戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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午前二時半

 BoB予選大会が全て終了し本戦に出場できる30名の選手が全員決定されると、彼らは翌日に待ち受けるあらゆる状況を予想し始める。台風の目となるヴェンデッタがどのような状況を作り出すのか、今回の予選大会で見せた闇風や銃士Xもそうだが初参加のプレイヤーが見せた実力がどう活かされるかといった内容がそこかしこで広まっていく中、ヴァー・ヴィーのホームでは家主本人とキリト、銃士X、レンの3人がある人物を待っていた。

 

 ヴァー・ヴィーは葉巻を吸って、その長さが半分に届きかけている所でインターホンが鳴る。何も言わず自動扉を開けて来訪者を中へと誘う、やって来た待ち人は菊岡だった。葉巻を口から離して、やっとという様子でVも待ち構える。

 

 

「いやぁごめんごめん、お待たせ」

 

「来たな。早速話を始めるぞ」

 

「急だね」

 

「お前は待たせすぎなのだ……リアルが忙しいのは分かるがな」

 

「OK、なら会議としようか」

 

 

 やって来た菊岡に対しキリトは微妙な表情をしているが、それに関しては一旦置いておき今回集まった理由である死銃についての情報とリアル特定についての段取りである。違法行為ともされるだろうが人命がかかっている上にGGOの株を下げるようなパフォーマンスをしでかす死銃に比べれば、まだ情状酌量の余地はあってもおかしくないだろう。そうだと思いたいとヴァー・ヴィーは考えながらも段取りの説明をしていく。

 

 先に確認した読み方の分からないSterbenというプレイヤーのリアル情報、とりわけ名前と住所をツェリスカこと星山翠子の協力を元に菊岡はSAOサバイバーの誰かを特定し住所へ向かう。難しければ本戦にて死銃とされるそのプレイヤーをキリトの記憶の中から特定してもらう事になるが、その際はヴェンデッタから送られてくる映像を見てもらいながらといった形になる。偽の住所はヴァー・ヴィーが最も信頼する人間の居る場所であり、そこに誘うといった事も了承済みである。

 

 とはいえキリトとの因縁があると仮定すると、先にそちらの方へ向かう可能性もある訳で。その場合は彼が相対して倒すことを優先させるとの方針で行くこととなる、あまり倒すことは望んでないが生け捕りの必要性も今は低いため多少の容認はできる。ここでキリトから質問が入った。

 

 

「何で生け捕りに?」

 

「ふむ。個人的な事だが推理内容があっているか聞くためだな」

 

「しらばっくれると思うよ、相手」

 

「なに、煽りスキルはある。それに真実を突き付けられた相手ほど取り乱す輩は居らん」

 

「あとはそいつがリアルに帰ったら好き勝手されかねない恐れもあるしね、このGGOに幽閉しとくのよ」

 

「そしてBoB本戦で正体が判明したら翌日手渡す通信機をレンが聞いて、正体が分かり次第リアルに戻って菊岡に伝える。……これはプランBと言ったところか」

 

「出来るならプランAで済ませたいですよね……にしても、この名前どう言うんでしょう?」

 

 

 レンが訊ねたのはこのSterbenの読み方である。あの予選大会時でヴァー・ヴィーが確認したこの英文字列、これをどう読むのかというもの。とはいえ読み方はレンの言ったプランA実行にあまり関係しない要素ではあるが、気になったものを解決しなければ納得しないヴァー・ヴィーの性が彼の胸の内に引っかからせた。

 

 

「何だろうな……せめて何語か分かれば良いんだが」

 

「あの、スティーブンって読めませんかね?」

 

「いや英語じゃないな。キリトには悪いがスティーブンという名では無いだろう、bはvになる筈だしrも要らん」

 

「うーん……地元でもないし、それっぽいのはドイツかなぁ?」

 

「ドイツ?」

 

「なんかそれっぽいのよね、ドイツ語だとステルベンって読めるし」

 

「ステルベンか……ふむ、第一候補はそれか」

 

「というかV、昔ドイツに行ってなかったっけ?」

 

「流石にこの文字列を使う機会は無かった。それに多少喋れて読み解けるだけだ、会話をするに不便でない程度にな」

 

「へー、君ドイツ語話せるんだ」

 

「多少な。さて、改めて話を戻していくが──」

 

 

 まずはプランA。星山翠子にそのステルベンと称されるプレイヤーの個人情報、名前と住所を特定してもらったあと菊岡がその住所へ向かう。SAOサバイバーの可能性もあるためサバイバーのリストから一致する情報も見つけながら調査をしてもらう。

 

 次にプランB。彼女の協力が間に合わない場合、キリトとヴェンデッタの協力態勢で死銃もといステルベンの特定。正体が分かればレンを介して菊岡に伝えて該当者の確認、そして通報をやってもらう。こんなものかと一段落しつつも菊岡から質問がくる。

 

 

「1つ良い? もしそのステルベンがSAOプレイヤーじゃなかったら?」

 

「いや、それは無い」

 

 

 キリトが菊岡のその質問に対してキッパリと言い切る。

 

 

「それは何故?」

 

「あの時会った奴は、俺が黒の剣士だって知ってる様子だった。SAOに居ないとあの名前が咄嗟に出てくるはずがない。それに、奴は俺に本物かと聞いてきた。なら間違いない」

 

「成程ね。それなら分かった」

 

「それと菊岡、あとでザスカー日本支社に便宜を図ってもらいたい。彼女が辞職したなんて話題は耳にしたくないのでな」

 

「分かった、やっておくよ。仕事が増える増える」

 

「立場的に考えてお前さんが一番良いんだ、一般人の俺たちに何か出来るわけでもあるまいに」

 

「君が言う?」

 

「喧嘩売ってるのか? 買うぞ」

 

「はーいストップー」

 

 

 兎も角、今日明日やることは決まって解散しても良い状態となった。大半は菊岡に任せることになるし重要なことは星山翠子に任せることになるが、今出来ることはこれしかない。それを分かった上でヴァー・ヴィーは手を合わせた。

 

 

「さて、今日はもうここらで解散するとしよう。全員帰っても構わん」

 

「なら僕は先に帰るよ、じゃあね」

 

「あ、俺も帰ります。色々と待たせてるんで」

 

「了承した。俺達もすぐ帰るとしようか」

 

「あ、V。明日サーマルスコープ貸してくれない?」

 

「……構わんが、なぜだ?」

 

「暫定ステルベンは光学迷彩で透明になってるとはいえ、体温は隠せないだろうしね。場所の特定に────それに」

 

 

 銃士Xは鼻先がくっつきそうなほど近付いて、彼にしか聞こえない声で呟いた。“ヴェンデッタなら同じでしょう?”と。それを聞いてため息を吐いたヴァー・ヴィー(ヴェンデッタ)は頷きをもって返答した。

 

 

「やった、ならお願いね? 埋め合わせはするから」

 

「2つ貸しだぞ」

 

「分かってるって。じゃあ先に戻っとくね」

 

 

 我先にと銃士Xはリアルへと帰還し、次いで菊岡とキリトも帰っていく。残ったヴァー・ヴィーとレンはお互い見やって最後に帰還して、今日を終えていく。作戦実行日の明日へと向けて英気を養うべく。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 翌日のこと。現実世界に居る彼女、朝田詩乃は1人ブランコに揺られながら延々と考え続けた。昨日銃士Xからの発言でヴァー・ヴィーの目を何故か直視することが出来ずに、そのまま帰ってしまったことに悶々とした思いが募っているのだ。彼女にとっては単なる師匠と弟子といった関係性なのだ、彼女の中では間違いなく。とはいえここまでVに思考を奪われてどうすれば良いのか分からず、なんなら彼が言った“1人では強くなれない”という発言も

 

 

「……いや、やっぱり駄目」

 

 

 そこは許す気は無かった。彼自身もまた1人で強くなろうとした人間であってそこに口を挟む筋合いも無いのだから、(朝田詩乃)(シノン)になるまで強くなり続ける決意を再度持った。

 

 

「あれ、朝田さん」

 

 

 ふとVとは別の聞き慣れた声がした。そちらを見ればシュピーゲル、リアルでは新川恭二と名乗っている彼が居る。ブランコから降りて土埃を払っていると彼は近付いて話しかけてきた。

 

 

「珍しいね、朝田さんがそうしてるの」

 

「……かもね。何か調子が出ないのよ」

 

「昨日あんなに凄い戦いしたのに?」

 

「あれとはまた別のことで」

 

「もしかして、あの仲介屋のこと?」

 

 

 言葉を紡ごうとしたが、口は止まった。図星なのだ、でも彼女はそれを頑なに認めたくはない。何かに負けたように思えるから。不本意とはいえ口を噤んだ彼女を待っていたのは、新川恭二の聞き取れない呟きであった。

 

 

「……うか、や……ぱ……

 

「……新川君?」

 

「ん、どうかした?」

 

 

 いつもと変わらない笑顔を向けた新川であったが、彼女はそれがどこか得体の知れぬ何かを感じ取っていた。何かは定かでないが、とにかく分からないが何かを感じていた。

 

 

「……ううん、なんでもない」

 

「そう? なら良いけど」

 

 

 バッグを持つ手を握って、その話題から意識を逸らした。まるで触れてはいけないものから目を逸らすかのように。

 

 

「それじゃあ、私は準備するから。ここでお別れね」

 

「分かった。頑張って、朝田さん」

 

「ええ。当然そのつもり」

 

 

 他愛のない会話を交わして、2人はそれぞれ分かれる。彼女の背を見送る新川恭二の目の奥に光がないことを、朝田詩乃は知る由もなかった。




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