敗れた英雄   作:カメクリオ

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第一命 敗北の始まり

―起きて…

 

う、ううん、何?

 

―起きて、ねぇ起きてってば!いつまで寝てるの。もうお昼の時間は過ぎてるのよ!

 

うるさいって…眠いんだから寝かせてくれよ。どうせ起きてもやることなんてないんだし

 

―起きなさいってばこの寝坊助!

 

…起きて…起きてください

 

ああ、もうだからいい加減に

 

 

 

 

「起きてください!」

 

「へぇ?」

 

張り上らげた可愛らしい声と体を揺さぶられたことによる刺激によって床で寝そべっていた男は目覚めた。

彼を起こしたのは栗色の髪の少女。

 

彼女に心配そうな眼差しで見られながら男はゆっくりと上体を起こし、辺りを重たい眼で見渡す。

割れた窓、埃が付いた電飾、亀裂の入った木目の壁。

それらを視界に入れて男は自分のいる場所が家の中であることに気付いた。

 

「…さっきの声、夢?」

 

力の入ってない小さい声で呟く男。

 

そんな彼から数歩離れた窓から外を見ている二人がいた。

 

 

「間の抜けたことを言っている状況ではないぞ。あれが来る」

 

「なんだって!」

 

二人の内の一人、青色の目立った白衣を着た女性の緊迫感のある声に夢の世界にまだ浸かっていた男の意識は完全に覚醒した。

毛布の代わりとして使っていた朱色のコートを羽織りながら彼は大慌てで少女と共に窓にいる二人に合流する。

 

「強い穢れが近づいてくる。間違いない」

 

「どうするんだよ」

 

「戦うしかあるまい。このまま逃げていてもあれを排除しなければ我々が助かる道はない」

 

「そんな…」

 

赤と白の衣を着た男がそう口にした時、少女が震えた声を出した。

声だけでなく体も目に見てわかるほどに震え、労わりの眼差しを向ける彼がせめて励まそうと言葉を出そうとした時

 

「来たわ。隠れて」

 

落ち着きをはらった女性の言葉で四人は瞬時に鏡面からを避けるように隠れ、チラりと覗いて外を見る。

そこには家屋が並ぶ道のど真ん中を我が物顔で闊歩する一匹の獣がいた。狼に似た体表と顔をしているが、普通の狼とは違うのは二足歩行で歩いていることと、もう一つ。

 

(発している穢れが以前より強い)

 

(おそらく他の天族はもう…なんということだ)

 

全身から禍々しい気を放っていることだ。これは白を基調とした服の男女にしか見えず、気付かない点であるが、彼らの表情の強張り具合から狼の危険性は他の二人にもなんとなくわかっていた。

 

四人が隠れている家屋にそんな緊張が漂っている中、人型の狼はまるで獲物を求めるかのようにゆったりとした速度で歩きながら、周囲に目を走らせている。

 

(頼む…行ってくれ。気付くな、気付かないでくれ)

 

自分だけでなく他の者たちも思っているであろうことを彼は心の中で口にし、それが獣に届いてくれると願った。

そう簡単には上手くいかないだろうとわかっていても…

 

『ガアッ!』

 

しかしその願いは通じず、狼は地を蹴って四人が隠れている家に一直線に跳んでくる。

 

「クソ!見つかった!」

 

見逃してくれなかった狼に憤りを露わにしながら彼は壁に立てかけていた剣を手に取り、それで斬りかかろうとする。

だがその直前、赤い白衣の男性が球体状の炎を掌から放ち、狼を元きた方向へと強制的に押しかえす。

 

「三人で出口に向かって走れ!」

 

「あんたはどうするんだよ!」

 

「あれを食い止める。お前たちは少しでも安全なところに逃げるんだ!」

 

再び手に灯した炎を放ち、狼を牽制する白衣の男性。一人残るという男性の言葉に従わおうとせず彼は鞘から剣を引き抜き、並び立とうとする。

 

「だったら俺も-」

 

「人間ではあれの相手は無理だ。時間がない、早くいけ!」

 

「彼の言う通りにして。かえって邪魔になるわ。いきましょう二人とも」

 

「すみません!」

 

素直に聞き入れる青と白の衣の女性と彼女に手を引かれながら謝罪を口にする栗毛の少女。

男性は炎を狼の俊敏な機動によってかわされながらも振り返りもたじろぎもせず、ひたすら術を唱え続ける。

それを見て彼は悔しさに唇を噛み締めていたが、握っていた柄本から手を離し力強さのこもった瞳にその姿を刻み込む。

 

「絶対戻ってこいよ!死ぬなよ!」

 

悲痛に顔を歪めながら彼はそう訴えて女性二人の後を追いかけた。

どうしてこんなことになってしまったのか。

必死に足を動かしながら、彼は数日前…事の発端となった出来事を思い返していた。

 

 

 

 

「うっ…うう」

 

見知らぬ天井。おぼろげに霞んだ視界で彼-アトラスがいの一番に目にした光景がそれだった。

 

「なんだ、ここ?」

 

寝そべっていた体を起こして周りに目を配るとそこは椅子とステンドグラスがある空間だった。内装からして教会と思われるが、神聖というよりかはどこか異様な雰囲気をアトラスは感じる。

 

「どこだよ、どうしてこんなところに…俺は村にいたはずなのに」

 

「気味が悪いわ。なんなの」

 

「アウル、どこにいるの?アウル?」

 

倦怠感に苦しみつつも左右に目を向ければ周りには他にも複数人がいた。はじめはアトラスと同じように床に横たわっていたようだが、意識が目覚めて周囲を見ると皆困惑の声をあげた。

いや正確には皆ではなかった。

 

「得体の知れない力に満ちている。この空間は人為的に作られたものだ」

 

「私も感じる。意識を失う直前に感じた嫌な力といい何やら良からぬことに巻き込まれたようだな」

 

数人が困惑の色を浮かべている中で落ち着いた様子の者が数名いた。聖職者にも似た雰囲気を醸しだす見慣れぬ服装を着た何やら訳知り顔の彼らにアトラスは近づく。

 

「なぁ、あんたたち、なんか知ってるのか?」

 

「何?」

 

声をかけてみた途端驚いたように目を見開く白衣の者たち。その反応にアトラスは戸惑う。

 

「な、なんだよ。そんなに驚かなくてもいいじゃんか。そりゃあ挨拶もなしにいきなり声をかけたのは悪かったけど」

 

「君は私が見えるのか?」

 

「見えるのかって、何言ってんだよ。そんなの当たり前だろ。なあ?」

 

「ええ、私にも見えるわ」

 

「俺も見えるぞ」

 

「私もです」

 

アトラスと同じく困惑していた者たちも同意するように同じ反応をする。しかしそれは聖職者たちにとっては予期せぬものであったらしく、大きく動揺する。

 

「天族が見えているというの?それも全員が」

 

「バカな…信じられん。同じ場所にこうも霊応力の高い人間が集まるなどありえない」

 

彼とその近くにいる者たちにからすれば大袈裟とも思える狼狽えぶり。

しかし聖職者たちにとってはそれが当然であるようだ。

 

「えっと、今いいですか、ね?その、あんたたち。何か知ってるなら説明してくれないか?」

 

「すまない…しかし説明する前に確認したいことがある。お前たちは天族という言葉に聞き覚えはあるか?」

 

「てん、ぞく?いや」

 

赤の線が入った白衣の男性が発した問いに彼は答えながら後ろにいる三人へと首を動かすと一人残らず怪訝そうな顔、あるいは「知らない」と返す。

 

「質問を変えよう。ここで目覚める前何をしていたか覚えているか?」

 

「何かって言われてもな。いつもみたいに村で幼馴染の仕事に付き合わされて、その後家族とご飯食べて風呂入って、そんで寝て気付いたらここに」

 

「私も、ベッドで寝てたら」

 

「私も二人と同じです」

 

「俺は狩りに出ていた。で、野宿で張ったテントの前で仕留めた獲物の肉を焼いて食おうと思ったら急に眠気が襲ってきて…気付いた時にはどういうわけかここだ」

 

「君たちはどうだ?」

 

赤と白の衣の男性が今度は白い服を着た自分以外の三人へ質問を重ねる。

 

「加護領域の範囲に異常な力を感じてその場所に向かったら突然目まいがして気を失って次に目を覚ましたらこの状況」

 

「俺も同じだ。俺の領域内に出現した奇妙な力の原因を探ろうとして意識を失いここにいた」

 

「やはり我々天族も同じ経緯のようだな」

 

「まさか貴方も?」

 

「君たちと同じだ。まるっきりな」

 

緑と白の衣を着た女性の言葉に赤と白の男性が神妙な顔で頷く。

そんな彼らに苛立ち混じりな声をぶつける灰色の髪の男がいた。

 

「そっちだけで話を進めんなよ!なんか知ってるなら説明してくれよ!」

 

「おい、落ち着けって!」

 

「落ち着いてられっかよ!自分の家で寝てたはずがこんな訳わかんないとこにいて、顔も知らない奴らが物知り顔で自分たちだけ納得してんだぞ!」

 

「気持ちはわかるけど怒鳴ったってしょうがないだろ」

 

いきなり未知の状況に置かれた混乱もあってか語気を強める灰色の髪の男をアトラスは宥めようとする。

できるだけ怒りが爆発しないように努めたが、その努力は柱にもたれかかった黄色と白の衣の男性の言葉によって水泡に帰す。

 

「これだから人間は。生の感情を考えもせずそのまま吐き出す。自らの感情を満足に抑えることもできんのか」

 

「なんだとてめぇ」

 

「やめろって!あんたも変に煽るようなこと言わないでくれよ」

 

「事実を言ったまでだ」

 

ますます苛立ちくってかかろうとする灰色の男性。アトラスは黄色と白の衣の男性の間に立って仲裁に入る。

その様子に嫌気を感じつつも赤と白の衣の男性は皆に視線を配り、空気を変える意味も含めて状況を分析する。

 

「情報を整理しよう。まずこの場にいるのは八人、天族と人間のそれぞれ四人ずつ。人間側も天族側もここで目覚めるまでの経緯は似通っている…このことから考えるに我々が何者かの意図によって集まった、いや集められたと言うべきか。それは間違いない」

 

「何者かって、誰が?何のために私たちを?」

 

「ここから出る方法はあるのでしょうか?」

 

「今のところどちらもわからない。そもそも出口と言えるものがあるのかどうか、それすらも」

 

目を覚ました際に誰かの名前を呼んでいた藍色の髪の女性と栗色の髪の少女から続けざまにかけられた質問に赤と白の男性は依然として冷静に返す。

この状況下でよく冷静さを保っていられるものだとアトラスは感心していたが、その反応に不快感を表す者もいた。

 

「何なんだよ!じゃあなにか?俺たちはここでずっと何かされるのを待つしかないってのか!冗談じゃねぇ!」

 

光明の見えない問答に嫌気が刺したのか灰色の男性は吐き捨てるように言う。

その言葉を最後に空間からしばらく音が消える。

不安、絶望、恐怖…代わりにそんな空気が空間に漂い始めた。

 

この空気はよくない、…重たい雰囲気に加え暗い顔が目立ち始めた他の面々を見てアトラスはそう思い、何か前向きな言葉を言おうとしたその時だった。

 

「うぐっああ!」

 

薄暗い影の中からどんよりした紫の塊が飛び出し、物凄いスピードで一直線に灰色の髪の男性の体に直撃した。

 

「どうしました!?大丈夫ですか!?」

 

あまりに速すぎたせいで捉えられず、アトラスを始めとする人間たちの目には何があったのか理解ができなかった。

しかし白の衣を着た者…天族たちは違ったようで胸元を抑えて蹲る灰色の髪の男性を見て焦燥感を露わにしていた。

 

「これはまさか…」

 

尋常ではない苦しみの叫びを上げる灰色の男性から紫の瘴気が溢れ出し、段々と体を覆い隠していく。

常軌を逸した現象を目の当たりにしてアトラスと女性二人は足が竦む。

 

そして瘴気が収まり、男性の姿が再び現れた時アトラスは目を見開いた。

 

「なんだよこれ…」

 

そこには男性の…人間の姿はなく

 

代わりにいたのは黒い毛皮、鋭く光る牙に爪、赤く淀んだ瞳を持つ一匹の獣だった。

 

 

 

 

『さぁ、舞台は整えてやったぞ。存分に踊るがいい。楽しみにしているぞ。お前たちの中のいずれかに仕える時が来るのを』

 

 

 




もしもゲーム版のゼスティリアにこんなキャラがいたらどうだろうなと思ったのをきっかけに書き始めました。
長編として続けるか今のところ不明ですがひとまず区切りのつくところまではきちんと投稿するつもりです。

一区切りのところまでにはタグにあるとおり今世紀最大の美少女エドナ様は登場する予定ですのでエドナ様推しの人はご安心ください
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