戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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冷たさか常か

 ある日の午後、ヴァー・ヴィー(ヴェンデッタ)と銃士Xは久しぶりにダンジョン探索へ赴いていた。今回向かったのは廃棄された兵器開発機関、生物兵器の開発を行っていたが事故により閉鎖し【見捨てられた研究施設】と称されたその場所ではゲノム編集により造られた生物兵器がさまよっている、という設定のもと生物系エネミーが点在している。在り来りなダンジョンだがこの場所の探索は運が良ければ1体も出会わずにアイテムを漁る事ができるのが特徴である。本来指定された場所に指定された種類と指定数のエネミーを配置するのがセオリーだが、幾つかのダンジョンは敵の種類や数、出現場所もランダムといったものが確認されている。

 

 現在2人が探索中のダンジョンもその1つであった。近未来SF映画に出てきそうな光学銃と近接戦闘用のナイフ三種と光剣(フォトン・ソード)を装備し、移動用の足としてパラマウント マローダーに乗って来ている。どこかで見たような爬虫類をベースにしたエネミーの攻撃を避け、光剣で脳味噌の辺りを焼き尽くして倒しつつ2人は金になりそうなアイテムを探していた。とはいえ未だに見つかっていないので暫くポップしない簡易セーフルームで休憩中。ヴァー・ヴィーは趣向品である葉巻を吸い特に害のない副流煙を吐いた。だが害は無かろうと煙はあるため、同室の銃士Xには不満そうにしている。

 

 

「……ねぇ、ケチつける訳じゃないけどさ」

 

「あ?」

 

「せめて外で吸って」

 

「構わんが匂いに釣られて来ると思うぞ、エネミー」

 

「この部屋、換気扇ないってどういう事よne sois pas bête(ふざけんな)

 

「外気漏れを防ぎたかった……いや、それにしては

 

 

 ヴァー・ヴィーが辺りを見渡し、その場を立って葉巻を持ちながら部屋をうろつき始めた。じっくり舐め回すような形で部屋を観察し続けていると不意に何も無い壁のところで立ち止まり、吸い殻を足で潰しアイテム欄からある物を取り出す。それは両腕全てを覆い被せるほどの無骨な強化外骨格であり、ヴァー・ヴィーは取り出したそれを装着すると壁の僅かな隙間に手をかけ、力を入れ開け始めた。ゆっくりと引き戸型の隠し扉が動いていき徐々に光が差し込んでいくと地下へと続く階段を発見した。全て開ききったところで強化外骨格をアイテム欄にしまい銃士Xを手招く。

 

 

「おぉー」

 

「本当なら扉の開閉を行う何か、それらを記したメモがある筈なんだが。まぁ開いたので良しとしよう」

 

「あ、開けてる途中でメモ見つけたけど」

 

「……先に言え。無駄な労力をかけた」

 

「開きそうだったからいいかなーって」

 

「ともかく用心しながら入るぞ」

 

bien reçu(りょーかい)

 

 

 光学銃を構えゆっくりと階段を降りていくと自動で電気がつけられその先に見える廊下を照らしていった。エネミーが居ないことを確認するとクリアリングを一旦解除し、部屋の探索を開始し始めた。生物兵器関連の研究所だけあってこの世界に蔓延るエネミーの一部がどのような遺伝子を持ち、どのようなゲノム編集によって造られ、そしてどのような特徴を有しているか。というような所謂世界観設定にまつわる物ばかり。めぼしいと言えば医療品系統のものが幾つか見かける程度で稼ぎになりはしない。

 

 救いだったのはこの場所がまだ未探索である事だろう。とはいえ全て回ったわけではないので虱潰しに探し続けていると研究施設内のPCデータファイルに気になる項目を見つけた。しかし確認しようにもパスワードが掛けられており、まだ探索し終えていない部屋を確認しなければならなくなった。

 

 

「何か見つかったー?」

 

「気になるデータファイルならあったぞ。パスワードが要る」

 

「なら早く見つけましょ、c'est une chance que(ラッキーなことに)誰の手もつけられてないみたいだし」

 

「探索漏れの無いようにな」

 

 

 それから探し回って1時間が経過し、ファイルの解凍コードを発見し中身を確認するとあったのは対生物兵器用特殊溶解弾【CUTTER】の製作方法のみ。素材は品質によって必要数が異なる仕組みになっており効果が現れるのは生物兵器に対してのみ、また弾薬の素材に使用したモンスター1種類にしか効かない代物であるため、例えば爬虫類系エネミーに対虫系溶解弾は通用しないようになっている。

 

 かなり面倒な代物だが実用化できた場合狩りの時間短縮に繋がるので、エネミー狩り専門のプレイヤーには売れる可能性は高い。とはいえ実証もしていないので何とも言えないのが現状なのだが。ともかく2人は今後の稼ぎに良さそうな代物を手に入れ偽装させておいたマローダーのもとへと向かおうとした時であった。

 

 何かを察知したヴァー・ヴィーが素早く銃士Xの腕を引いて身を寄せポジションが入れ替えられた。その直後、先程まで銃士Xが立っていた頭の位置に弾丸が通り過ぎていく。有無を言わせず銃士Xを運びコンテナに隠れた。

 

 

「大丈夫か」

 

「……何とか。あと下ろして」

 

「すまん」

 

「っとと。で、相手スナイパーはどこ?」

 

「位置は割り出せたが頭出したら撃ち抜かれそうだ。あと何より音からして対物だろうしここもマズイ」

 

AMR(アンチマテリアルライフル)? 普通人に向けて撃つの?」

 

「普通に撃つと聞いた事がある」

 

Vraiment(ウソでしょ)?」

 

「ともかく直ぐに取り掛かる。イクスは俺が囮になってる間に高所へ移動、カウンタースナイプ頼むぞ」

 

「また無茶なことを……」

 

「お前だから信頼して頼めるんだがな」

 

「あぁはいはい分かったわよ……朴念仁

 

「何か言ったか?」

 

「何でもなし。ほらさっさと着ける」

 

「言われずとも」

 

 

 そんな会話のあと、ヴァー・ヴィーは2つのアイテムを実体化させる。ヴェンデッタとは違うヴァー・ヴィー(仲介屋)としてのバトルスタイルで挑んでいくために。

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 少女にとってその男は衝撃的だった。自らの常識を完膚なきまでに破壊されたような初めての感覚、この世界を望んだ者に見せつけた強さに魅入られたのは彼女もまた同じであった。強さを求めたがためにこの世界に降り立ち、彼女は強さを得ていったが尚強さを求め続けている。金でもなく名声でもなく只管(ひたすら)に強さという曖昧なものを彼女は手に入れるために狩り続ける、それが彼女の意思であり願い。

 

 だからこそ少女にとってヴェンデッタという存在は劇薬に近い何かであった。本戦最後に見せたサトライザーとの一騎討ちは彼女の想像を絶する接戦であり、まざまざと見せつけられた力と技術のぶつかり合いに惹かれていった。その戦いを見終えてもまだ熱が燻り続け消える気配を見せることはなく、寧ろヴェンデッタを思う限り燃え盛るような心の昂りは増していくばかり。

 

 そして彼女はヴェンデッタの情報を集める選択肢を選んだ。BoBで名が知られるまで彼女はヴェンデッタの事を1つも知らなかったが、意外にもすぐ情報は集まった。有名になったことが影響しているのは明白で“ヴェンデッタと唯一繋がりのある仲介屋が居る”ということもGGOプレイヤーならば知っている事になり、そのプレイヤーが営む店も知ることが出来た。だが────

 

 

「断る」

 

「なんでだよおい! アンタならヴェンデッタに会わせてくれるって他の奴らから聞いたんだぞ!」

 

 

 彼女より先にそのヴェンデッタに会おうとしたプレイヤー4人組と、店主であるヴァー・ヴィーが口論に差し掛かっている最中であった。ヴァー・ヴィーは口に葉巻を咥えて苛立ちを隠そうともせずに淡々と言い放った。

 

 

「奴が名も知らぬ他人と関わるのは依頼の時だけだ。それ以外は全部無理だと言っている、ここが動物園のふれあい広場に見えるなら公私関係なくお断りだ帰れ」

 

「一目会わせてくれればそれで済むからさぁ!」

 

「依頼でもない案件に携わろうとする奴ではない。それに営業妨害も良いところださっさと失せろ、どうしても会いたいのなら100M(メガ)*1払えたとしてもまだ足りんぞ」

 

「ひゃっ?! ふ、ふざけんな何様のつもりだ!?」

 

「この店の主で仲介屋だ。ここでは俺の決めたルールに従え、それが無理ならリアルに帰って延々と━━━━━━━━━なルーキーズ」

 

「くそっ!もういい帰るぞ!」

 

 

 その4人組は逆ギレしながら店へと出ていった。しかしこの様子ではヴェンデッタに会うことがまず無理と分かり、その店で.50MB弾を購入して策を弄することにした。そこで思いついたのがヴァー・ヴィーを餌に釣るという暴挙にも近しいそれを彼女は実行することに決めた。

 

 

 

 そして時は流れ現在、ヴァー・ヴィーと銃士Xを尾行し彼らを倒すことを決行した。依頼料を払わずヴェンデッタに会うには本人と関わりの深い人物がやられた際に自らに()()させるように仕向ける、それが確実に会える方法なのだ。彼女の持ち前の冷静さは鈍り飢えた獣のように獲物を狩ることを選んだ、どれほど危険なのか未だに悟れず。

 

 2人の監視の最中にそれは起きた。隠れているコンテナの方から何かが飛び出してきたので、すぐにスコープの倍率を変えてその飛び出した何かに焦点を当てる。彼女の目に映った光景は──ヴァー・ヴィーが物凄い速さでこちらに向かっている様子だった。

 

 彼女の方だけを真っ直ぐに見つめて。

*1
1億円

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