突然だが、睦希亮司という男の性格について軽く話す。GGOでヴェンデッタとして名の知られたプレイヤーのリアルは別にどこかのPSCに所属している訳でもなく、また従軍経験がある訳でもない。何の変哲もないというのは些か語弊であるが兎に角、彼は紛れもなく一般人として過ごしている。しかし戦闘技術を元特殊作戦群の1人から教えを乞い、ストイックに技術を磨き続けるさまはどうしても一般人とは思えない。閑話休題。
さてこの睦希亮司という男、非常に用心深い性格をしている。そのためGGOでも関係なくその用心深さの表れか、ヴェンデッタとしての戦闘スタイルとヴァー・ヴィーとしての戦闘スタイルを分けている。ヴェンデッタとして戦う場合は隠密や直接戦闘など何でもあり、よく使う弾除けの技術もヴェンデッタとしてなら幾らでも使用出来る。それとは別にヴァー・ヴィーの場合、本人が開発したガジェットなどを使い分け制圧を目的とした戦い方をし、ヴェンデッタとバレないように弾除けの技術は極力使わない方針を立てている。
しかしヴェンデッタとヴァー・ヴィーが共通して厳守していることが一つだけ存在している。“やられたらやり返す”、それが
さきのダンジョンで使用した強化外骨格を、今回は両脚にも装着している。これによりAGI偏重型と真正面から互角に戦える性能を与えているのだ、そして元々所持していた光剣をその手に持っている。狙撃ポイントと思わしき場所へとどんどん接近していく様子はおそらく居るであろう狙撃手からすれば焦りが生まれるのは間違いない。現に、彼を狙っている狙撃手が居ると思わしきポイントから弾道予測線と弾丸が飛んできた。
けれどヴァー・ヴィーは光剣の刃を出すと、その一刀のもとに斬り捨てる。光剣の刃によって溶断させられた弾丸はヴァー・ヴィーの肉体を逸れて地面に着弾し土煙を発生させた。
(……動いていない。スナイパーの基本を知らないのは向こうにとって痛手だな、こちらは好都合だが)
それを悟ったヴァー・ヴィーが身につけている強化外骨格の出力を上げた。各関節部に取り付けたジェネレーターから発せられる音が目立ってくるが、脅威と認識していない相手に反撃への警戒するが自らの姿をくらませる事はしない。相手に脅威と認識させる形で目立たせることが1つの抑止となるからだ。ここで付けていたインカムから連絡が入った。
『V、敵スナイパー確認できた。へカートⅡに水色髪、特徴的に氷の狙撃手サマみたい』
「噂のか」
『ん。でも良い的になってる、撃つよ』
「構わん。やれ」
『
また射出された弾丸を危なげなく溶断したが、今度はあまり間を置かずに次弾が発射されていく。即座に出力を上げて速度を出すことで事なきを得たが、まだ諦めていないのか連射している。ヴァー・ヴィーも避け続けているが連続かつ高出力で使用しているせいか身につけている強化外骨格から熱を感じとれた。このまま稼働し続けるのは些か面倒だったものの、その直後に後方から銃士Xの援護射撃が入った。
「よくやった」
『逃げようとしてたから脚撃ったよ、とはいえ正直微妙だったけど。向こうはこっちの銃の有効射程外から撃ってきてたと思うし』
「なるほど噂になるわけだ。ともかく直ぐに来てくれ」
『そっちも気をつけて、あとできる限り手心は加えてほしいな』
ヴァー・ヴィーが言おうとする前に通信が切れた。言葉の真意を汲み取る前に狙撃手のいたポイントに到着し、視界によく目立つ水色髪のプレイヤーが倒れていることが分かった。相手はまだ反撃の意思のままに最後に一発撃とうとしたが、光剣での突きにより射出された弾丸は殆どが溶解されていった。すぐに光剣を捨て用意していたツイストダガーを抜き取り、身動きを封じさせたのちナイフを首に添えた。
「っ!」
「お前見覚えがあるぞ、俺の店で弾丸を買ったな。それに……あの時の会話を聞いていた、お前の目的はヴェンデッタだな?」
「……えぇ、そうよ」
「なぜだ」
「アンタが唯一の繋がりだから……アンタを殺せばヴェンデッタの強さがどんなものなのか、確かめることができると思っていたのよ」
「なるほど、俺なりに理解出来た。──アホらしい」
「アンタに何が」
言い終える前にツイストダガーを首に刺し抉るようにして首全体を掻き切ると物言わぬポリゴンへと変えられた。取得したドロップ品の中には彼女が使っていたPGMへカートⅡと幾つかの素材、ダンジョンの件を含め総合的に見ればプラスに寄ったところだろう。とはいえこのAMRを持つのに現状ヴァー・ヴィーにはギリギリ重量ペナルティが発生しているので動こうにも動けない。
暫くするとマローダーに乗った銃士Xがやって来た。辺りを見て呆れ顔になりながらも実体化させて持っているへカートⅡを受け取り、マローダーに乗せると助手席側に座りヴァー・ヴィーは強化外骨格をしまい運転席に座る。
「手心加えて、って言ったわよね私」
「動機が動機だ。手心も何もあったもんじゃない」
「何だったのよ」
「ヴェンデッタに会うために襲ったそうだ。アホらしいことこの上ない」
「うーん……」
車のエンジンを吹かし、グロッケンへと帰っていく。
暫くしてグロッケンに戻ってきてすぐの2人を待ち受けていたのは、さきの水色髪の氷の狙撃手たる彼女であった。今にも泣きそうな形相をしているので何を望んでいるかは想像が付くが、ヴァー・ヴィーの性格上そういった可能性は低いと考えるべきであろう。切羽詰まった彼女には分かりはしないが。必死な訴えを示している彼女を無視しそのままホームまで帰ろうとしたが、すぐに行く手を阻まれる。
「おね、がい……! それは、私の……」
その光景を見ていたたまれなくなった銃士Xがヴァー・ヴィーに近付いた。
「ねぇ、あれ売らないとだめ? ウチの稼ぎ的に問題ないと思うけど」
「多少のメンテナンスのあとバイヤーに売るつもりだが」
「っ!」
「V、確かに貴方の性格からしてそうするのは分かってるけど流石に今回はちょっと……やりすぎっぽく思えるのよ。
「……何を言ってる。そもそも俺たちは被害者でコイツは加害者、襲った理由がヴェンデッタに会うためときた。俺たちを倒せば報復としてやって来るとして、とち狂ってるとしか思えんのに、そこに遠慮や慈悲なんてのは以ての外だと思うが? 何時また襲われるか分からんのに呑気な」
「分かってるわよ。確かに彼女の自業自得によるもの、でも今の彼女にそんな意思ないのは貴方だって分かってるでしょ。彼女はあれが奪われることを何よりも避けたい事だと覚えた、たとえ渡したとしてもまた襲ってくる事はない。これは断言出来る」
「もしその予想が外れていたとしたら、お前はどう責任を取る」
「その時は私も容赦しないことを約束するわ。たとえ大事なものであっても“自業自得だ”とね」
暫く間を置き、道を阻む彼女に視線を向け銃士Xに戻す。その後目を瞑りまた開く。
「……理解した。だが罰は受けてもらう事になる」
「どんな?」
「狩りの同行、店番、それと武器の管理。お前が居ない間の穴埋めが主だ。ついでにCQCも覚えさせる、死なれちゃ困るんでな」
「
「必要ない」
「え、ちょっ」
また彼女の方へと体の向きを変え、メニューを開きアイテム欄から一丁のSIG SAUER SP2022を取り出し、その銃口を向ける。
「聴いただろう。今のお前に拒否権はない、俺とコイツに喧嘩を売った罰を受けてもらう。期限は四週間、理解したなら頷け」
目の前の彼女は多少戸惑いながらも頷き、それを確認したところでヴァー・ヴィーは銃をしまう。
「名は」
「はぇ?」
「名前を聞いている」
「『シノン』……」
「そうか。そこのイクスから銃は返してもらえ、あとは店まで付いてこい」
そう言い終えて先に店の方に向かっていくヴァー・ヴィーを見るシノン。実体化させたへカートⅡを銃士Xから受け取り、彼女とともに店へと向かっていく。
「ウチのがごめんね、彼いつも容赦ないのよ」
「えっと……」
「銃士X、読み方はマスケティア・イクスよ。宜しくねシノンちゃん」
「どうも。あと、ちゃん付けは止してください」
「おっとこれは失礼。まぁこれから色々叩き込まれると思うけど、私にはどうする事も出来ないから我慢してね」
それを言い終えたあと銃士Xもまた歩き出し、それに付随するようにシノンが後を追う。この日から奇妙な運命の歯車が動き出した。
【PGMへカートⅡ】
フランスPGMプレジション社製対物狙撃銃。ウルティマ・ラティオシリーズでは最大の12.7mm弾薬を使用。放熱と重量軽減のため螺旋状の溝を掘るフルーティングが施され、射撃時の反動を7.62×51mm NATO弾用小銃に抑えるため高効率のマズルブレーキを装着している。
【SIG SAUER SP2022】
SIG SAUER社製の自動拳銃。フランス内務省の法執行機関に制式採用されている。これより前に開発されたSIG PROシリーズと異なりアンダーレールでは既存のアクセサリーが使用出来ないことからピカティ二ーレールに変更されている。