突如発生した爆音と何かが崩壊して落ちていく音を、この階に居る全員が耳にした。間違いなくヴェンデッタの仕掛けた罠が作動したと、そう確信した闇風が声を荒らげる。
「誰か非常階段から回れ、挟み撃ちだ!」
「俺が行く!」
「「俺たちも行く!」」
「頼んだ!」
3人が非常階段のある場所へと走っていき、闇風を含めた6名は先程の爆発が起きたであろう場所まで向かった。途中で夏侯惇たちと合流する形でエレベーターのある場所に辿り着くと分断される形でエレベーター前の通路が無くなっており、一個下の階層には通路の残骸と思わしき床材だったものが落ちている。幸い誰も落ちていることは無かったものの爆発に巻き込まれていればタダでは済まなかっただろう。
そこに居るプレイヤーたちは互いを見やり、下の階層の安全が確認されると1人ずつ下へと降り始めた。間違いなくヴェンデッタはこの階層に何か仕掛けている、そしてこの場所でここに居る全員を終わらせようと画策している。また二手に別れる指示を出そうとした途端、何かが引き抜かれた音のすぐあとに彼らに向かって何かがゆっくりと転がってきた。それを偶然見た獅子王リッチーが叫ぶ。
「グレネード!」
「ッ、まず──」
ここでグレネードが起爆されれば間違いなく少なくない人数のロストは免れない。かといってグレネードの位置が一番厄介な場所、分かれ道から程近い場所にあったため駆け抜けていくのもほぼ不可能なうえ退路は無い。万事休すに追い込まれた彼らを救ったのは、最初にグレネードを見つけたリッチーだった。
彼は走って飛び込み、自身の体でグレネード覆った。その直後リッチーの肉体がグレネードによって吹き飛ばされ、すぐにDeadの表示が頭上に浮かび中身のないアバターだけがそこに残った。ラッキーだったのは彼以外に被害を受けたプレイヤーが居なかったことだろう、誰かが飛び込まなければもっと被害が発生していたのは明白であったから。
「リッチー……!」
「行くぞお前ら! アイツの死を無駄にするな!」
応、と団結力がより一層固まった彼らは6人ずつ二手に分かれると右側通路の曲がり角で逃げていく人影を発見する。間違いない、ヴェンデッタだと確信するには十分すぎる情報だった。
「こちら側でヴェンデッタを捕捉した! 反対側の奴らは回り込め!」
「了解!────っ!?」
ヴェンデッタを追いかける6人は通路を走る。だが彼らはここで失念していた、あれだけで終わるわけが無いことを。先頭の闇風から中段に居たプレイヤーの1人が何かに足を引っ掛けたことでカチリと音が鳴る。刹那、爆発と同時に右側にあった会議室から何かがガラス片と共に飛翔しプレイヤー達を襲った。
先程足を引っ掛けた者を含め、それが直撃したプレイヤー4人は吹き飛ばされ時間もそれ程経たずにDeadの表示が頭上に現れた。最後方に居たhuukaだけがガラス片の被害を多少受けたものの未だHPが残存していたため生き残っており、闇風は先頭を走っていたため被害に遭うことは無かった。だが4人を倒した物の正体を知るとhuukaは目を大きくして言った。
「クレイモアだ! ブービートラップとして仕掛けてやがった!」
「そんなものまで……!? くそっ、今のアイツはボマーか! HPはまだあるか?!」
「何とか! 警戒しながら急ぐぞ!」
「ああ!」
時は若干遡り、非常階段を伝って降りてくるギャレットを含めた5名のプレイヤーが63階に通じる扉を視界に捉えた。急いで降りたため僅か10秒程で到着し彼らは扉を勢いよく開けた、そして階層内に侵入したところで煙がその一帯を充満していく。
「っ、スモーク──ごほっ!」
「くそがっ、催涙だ!」
その煙が発生して間もなく、エレベーター側で爆発音が聞こえたがここに居る彼らにはどうしようも無かった。目も鼻もガスによってイカれた為デバフとして行動制限が掛かった状態なのだ、視界も同時に奪われたようなもので煙の中から脱出しようと身を低くした。
だが煙の中に居た5人の内2人が、突然Deadの表示を出した。それを知れたのは何が起きているのか、回らない頭で辺りを見渡しDeadの表示が3人目になったところでギャレットは気付いた。彼の眼前に死神がやって来たのだから。
「ヴェンデッ──」
言い終わる前に彼の首にダメージエフェクトが発生し、一気にそのHPは削られて倒された。そして最後に残ったプレイヤーを倒し5名を一気にロストさせるとヴェンデッタは非常階段を駆け上がっていく、程なくして流れ込んだ煙によって視界が塞がれ身動き出来ずに居た回り込みの6名のプレイヤーは、廊下に散乱する5つのアバターを目にした。
「マジか……」
「嘘だろ、あの短時間で……!?」
また程なくして爆発が起こり、彼らが爆発の元へと向かっていくと闇風とhuukaの2人と合流し夏侯惇が訊ねた。
「何があった?!」
「クレイモアだ……」
「なんだと!?」
「グレネードで1人、奴のクレイモアで4人やられた! 奴はボマーとして俺たちを殺そうとしてる!」
「……非常階段側から降りた奴らは全員ナイフキルされていた。多分だが奴は今銃を持ってない可能性が高い」
ある意味朗報、ある意味悲報であるそれは誰をも驚愕させるに値した。ヴェンデッタは今恐らく銃を所持しておらず、爆発物やスモークを利用して彼らを追い詰めていることに成功している。だが銃を一切発砲せずにナイフキルや爆破キルで倒しているとするなら、今のヴェンデッタは接近戦に持ち込む必要がある。ならば捜し出して奴の届かない距離で迎え撃つのが適切だろうと彼らは考える。
「2人1組になって非常階段から4組で攻めて、穴の方に1組配置する策はどうだ。奴を閉じ込められるし場合によっちゃあの2人に狙撃させる算段で行けば奴を殺れるかもしれない」
闇風は不安になりながらも頷き、ここから2人1組のペアを5つ作り1組を穴に待機させ残り4組がヴェンデッタを追い詰める作戦をとる。ペアが決まってすぐに彼らは行動を開始した。穴の方へと向かう2人は罠が作動した後の通路を進んでいく、道中で倒された4名が視界に入り一層彼らを緊張させた。
そうして穴の方まであと僅かといった辺りでリッチーのアバターを目にした途端、後ろに位置した1人が体勢を崩され先頭に居たプレイヤーに銃弾が襲いかかる。ヴェンデッタの持つアサルトライフルは彼の下敷きになっている男の物が使われており、2発目が顔面目掛けて発射されたことでまたDeadの表示が増えた。即座に下に居るプレイヤーの頭に向けて発砲しロストさせると、ヴェンデッタはアサルトライフルを捨てて移動する。
非常階段を昇り64階で追い詰めようとしたが、突如響いた発砲音が下からのものだと知るとその4組は作戦を変える。2組ずつ分かれ、穴から攻める者と非常階段から攻める者とで挟撃することを決めた。ここまでやった以上もはや意地になっていることに彼らは今気付いていない。
素早く慎重に63階へと戻っていき、非常階段側の2組はまた二手に分かれて追い詰める。段々と減らされていく人数が、次はいつ自分の身に死神が舞い降りるのかと緊張と不安の渦の中進み、非常階段から出て左側に進んだ2人にヴェンデッタは襲いかかった。
曲がり角の所で先頭のプレイヤーが持っていたアサルトライフルの銃身を持ってストック越しに掌底を顎に叩き込んだ。するとその持ち主は倒れヴェンデッタの手には銃がいつの間にか握られており、慌てて後ろに居たプレイヤーが撃つも至近距離の銃弾が避けられフルオートに切り替えられたアサルトライフルの銃撃により倒れ、その銃の所持者も頭を撃たれて倒される。Deadの表示が2つ増え、残り6人。
マガジンを外し所持者のアバターから新しいマガジンを取って填め込むと、前から来ていた2人に向けて乱射し後退させ、角に隠れたあと左から来るプレイヤーたちに向けて乱射しながら左側にあるオフィスルームに入っていった。好機といわんばかりの状況に彼らは詰めていくが、ヴェンデッタとは反対側のドアから入ろうと開けた途端またもクレイモアが襲った。
これによりhuukaとNo─Noを含む3名が倒され、残った夏侯惇はHPが赤にまで減少された。片方の足が撃ち抜かれ歩行が一時的に制限されるといったデバフ状態になり暫く動かずに怯えながら回復を待った。
クレイモアにより倒された3名と、近くにある2名のプレイヤーのアバターを見て闇風はキャリコをフルオートに切り替えて突入した。オフィス跡の残骸によって隠れているがここはスナイパーの視界内にある、ここで漸く奴を追い詰めたと考えるのも束の間、ドアを開けようとすると視界にワイヤーらしき物が見えた。ゆっくりと閉じて距離を取りフルオートのキャリコで破壊していく、ドアの残骸が倒れていくとまたも爆発が起きる。
「すぐに仕掛けたか、野郎……!」
突入していく2人はそこで漸く、ヴェンデッタと正面から相見えることが出来た。なんてことの無い棒立ちで待ち構えていたヴェンデッタに2人は銃口を向けて、闇風は言う。
「よぉ……やっと降参か? ヴェンデッタ」
何も言わない。何も口にしない。ただヴェンデッタは何もせずにじっと彼らを見続けていた。まるで幽霊のように立ち尽くしているだけだった。瞳が何を見ているかなど分かったものじゃない。
「何にもないなら、ここで死ね」
フルオートキャリコの銃弾が放たれ、蜂の巣という結果が待っている筈だった。実際は撃つ前に下へと逃げられ銃弾は空を通り過ぎ、一気に距離を詰めて闇風のキャリコを奪って蹴飛ばした。至近距離にいたプレイヤーが撃つがそれも避けられキャリコの銃弾を浴びることとなりロスト、闇風を撃とうとしたがタックルによって姿勢は崩さなかったものの、窓ガラスにかなり接近することとなった。
「撃てぇ!」
闇風の叫びが届いたか、はたまた絶好の機会が訪れたことで決心がついたのかスナイパーの照準はヴェンデッタの頭に定まり、引鉄は引かれた━━━━━━銃弾は空を過ぎ去った。何てことは無い、ただ避けたのだ。ついでに闇風の拘束からも外れ、ヴェンデッタはキャリコを撃つ。闇風の体にダメージエフェクトが幾つも発生し彼はロストした。
ヴェンデッタはゆっくりと窓ガラスの向こう側、他よりも高いビルの屋上を見た。そして何事も無かったかのようにオフィスルームから立ち去り動けない状態の夏侯惇を倒して、このタワーに彼一人だけが残った。
「……いや、エッグい」
一向に撃つ機会が訪れなかった銃士Xがサテライトスキャン端末を見てそう呟く。先程まで密集していた点がたった1人、ヴェンデッタを残して消えていたのならこの反応も致し方ない。今頃この中継を見ている観客も唖然としているだろうが、問題はそこではない。銃士Xを含めた2人のスナイパーに対してどんなことをするのかといった疑問だった、とはいえ18人もの人数を倒した脅威から逃げる方が先決である。
いそいそと2挺のM14EBRを持って屋上から退散しようとした途端、中央タワーから銃声が響いた。慌てて物陰に隠れつつ通常スコープの付いた方を使ってタワーを観察していく、音のした方は彼女の上から。ゆっくりと階層を確認していきそして理解した、ヴェンデッタがタワーの屋上にM110A1 CSASSを携えていることで。
彼は銃も用意していたが、その場所で撃つと決めて置いていったのだ。今銃士Xの居る場所からおよそ1400m離れたあの位置から、彼は撃とうとしていた。物陰にまた隠れた銃士Xはどこか諦めたような溜め息を出して、M14EBRを置いて降参した。
かくして20vs1の大勝負は、ヴェンデッタただ1人が勝利を収めることとなった。
【M110A1 CSASS】
2016年、H&K社のG28軽量型がM110 SASS(半自動狙撃システム)に代わる米陸軍のコンパクト半自動狙撃システムとして契約を獲得し、採用されてこの名が付いた。軽量化の条件を満たすため、鋼ではなくアルミニウムの上部レシーバーが使用されている。