時は流れBoB予選開催当日、総督府に集ったプレイヤーたちは普段とは違った盛り上がりを見せている。自らの武器を引っさげて相手に誇示するのは牽制としての意味合いが強いのだろうか、または単に装備を自慢したいと見せつけたいだけか。しかしそんな喧騒はある人物が入ってきた瞬間、このGGOに居るプレイヤー全員がその1人に集中し誰もが沈黙した。
ガスマスクによって素顔は隠されており、ヘルメットやチェストリグなど軍隊のような装備をしているが最大の特徴であるヴァー・ヴィー特注のカランビットナイフを引っ提げて彼はやって来た。このGGOの生ける伝説とまで噂されるヴェンデッタが総督府にやって来た、ここに来る理由は1つしかないため全員の予想が1つに収束されていく。
やがてその予想は現実へと変換される。BoBの受け付け端末にまで足を運ぶとそこに自身のプレイヤーネーム欄と商品受け取りに必要な住所欄を記入し確認を押して画面は元の状態に戻った。全員の予想は一致した、ヴェンデッタがBoBに参加するのだと。事を済ませたヴェンデッタはそのまま入口へと向かって歩みだしていたが、途中で他のプレイヤーに止められる。
「あ、あの! ヴェンデッタですよね。オレ、ファンなんです!」
「おまっ、ちょっ! バカ!」
どうやら彼のファンらしい。彼は少しだけそのプレイヤーを見やるとSIG SAUER P226を取り出しマガジンに弾を一発だけ込めると彼の額に向けた。周りの人間はやらかしたと思い冷や汗を流し始めている、その銃を向けられた本人は呆気に取られていて動きが止まっている。
轟音が総督府内に響いた。銃口から煙が出ており発砲したことが分かるが銃を向けられたプレイヤーの額には何のエフェクトも発生していない、目をつぶっていた彼がゆっくりと景色を確認すると弾を排出するヴェンデッタが居て、その手には先程マガジンに入っていた薬莢。しかし弾丸部分はどこにも見当たらない。つまり先程のは空砲だったのだ。
ヴェンデッタはその薬莢を指で弾き、やって来たファンに掴ませる。何事も無かったかのように総督府から出ていくヴェンデッタと先程受け取った薬莢を交互に見て、知り合いと思わしきプレイヤーが近付き先程のパフォーマンスは特別にやってもらったことであると知る。余談だが今後彼はこの薬莢を大事に持って宝物にしたらしい。
そんなパフォーマンスを見ていた群衆に1人、ヴェンデッタに対し並々ならぬ殺意を掲げているプレイヤーが居た。そのヴェンデッタから直接、日本語で、変声機混じりの声で宣戦布告ともとれる事を言ってのけられたのだから。
──“殺せるものなら殺してみろ”、と。
時間は経ちGGOの初期スポーン位置に1人のプレイヤーが参入した。この日にやって来た新参は運が良いのか悪いのか、とはいえ彼にとってはそんな事関係ない。この日にアイテムを預けてコンバートした彼にとってGGOは初といえどステータスはかなり高い。その彼はある目印を持ったプレイヤーを探し、柵にもたれかかる葉巻をふかした長身の男性プレイヤーに目を付け近付いた。
「あのー……」
「ん?」
「えっと、ヴァー・ヴィーさんで間違いないでしょうか?」
「……キリトか、お前さん」
「え、ええ。はい」
「驚いた。女のナリみたいな格好だったんで誰かと思ったぞ」
「へ?」
彼の目当ての人物はこのGGOで知らない奴は居ないプレイヤーの1人、ヴァー・ヴィーである。キリトを知っているということは現実世界で話し合ったことを示しているのだが、それよりも彼の発言が気になったキリトはヴァー・ヴィーが指した方を見た。
金属光沢によって鏡のようになった建物の壁に映っていたのは、一見して完全に女なのではと見間違えるアバター。髪は長いうえ童顔に磨きがかかり身長も低い、キリトは自分の顔をペタペタと触れてこれが事実であると知った。
「何じゃこりゃあああ!?」
こういう時、どんな反応をすればいいのか切実に問いたくなったヴァー・ヴィーは葉巻を一服して煙を味わい口に咥えながら、このアバターになったキリトの肩に手を置き現実へと引っ張っていく。1人はどこか諦観し、1人はこのアバターである現実に項垂れているこの空気に沈黙という選択肢を取り続けることが苦痛だったのかヴァー・ヴィーが口を開く。
「あー……お前さん、ステータスはどんなだ」
「…………」
「おいキリト?」
「はっ。な、何でしたっけ?」
「……ステータス傾向だ、お前さんのな」
「あ、ステータス傾向ね。えっと筋力値優先、次に素早さを」
「ふーむ、無難なアサルトとなると……む」
ふと何かに気付いたヴァー・ヴィーがキリトに訊ねた。この世界で、しかもBoBに参加するとなったのならこれは最重要かつ最も基本的なことであるのだが。
「お前さん、銃の経験は?」
「……無いです」
ヴァー・ヴィーは目頭を押さえる。銃の世界の大会に銃をまともに扱ったことのないプレイヤーが参加する、これだけで阿呆の類になるのだが今回は事が事のため致し方ないと考えるしかない。ひとまず銃の腕前はこの際置いておき、キリトが得意としている戦い方を探ろうと規模の大きいNPCショップへと足を進めた。
キリトが主にプレイしているアルヴヘイム・オンライン、ALOは基本的に遠距離攻撃は魔法や弓といったものに限定され近距離戦というのが主流となっている。そのためロングレンジでの戦いが主流であるGGOとは毛色が合わないのだろうと想像を付けていた所に、キリトがあるものを指し示し訊ねた。
「あれなんです?」
「ん?……ああ、弾除けゲームだな。1回500クレジット、距離に応じて貰える賞金が増え、あの人形に触れれば今まで溜まった金額を全て獲得出来る」
「やった事はあります?」
「昔な。……やるか?」
「手っ取り早く稼ぎたいので」
「俺のところでツケにしといてやる事も出来るが、まあいい。あの人形はかなり近付くとエネルギー弾を6発撃つから気をつけろ」
「忠告どうも」
女性にしか見えない容姿であることと、未だに見たことの無いプレイヤーがこの鬼畜ゲーに参加したことで観客はどよめきたつが、そんな事お構い無しに彼は3秒のカウントとともに真っ直ぐ駆け出した。そうして彼が弾道予測線を掻い潜りながら接近していき、言っていたエネルギー弾を避け今まで蓄積されていた300Kという金額を手に入れることに成功した。
出口である左側の柵から出ていきヴァー・ヴィーと合流すると、出迎えた彼から拍手を貰うことになった。
「見事。良い反応速度だった」
「あ、どうも」
「しかしあれは……ふむ」
「どうかしました?」
「……いや、何でもない。装備の方を決めるとするか」
そうして時間の許すかぎり商品を見ていくが、ヴァー・ヴィーのアドバイスを受けてもどこか腑に落ちない感覚が続いていると、あるものが目に付いた。
「これなんです?」
「ん、光剣か」
「コウケン?」
「ビームサーベルのようなあれだ。SF要素が組み込まれていてな……あ、もし買うなら俺の店で買う方が安いぞ」
「店……ショップ構えてるんですか」
「まぁな。で、光剣は買うのか?」
「買います!」
「元気だな……ならサブアームだけここで決めておいた方が良いな。俺が決めても?」
「あ、よろしくお願いします」
NPCショップの陳列棚を眺めながらヴァー・ヴィーはキリトのステータスや先程見た動きから適した銃器を考える。機動性の高さを阻害しない軽量かつ牽制目的に適したもの、一頻り考えてヴァー・ヴィーはキリトにFN Five-seveNを提示した。
「これでどうだ?」
「ファイブセブン……ってどんな銃なんです?」
「貫通力に優れた銃弾を専用弾としている銃だ、簡単に言えばな。ある規格までのボディアーマーを貫ける……まぁそれに伴って与ダメージは基本低いが光剣でどうにかなるだろう」
キリトに了承を取り、彼自身の手でFive-seveNを購入し終えヴァー・ヴィーの店へと向かおうとしていた所で、その2人は水色髪のシノンと出会した。
「あっ」
「……シノン」
とはいえ今は絵面が絵面だ。女にしか見えない容姿をしたキリト、シノンからすれば知らないプレイヤーを連れてなぜNPCショップに来ているのか。彼女はいの一番にそれを聞くつもりだったのに、その2人を見たシノンは逃げざるように離れていってしまった。
「シノン!」
呼びかけても止まる気配はなく、ステータスの差により追いつくことが出来ない距離まで離れていくシノンの背を見ていることしか出来なかったヴァー・ヴィーは頭を抱える。少し長めに息を吐き落ち着かせていると、キリトが訊ねる。
「今のは?」
「……俺の知り合いだ。GGOでスナイパーをやってる」
「スナイパー……」
「とは言ったが、最近喧嘩してな。……色々と勘違いを正さねばならんかったがな」
「なんか……ごめんなさい」
「お前さんが謝るな。事の発端は俺のせいだからな」
また溜め息をついたヴァー・ヴィーだったが、今はBoBに向けたキリトの準備を進めなければならない。考えを切り替えつつも彼女の勘違いを正す必要も発生したことに少しだけ頭痛がした。
活動報告にて質問募集中 期限は11/14 23:59まで
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https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=270604&uid=168702
【SIG SAUER P226】
ドイツのザウエル&ゾーン社が開発した自動拳銃。P220の後継機として開発されており最大の改良点であるダブルカラムマガジン化により装弾数が増えている。長時間の水や泥につけても確実に作動する耐久性があり、P220よりも高価。
【FN Five-seveN】
ベルギーのFNハースタル社が開発した自動拳銃。P90用のサイドアームとして開発されており、貫通力に優れている。100mほどの距離でもNIJ規格レベルⅢA以下のボディアーマーを貫通するとされる。