開始の合図ともいわんばかりの発言の直後、シノンはバックステップをしながらセミオートで二発、キリトへと発砲する。弾道予測線が表示されない射撃技術を駆使し確実に当てる筈のそれを彼はギリギリのところで躱した。だが今までとは打って変わって弾道予測線が見えない事に加え突発的な事だったのも相まって腕にかすり傷ほどのダメージエフェクトが発生し、自身の体力バーが僅かに減少したことをキリトは確認した。
幸いだったのはシノンがフロントサイトを参照しながら撃っていたことである程度の予測ができていたことだろう。それが無ければ諸に被害を受けることになっていたのだから、とはいえ危機的状況である事に違いないのも事実。今度はキリトが観光バスの残骸の中へ逃れるという状況へと移行する。
シノンは窓からの射撃を警戒しつつ、ゆっくりと歩幅を大きくした足取りでバスの入口に向かう。入口付近に置いていたへカートが目に入りながらも警戒心を強めて突入しようとする、が丁度その時大きな物音が先程彼女が居た側からした。すぐに車体の前に移動し覗き込むとFive-seveNの銃口がシノンに向けられ1つの弾道予測線が彼女の視界を塗りつぶした。すぐに顔を引っ込めて事なきを得たと思えば、弾丸は貫通して彼女のすぐ横を通り過ぎた結果を生み出す。
NIJレベルⅢA以下の防弾性能を貫く弾丸である。隠れていたとはいえ古びた残骸という盾はいとも容易く意味を失うのは当然、舌打ちをしながらも彼女から離れていくキリトを視界に捉えると反対側の道路に移動し彼を追いかける。とはいえ速さも加速力もキリトに軍配が上がるため追い付ける訳では無いが、彼女の目は獲物を捉えるハンターのように執念深く在り続ける。途中キリトは後ろに振り向いて撃つが彼女のダメージに成りうる攻撃は5発の内1発のみで、その1発も弾道予測線の出現と同時に下へ避けられる結果となった。
廃棄され横たわったタンクローリーを背に隠れながら、キリトは得意の近接戦に持ち込むことに躊躇いを感じていた。先程の突進突き、彼からすればヴォーパルストライクと呼ばれるソードスキルの真似事とはいえ巧くその勢いを利用され地面に投げ出されたのだ。近接戦主体の彼にとってカウンターを取られて倒される可能性を含んだ危険要素、躊躇するなという方が難しいまである。だが彼の場合銃では牽制という形でしか活用しきれないため、どうあれ使い慣れた剣での戦闘が求められる。
呼吸を整え、覚悟を決める。彼はタンクローリーの助手席近くに移動し扉を溶断し運転席に侵入すると、運転席側のドアも溶断し外へと出る。タンクローリーの影に隠れていたキリトがまさか運転席の方から出るとは思っていなかったシノンだったが、すぐに走りを止めて今来た道をバックしながら1発。それをギリギリ回避したものの頬にかすり傷ほどのダメージエフェクトが発生する。
だかそんな事おかまいなしに彼は突っ込む。ヤケになった訳では無い、これがキリトにとっての最善の行動なのだ。歩行と走行のどちらが速いかと言われれば間違いなく後者であるが、接近するまでの間に4発の銃弾が彼に襲いかかった。最初の1発は避けたが2発目は二の腕辺りに掠り、3発目は運良く光剣で防ぐも4発目を避ける際に左の二の腕に直撃した。だがこれで間合いに入った。
シノンはキリトとの距離を目測しハイ・ポジションに移り3連バーストに切り替えて発砲、だがここまで来れば彼は本領を発揮できる。その射撃を避け光剣を突き出す、シノンはその突きを右ステップで避けつつキリトに接近し間合いを潰しに行った。彼はそれに対処するように体を捻り左下へと斬りつけるも腕を止められ、膝と脹ら脛の繋ぎ目に蹴りを入れられたあと背後を取られ光剣を持つ腕ごと首を絞められる。
このままナイフを首に突き刺して、と決めたシノンだったが視界にFive-seveNが映り込み直ぐにキリトの背に蹴りを入れながら離脱。苦し紛れの1発を避けたがそのあと3発の銃弾が彼女に襲いかかり、コンクリートブロックに辛くも避難したが腕に1発貰った結果となった。
現在キリトの残りHPは半分近くにまで減っている。シノンが離脱する際に持っていたナイフの刃が掠ったため今までの蓄積ダメージにそれが加算された結果こうなった。反対に彼女の残りHPは腕への一撃で1割減らされており、こういった所で低いVIT値を少し後悔したが思考を戦闘に切り替える。
直後、地面を蹴った音が聞こえたと同時にシノンは転がって避けた。彼女がいた場所にキリトが光剣を振り下ろしておりあの場に居れば真っ二つであっただろう予想が浮かびながらも、彼女は1発撃つが光剣で防がれる。そこから睨み合いが発生した。
「この距離で予測線なしの射撃を防ぐなんてね……アンタ中々イカれてる」
「それはこっちのセリフだ。剣筋を読まれて腕を極められ首まで絞められたんだ、正直ここまでやられるとは思ってなかった」
「なら倒されてくれる?」
「それは無理な相談だな──おかげさまで火がついた」
コンクリートブロックを足場にしてキリトが降下気味に突進しつつ右上へと斬り上げるが、距離を取って下がったシノンは1発撃つ。しかし同時にキリトの方も左手のFive-seveNを1発撃ちお互い痛み分けの状態になった。今の1発で胴体に撃ち込まれシノンの体力は3割まで減少しており、キリトも横腹を撃たれて体力が残り半分を切った。斬り上げの勢いで道路に足を付けたキリトと体勢を整えたシノンが互いに銃口を向けながらゆっくりと立ち上がる。
ほんの僅かな睨み合いのあと、今度はシノンが先手を打つ。銃口を外しながらナイフを突き出すが、キリトはバックステップで避けると同時に左下へと光剣を振り下ろす。下へと掻い潜るようにシノンは避けると3連バーストに切り替えてストックを持って発砲。反動で上へ向いてしまう銃口を敢えて利用したものだったが2発は避けられ、1発は空へと向かっていった。
避けた勢いで右へと一閃、それをシノンは上体を反らすことで空を通り過ぎさせ自身はバク転で距離を取って銃口を向ける。キリトも同じく銃口を向けていたため、また睨み合いが発生する。このような白熱した接戦を繰り広げているが、どこかで必ず仕留めなければ戦いは終わらない。2人ともそれは理解している、終わらせなければならないのだと。
動いたのはキリトであった。Five-seveNで牽制気味に3発撃つとシノンは避けて三連射、光剣で防御しつつそのまま接近し彼女に向けて斬り下ろそうとしたが、光剣を持っている方の肘と二の腕に手を添えられ動けないところに、銃を持っている左手をシノンは蹴って銃を落とさせた。また背後に回り込み首を絞めようとしたが、器用に光剣を回して肘打ち気味にキリトが突き出したため地面へと転がり受け身をとって距離をとる。
その間キリトはFive-seveNを拾い上げ2発撃つが、ジャンプによって避けられベレッタM93Rの銃口が向けられた。そしてシノンは空中で三連射したが、射撃に合わせて光剣が突き出され彼女の銃が弾丸諸共破壊されることとなった。しかし先程撃った3発の内1発はキリトの左手に当たり、否応なくFive-seveNをまた落としてしまった。シノンはその突きに合わせるように避けバランスを崩され倒れていくが、道連れみたくキリトに向けてナイフを投げたことで彼もまたバランスを崩して倒れていく。
シノンが立ち上がろうとしたところに、キリトは苦し紛れの一閃を足に向けて振るった。しかし間に合わず彼女は前方宙返りで彼を飛び越すと、キリトの手から離れたFive-seveNを取ってその銃口を向けた。キリトも飛び越えた彼女に遅れて光剣を振って彼女の眼前にその切っ先を向けた。それが同時に起こなわれ、結果お互いがワンアクションすれば共に即死判定をくらう状況になった。最後の睨み合いの中、2人は話し合う。
「……本当に恐れ入ったよ、シノン。ここまで追い詰められるのは初めてだ」
「サービスで敗北も付けてやるわ」
「それはお互い様だろう」
暫しの睨み合いが続き、この対決は終わりを迎えた。シノンの銃撃でキリトは頭を撃ち抜かれ、シノンは光剣を突き刺されたことでこの勝負は終了したのだった。
総督府に戻った2人を待ち構えていたのはヴァー・ヴィーと銃士X、そしてあの戦いを見ていた多くのプレイヤーたちだった。同じ女性である銃士Xはシノンを抱きしめて離さずに言った。
「シノーン! 貴女
「わあっ!?」
「キリトも
イクスの問いに彼らは応と答える。久しぶりに誰もが息を呑む戦いが繰り広げられた2人にヴァー・ヴィーも賞賛を送る。
「そうだな。今回は良いものを見せてもらった、礼の1つでもせねばならん程のな」
「いやいや礼だなんてそんな」
「何だ、もっと誇っても良いんだぞ? キリトはアウェイな状況から巻き返したあの精神力を、シノンは磨き上げた技術による有効手段の取捨選択を俺は評価する」
「いや、あの……あざっす」
「照れるな照れるな」
またも豪快に頭を撫でられるキリトはどこか嬉しそうにしていたが、ヴァー・ヴィーはシノンに向き合って彼女にも賞賛を再度送る。
「シノン、よく頑張ったな」
「っ……!」
「良いセンスだった。……あぁ、あとで代わりのサブアームを見繕って」
「い、良いから! じゃあ!」
「えっ」
銃士Xのハグから逃れてそのままシノンは地上1階のエレベーターに乗っていき彼女はグロッケンへと向かっていった。少しだけ放心したヴァー・ヴィーはまたも何も言えなかったとさ。