ある日のGGOグロッケン、
「何やってるのよ」
「ようやく一仕事終えたのだ」
反らしていた背を戻し肩を鳴らすと、12.7×99mmの弾丸の入ったケースをシノンに何も言わず手渡した。ヴァー・ヴィーも12ゲージスラッグの入ったケースを持って隣接する射撃場に向かい、1番近い射撃台にそれを置いたあとリビングに通じる自動ドア近くの壁に左手を添えた。そのすぐ右隣に0〜9までの数字とEnterキーのある電子盤が現れ、設定していた6桁の数字を入力しEnterキーを押した。
「V、これなに?」
「つい先程造り終えた特殊弾だ。今日はもう店仕舞いにしてコイツの性能を試す」
リビングに通じるドア近くの壁両方が上下に開かれたかと思うと、その中から銃種で纏められた幾つもの銃が陳列されたケースが現れる。ヴァー・ヴィーはショットガンで統一された場所に移動し、制御盤が専用レールに沿ってスライドしながら出てくるとベネリ・スーパーノヴァ withSTEADYGRIPmodelの名前を入力する。上の方から専用の銃ケースが飛び出し、同じ一丁のそれがヴァー・ヴィーに向けて差し出されるようにケースに固定されたまま向けられる。
グリップ部分を持つとケースの固定器具が外され、引き抜くようにして手に取ると銃ケースが元の位置に戻っていく。今度はアサルトライフルで統一された所まで向かい、ブッシュマスターACRの名前を入力すると先程と同じように当該する銃が差し出され、それを引き抜くと同じように銃ケースが仕舞われる。最後に電子盤の方にまで向かい、Enterキーを押すと壁が上下から現れ次第に先程の光景を隠すように閉じられた。
何事も無かったかのように弾薬ケースを置いた射撃台に向かい、ブッシュマスターを置いてベネリ・スーパーノヴァの方に先程の12ゲージを装弾し始める。先程の光景を初めて見たのか絶句して何も言えないシノンはここで漸く意識を取り戻した。
「ちょっと、V! さっきの何よ!?」
「ただの収納スペースだが」
「少なくとも私の知ってる収納じゃなかったわよ! というか、道理でここの壁だけ厚かったのね。全部銃が入ってるから」
「この家のアイテムストレージだとごった煮になって見づらいし分かりにくいからな、わざわざ800K掛けたかいはあった」
「はっ……?! どれだけ稼いでるのよアンタ」
「あー……普段なら月400K〜500Kぐらいか。最高で15M以上稼いだこともあったな」
「おっ……?! あー、ちょっと待って頭パンクしそう」
「それよりもシノン、へカートの別弾倉にさっき渡したブツを詰めろ」
「……色々と聞きたいことがあるけど、何するつもりなの?」
「そいつを試すと言ったろう。詳しい事は移動中に話す」
先程の光景だけでお腹いっぱいなのか目に見えて疲労の表情が現れるシノンは、何も言わずにへカートの空弾倉を取り出し手馴れた様子でその特殊弾を詰め込む。ベネリの方は直接装填し残り5発はタクティカルベストを着込んで専用の穴に突っ込み、ヴァー・ヴィーは射撃台の下から取り出した装弾済みのマガジンをブッシュマスターに取り付けた。
他にも光学銃や幾つかの装備を整え、駐車場にあるマローダーに乗り込みフィールドへと赴いていく。
「どこに行くの」
「砂漠エリア。今日はその特殊弾薬をワームタイプのネームドエネミーに使用して検証する」
「この特殊弾っていうのは?」
「【CUTTER】という溶解弾、対象エネミーの肉体を溶かす弾だ」
「へぇ、こんなのもあるのね。検証するってのは」
「売り物にするのでな。とはいえ材料の都合上、素材と金を持ってきて受注生産という形になるがな」
「材料って、何使ったのよ」
「今回の弾は同じワームタイプのレジェンダリー素材を5、エピック素材を20使った。9×19mmだと1発あたり5600クレジットを予定している」
「たっか……! ねぇ、そっちのショットガンと私のへカートだと値段はどうなるのよ」
「材料が材料だからな──ふむ、スラッグの方は1発7800、12.7×99だと1発17400が妥当か」
「これ本当に使っていいヤツ?」
「使わねば効力が分からんだろう。商品に不備があってはならん」
「確かにそうだけど……」
「安心しろ、レアリティの低い素材でも製造できる。品質や効力は劣るが」
「そういう問題じゃなくて」
フィールドに赴くというのにも関わらず、別の方向で気が重くなったシノンを連れて目的地へと走らせた。
砂漠エリアに入り光学銃で襲ってくるエネミーを蹴散らしつつも、地面が砂だらけになったところでマローダーを停め鍵をかけドアミラーに目印を掛けると徒歩での移動を開始する2人。なるべく見つからないように砂漠に合わせた色のローブを羽織り必要に応じて戦う。そうやって目当てのネームドエネミーの居る場所にまで移動中、ふとヴァー・ヴィーが思い出したように呟いた。
「そういえば、そろそろか」
「何か言った?」
「いや、そろそろお前の契約期間が終わる頃だと思っただけだ」
「…………そういえば、そうね」
ヴァー・ヴィーとシノンが交わしたあの日から四週間だけの契約、ふとそれが終わりに近付いていることを思い出す。近々第2回BoBも開催されると運営から連絡されており、ちょうど良い時期に終わりを迎えることだろう。だが彼女はまだ自分の強さに満足していないのが現状だ、本当に強くなったのか自分で理解出来ていない。
砂の大地を踏みしめながら2人は暫く会話もなく目的地へと歩き続ける。その空虚な間で様々な考えを巡らせていたものの、意味の無いことと思ったのかシノンが口を開いた。
「ねぇ」
「なんだ」
「アンタがGGOにきた理由って、なに」
「……ふむ」
また二人の間には砂を踏む音だけが広がる。一つ息を吐き、ヴァー・ヴィーが口を開いた。
「以前、俺の強さがどうこうとか言っていたな。あの日の時」
「あの日……えぇ、そうね。それが?」
「その問いからお前は強さを求めていることは理解出来た。まぁ何が言いたいかといえば──同じだ」
「何が?」
「俺がGGOに来た理由が、強さを求めていたからだ」
シノンが立ち止まる。足音が止まったことでヴァー・ヴィーも止まったがシノンの表情は鳩が豆鉄砲をくらったかのようなものになっていて、それを見たヴァー・ヴィーは少し呆れたような表情を見せる。
「そんなに意外か」
「だって、アンタは……強いのに」
「それでもだ。それでも尚強さを求めているし、欲している」
「なんで……?」
「それが俺の生き方だからだ。常に追い求め続けることが俺であるからこそな」
そう言ってまた歩き始める。少し遅れてシノンも早足で駆け寄りある程度の距離まで詰めると歩行速度を合わせて歩いた。ヴァー・ヴィーは言の葉をつむぎ続ける。
「俺がこの世界に来たのは、リアルで体得した戦闘技術がどこまで通用するか。そして実践に近い戦闘の場数を増やすため。そうやって強さを得ていったが、未だに足りんと思う時がある」
「……アンタでもそう思うことあるんだ」
「あるとも。俺は未だに自身の強さに満足していない、今までもこれからもな」
「じゃあ──アンタが強さを求めてる理由は、一体?」
その時、今度はヴァー・ヴィーが足を止めた。しばし考えた答えは意外にもあやふやだった。
「……分からん」
「分からないって……分からないまま強くなろうとしてたの?」
「いや理由はあった筈だ、とはいえ思い出せん。それが分からない事を不便だと思ったこともないからな」
彼は強さを求めることが1つの生きがいにもなっていた。いや、成り代わっていたというのが正しいだろうか。どんな事であろうと何かを求めるには理由がある、その理由が思い出せない今ヴァー・ヴィーが強さを求めるのはただ自分が強さを求めているからとなっている。何のために、という前提が時間とともに喪われていたのだ。
「お前はどうなんだ、シノン」
「私……」
「強さを求めていることは今までの付き合いで理解している。だがお前は何のために強さを得ようとする? 何がお前をそこまで駆り立てるのだ」
ヴァー・ヴィーの問いで思い起こされるのは、彼女のターニングポイントでもあるあの日の出来事。薄れゆくことも消えることの無い忌まわしき過去、未だに当時の感覚が色濃く残り小さな体を依代にした罪と後悔が今も尚彼女の澱みとなってゆっくりと心を蝕み続ける。負の思考に囚われかけた時、急にシノンは肩を叩かれる。
GGOに意識を引き戻し無言の指刺しで示した場所に、何体かのワーム系エネミーを取り巻きに中央で姿を現している目的のネームド。用意していた溶解弾の入った弾倉に入れ替えるとヴァー・ヴィーがそのネームドに向けて走る。
「「状況開始」」
【ベネリ スーパーノヴァ】
イタリアのベネリ社が開発したポンプアクション式ショットガン。今回使用するwithSTEADYmodelは銃身長が24インチのみの物しかないが射撃時の安定性を向上させるためステディグリップが装着されている。
【ブッシュマスターACR】
アメリカメイン州のブッシュマスター社が開発したアサルトライフル。既存の銃の様々な良い部分を使用した「枯れた技術」を効果的に組み合わせているため汎用性や耐久性に優れている。