バーチャルエフェクター   作:蒼龍

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プロローグ・中編

「死んでいただくだけです」

 

 その言葉が聞こえた時点で、奴の背後から迸った鋼の錨は既に俺の眼前へと迫っていた。

 手持ちは鞄1個と木の棒一本だけ。折角開花した魔法とやらも戦闘用なんかじゃない。対抗手段なんて何も持ち合わせていなかった。

 死ぬ。俺は人間に課せられた習性で、眼前に迫る危機から逃れるために目を閉じ、腕で顔を覆い隠した。

 

 しかし、その鎖は俺の眼前を潰す前に、軌道から外れ奴の元へと戻っていった。

 ズガンッ!!!!

 激しい衝撃音と共に。何が起こったのかわからなかった。

 ゆっくりと目を開いてみれば、そこにいたのは少し大きい二匹の白と黒の狐だった。青色の輝きを帯びており、まるでこの世のものではないような何かを放っていた。

 

「ッ! まだ媒介者(エフェクター)がいたのか!?」

「君、大丈夫っすか!!」

 

 塀をガバッと乗り越えやってきたのは金色の髪をした優しげな好青年だった。俺は驚く前に一先ず助かった事に安堵した。

 しかし、その衝撃音によって建物内で戦っていた二人がこちらに気づいてしまった。

 

「あ、アッキー!? 何で今出てきたの!?」

「いやぁ、目の前で襲われそうになってる人いたら助けるっしょ?」

「……へぇ、よそ見かよ!」

「ッ――《電子効果》時をかける(ステップ・アンド・ゴー)!」

 

 俺の方に視線を移した瞬間、男は好機と捉え一気に間合いを詰め、彼女のはらわた目掛けてその血斧を振り回す。

 距離が距離だ、気づいて逃げたとしても重症は避けられない位置だった。

 「危ないっ!」そう声をかけようとした瞬間、彼女は彼の男と同様に言葉を紡ぎ、魔法を使用する。その瞬間、彼女はその場から消え去り、気づいたら俺の背後に座りこんでいた。

 

「危な――へ?」

「それはこっちのセリフ。まさか目撃者がいたなんて……」

「ぁ、やっぱり、見ちゃダメな奴でした?」

「一般人には見られちゃダメって決まりがあるんだけどなぁ」

 

 女性は頬をカリカリと書いて困ったように説明する。成程、つまり奴が言った『死んでもらう』という言葉は強ち間違いではなかったみたいだ。

 でも、つまり状況は変わっていないよね? 俺見ちゃったんだからこの後結局殺されるんだよね? どうすりゃいいんだ?

 

「――でもその子、一般人じゃなくないみたいっすよ」

「え?」

「さっき塀の所から、電子効果っぽいものを発動してる所を見てたっすから。色々挙動不審でしたけど……っね!」

「ッチ! 《電子効果》従者ノ錨(ドロップアンカー)!」

「《電子媒介》白上フブキ 《電子効果》白黒狐(ツイン・フォックス)!」

 

 容赦なく放たれるその錨を、彼は狐を操作し地面へと叩きつける。だが何度叩き落としても、ソレは一人出に起き上がり何度も敵を潰さんと駆動する。

 彼も溜息をもらしながらそれを的確にはたき落とすが、見てわかる通り非常に相性が悪い感じだった。このままではじり貧になって負けてしまう未来が見える。

 だが、それは予想外からの一声によって静止された。

 

「ストップだ、港。面白い物が見れただけでも十分だ」

「なっ、しかし――」

「媒介者が3人、純粋に考えても不利極まりない。手の内を晒すよりはマシだ」

「……」

 

 メイドはこちらを見て舌打ちしたのち、放出していた錨をその場から消す。こちらの男性もそれを見て安心したのか、ふぅと一息ついて同じく狐を消し去った。

 

「やはり君の電子効果(エフェクト)は興味深いねぇ。どういう効果なのか全く読み取れない」

「……そりゃどうも」

 

 男は女性に笑いながらそう告げる。彼女はまんざらでもなさそうな感じでそう受け答えるが、それも当然だろう。

 ――俺には"視"えている。意識しなくても、彼女を見れば嫌でも詳細が分かってしまう。

 

《電子媒体》ときのそら

《電子効果》時をかける(ステップ・アンド・ゴー)

1分間のみ時間を停止できる。ただし停止している間、人や物には干渉できない。

 

 あの時、彼女はこの魔法を使って時間を止め、彼の攻撃から逃げ去ったんだ。時間を停止している間は彼女以外は一瞬も同然にしか感じられない為、瞬間移動したとしか思えないだろう。

 だがそんな単純な能力ではない、彼はきっとそう思っているだろう。

 

「それに……新たな媒介者。ははっ、こりゃ面白くなりそうだ」

「ねえ、まだ質問に答えてないよね。この街で何をするつもりなの?」

「はぁ。そう易々と教えると思うか? まあ今日はこの辺で引き返してやるさ」

「待ちなさいよ――ッ!」

 

 彼女が叫び、彼のもとへ走り腕を掴もうと試みるが、伸ばした手は届くことなく、彼とその付添と思われるメイドは背後に現れた謎の空間に吸い込まれ、そのまま消え去ってしまった。

 あれも何者かの魔法なのだろうか? 転移魔法? なんて便利な……。

 

「逃がしたな」

「……はぁ、もういいわ。それよりも」

 

 彼女は俺の方へすぐさま視線を逸らした。

 

「君、一体何者? 媒介者……って彼は言ってたけど」

「見ちゃっただけっすよ、彼の眼がぴかーって光っただけっすから」

「ぇ……えっと、たまたま偶然ここを通りかかって……こっそり覗いたら、突然眼が痛くなって……」

 

 俺はこれまでに起きたことを全て2人に伝える。最初は疑われてしまうだろうと思ったが、俺のオドオドとした姿を見て不完全燃焼な気持ちになりつつも、納得してくれたようだった。

 曰く『嘘をつけるような様子じゃない』とのこと。まあこの挙動で嘘ついてたら、相当な演技力だろう。自分で言うのもなんだが。

 

「まあ電子効果を突然授かる例は幾つかありますし、別に疑うような物じゃないっすよ」

「アッキーが見ただけだから信ぴょう性薄いけどまあ、今は信じることにするわ。私の電子効果だって、その眼でどうせ見えているだろうしね」

「うっ――はい……」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるが、彼女は『気にしない』と言って俺の肩を叩く。

 

「それにしても、媒介者を視覚化できる力って、よくよく考えたらすごい便利じゃない?」

「……地味じゃ、ないですか?」

「そうでもないっすよ。その電子効果の内容だって知れちゃうみたいですし、俺達みたいな仕事をやるうえでは一番適任だと思うっすよ?」

「仕事?」

「あ、言ってなかったね」

 

 彼女はすくっと立ち上がり、明るい表情で俺を見下ろしながら叫んだ。

 

「異能事件調査局って事務所で、電子効果案件の事件を解決する仕事。犯人調査や作戦を練る上で君の能力は有能だよ」

「は、はあ……。そうなんすか……」

「うんうん。それでさー、良ければ私達の仕事に協力してくれな」「お断りします」

 

 彼女が言い切る前に、俺は丁重にお断りした。彼女は『えぇ~~!?!?』と同じ声量で叫び散らす。かなりうるさかった。

 

「何で!? せっかく電子効果に恵まれたのに、使わない手なんてないでしょ!?」

「何でって……あの光景見て『やる』って言う人の方が異常でしょう? 命の危険がある仕事じゃないか」

「うっ――そりゃ、そうだけど……」

「はっはっはー。ななみん思考バレバレー」

 

 彼女は彼の腹目掛けて強めの蹴りを入れた。仲いいなぁ、とその光景を見て微笑ましく感じてしまった。

 だが彼女は諦めてない様子だった。ふふんっと、怪しげな笑みを浮かべながら俺の方を再び見る。

 

「お金だって出るよ? 普通のバイトじゃ比べ物にならない程の金額が!」

「お金でつらないでください。……ちょっと興味はありますけど」

「げほっ……え、興味あるの?」

「というよりそもそも、媒介者になった時点で君に拒否権なんて殆どないんだよね。政府の眼から逃れながら生きづらい生活を過ごすか、私達みたいにそっち関連の仕事をして過ごすか――だからね」

「――へ? 何、これ規制かかってるんですか!?」

 

 彼女はうんうんと言って頷く。その後苦しそうに起き上がった彼が丁寧に説明してくれた。

 どうやら電子効果というものは、当然の如くこの世の条理を外れたものが多く政府から危険指定を受けている様子であり、無許可でそれを行使する様子を見られた場合、問答無用で逮捕されてしまうらしい。

 だが、この2人は異能事件調査局という組織に入って政府から特定条件下において電子効果を使用する許可を得ている為、乱用しないという条件のもと、その電子効果の使用が許可されているとのこと。

 つまり、これを授かった時点で、殆ど人生が詰んでいるようなものだった。

 

「で、でも、さっきの2人は媒介者……ですよね。見た感じ敵対してたっぽいですけど。あ、彼らも許可を得ていたり――」

「するわけないでしょ。ああいう奴らがいるから、私達がいるってわけ。中でもアイツ等は一級品の組織だけどね」

「一級品?」

 

 あの2人は、先ほどの男が首魁を務める組織『電子擁護局』の人物という事らしい。

 『擁護局』なんて名前をしているが、その実態は『政府』からの擁護らしく、気に入った電子効果を持った人たちを保護しては、世界中で好き勝手やっている迷惑集団という事の様だった。

 所謂暴走族とか、そういった類で間違いないらしい。

 

「アイツらを壊滅できれば、こっちの仕事も楽になるんだけどねー」

「簡単に出来たら苦労しないっすよ。――それで、君はどうするんすか? もう殆ど拒否権ない感じっすけど」

「……た、確かに」

「ふふん、ヨシ決まりだね!」

「ま、まだ答え出してませんけど!?」

 

 彼女はそんなものお構いなしというかのように、笑顔でうんうんと顔を上下に動かして、そのまま俺の携帯を奪取した。

 奪い返そうとするが、彼女はサササッと俺の腕を回避しながら携帯を動かしていき、連絡リストに自身の番号を登録してしまった。

 クソ、人の話を聞かないタチの人間だ。こういう人間が一番苦手なのだ。

 

「はい、これで君はもう私達の仲間だよ!」

「そ、そんな勝手に――!」

「諦めた方がいいっすよ。俺もこんな感じに勧誘されたっすから」

「そ、そんな……」

 

 彼女は『そういうこと』と指をさして、そのまま廃工場を後にしようとする。

 

「ほら、ついてきて! 政府の許可登録もあるし、そのついでに事務所を案内してあげる!!」

 

 ――こんな破天荒な出会いこそが、俺の新たなる人生の幕開けだった。

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