戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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鬼門

 BoB本戦開催日、午前9時頃に睦希の電話が鳴った。画面には電話番号のみが映し出された状態だったが、よく見ればそれはこれまで何度か対応したことのあるものであったため躊躇もなしに電話に出る。電話の主は昨日も話した菊岡であった。

 

 

「はい、もしもし」

 

『おはよう睦希君、今朝はどんなもんだい?』

 

「何時もと変わらん。で、仕事はやったのか」

 

『星山さんの一件は既に伝えて了承も貰えたよ。それと彼女から送られてきたデータも確認してみた』

 

「プランAが成功したと……で、誰なんだ」

 

『流石に名前は言えないよ? でもキリト君の言ってたことが当たった事になったけどね』

 

「SAOサバイバーか」

 

『ああ、しかも君の予想通り病院関係者で間違いない。それに複数犯の可能性も濃くなってる、まぁこっちは単なる憶測に過ぎないけど』

 

「監視することは可能か?」

 

『人員の派遣は多少なら。でもB.Cが裏にいることを踏まえると普通の監視にはならないだろうね』

 

「そうか……笹森刑事に連絡してみる」

 

『あ、待った』

 

「何だ今度は?」

 

『いや、そのサバイバーの住所が都内にあってね。管轄外のことになると処罰が待ってるかもしれないし……今日1日の予定は僕がやるよ』

 

「……おい、仕事は良いのか仕事は」

 

『まぁあるけど今更だし』

 

「はぁ……なら俺の伝手を当たってみる。多少の融通はしてくれるとは思うが、期待はするな」

 

『お、今度はどんな知り合いなんだい?』

 

「またかけ直す」

 

 

 電話を切ってすぐに電話帳から和田 智成の名前を見つけ、一つ息を吐いて通話ボタンを押す。コール音が三回ほど鳴ったところで応答が入った。

 

 

『はい、もしもし』

 

「和田さん、お久しぶりです。睦希です」

 

『本当に久しぶり。前のキャンプ以来だよね』

 

「ええ、その節はありがとうございました。また行ってみたいです」

 

『その時が来たら是非。それで今日は何か用でも?』

 

「はい。和田さんに折り入って相談が」

 

 

 睦希はつい先日大宮区等で発見された遺体が事故死ではなく他殺であるとする推理を披露していく。犯行手口、凶器、犯人像を伝えて最後にその犯人と思われる人物が総務省仮想課の報告で都内に住んでいる事も確認できていることを伝えて一旦話を止めた。電話越しにどこか複雑な様子の唸り声が聞こえたが、少しして和田は彼に問うた。

 

 

『つまり、その菊岡誠二郎という人物から送られてくる情報をもとにその犯人、可能なら共犯者を監視してほしい。それで間違いないね?』

 

「はい。その通りです」

 

『……私から言えるのは、君の推論で動かされるほど警察という組織は甘くないということだ。もしそれが君の思い違いだったとしたら、君がどう責任を取ってくれるのか知りたい』

 

「その時は偽計業務妨害で訴えてもらっても構いません、それぐらいの覚悟は出来てます」

 

『……どこからそんな自信が湧いてくる?』

 

「確信してるからですよ。あの二件が他殺だということを、それだけです」

 

『なぜそう思う?』

 

「全ての辻褄が合うから。協力者にその仮想課の菊岡誠二郎、ザスカー日本支社の人間に当時SAO内に居たサバイバー……これらの人物による情報提供の賜物によって、俺の推理が現実味を帯びてきたんです。もしこれが無かったら……単なる妄想として俺の頭の(なか)で終わっていた事になっていた、でも全ての辻褄が合っている確信が今あるからこそ自信を持って言えるんです」

 

 

 睦希の信念を含んだような声が電話越しに伝わる。和田智成という男は睦希亮司のあれこれを知っている訳では無いが、多少の人となりを彼とのやり取りや彼が師匠と呼ぶ男との会話の中で理解している。そして彼が吐露した心の叫びも聞いた、彼がやって来た事を知っているし、嘘を言うような人間でないこともよく理解している。和田智成という人間が知っている彼なら、こうした真面目な話題で嘘や冗談を言えるような人間でないことを知っている。

 

 

『……今から仮想課に電話を掛けてみる』

 

「ありがとうございます、和田さん」

 

『菊岡誠二郎で良いんだね、睦希君』

 

「はい」

 

『分かった。今度は仮想課の人を通じて君に電話で伝えるとするよ』

 

「よろしくお願いします」

 

 

 通話が切られ、ひとまず事を進めることが出来たと安堵した睦希だがまだやる事は残っているため、彼はこれから来る菊岡との連絡を終えた直後にGGOに潜らなければと思考した。深く息を吐いて自らの中から沸き上がりかける感情の波を鎮めながら、勝つ為のプランを練っていく。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 時間は経ってBoBの本戦が刻一刻と迫るなか、シノンはサブアームの事について悩んでいた。へカートは完全にあの戦いで使わずに放置していたものの無事に返却されているためメインウェポンは良い、ナイフも最後に投げたが問題は無い。問題は近接戦闘になった際にあった方がいいハンドガンだ、あの戦いで完全に破壊されて使い物にならなくなってしまいジャンクと化したそれを未だヴァー・ヴィーに返していない。なんならそれが一番の問題でもあった。

 

 ヴァー・ヴィーならば銃が破壊されたことに関して小言を言うことは無いだろうが、あの時浮かべた柔らかな笑みを銃士Xに抱擁されながら見ていたらキリトが羨ましいと思ってしまっていた。そして顔を向けられた途端に意識が戻ってすぐにでも帰りたくなって、結果破壊されたままのベレッタM93Rがシノンの手元にあったのだ。そんな事を悩みながら一番損害の少ない30発用のマガジンを握りしめながらヴァー・ヴィーの店に向かっていた。

 

 向かったのは良かったものの、インターホンを鳴らして待っていたのは無返答の自動扉だけであった。誰も居ないのも珍しいと思いつつどうしようか悩むこと数分、居ないのなら仕方ないと割り切りつつも総督府へと足を運ぶことにした。別にヴァー・ヴィーと会えないことに気分が落ち込んでいる訳では無い、断じてそうではないと思考に耽ながら歩いていると総督府前の広場がどこか騒がしい。その喧騒の原因が何なのか確認すると、総督府の入口近くにガスマスクで顔が覆われた軍人のような服装をした誰もが知るヴェンデッタがそこに居たではないか。

 

 

「んなっ……?!」

 

 

 驚いて声が出る。まさかこんな所でヴェンデッタをお目にかかれるとは思っていなかった為であるが、注目の的であるヴェンデッタは背にしていた入口の壁から離れてシノンの方に向かって来ていた。一体なんのつもりか分からなかった彼女は戸惑うことしか出来ず、威圧感のあるその風貌が眼前に立っている事実に警戒心が溢れた。だがその直後、ヴェンデッタがある端末を見せてきた。

 

 ──シノンへ 俺は急用があるのでGGOにログイン出来ない、のでヴェンデッタが代わりのハンドガンを渡す。壊れたスクラップの方もヴェンデッタに渡してくれれば後で直すのであしからず。 Vより──

 

 それは言伝であった。運搬役にヴェンデッタを使うヴァー・ヴィーの感覚を1度問いたかったが、それを見せ終えた目の前の最強は端末を仕舞うとアイテムメニューからある物を取り出した。SIG SAUER P228という名前のそれと予備マガジンの2つを差し出し、シノンは恐る恐るにその銃とマガジンを受け取りアイテム欄に仕舞うとヴェンデッタは次に手を差し出した。

 

 そのままのアイテム欄から壊れたベレッタM93Rを取り出そうとしたが、ふとその手が止まる。ヴェンデッタを見れば全く動く気配のないその様子に不気味さを覚えるが、何故かこの壊れたスクラップであるはずのそれをこの男に渡したくないと思っている。手を引っ込めてメニューを閉じるとシノンはヴェンデッタのガスマスク越しの目を見透すように口を開いた。

 

 

「これは、Vに返したい。直接、Vに」

 

 

 重量制限の超過ペナルティを受けかねないのはシノンも理解しているが、それでもこのヴェンデッタに渡したくない思いが勝っていた。自分でも何をしているのか分からないが、兎に角そう思っている自分が今ここに居る。その言葉を聞き届けたのか、ヴェンデッタは差し出した手を引っ込めて総督府へと向けて歩を進めていった。

 

 緊張のあまり息をするのも忘れかけていたシノンはそこで漸く呼吸を開始した。プレッシャーというものが違いすぎるとシノンは倒すべき頂点と相対して、そう感じ取っていた。あのヴェンデッタに勝てるのかといった弱気な自分がふっと出てきそうになったが、頭を振ってその考えを捨てていく。

 

 以前の、ヴァー・ヴィーと出会う前の自分とは比べ物にならないほど強くなった実感はあるのだ。少なくともシノン自身はそう感じている、ならばヴェンデッタ相手にも強気の姿勢を崩さずに己のスタンスを貫いて倒してしまうだけ。彼女の思考はそれに収束されていく。

 

 

「絶対に……アイツを倒す……!」

 

 

 シノンの目に炎が宿ったかのように、彼女の意思は固まった。己が鍛え上げた技術の全てをヴェンデッタにぶつけると、彼女はそう意気込みながら総督府へと足を進めていく。周囲の視線が彼女に集まってくるが知ったことではない、全ては彼女が強さを手に入れるために標的を倒す。ただそれだけの為に彼女は突き進んでいくのであった。




活動報告にて質問募集中 期限は11/14 23:59まで
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https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=270604&uid=168702


【SIG SAUER P228】
ザウエル&ゾーン社開発、ドイツとスイスの2ヶ国で製造されている自動拳銃。P226を小型軽量化したモデルであり装弾数の減少によりフレームがスリム化、P226に比べて握りやすくなっている。
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