのか記録されるためそんな危険を冒す必要はありません。仮に盗んだにしても鍵が紛失したことでバレる恐れがある」
「ふむ」
「話を戻しますが、そうした例外と呼べる鍵を所有しているのは何も不動産に限った話ではないのですよ」
「何?」
「そうした例外が必要な職場、先に答えを言ってしまうなら────」
現実世界へと戻った睦希はベッドから起き上がり、手近にあった自身のスマホから何かを検索し始める。その表情は日が落ちて若干暗がりの部屋に、スマホ画面の僅かな光に照らされて初めて知ることが出来た。もう彼は20を越えているが今の表情にはまるで何かを理解した子どものように目を輝かせている。そうしてたどり着いた項目を確認し、もしかしたらという可能性がより現実味のあるものへと変わっていく確証を彼は持つことが出来た。
足早にリビングに向かい扉を開けようとすると、同居人であるイザベラと鉢合わせる。ぶつかりそうであったのでお互いブレーキを掛けたものの、睦希の方は壁に手をついて姿勢を正すことで漸く止まりお互いの状態を確認すると先にイザベラから話し始めた。
「リョージ、ザスカーに勤めてる知り合いと連絡ついた。昼の休み時間に社員食堂で話できるってさ」
「成程、なら集合場所をそこにすればいいか。今から総務省仮想課の部署に連絡を入れてみる。今回の件を話せるかの確認をやってみる」
「仮想課?」
「本来はSAO
「ますます何者か分からないわねぇ……推理で何か進展あった?」
「あぁ。まず住所の特定方法が確信した、GGO内に光学迷彩があってそれを使って人目を気にせず盗み見た。間違いないだろう」
「他には?」
「侵入方法と……それから凶器、殺害方法が分かったやもしれん」
その時インターホンが鳴った。イザベラが外の様子をカメラで確認すると香蓮が映っており、直後にドアが開かれ睦希の姿が若干映りながらも部屋へと入っていく。
「いらっしゃい、事件のこと?」
「はい。えへへ、何か今ちょっとワクワクしてます」
「不謹慎ではあるがな」
「うぅ……」
「だが気持ちは分からんでもない。被害者には悪いが、此度の事件の解決が目の前という点では俺も興奮している」
「ホント、ホームズみたいな人ね」
珍しく不敵な笑みを浮かべる睦希、ミステリー小説に出てくる主人公みたく自らの推理が様々なパーツによって補完され完全に近付く感覚に対して、そのようになったのだろうか。3人はリビングへと入っていき暖房の効いた暖かな部屋で、イザベラが作っていたと思われる赤紫色の鍋が置かれたテーブルを囲み器を持つ。
「では、夕食を食べながら今後の話し合いとしようか」
「ところでイザベラさん、この煮込み料理の名前なんですか?」
「ワイン鍋だってさ。ク○シルにあった」
「どれお味の程は」
「今よそうから待ってなさいな」
【ベレッタ M93R】
イタリアのベレッタ社製マシンピストル。ベレッタ92をロングバレル化・ロングマガジン化しフォールディングストックを取り付けられ、セミオートと3点バーストに切り替えが可能なモデル。M1951Rの後継として開発されたため対テロ用を前提にしている。