キリトがシノンと共にペイルライダーをステルベンの魔の手から1度助け出したその頃、この都市廃墟の中央に位置するタワーへとそのエリアに居るプレイヤーたちの意識は集中されていた。あのタワー内の64階に居るのは銃士Xによって確認されているが、完全にとまでは言いきれないものであった。確かにその階層に居るのは確かだが、タワーの内部を全て知ることが出来ないのもまた事実。大きなガラス窓の先にある元オフィスらしき跡と、視界に捉えきれない不明瞭な空間がスナイパーの見える景色なのだから。
とはいえ、中央タワーを挟んだ向かい側のビルからも似たような景色が見えるだろうと推測できる。だからこそ今はこうして地上より風が強くなる屋上から監視している、ここでヴェンデッタが視界に映っても直ぐに撃つ真似はしない。混乱の隙に乗じるしか彼への勝機は無いのだ、それが一番高いとまで言える。
だがあちらも罠を張っていない訳では無いだろう。少なくともサーマルスコープから見るタワーの一階層が暖色寄りの景色であったことが、罠の存在を明らかにしているとも取れる。こうなればサーマルスコープも役に立ちにくいため、通常のスコープで観察するしかない。ステルベンが何処にいるのか確認するために使用するのが主だが、標高が離れていることから少しばかり視認のしにくさが感じられる。
突入部隊の様子を確認し特に何も無さそうならステルベンを探す。重労働ではあるが致し方ない、そう割り切りつつもヴェンデッタの動向は気になった。前々回ではゲリラ戦を展開して倒していったが、今回はどのような作戦で挑むつもりなのか気になっていた。前みたいなゲリラ戦か、静かに暗殺していくのか、ドンパチやって……否ドンパチやるのは彼の考えではないなと思考を巡らせていく。
突入部隊は現在、中央タワーの敷地内を突き進み漸く内部への侵入が行われるといった様子である。1番足が遅いと思われる獅子王リッチーの速度に合わせているためであるが、その分ステルベンの捜索に時間を取れたことを感謝しつつヴェンデッタの討伐へと切り替えた。
闇風をはじめとした突入部隊の足取りは獅子王リッチーの速度に合わせて若干ゆっくりとしたものになっていた。一塊になって一気に全滅するのではと懸念する声もあるが少なくとも今まで通ってきた道に罠は無かったため、あるとすればその64階に何かしら設置されている予想がたてられる。
彼らがタワーの入口前に到着すると周囲を警戒しながらエレベーターがある場所まで向かうのだが、ここまでの道のりで疑問に思うことが1つある。エレベーター、ひいてはこのタワーの電力について。都市廃墟というぐらいなのだから相応の電力が廃墟となる前は通っていたのだろうが、廃墟となった今電力が通っているのはこのタワーだけ。元から非常電源が入りっぱなしという訳では無いだろう、つまるところ電気がこうして通っているのはヴェンデッタが復旧させたとしか思い浮かばない。
ある1人のプレイヤーがそんな予想を闇風に伝えていた。1階をクリアリングしている最中に可能性を闇風は考える。このタワーの電力を復旧させるには相応の技術力、DEXとINT値が必要になると仮定するとヴェンデッタは技術屋系のビルド構成であり、この中にいるプレイヤー達に比べればSTR-AGI-VITは低い値と予想付けつつもヴェンデッタのあの強さの理由が思い当たらない。
サトライザーとの一騎討ち後のまとめサイト等では軍人か、そうした立場に居る人間なのではと予想もされていたが結局らしい意見ばかりが殆どであるため、真相は未だに知りようがない。
「クリアリング終わったぞ! 怪しい所は無かった!」
「こっちも終わった!」
「OK、ならエレベーターに乗り込むぞ!」
周囲の索敵を終えたプレイヤーが一斉にエレベーターへと集合し、4つ全てのボタンを押して全員で到着を待っている間、彼らは武者震いか或いは空元気のそれによる緊張が現れていた。それを紛らわすようにNO─NOが言葉を発した。
「いやぁ……今更だけどスンゲェドキドキしてるわオレ」
「俺もー、仮想世界なのに手汗出てんじゃねぇかってぐらい緊張してやがる」
「なんたって最強と殺り合うんだもんなぁ、猛獣と一緒の檻に入る気分だわ」
「おい、全員心の中で思ってたことを口走んじゃねぇhuuka」
「あれを猛獣で済ませばラッキーなほうじゃないか?」
「それ。第1回もそうだったが、前にヴェンデッタに殺された時も猛獣なんて生易しいもんじゃ無かったな」
「え、お前ヴェンデッタにやられたのかよ!?」
ある1人のアサルトライフル使いが、かつてヴェンデッタに殺されたことを何故か自慢げに話し始める。
「やー、このまえ対人してさ。倒した時に相手が持ってたレア銃をゲットしたわけよ」
「うーわキッツ、それは地味に恨まれるわ」
「で暫くしてヴェンデッタとかち合ったんだけどよ……これがまた恐ろしいのなんの。いつの間に背後取ったんだって感じで首にナイフ突き立てられてさぁ、ゲットした銃あるかって聞いてきたんだよ。まぁさっさとバイヤーに売っぱらったんだがな、それを聞いたら即殺された」
「容赦ねぇなオイ」
「でも戦って分かったんだが、あれは猛獣どころか化け物のそれだ。絶対何かしらの軍に所属してたわ」
「……軍人って弾避けられるもんかな?」
そこで全員押し黙る。そもそもハンドガンでさえ秒速約300mの速度で発射されるのだ、普通に考えてもその速さに対応できるのは人間を辞めている証拠として成り立つだけで、決してヴェンデッタのリアルが軍人という解が成立する訳では無いのだから。
「……あ、あれじゃね? ステータス上げてめっちゃ頑張って避けてるとか」
「えぇ……俺そんなヴェンデッタ嫌なんだけど」
「や、多分ヴェンデッタの野郎はDEX・INT型と思う」
「どういう事だよ闇風」
それを聞こうとした所で、チンとエレベーターから音が鳴る。開かれた扉の先にある空間は地獄への片道切符か、はたまた頂に挑む者たちの特急便か。何れにせよここが最後の運命の分かれ道、上へと上昇するこの箱に乗れば挑戦する者としての証左となる。だがここで逃げたとしても誰も責める者は居ないだろう、怖気付いてしまっても無理はないのだ。
だが彼らはその箱の中へと歩みを進めた。ここに集った意味が消えて無くなるのなら何のために来たのか、怖気付いたとしてもやるしかないのだ。それぞれ割り当てられた場所へと入っていき、彼らは64階のボタンを押す。扉が閉められると、プレイヤーたちを乗せた箱は上へと向かっていった。
箱の中の男たちは皆一様に緊張している。手を何度も握り締めている者、何度も息を吐き続けている者、銃のグリップの感触を何度も確かめている者、瞑想のように目を閉じている者と十人十色であった。ふと闇風と同じエレベーターになったギャレットが彼に先程のことを訊ねた。
「なぁ、さっきのヴェンデッタがDEX・INT型ってどういう意味だ?」
「……ここ、廃墟だよな」
「それがどうかしたか?」
「このタワーは元々廃墟としてあるのなら、このエレベーターを動かしてる電力は一体どうしたんだろうな」
「んなの予備電源とか非常電源……あっ、いやまさか」
「多分な。ここの電力を復旧させたのがヴェンデッタなら話は早い」
「……え、じゃあどうやって弾避けてんの?」
「……分かるかそんなもん」
もはや考えることを諦めた。ヴェンデッタの摩訶不思議な超能力じみた能力が何なのか考えるだけで頭が痛くなってくるし、士気が下がってしまうためこの話は止めた。このエレベーターだけ全員口を噤み、64階まで無言のまま昇っていく。次第に近付くにつれてエレベーターに乗車した全てのプレイヤーが銃を構え始める。
そして64階に着き、ドアが開かれると同時に異様な違和感を肌で感じた。
「暑っ、なんだこれ?」
「何かエアコンの温度爆上げしたみたいなあれだな」
この階層が暖気で充満していたのだ。なぜこのような事をヴェンデッタはしたのか定かでないものの、エレベーターから降りて現状確認を行いながら集合し闇風が呼んだ。
「リッチー、俺たちはお前の後ろでしゃがんで待機する。絶対俺たちに当てるなよ?」
「へっ、誰にモノ言ってやがる。ヘマはしねぇよ」
互いに頷き闇風がリッチー以外の全員の姿勢を低くさせる指示を出して他の皆がしゃがむと、ヴィッカース重機関銃を装備して給弾ベルトを装着するとハンドルを掴む。
「ッしゃあ、行くぜ行くぜ行くぜぇ!」
ハンドルを回し、6つの銃身が回転し始めると弾丸の雨が64階の全てを塗り潰すように掃射される。丁寧に丁寧に銃弾が建物の壁やガラス、過去の残骸さえも消し飛ばしていく。圧巻という他なく非常にゆったりとした動きで全てを貫いていくその威力と制圧力は他の誰にも引けを取らないだろう。
「リッチー! もういい止めろ!」
闇風の一声でハンドルを止めたところで、別れてヴェンデッタを捜し始める。どこに潜んでいるか分からないが、今の制圧射撃ではさしもの最強も苦渋を飲んでいる事だろう。そう思っていた。
「……おかしい、奴はどこにいる?」
捜した、くまなく捜した。隠れられそうな場所はひっくり返しても捜した。隙間さえ逃さず捜したが、どこにも居ない。そんな疑問に陥っていた所で彼らはその音を聞いた。先程まで居た場所、エレベーターの方でその音を聞いた。