戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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悩みの中で

 シノンとの間に起きた出来事から翌日、彼は未だにシノンの言葉を覚え背負っていた。向けられ放たれた言葉は不用意に彼女を傷つけてしまうと理解したが、睦希 亮司(ヴェンデッタ)にはそれしか言える手立てがなかった。もっと言葉を選べばあのような事にならなかったのだろうかと思っていた最中、菊岡から一本の電話が入った。銀座にある洋菓子店に来て欲しいと誘いを受け何の用かを聞いてもはぐらかされ、来れば分かるとだけ言われてその店に来てみれば菊岡ともう1人誰か居る。童顔かつ黒一色の服装で整えられた、おそらく睦希より歳下の男が彼の視界に入った。

 

 訝しげに菊岡の方を見やれば特に何も気にしてない様子でガトーショコラを口に運んでいる。呼んだからにはまだ学生と思しきこの人物に何か関係があるのではと予想し、まさかと考えたことは嫌な現実となった。

 

 

「菊岡、冗談も大概にしてくれ」

 

「冗談で君にこんなこと言うわけないよ」

 

「ならふざけるのも大概にしろ、どこの世界に学生を事件に巻き込ませる大人がいる?」

 

 

 尤もな理由で彼は怒りに満ちていた。先に自己紹介を済ませたため桐ヶ谷和人という人物の立場などを簡単に聞きつつ、それらが終わって菊岡から出された言葉はこの男子学生と協力してほしいという傍からすればイカレているのかと思わざるを得ない内容であった。睦希の言い放った言葉に対し桐ヶ谷和人は首を縦に振って肯定したが、菊岡の方も譲りはしなかった。

 

 

「僕の方も考え無しって訳ではないさ」

 

「ほう? ならそのふざけた意見の大義名分とやらは一体なんだという」

 

「……大きな声で言えないけど、彼もSAOサバイバーの1人なんだ」

 

「あ?」

 

「菊岡?!」

 

「そして、先日逮捕されたB.CのメンバーにSAOサバイバーが居たと確認が取れている。今回の件にB.Cが関わっているとするならSAOに居た事のあるプレイヤーの協力も要る、というのが僕の考えでね」

 

「だとしても納得できん。単にSAOに居たプレイヤーならば何故此奴を選んだ?」

 

「それを説明するには色々と順序だてていく必要があるけど……まぁまずはここのスイーツ食べてみたら?」

 

「……悪いが和菓子派なんでな」

 

 

 嘘ではないが別に洋菓子もいけるのはさておき、睦希の様子は若干どころの話ではないほどに苛立ちを隠していない。そもそも今回の事件は“住所が特定され実行犯が侵入する”ことと“事件の裏でB.Cが関わっている”という2つの不安要素が組み込まれている。下手に協力者を作り被害者を増やしてしまうのでは無いのか、といった安全性への観点からして彼を採用しようとするのも可笑しい。

 

 何より彼がまだ学生の身分であるということ。SAOに居たことから帰還者学校の所属なのだろうが学生に変わりはない、ましてや未成年という立場からして菊岡の提案は倫理観の問題で即座に一蹴されるべきものだ。人間の自然権はどこにやったと責任を問われかねないし、ましてやこの提案が総務省の人間の口から言っているため下手をすればこの事で大問題になりかねない。

 

 ただ睦希という男もまた、変に合理的な思考をする人間の1人である。桐ヶ谷和人という人間を採用するにあたってのメリットがデメリットより大きいと感じれば、今思考の中で漂っている言葉を噤む選択肢を取ってしまう人間なのだった。だが勿論、倫理観はあると思っているため事の決定権は桐ヶ谷和人にあること前提になる。それは忘れていない。

 

 

「じゃあ話が出来る状態になったところで……睦希君、先日出会したB.Cのメンバーに1人だけサバイバーが居てね」

 

「あー、菊岡? 思ったんだがB.Cってなんだよ、というか」

 

「これから一緒に説明するよ。で、そのサバイバーってのが曲者でね……多分、キリト君とは縁も関わりも深い間柄の奴だ」

 

「俺と?」

 

「ああ。そのB.Cの中にいたサバイバー……SAOである犯罪者グループに所属していた事が分かったんだ。名前を──()()()()

 

「っ──?!」

 

 

 一瞬、桐ヶ谷和人の声が止まったように聞こえた。睦希が彼を見やれば表情を一瞬の内に強ばらせて、その笑う棺桶というグループと何やら因縁があると想像がつくのは容易いだろう。

 

 

「この笑う棺桶というのが面倒でね。SAOじゃ一番名前が知れていて且つ一番被害を与えたのがそのグループなんだ……そんなのに所属していた人間が居た、ってことは今回の事件に笑う棺桶が関与している可能性も浮上してきたのさ。ここまでは良い?」

 

「……続けろ、目に見えて動揺している此奴に配慮しつつな」

 

「中々難しい注文だね。そうなると彼を帰させなきゃならないんだが、僕としては今その手を打つは愚策と思ってる」

 

「チッ」

 

「話を続けようか。その笑う棺桶に所属していた人間はSAO時代にはその殆どが捕まっていた……その彼らを捕まえたプレイヤーによってね」

 

「もう良い、その点は分かった……お前の言いたいことも何となく分かった、今回の事件にその笑う棺桶に所属していたサバイバーか居るのか確かめるためだろう」

 

「正解。ホントよく回る頭だね、話してて楽だ」

 

「今言われて嬉しくない言葉第1位だがな」

 

「ただそれは理由の1つに過ぎない。確かにキリト君はある意味当時者の1人だけど、それだけで採用しようなんて考えをしない事を前提に置いてほしい」

 

「さっさと言え……俺が勝手に退席すれば面倒だろうに」

 

「それは勘弁。……今回の提案はあくまでもキリト君に確認を取らせるだけ、正体が分かればそのプレイヤーのリアルを追跡しやすくなるし上手くいけば芋づる式にB.Cメンバーを捕まえて解散させられるって考えだ。正体がわからずともキリト君の名はSAOで知らない奴は居なかった、彼には囮の住所を使ってもらい名前を誇示させれば死銃のリアルを相手の方から曝露させられる可能性もある。これが提案する理由になる」

 

 

 大きく鼻から息を吸って、小さく長くか細い息を吐き出していく睦希。彼がいつも心を安定させようとする時に行われるルーティーンをここで出したということは、この提案を受け入れるか受け入れないか、どちらの選択肢がメリットが大きく事件を解決に導きやすくなるのかを考えている。だがその考える時間に間髪入れずに菊岡は続けた。

 

 

「それと、B.Cが何の略称かまだ言ってなかったよね」

 

「……略称?」

 

「そう。B.Cは略称──正式にはBloody Coffins、血塗れた棺桶」

 

「……」

 

「キリト君を介入させることで、このB.Cの壊滅には至らずともその足掛かりになる可能性はあると思ってる。そして、睦希君が気にかけてる彼の安全性は僕らが必ず保証しよう。そのための手立ては打ってある、あとは睦希君とキリト君の了解がほしいんだ」

 

 

 本来ならば危険行為に部外者を参入させるといった考えは一蹴されるべき、それが睦希の根底。本来ならそう考えてそう言えば良いが、ある意味菊岡の提案は1つの魅力も兼ねている。睦希自身もB.Cに目を付けられている可能性が高く、これ以上危険な目にあの2人を関与させる訳にはいかない。だがそれと同時に彼をこの件に巻き込むことへの嫌悪感も抱いている。自らその危険に飛び込むのならいざ知らず、完全に巻き込まれた形となったこの状況にさせたのなら止めるべきではないのかと思考を続けている。

 

 

「……まぁ、今すぐ答えを出すのは難しいのは分かってる。こればかりはね。本来ならキリト君が出張る必要もないことなのも理解しているよ。だからこれはあくまでもB.Cを終わらせるための提案と思ってくれていい」

 

「……少し、考える時間をくれ。俺も情報整理がしたい」

 

「構わないよ、ただこの件に関わるのかは12日までに決めてほしい。待てるのはそれまで、決まったら連絡してほしい……睦希君もそれで良いよね」

 

「ああ」

 

「よし、この話は終わり。あとは好きにして良いよ」

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 店から出てきた桐ヶ谷と睦希は互いにため息をつく。バイクを駐輪場に停めてある睦希について行き、そこで彼らは様々な事情を説明していった。今回の件に関わった経緯や睦月が出会したB.Cの一件、様々な協力者に死銃事件の手口などを睦希が。かつてSAOにて猛威を奮っていた笑う棺桶と呼ばれた犯罪集団のこと、SAOの最前線で活躍していた時その笑う棺桶の討伐に出たことを桐ヶ谷が。互いの事情を知った上で最初に愚痴をこぼしたのは睦希からだった。

 

 

「お互い、難儀なことに巻き込まれたな」

 

「……そう、っすね」

 

「……とはいえ俺が勝手に決めるようなものでもないからなぁ、ふざけんなとは思ったが」

 

「そっすね」

 

「……桐ヶ谷、少し渡したいものがある」

 

 

 桐ヶ谷の頭に疑問符を浮かぶが睦希は何食わぬ顔で付箋メモとボールペンを取り出し、内1枚に何かを書き記すとそれを彼に向けて渡した。睦希の電話番号であった。

 

 

「お前さんには迷惑をかけてしまったんだ、せめてもの償いという訳では無いが何か言いたいことがあればそこに連絡してほしい」

 

「良い、んすか。貰っちゃって」

 

「構わんよ。巻き込んでしまった俺の責任でもある、俺に出来ることはこのような形でお前さんに協力するしか無いからな」

 

 

 ヘルメットを被りバイクを出して乗り込む。ふと、睦希はヘルメットのバイザーを上げて桐ヶ谷の方へと向かって言う。

 

 

「あと、敬語苦手なら素で話しても構わんぞ」

 

 

 そのままバイクを発進させて睦希は去っていった。

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