戦術マニアのGGO日和   作:Haganed

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変わった日常

 ある日の午後、グロッケンの一角に存在するプレイヤーホーム兼ショップにてそれは行われていた。防音設備の整った部屋ではプライバシーが守られており外から中の音を聴くということは出来ない、またホーム内に居ても部屋ごとに防音機能があるため扉で区切られていると併設する部屋同士の物音などは聞こえないように設定されている。なので同じホーム内にある射撃場の発砲音はシノンと家主のヴァー・ヴィーにしか伝わらない。

 

 現在シノンの手に握られているPP-2000の銃口から硝煙が僅かにゆらゆらと上へ昇っている。セーフティをかけマガジンを引き抜き、両方を後ろに立つヴァー・ヴィーに渡すと2人して射撃場に隣接された施設に入り1人ヴァー・ヴィーは雑多に器具が置かれている広めの机に座り、シノンは彼の前に座った。

 

 銃のメンテナンスを開始したヴァー・ヴィーをよそにシノンは改めてこの部屋にある様々な開発品の数々を見回す。あの時に装着していた強化外骨格の他に伸縮自在な4本のサブアーム、ヒートアックスと呼ばれる代物や開発途中のパイルバンカーなどが所狭しと置かれている。それら以外にも細々とした物も壁にかけられていて男の中に眠る厨二病を擽るような内装になっているのこの部屋、しかし今回はあくまでこのPP-2000のメンテナンスだけに使われている。そのメンテナンス中にシノンは訊ねた。

 

 

「ねぇ」

 

「何だ」

 

「これ一応売り物なのよね」

 

「そうだな。とはいえ使用者に合わせた調整をしなければならん」

 

「幾らかかるの?」

 

「俺が使用してた物と同じヤツだと制作費、材料費、調整費もろもろ合わせて……そうだな、20代の成人男性の平均体躯を参考にするなら300Kはくだらん」

 

「売れてるの?」

 

「それなりに、とはいえ基本物好きなコレクターが多いがな。こっちは狩りに使って欲しいんだがね」

 

「30万を普通に買う奴って居るものなのね……私には分からないわ」

 

「男の浪漫の世界、というものだそうだ。俺にも分からん」

 

「男なのに?」

 

「生憎と浪漫とは無縁でね。実利が絡んでなければ俺とて作りはしなかっただろうよ」

 

 

 言い終えたと同時にPP-2000のメンテナンスが終了し、組み立てられたその銃をヴァー・ヴィーから手渡される。そのヴァー・ヴィーが部屋の壁掛け時計を見ると午後1時に差し迫るころだと気付き、体を伸ばしたあとシノンに視線を向け話す。

 

 

「今日は(しま)いだ。お前も上がっておけ」

 

「そう、お疲れ」

 

 

 2人はメニュー画面を開きログアウトボタンを押すと仮想の肉体から意識が離れていき、現実世界へと戻る。それぞれの待つ現実に戻らなければならない。

 

 

 

 

 マンションの自室で目が覚めた睦希亮司が最初に感じたのは誰かがこの部屋で調理をしている音であった。しかし警戒する様子もなく、アミュスフィアを取り外しミリタリー色の強い壁ではなく音のする扉の方へと歩んでいきリビングに向かう扉を開けると1人の女性が睦希の台所で調理をしていた。住人である睦希よりも身長の高いという際立つ特徴を有したこの女性は、先程現実世界に戻ってきた睦希を見るなり笑顔で迎えた。

 

 

「おはよう、ございます?」

 

「昼だがな。いつも悪いな香蓮」

 

「いえいえこれぐらいなんて事ないですよ」

 

「ふむ、ならいつも通り期待してもいいんだな」

 

「勿論」

 

 

 親しげに会話をする彼女に何の違和感も抱くことなく、睦希はリビング中央のテーブルにまで向かうと胡座をかいてその場に座った。彼女、『小比類巻(こひるいまき) 香蓮(かれん)』の料理ができるまでの間、イヤホンを取り付けたスマホから動画サイトを開き目当ての動画を見始める。内容はタクティカルトレーニングに関するものであり睦希亮司にとっては何度も訪れる必要のある場所だ。

 

 暫く動画を見続けていると不意に睦希は台所の方に視線を向けた。ちょうど料理の方は皿への盛り付けだけにまで済んでおり動画を一旦中止して彼女のいる台所の方まで向かい、よく自分が使用している黒の深皿に入ったパスタとフォークを二つ取り、フォークの1つを既に盛り付けられた小比類巻の分の皿に置いたあと食器棚からコップを二つ用意しテーブルにまで向かう。その彼女の方はお茶を冷蔵庫から取り出し自分の分のパスタを持ってテーブルに置き座った。

 

 

「いただきます」

 

「召し上がれ」

 

 

 現在午後2時、少し遅めの昼食が始まった。昨今では珍しくこの部屋でテレビをつけることはせず基本食事に集中する。時折他愛もない会話を交わすぐらいはしているが、彼女が黙々と食べている睦希を見ながら食べるというのが、この部屋のいつもの風景の1つであった。そして視線に気づいた睦希が彼女に訊ねるまでがワンセット。

 

 

「なんだ?」

 

「何でも。見てただけ」

 

「面白いもんじゃないだろう」

 

「私が面白いと思ってるので」

 

「そういうものか」

 

「そういうものです」

 

 

 そこでパスタを一口、麺モノで柔らかいものでもきっちり30回以上噛んで胃に運び既にコップに注がれたお茶を半分だけ飲んだところで睦希が話題を切り出した。

 

 

「大学はどうだ」

 

「どう、って?」

 

「交友関係や学業の様子、進展や問題は無いか。そんな所」

 

「単位に関しては問題ないですよ、今までの成績も良かった方なので。……交友関係はまぁ、いつも通り」

 

「なるほど。男は居ないようで何より」

 

「おんやぁ、亮司さん気になりました?」

 

「香蓮の交友関係を考慮して男との関わりは薄い事は予想しているが、外れていた場合どうするか考えていただろうな」

 

「……どうするんですか?」

 

「何となく予想はできるだろう。俺は独占欲が強いらしいからな」

 

「ふへ」

 

「笑うところあったか?今の」

 

「嬉しかったんですぅ」

 

 

 手早くフォークを動かしパスタを絡めとり始める彼女を見やり、同じようにパスタを絡めていく睦希。そこから若干機嫌の良い彼女と普段通りの彼の食事風景が続き、食器類を睦希が洗って食洗機に置いて必要なことを済ませた後に睦希は外出の準備を済ませ、玄関で待っていた香蓮の手を取る。

 

 

「では、行こうか」

 

「はい」

 

 

 2人は睦希の部屋から出ていき、腕をからめながら手を握って──いわゆる恋人繋ぎで出歩く様子はとりわけ仲の良い2人という雰囲気が伝わってくる。ただし傍から見ればそうなのだが、事情を知る人間からすればこの2人と今は仕事中の1人との関係性はかなり奇妙と言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 GGOでヴァー・ヴィーと別れ現実に戻ってきたシノン、もとい朝田詩乃はアミュスフィアを取り外しベッドから起き上がる。喉の渇きを感じ少し足取り遅めに台所へと向かい水を1杯飲み干した。疲れた様子を見せるがそれもそのはず、GGOにログインすればヴァー・ヴィーによる射撃訓練やCQCなどの戦闘訓練が待っているのだから今までよりも疲弊感は分かりやすく感じ取れていた。

 

 店が開くまでの間、それらを中心にしごかれ開店すれば大体座りながら眠っているヴァー・ヴィーをよそに店番をしなければならず、狩りに向かうとなれば決まって葉巻の臭いが多少車内に漂うため慣れてないシノンからすればストレスの1つとなっている。ルーキーの類に絡まれて返り討ちにした経験もした、わざわざレジェンドランクの骨系素材アイテムをそのままナイフにした事に驚きもした。色んなことがここ最近ありすぎた。

 

 あの日、ヴァー・ヴィーに戦いを挑んだ日から彼女の中で何かが変わり始めたことに彼女自身も何となく気付いていた。強さを追い求め目的の人物に会うために、らしくない真似をしてまで挑んで負けたあの日から新たに強さの指標となった仲介屋への疑問も募っていた。

 

 ヴァー・ヴィーは強い、それも可笑しいほどにデタラメな強さを有している。だからこそ不思議に思うのだ、そこまでの強さを持つのに何故ヴェンデッタと組んでいるのか。なぜヴェンデッタに挑もうとしないのか。考えたことは無かったのかと、あの日そう聞いた。“長くなる”と前置きしてから、ヴァー・ヴィーは気だるそうに言葉を紡いだ。

 

 

『確かに、俺とて強い自負はある。ヴェンデッタとも対等には戦えるだろうがあくまでも対等に戦えるだけ、互いに戦えば俺もアイツもタダではスマン。損害がデカすぎる──だから協力した、俺はアイツの仲介屋として動きアイツは俺を窓口にして金を得る。お互いにとって最も賢い選択を選んだだけだ』

 

 

 葉巻を吸って、一息。間を入れる。

 

 

『それが俺とアイツとの協定、組んでる理由だ。とはいえ1度はアイツに挑むとどうなるのか考えたこともある……だがアイツに1回だけ相対したとき感じたのは、ただでは済みそうに無いと思えるほどのプレッシャーのような何かだ。そこで俺たちは戦うことを止めた』

 

『止めた……?』

 

『止めた。ゲームの中で死ぬ訳では無いが死ぬよりタチの悪い結果になることは明白だったのでな』

 

『それだけなの?』

 

『それだけで十分な理由になる。強さを理解している者同士なら尚更』

 

 

 また葉巻を咥え煙を吸って、吐く。しばしの間誰も話さない時間が流れ、何かに気付いた銃士Xがシノンに訊ねた。

 

 

『聞きたいことはそれだけ?』

 

『…………最後に一つ』

 

『何だ』

 

 

 ──どうしてそこまでの強いのか。シノンの投げかけた疑問に対し、少し悩んだ表情を見せ彼女に訊ねた。

 

 

『何に対する強さだ?』




 変なところで区切ります。


【PP-2000】
ロシアのKBP Instrument Design Bureau社製マシンピストル。9×19mm弾用の薬室を持ち、ロシア製の7N31 +P+徹甲弾を利用できるように設計されている。この徹甲弾の使用により他のPDWと比肩することを意図して造られている。重量1.5kgと軽く且つ貫通性能のある徹甲弾を使用できるとして使用していたMP7を買い取ってもらい、ヴァー・ヴィー(ヴェンデッタ)の店で代わりにシノンが購入したもの。
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