睦希が確認しているだけで5人の人間が取り囲んでいることを察知していた。敵意などがダダ漏れである分、どこから誰が来るのかが察知しやすいというのもある。5対1というどう見ても不利な状況にも睦希は至って冷静であった。戦闘は混迷を極めるかと思いきや意外にも呆気なく、何の被害も出せないまま5人の人間は睦希1人に制圧された。
それもそのはず、睦希からしてみれば相手は完全なド素人。たとえ武器を持っていようが扱いの何たるかを分かっていなければその武器に振り回されるのがオチ、簡単に全員分の武器をディザームすることは可能であった。あとは人間の弱点箇所を相手に気付かれず素早く狙い敵を封殺したり、相手の力を流して自滅させる。それであっという間に戦闘は終わり、仮面を剥ぎ取って正体を露にさせる。彼からしてみれば戦闘でもなんでもない
一瞬気だるげな様子を見せながらも、切り替えて呻き声をあげて倒れている1人に近寄り持ち物を物色し始める。あったのは財布とスマホのみ、ディザームによって男の持ち物であったバタフライナイフは放置されているため実質これら2つのみ。男は奪われまいと必死に手を伸ばそうとしたが、彼がいきおいよく上腕三頭筋を蹴ったことで痛みで顔を歪ませ情けない声を挙げる。睦希はスマホを起動し画面を見たがパスワードが掛けられていることを知ると、男の顔の傍に近付きそのスマホの画面を見せながら言う。
「おい、アンタのパスワード教えな」
「あ゙……だ、誰がテメェなんかに」
「もっかいやらなきゃダメ? んな面倒な事したくないんだが」
「ひぃっ……!」
「それに他の奴らはノビてるし、いま話を聞けれるのアンタだけなんだよ。何で俺を襲ったのかって情報もアンタらのスマホなら入ってそうだからな。ほら、さっさと教えろ」
「お、おおお前! こんな事してタダで済むと思ってんのか?!」
「凶器準備集合罪、暴行未遂、軽犯罪法違反、タダで済まないのはアンタらの方。ほらさっさと教えろ」
正直なところ、ここで脅しをかけてパスワードを言わせようとしている睦希にも法に触れることになりそうだが、そんな事は当の本人がよく分かっているため警察が来たら止めようとは考えている。だが一刻も早く死銃事件の真相に近づくためには脅しまがいの行為もやらざるを得ない、変なところで割り切っているのか割り切っていないのかが彼の“らしさ”なのだろうが。
教えられたパスワードを入力し男のスマホの中身、メールや電話帳の履歴、SNSをざっと見で確認していく。そんな中ツブッターのメール欄を確認すると奇妙なやり取りがあった事が伺えた。内容を確認し、今度はツブッターのサジェスト機能から長ったらしいものを見つけそれを検索。するとある1つのアカウントに遭遇する。タグは殆ど文章みたく長いため容易に検索されないようになっており、それを読み進めていると英単語2文字の言葉が彼の視線を止めた。
「B.C……?」
その文字が気になって、検索に出たアカウントを確認しようとすると後ろから息切れをしながら追ってきていた笹森がようやく到着した。彼の方へと視線が向かれたことで倒れている男は手頃な石を掴み、そのまま殴ろうとしたが呆気なく止められ手首の腱に勢いよく爪を立てられ痛みに悶えた。
「あだだだだだっ!」
「へぇ゙……へぇ゙……、お、お前さん、
「笹森刑事、お疲れのところ悪いですが職務に少し戻ってくれませんか?」
「あ゙……?」
「け、刑事ぃだだだだだ!?」
「暴行未遂の現行犯と、凶器準備集合罪等の軽犯罪法違反の容疑者です。応援は──周りの人が呼んでくれたみたいですね」
スマホのアプリ画面を消してから電源を切ると、男から手を離しつつスマホを返す。その様子を見ていた笹森が若干体力が回復している状態で訊ねた。
「お前、何見てた?」
「俺を襲った証拠らしき情報を。多分俺が襲われたのは意図的なものだと」
「なんだと……?」
「まぁ詳しい話は警察署で……あ、ついでに菊岡さんも呼んじゃいましょう。都合が良い」
「……今日はとんだ1日になりそうだ」
大宮警察署に連れて行かれたが睦希は事情聴取のみに終わり、笹森に言われていた休憩所で1人自販機から購入したリラクゼーションドリンクを飲んでいた。警察署内の自販機にこのドリンクがあることに多少驚きつつも、ストレスの掛かりやすい業務だからあっても不自然では無いだろうと考え炭酸がじわりと広がる感覚を味わう。
疲れた様子で休憩室に入ってくる笹森を見かけ、睦希はゆっくりと立ち上がった。
「お疲れさん、今日は災難だったな」
「そうですね。あ、笹森刑事あの事は」
「その前にちょっくら煙草を吸いてぇ。お前さんはここで待って」
「なら俺も行きますよ。その方が手っ取り早い」
「……なら、ここじゃなくて外の方を使うかね」
「御足労かけます」
「良いんだよんな
「えーっと……時間も経ってるのでそろそろ来そうではあるんですけど」
「ならお前さんは待ってな。外の喫煙所は出て左曲がった所にあるからな」
「分かりました」
暫くのあいだ受け付け前の席で菊岡が来るのを待ち、その姿を視界に捉えると外へ出て合流する。笹森の言っていた外の喫煙所まで向かい、3人が顔を合わせ紹介などを済ませると本題の方に移った。
「で、お前さんの言っていたB.Cって言葉だが……知ってるぜ。なんでも仮想世界と現実世界の区別がつかない輩が集まる裏サイトの名前らしい」
「裏サイトですか。でも区別がつかないってことは」
「ああ。仮想世界で出来る事が現実世界でも出来ると盲信しているんだ、かなりの迷惑行為や場合によっちゃ犯罪行為まで仕出かすから手を焼いてる」
「おぉぅ」
「笹森刑事はB.Cを担当されていると?」
「そうだ……仮想課の人間なら分かってると思うが」
「ええ。そのサイト利用者にSAO
「俺はまだ会ったことはねぇがな。今回ので該当者が居るか確認をしてもらう事になるだろうよ」
「SAOサバイバーが居るんですか?」
「あぁ。中でも目立つのは、そのSAOで犯罪行為をしでかした事のある輩だ。恐喝や殺人までやってた奴も居るとな」
「SAOで犯罪……というか、殺人まで起きてたんですね」
「お前も知ってるだろうがSAO内で死んだ場合、現実世界でも死ぬ事になってた。それを分かっていてやってた輩と本当かどうか確かめる為にやってた輩も居たらしい、B.Cに居るSAOサバイバーの大半がそれだとよ」
「正直、理解には苦しみます。分からない訳じゃないですけど」
「分からなくて良いんだよそういうのは。……それより、あの5人は確かにお前さんを狙ってたらしい」
「やっぱりですか」
「ああ」
持っていた煙草を咥え、気休めのような一服を終えて話を続けた。
「奴らの証言とスマホからお前さんと俺を襲うように仕向けてあった。目を付けられてたんだろうよ」
「笹森刑事は無事ですけどね」
「計画の変更も言われてたらしい。大宮第三公園に誘いこんだお前さんを痛めつけろと指示があったとよ」
「で、睦希君が返り討ちにしたと」
「そうですね」
「お前本当に一般人か?」
「失礼な一般人ですよ。ちょっと心得やら技術やらあるだけで」
「それ一般人じゃなくて
「菊岡さん?」
煙草の吸殻を灰皿に押し付けてそのまま捨てた笹森が腰を押えながら僅かに姿勢を反らし、元に戻るとまた会話を続け始める。
「さて、今回で分かった事だがB.Cは確実にこの事件に関わってるだろうな」
「ええ。真相に近づく者を容赦しない、まず間違いなく関わってるでしょうね」
「それにあの死銃事件の推理が合ってる可能性が非常に高まったとも言える。事故死ではなく殺人として」
「そして、ここに集まった俺たちは同じ目的を持ってる……協力して事を解決できるだろうな」
「協力してくれるんですね、笹森刑事」
「ああ。警察をおちょくった奴等に目に物見せてやる、こっちにも警官としてのプライドがあるんでな」
「心強いです」
「ただ、どうやって犯人を追い詰める? 策はあるのか」
「それならありますよ」
睦希がスマホを取りだし、ある画面を映して2人に見せる。
「近々そのゲームで大会があるんです。そこで俺が出場して、囮となる住所を記入して誘い込ませます」
「なら俺はその住所に行って犯人を待ち構えてりゃ良いわけか」
「いえ、そちらの方は俺の方で協力者を確保しました。笹森刑事は緊急時に何時でも動けるように備えてほしいんです、何かあれば俺の知り合いが連絡します」
「そちらの菊岡さんは?」
「もし大会中に死銃に撃たれたプレイヤーが居た場合、その人の住所まで赴いて安否確認をしてもらいます。ついでに総務省の後ろ盾を得ている名分をば」
「良いように使うねぇ。事件解決の為なら構わないけど」
「お前さんが狙われるって確証はあるのか? 今更だが」
「一応プロですから。鴨葱
「成程。なら、作戦決行日はいつだ」
「本戦で事を起こすでしょうから、14日です」
「ならそれまで英気を養っておくとするかね、お互いによ」
今ここに、死銃捕獲作戦のメンバーが揃った。