『ALOに来るんですか?!』
「おう、詩乃も一緒にな」
現実世界に戻って睦希は早速ザ・シードによって無料配布されているALO、正式名称【アルヴヘイム・オンライン】をダウンロードしている最中ふと同ゲームをプレイしている先人と連絡を取りたいという形で睦希は桐ヶ谷和人に電話をかけた。意外といった様子で問われたことに疑問が湧いた。
「で、なぜ意外そうな反応をした?」
『いや、何となくGGO一辺倒でやってるイメージというか。プロってそんな感じのイメージがあるというか』
「あぁ、そういうことか。まぁそれが普通だな」
『大丈夫なんですか? 睦希さんは』
「なに、総資産なら億は稼いでるのでな。そこまで心配はせずとも良い」
『……億?』
「具体的な金額でも聞いてみるか?」
『遠慮しておきます』
「そうか」
具体的な金額を聞けば聞いたで頭を抱えそうな未来が待っていると何故か確信めいた何かを悟った彼に対し、睦希は自分の話を再開し始めた。
「して桐ヶ谷、お前さんALOにサラマンダーの知り合いはおるか?」
『居ますけど、サラマンダーにするんですね』
「意外か?」
『暗殺が得意ならインプとか、俺と同じスプリガンにするかもと思ってたので』
「それはそうだな。俺もインプかサラマンダーで悩んでいたが、たまには直接戦闘をしても良いかと思ってな」
『というと?』
「これでも古武術、剣術や杖術なども訓練している身だ。ALOではGGOとはまた違った戦闘スタイルでプレイするのも有りだと考えてのサラマンダーという結論に至った」
『へぇ、古武術……となると刀メインでプレイを?』
「刀を主力には使うが程よい手鎌や短剣、投擲武器、武器が潰えば素手と手段は選ばんな」
『鎌使うんですか』
「俺のやっている古武術に陣鎌、いわゆる手鎌を扱う術もあるのでな。それも活用したいのだ……で、すまんがお前さんの知り合いを紹介してもらって構わんだろうか」
『構いませんけど……その知り合い、サラリーマンなので時間の都合が合うかどうか。俺でよければレクチャーしますよ』
「良いのか? 種族が違えば面倒だぞ?」
『まぁ面倒は慣れっこなので。それにサラマンダー領内にスプリガンは目立ちやすいから目印になるでしょう?』
「それもそうだが……時間の都合は大丈夫か?」
『ええ、まあ。今やることがあんまり無いので』
「そうか……なら、頼むとしようか」
『分かりました。因みに何時ダイブします?』
「ダウンロードやアプデが終わり次第にでも。あと30分以上は掛かるがな」
『成程、じゃあ40分後にサラマンダー領内で。あ、俺のネームは変わらずキリトなので、呼びかけたらちゃんと反応しますよ』
「お前さんはNPCか何かか。だが了解した、40分後合流としよう」
『はい。じゃあ、また』
通話を終了させ、未だにダウンロード中の表示が出ているパソコンを見つつALOでの情報収集に改めて勤しんだ。武器、防具、領地、種族間関係、ルール、そして飛び方などの凡百情報を調べていく。今度は見落としのないようにしっかりと読み込んで。
ダウンロードが終了し、幾つかのアップデートも終えて睦希はベッドに向かう。つい最近クイーンサイズのチェストベッドに変えたことで一先ず就寝のさい手狭にならないスペースを確保できたそのベッドに、彼は1人で横になりアミュスフィアを被る。
「リンク・スタート」
意識が仮想世界へと送り込まれていき、真っ黒な空間に出現した幾つかのソフト項目の中にあるALOを指定すると、種族選択画面が出現した。《Welcome to Alfheim Online!》の表示のあと、性別とネーム決めに入る。性別は男にしたが名前の方に思考を回し、木魚でも叩いているようなポクポクという音を頭の中で響かせ、暫くして入力を開始する。『Verdict』、これから彼はALOでヴァーディクトと名乗ることを決めた。
そして種族選択画面になると迷わずサラマンダーを選び、確認音声に了承すると世界は一変した。初期スポーン位置である広場には広大な噴水と、領主館へと続いている水路。ヤシの木や中東方面で見かける建築様式が見受けられる。砂漠地帯にあるため露店商はどこか薄手の服を身に纏っており、オアシスを中心として設立された首都【ガタン】の街並みの雰囲気が漂っていた。ただ睦希が気になったのはそんな真新しい景色ではなく、耳に入ってくる喧騒の声の方であった。そちらを見やればサラマンダー領内に異種族であるスプリガンが1人居て、目当ての人物である確信を抱きながら彼の元へと近付く。
「お前さん、キリトだな?」
「……えーと、どちら様で?」
「ヴァー・ヴィーだ」
「ひょっ?!」
変な声と共に立ち上がったキリトと思わしきスプリガンは、まじまじとヴァーディクトの顔を見ていた。確かに仮想世界ごとに別の顔になるというのは当たり前のことなのだが、それにしても見すぎなのは否めない。
「あまりジロジロ見るな。面白くないだろう」
「あぁ、すいません。でも逆にこうまで違いすぎると珍しく……いや、アイツらが変わらなさ過ぎなのか?」
「?」
ヴァーディクトは噴水に映る自身の顔を確認した。水面に映っていたのはサラマンダー特有の赤、というよりも黒みがかった蘇芳色と呼ばれるカラーリングに白メッシュの入った髪であった。目の周りには両瞼から白い亀裂のようなものが蜘蛛の巣のごとくあって、極めつけに目の色は黄色というリアルとは掛け離れすぎた見た目であった。これではまじまじと見るのも納得がいくというものだ。
「……そりゃあ違いすぎるわな。GGOとも違うし」
「あっちじゃ完全に傭兵みたいな顔つきでしたもんね」
「にしても、この亀裂は要らないんじゃないか? これじゃあ乾燥して肌がボロボロみたいに思うんだが」
「そう思ってるのも多分ヴァー・ヴィーさんだけかと……あ、ところでALOでの名前はなんて呼べば?」
「ヴァーディクトだ。あぁ、先にフレンド交換でもしておくか」
「じゃあ俺からやりますよ」
「お、そうか」
キリトがメニュー画面を開き、少ししてヴァーディクトのメッセージからフレンド交換の報せが入り了承すると、晴れてフレンド同士となったキリトは画面を閉じてヴァーディクトはそのままフレンド欄から彼のステータスを確認し始めた。
「種族値も1000越え、片手剣習熟度MAX等々……かなりやり込んでいるのだな」
「あのー、流石にちょっと」
「ん、あぁ失礼した。面倒な癖が出てしまった」
「いえいえ。あ、でも今気付いたんですけどコンバートじゃないんですね」
「GGOとの関連性をなるべく少なくしたいのでな。特にあの名のままでは疑われかねん」
「秘匿主義者みたいな考え方ですね」
「否定はせん」
一先ずヴァーディクトの装備を最低ランクの刀武器に変更し、ALOの特色の1つである飛行に関する訓練を行い始める。この“飛行”というシステムはGGOでも体験はしたが毛色が違うこともあって慣れるまで時間は掛かった。思考による自動制御ではなく仮想体の骨格や筋肉を動かす手法、ようは昆虫が行うような飛行方法への慣れに時間は掛かった。
ともあれ時間をかけたことで飛行については多少動ける程度にはなれた。ヴァーディクトは一度昆虫の翅の駆動法を調べる必要があると感じながら、満足に飛ぶことが出来なかった鬱憤を晴らすかのように序盤のエネミーである低ランクの蠍型や蛇型を倒していく。暑さへの耐性がデフォルトで存在するサラマンダーのヴァーディクトは、この気候をものともせず必ず攻撃を避けたあとで致死の一撃を入れるといったパターンで倒していった。
だがヴァーディクトは何故かソードスキルを使用せずにエネミーを倒すことに集中しているようで。しかも倒すのに若干の時間は掛かっているものの苦戦している訳では無い、寧ろこれが彼にとっての最善にして最良の戦闘行為とも見て取れる。ちょうど戦闘が終了したところでキリトは訊ねた。
「あの、ヴァーディクトさん」
「何だ」
「何でソードスキルを使わないんですか? 使ったらもっと速く済むのに」
「あぁそれか……簡単な話、動きを制限されたくないのだ」
「はぁ」
「確かにソードスキルを使えば楽に終わらせられるやもしれんが、使用後の硬直時間とか勝手に体を動かされる感覚はどうしても好きになれん。戦闘では決められたパターンを読まれて対処されればあとは死しか待っておらん……毛嫌いといえばそれまでだがな」
「……中々現実的な思考ですね」
「まぁその分ダメージ量を多くする為の工夫はしておるし、問題は無い。追尾攻撃魔法は完全に防御しつつ吶喊するしか無さそうだが──こうなると軽量且つ高耐久、高魔法耐性の鎧が欲しくなるな」
「じゃあ、今からでもアルンにでも行ってみます? そこに知り合いの鍛冶師、前紹介したリズ……じゃなかったリズベットも居ますし」
「あの嬢ちゃんか。……ふむ、ならばエスコートをお願いしても?」
「勿論! 早速行きます?」
「そうしよう。道中の護衛、よろしく頼む」
キリトがパーティー申請を出し、それを了承して先にヴァーディクトの装備を整えてから2人は央都アルンへと飛び立っていった。