戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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昔のこと

 時は遡り、GGOというゲームが世に出てから間もない頃の話。当時は当然のごとく闇風もヴァー・ヴィーも単なる1プレイヤーとしてGGOをプレイしており、名前が知られるといった事もなく狩り場に行ってレベリングの日々。ときおりNPCや他のプレイヤーと接触することもあったがそれでも楽しいと思える日々であったのは確かだ。

 

 しかしそんな平穏は一瞬にして崩れ去った。早い話が厄介なプレイヤーと出会した、しかも相手の3人が全員チートを使っていると思われるほど闇風の姿を捉え続けているし、ダメージを与えてもすぐに回復する。こんな所でチーターに襲われるなんてと絶望的な現実が彼の目の前に突き付けられていた。下衆な嗤い声がこだまし諦めるしかないのかと思っていたその時、鉄のような何かがぶつかる鈍い音が耳に入ったのだ。

 

 何事かと思い様子を伺うため岩の影から顔を覗かせると、そこにスコップを持ったヴァー・ヴィーが居た。既に始末したのかチーターの1人は跡形もなく消えていて、急に現れた彼に対して残った2人は臆すことなく銃を向ける。だがそんな隙を晒したことで下から潜り込むようにして1人のチーターの前に現れ、銃を叩き落とし肉壁として活用し接近。肉盾にしていたチーターを()()()()ぶつけさせそのまま2人の首をまとめて光剣で刎ねて、そこで戦闘は終了した。

 

 あっという間の出来事で理解力が停止していた闇風の前に、ヴァー・ヴィーは手を差し伸べていた。ただ闇風の目には1プレイヤーとしてのヴァー・ヴィーではなく、化け物のようなナニカを見ているような錯覚を感じ取っていたという。そこでどうやら腰が抜けたらしく立つことがままならない状態になったとのこと。

 

 

「そん時初めて知ったよ、この世にはチーターなんか目じゃない化け物が潜んでるって。そういう意味ならアイツもヴェンデッタも同じなんだがな」

 

「普通なら無理、なのよね? そのチーターを倒すって」

 

「腕が滅茶苦茶良いなら勝ち目はあるだろうが、普通ならまず諦める選択肢しかない。というよりあれは……腕が良いなんてレベルを越えてたかもしれない」

 

「どういう意味?」

 

「俺の考えじゃその手の職に就いてる人間、たとえば軍人……じゃないな。どちらかといえば特殊部隊っぽいと思う」

 

「特殊部隊?」

 

「警察の部隊でSATとかSITとか聞いた事ないか? まぁ要はその手のプロフェッショナルだ、要人警護とかテロ対策とかのな。あーでもスコップ使ってたからどうなんだあれ、スペツナズっぽくも見えたな……」

 

「私が聞いた話だと、なんか特殊作戦軍? に所属してた人に教えてもらってるって聞いたけど」

 

「特殊作戦軍?! マジかどんな交友関係なんだアイツ」

 

「おーら、終わったぞー」

 

 

 M900Aのメンテナンスから戻ったヴァー・ヴィーがショップルームへと戻ってきた。確認のために闇風は受け取ってからすぐ手入れされた銃の調子を確かめ、満足気な様子で頷きカラムマガジンのネジも確認して更に満足感を得た。

 

 

「やっぱ、アンタに頼むのが正解だわ」

 

「そう言って貰えると有難い」

 

「トリガーの動きもスムーズ、コッキングにも違和感なし、グリップは手に吸い付くわ汚れ傷一切ない上に艶消しも完璧。バレル内の汚れなんざある訳ない、ストックも丁度いい長さで体にフィットする吸着感、マガジンも違和感なし……アンタの腕ならもっと高く払っても良いと何度思ったことか」

 

「よせよせ、お前らからすれば十分高くしているだろうに」

 

「だからこそだ。この腕の技術士なら市場独占しても可笑しくないってのに」

 

「もうこの話は良いだろう。あと悪かったな、暫く店を閉めてしまって」

 

「ゼクシードの事は仕方ないだろ。かなり迷惑を被ったって聞いてる」

 

「否定はせん、だが常連も来店出来なかったのだ。それに関しては俺の勝手に巻き込んですまないと思ってる」

 

「それこそ過ぎた事だって。別にやりたくてやった訳じゃ無いんだろ」

 

 

 同性の間柄は気安い、大半はおそらくそうなのだろうがヴァー・ヴィーはそういった関係性を築けるまで長い時を必要とする。同じGGOプレイヤーとしてか、はたまた彼のもとで強くなろうとしている弟子のような関係としてかは定かでないが、どこかほんのり疎外感を感じたシノン。不意にそんな思いに浸っていることに気付いた彼女は自分の中で僅かな違和感を感じとった。

 

 良いか悪いか、タイミングよく店の扉が開けられベヒモスが来店してきた。闇風の計らいによってミニガンはタダで返却され、彼を倒したシノンにはその本人から感謝の意を告げられた。用事も済んだことで闇風とベヒモスは店を出ていき、残った2人は思い思いに過ごしていたもののシノンからヴァー・ヴィーに対して問いが投げかけられた。

 

 

「ねぇ、V」

 

「ん?」

 

「Vの強さはよく知ってるし、何で強いのかも聞いた。さっき闇風からあなたがチーターを倒したことも聞いたわ」

 

「……それで?」

 

「改めて聞かせてちょうだい、どうやったらVみたいな強さを手に入れられるのか。私は知りたいの」

 

 

 本当に改めて答えづらい質問であった。少なくとも彼が以前彼女に向けて言った言葉は真実ではある、ただ敢えて伏せている部分もあるようなこと。彼の口から語ることの出来る内容はほとんど変わらない、現実世界で鍛錬を積ませてもらったということだけ。

 

 

「現実世界で鍛え上げた、というのは駄目か?」

 

「駄目ではないけど、まだ他にもありそうだからそっちを」

 

 

 ほとほと困った様子で葉巻を咥えて一服、何を言おうかと思考を巡らせふとある事を思い出す。まだシノンから答えを聞いていない、あれであった。

 

 

「そういえば、まだあの事を聞いてなかったな」

 

「あのこと?」

 

「お前が何のために強さを得ようとするのか、という俺の問い。それに答えてくれるのなら俺もお前の質問に答えよう」

 

「……言ってなかったかしら?」

 

「言ってないぞ、何を言ったか記憶にないからな。それにあの時は、すぐエネミーの方に向かったというのもある」

 

 

 そういえばそうだと記憶を思い起こさせ、しかし今度はシノンが悩み始める事となった。彼女が強さを求める理由は弱い自分から脱却するため、だがその根底には過去に起きた出来事から由来するものである。ただ弱い自分を変えたいと言ったとして、このヴァー・ヴィーはその過去を知らない為おそらく決まりきった問いを投げかけるだろう。

 

 けれど何故か、ヴァー・ヴィーには言っても良いのではないかと思う彼女もあった。本当に理由は分からないけれど、もしかしたら今まで懇切丁寧に師事してもらった事からそう思っただけかもしれないと考えが過ぎる。そうだとしても、彼女の中ではそれで良いかもしれないという変な安心感があった。

 

 

「弱い自分を変えたい……それが私が強くなる為の理由よ」

 

 

 精神的なものだとすぐにヴァー・ヴィーは悟った。自分の中の弱さを克服するべく強くなろうとあり続けている、それはある意味立派であるのだろうと思い、ただどことなく歪さを感じ取っていたのは彼女は自分自身で解決したいのだろうという()()()()()の予感からそう思い至った。

 

 葉巻をまた咥えて一服。当たり前に5分ほど煙の味わいを口の中に広めさせ終えると煙を吐く。彼は溜め息をついたあと、シノンに向けて先程の答えを聞いた感想を言った。

 

 

「そう、か……そうか」

 

「……他には?」

 

「お前は自分の意思を、決めた事を他人にとやかく言われたいか?」

 

「いいえ。でも好きに言わせておく、そんな度胸もないくせにって心の中で思いながら」

 

「……成程。なるほど」

 

 

 ここでヴァー・ヴィーはまた悟る。自分と彼女はやはり違うし、彼女の方が強いんだなとそう考えた。色々と思い浮かんでいる言葉はあるし、それを言いたいという気持ちもあった。だがそれら全てを彼は押し殺し、彼女の強さを求める理由への考えを伝えた。

 

 

「お前の考えにとやかく言うつもりは、無かったが……これだけは言わせて欲しいことがある」

 

「なに?」

 

「自分の弱さを克服したいがために強く在ろうとする。これは立派な志だと俺は思っている……だが1つ言わせてくれ、お前が今の強さを得たのは自分1人でやれた事か?」

 

「……っ」

 

「違うのは、理解している筈だ。お前は俺に師事をこうて、俺はその願いに応えた。結果お前は、過去の自分よりも強くなれた……分かるな?」

 

「……何が、言いたいのよ」

 

「お前を見ていると、1人で強くなろうとしている様に見える。過去の俺のように」

 

 

 無言の静寂。店の中に2人居るのに、その2人から何の一言も発せられないまま時間だけが過ぎていく。その静寂に耐えきれなかったヴァー・ヴィーが口を開いた。

 

 

「もしも1人で強くなると思っているのなら、出来るならやめてほしい。決して1人では強くなんてなれや」

 

 

アンタに何が分かるのよ!?

 

 

 途中で言いたいはずの言葉は止まった。彼女の慟哭が彼を止めさせたのだから。

 

 

「何も知らないくせに、偉そうな口をきかないで! アンタには何も分からないくせに! アンタが言えた義理じゃないくせに! 私のことを分かったような口できかないで!」

 

 

 その慟哭が皮切りとなったのだろう、シノンが強制的にログアウトされた。残された彼はその言葉に込められた重さを、あの言葉に込められたものが何なのか分かっていても、それを言えぬまま別れてしまった。

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