戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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ホモバトラコトキシンへの言葉

 十二分な警戒を怠らず、いつどこで襲撃ないし爆発に遭うか定かでない事を念頭に置きながら、それぞれCBJ-MSとFNブローニング・ハイパワーMk.IIIを構え屋上へと歩を進めるピトフーイとエム。その目に宿したのは期待か怖れか又は歓喜か、いずれにせよそのような目をしているのはただ1人に絞られるのだが。

 

 もはやこのピトフーイを止められる訳がない、色々と長い付き合いのエムは確信する。この状況を誰よりも楽しんでいるしある意味望んでいたとも言える、ヴェンデッタという最高の相手であり最上の獲物を。この機会を逃すまいと意気揚々な雰囲気を隠そうともせず、しまいには鼻歌をするなど興奮気味な様子であった。一方のエムは特に何を言うまでもなく仏頂面を崩さず緊張した面持ちで向かっているが、お構い無しにピトフーイは絡んでくる。

 

 

「えぇむぅ、肩の力入り過ぎよ? もっとこのチャンスを楽しまなきゃ損じゃない?」

 

「お前だけ楽しんでくれピト、俺はごめんだ」

 

「あらそう。折角あのヴェンデッタとヤリ合えるってのに面白くないわねぇ、ホント」

 

「あれを見せられて戦うつもりでいるのはピトだけだ。一緒にするな」

 

「の割に逃げないのね」

 

()()()()()()からな。あのスコードロンを全滅させておいて俺たちを捨ておく筈がない」

 

「そうよねぇ……そうよねぇ!あれはそうなんだからねぇ!絶対に逃さないし逃れられない、正に天使かッ!」

 

 

 何かのスイッチが入ったらしく嫌にハイテンションとなるピトフーイを尻目に一つ息を吐いて敵対しなければならない相手が居るだろう屋上の扉にゆっくりと近付いていく。

 

 ヴェンデッタはピトフーイの琴線に触れたプレイヤーだ。第1回BoB本戦、最後の2人になった時に行われた激しい心理戦と肉弾戦が繰り広げられた時、誰もが緊張の渦中に居た。そして戦いの末に迎えた引き分けという結末に、誰もが張り詰めた糸を弛ませ2人のプレイヤーを讃え畏れた。後に判明したアメリカ人プレイヤーと日本人プレイヤーの一騎討ちの動画は、GGOをプレイした事の無い者にも知れ渡った。ある者はゲームの中でのみ出来る芸当とした、ある者はチートツールを疑った。だが数多くの有識者により卓越した本物と知られるようになった。

 

 本来もしもの世界とされてきた仮想世界で、もしも本物同士が戦ったのならばというifがこのGGOで叶えられた。良くも悪くも理想を実現させた世界であり、誰かが面白半分に考えたことが叶ってしまう世界である。ここで発生したごく稀な運命的な出会いに惹かれないピトフーイではなかった。あのプレイヤーなら殺し殺されるといった概念から外れた戦いを出来るのではないか、淡い希望と思われていた願いが今まさに叶われようとしているのだ。彼女が興奮しない理由はない。

 

 なのでエムは止めない、止められない。だが1つだけピトフーイの言葉を訂正するのなら。

 

 

「そこは天使ではなく、死神ではないのか?」

 

 

 しかし更にピトフーイの口角が上がった。

 

 

「いやいや、天使でしょう?」

 

 

 

 屋上扉手前まで到着した2人は警戒しつつゆっくりと扉を開け突入する。視界にヴェンデッタの姿はなく捜そうとした途端、2人の真上からグレネードが1つ降ってきた。咄嗟にその場から離れ爆発によって飛散した破片分のダメージを受けながらも態勢を立て直し回復キットを使おうとしたが、そこに待ったをかけるようにヴェンデッタがMP7を乱射。結局、弾切れを起こすまで耐えるしかなくダメージは加算されていった2人のHPは赤ゲージにまで移行していた。

 

 MP7を仕舞ったヴェンデッタが幽鬼のようにゆったりとした様子でエムの正面に立つ。その手に何も握られていないのは慢心か、或いは素手で勝てる見込みがあるためか。意見としては後者を信じざるを得ない雰囲気を醸し出している。そこにピトフーイの笑みと不気味な嗤い声が加わった途端、また別の空気が流れ始めた。ガスマスク越しに目線だけをピトフーイに向けるが、一瞥してエムの方へ戻す。

 

 

「大層な御出迎えだったわ、ありがとうヴェンデッタ。ありがとう、今1番心待ちしていた景色が見られたわ」

 

 

 彼女は高らかにそう語る。待ち望んだ相手が今この目の前に居る、ピトフーイにとってはヴェンデッタというプレイヤーは最推しのアイドルのようなもので1ファンならば興奮を隠そうとする様子は無いものだ。しかしヴェンデッタからは何か語ることはないらしい。そんな素振りすら見せない。

 

 

「無口なのね、面白みに欠けるけどまぁ別にそれは良いのよ。アタシがアンタに出逢ったら是非この目で、自分で味わってみたい事があるのよ。ホントならGGOじゃなくてリアルの方で見てみたかったけど……そうじゃなくてもアンタが見せたあれは」

 

 

 言葉を続けようとしたピトフーイだが、ゆっくりと腕を上げていくヴェンデッタの行動により注目せざるを得なくなった。手の甲を見せつつゆっくりと指先を空へと向け、2人に向けて2回手招き。

 

 

「……御託はいい、と。なら良いわ」

 

 

 向けている銃口が二つ、逃げ場や遮蔽物のない屋上、先程みたく隠れてグレネードを投擲する戦法を取らない様子から察するに残りは無し。銃も装備していないことから絶対的な窮地に居るのはヴェンデッタであるのは間違いない。今すぐ引鉄を弾けば2人の目の前にある仮想の肉体は10秒と経たずにポリゴンとなって霧散する。だがそうした撃つ気配は未だになかった。

 

 何秒経っただろうか、それとも何十秒だろうか、或いはそれ以上か。しかし“いつか”は必ず来なければならない。一瞬たりとも気が抜けない緊張状態のなか、ついにその時は訪れる。

 

 始めにエムが引鉄を弾いた。バレットサークルは現れておらずそれらはプロの領域である技術の1つである、弾道予測線さえもなく普通ならば判断されることも無く撃たれて終わる。次に若干タイミングをずらしピトフーイがCBJ-MSの引き金を弾く。若干のラグを生み出すことでエムの放った銃撃を防ごうとして意識がそちらへ向き、別方向から撃たれて終わる。加えて何も防具を用意していない上にピトフーイの使う銃弾は戦車の装甲を貫くCBJ弾という代物、およそ人に向けて撃つものでない。普通ならここでヴェンデッタは倒される。普通なら。

 

 簡潔に説明するのならヴェンデッタは()()()()()()、自らの体を地面と水平にするように下へと避けたのだ。そして空を通り過ぎる弾丸とは別に、エムの脳天に向けて一発の弾丸が着弾した。そして続くようにヴェンデッタはピトフーイに接近、またも撃ったがそれでも体を捻りながら移動して避けられた。そして三度撃とうとしたところで顔面を鷲掴みにされ地面に叩きつけられたあと、カランビットナイフの刃がピトフーイの喉を切り裂き何も言わせずにポリゴンへと変えた。

 

 

Mission complete(任務完了). Move on to return(帰還する).」

 

Estimate the bonus high(ボーナスは弾んでよ).』

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 3日後。ヴェンデッタのプレイヤーハウスの方で対面する依頼者と家主、その手にはそれぞれ新しい装備と指定された金額の送金完了通知が。ヴェンデッタがそれを確認し終えると依頼者へと視線を向ける。

 

 

「これで依頼は終了した。望み通りお前の復讐は果たされたというわけだ、次からは予め報酬を用意しておけ。色々と面倒だ」

 

「本当にやってくれた事を感謝する、ありがとう」

 

「礼なら俺ではなく了承したヴェンデッタに言え、ただの仲介屋に言って何になる」

 

「それでもアンタが口利きしてくれなかったら、俺たちじゃどうしようも無かった。本当にありがとう」

 

「……なら礼よりも早くここから出ていく事をオススメする。面倒なことになる前にな」

 

 

 依頼者がプレイヤーハウスから出ていき、一息ついてソファの背もたれににもたれかかったヴェンデッタの頭1つ隣にXの頭が乗る。

 

 

「本当に面倒ね。Jusqu'au dernier(あくまでも),プレイヤーヴェンデッタの仲介者なんて、そこまで隠したいの?」

 

「腕試しの筈のBoBで目立ちすぎた。適当にどこまでいけるかの筈がサトライザーに当たって、75日もすれば忘れられる筈が記憶に刻まれた始末。ここまでになるのは想定外だ」

 

「私が変装する意味無いと思うけどなぁ」

 

「それは俺と組んだ事を恨むんだな。すぐに狙われてロストしまくる未来が見えるんでな」

 

「おっかないわねぇ」

 

 

 あくまで、今のヴェンデッタは“ヴェンデッタというプレイヤーの仲介屋”という立場を貫く。銃士Xもまた、今はこの仲介屋と交流のあるプレイヤーという立場に居なくてはならない。それがこの2人の不文律、ヴェンデッタもとい『Vaa(ヴァー)Vii(ヴィー)』と銃士(マスケティア)X(イクス)の暗黙の了解なのである。

 

 そしてソファから立ち上がったヴェンデッタ(ヴァー・ヴィー)はその足をNPCショップへと運ばせた。




【CBJ-MS】
スウェーデンのCBJテックAB社が開発したPDWサブマシンガン。
20又は30発箱型弾倉、及び100連ドラムマガジンが装備可。
6.25×25CBJ弾を使用することで230mmまでのボディアーマーを貫通し、50mの距離からなら7mmの圧延防弾板を貫通する。
ピトフーイが使用したのはそのCBJ弾、およそ人間に使われる代物にしては高すぎるし威力が桁違いすぎる。


【FNブローニング・ハイパワーMk.III】
FNハースタル社製の自動拳銃。天才銃器設計士ジョン・M・ブローニングの開発した最後の作品ブローニング・ハイパワーの派生型Mk.Ⅱの仕様を変更したもの。
ロングタイプのハンマーにリア、フロントサイト共にホワイトラインの入った大型のものに変更し、マガジンハウジング内にスプリングを備えマガジンキャッチを押すと強制的にマガジンが脱落する仕組みとなっている。

【As Val】
前回登場
TsNIITochMash社製の消音アサルトライフル。消音効果の高いサプレッサーをレシーバー先端から銃口前方までを覆うように装備させることで射撃時の銃声やマズルフラッシュを可能な限り小さくしている。
9×39mm弾を使用することで、亜音速の低速で弾丸が発射され消音効果を高めている。
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