敗れた英雄   作:カメクリオ

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第五命 託されし約束

輝かしい緑の草原。あまねく雄大に広がるその草原の中にはかつて村であったものの名残りを残した廃墟のような跡地があった。

 

「ここが話にあった例の場所だけど。どうかしら?貴方の村であってる?っていっても建物も人も満足に残ってないから判断に困るでしょうけど」

 

「だと思う…自信を持って言えないけどそんな気はする」

 

辛うじて村だった認識できる光景の広がるこの場所にアトラスとアイゼンは子猫の天族のムルジムを伴ってきていた。

 

アトラスとアイゼンは長い時を経てサイモンを探し求める旅をしていた。

その旅の途中である町に立ち寄った時アトラスはこんな噂を小耳に挟んだ。

『かつて一夜にして滅んだ村』の話を。

 

その話に出てくる村がもしや自分の生まれ育った村ではないかと疑問を持ったアトラスはサイモンだけでなくその手がかりを探した。

そしてその道中、はるか昔にアイゼンと浅はかではない因縁を持つムルジムと出会い試しに聞いてみたところ、なんとその村の場所を知っているとのことで、今こうして彼女の案内の元来ていた。

 

実際来てみたはいいものの、話の通りここには以前『村のような集落があったように思える』程度の跡しかなく人っ子一人住んでいる者はいなかった。

 

「この村の住人は百年程前に疫病で全滅しただの、魔物によって滅ぼされただの言われていたが…どうなんだ」

 

「…」

 

アイゼンにそう問われるアトラスだが、彼は返事をせず無言で跡地を進んでいく。

一歩一歩、辺りを見渡しながら歩いていく彼の後をアイゼンとムルジムは顔を見合わせて付いて行く。

 

ふとアトラスが足を止め、視線をある一点に注ぐ。その先にあったのは遠くの山の更に奥にそそり立つ大きな一本の大木。

大木といっても根本には刃物か何かで深く削り取られた傷痕がいくつも目立ち、葉っぱなどは一つも見当たらないほど悲惨な状態だ。

 

「あの木…村にいた時に俺が見てたのと同じ--っ!あ、頭に何かが!こ、これは…!」

 

しかしそれでもアトラスの記憶を呼び覚ますには充分だったようで、それを認識した瞬間色んな光景が浮かび上がってくる。

村中を焼き尽くし、駆け巡る黒炎。逃げ惑い剣に切り裂かれ、体から血を噴き出して倒れていく人々。

恐怖に目を向いて涙を流し…血の海に沈む幼馴染だった少女。

それらを見下ろして佇む龍の剣士と口角を挙げて微笑むサイモンの姿が

 

「うわあああああああ!!」

 

「落ち着け、気を確かに持て!」

 

頭を抑えるアトラスにアイゼンが背中に手を当てて、気を落ち着かせてようとしてくれている。

 

「はぁ、はぁ…」

 

「大丈夫か」

 

「今まで薄れていた過去の記憶が刺激されたようね。貴方自身に思い入れの強い場所だからかしら」

 

「俺がやったんだ。間違いない…」

 

荒い息遣いのままアトラスが呟く。

 

(俺は、自分の生まれた場所も大事な人すらも奪ったのか?自分自身の手で何もかも…)

 

事実を認識すればするほどに自分に対する怒りと後悔が膨れ上がり、たまらず地面に拳を何度もぶつける。

拳に血が滲みだしたのにも構わず何度も何度も同じ行為を身体を震わせながら繰り返すアトラスをアイゼンとムルジムは眺めていた。

 

 

 

 

それからまた幾ばくかの時が流れ、アトラスとアイゼンの二人の姿は未だサイモンを求める旅の中にあった。

 

「で、これからいくのはローランス?だっけ」

 

「そうだ、最近妙な噂が流れていてな。それを確かめにいく」

 

緑豊かな草原を進んでいると空から舞い降りた緑の体表の鳥がアイゼンの腕に止まる。

 

「お、シルフモドキ。また妹さんからか」

 

アイゼンの腕に泊まったのはシルフモドキと呼ばれ、一般的に手紙のやり取りとして用いられる鳥。

どういう原理かはわからないが送りたい相手の元に必ず手紙を届けてくれる旅人にとっては大変便利な存在だ。

 

「未だに信じられないよなー。まさかこんな強面の兄貴に妹がいるなんて」

 

「しつこいぞ。何度疑う気だ」

 

「だって本当に兄貴って感じがピンと来なくてさ。アイゼンの妹とか想像もできないし。レイフォルク、ってとこにいるんだっけ?会えるなら一度会ってみたいなー。すっげぇ気になってるんだよ妹がいるって聞いてから」

 

「万に一つもないと思うがもし俺の目の届かないところで妹に手を出そうものなら問答無用で海の底に沈めてやるからな」

 

「海の底って泳げない癖に何言ってんだよ」

 

「あ?」

 

土の天族でありながら泳げない欠点を持ち出されアイゼンは殺気のこもった眼光を飛ばす。

並大抵の生き物なら速攻で腰を抜かして逃げてしまいそうな目で見られてアトラスは「悪い、悪い」と手を合わせて謝る。

 

(相変わらず妹の話題になるとこうなるんだよなぁ。それだけ妹が可愛いってことなんだろう…)

 

これまでにも何度か妹の話をすることがあったが、その度にちょっとでも妹に気があるような発言を溢してしまおうものならアイゼンはそれはもう今のような末恐ろしい表情をする。

 

「とっととローランスに向かうぞ」

 

 

 

「探しましたよ。災禍の顕主様」

 

お喋りに一区切り付いた時二人の進路と平穏な空気を阻むようにどこからともなく異彩な雰囲気を帯びた少女が現れた。

少女の姿を見るなりアトラスとアイゼンは警戒の姿勢を取った。

 

「お前は、サイモン!」

 

「覚えてくださり光栄であります。しかし困りますねぇ、貴方の役目はこの大地と大地に生きる全ての命を穢れで染め上げること、このような場所でそのような者と戯れている場合ではありません」

 

「てめぇがサイモンか」

 

サイモンをアイゼンが睨みつける。するとサイモンはアトラスから視線をそちらに移す。

 

「ほう、かの有名な死神を従えているとはさすがは顕主様。それでこそ我が主に相応しい」

 

「ふざけたことぬかしてんじゃねぇ。この馬鹿たれの部下になんぞなった覚えはねぇ」

 

「ああ、そうだ!言ってやれアイゼン!…えっ?」

 

(馬鹿、馬鹿たれ?)

 

勢いに任せて啖呵を切ったアトラスはアイゼンに驚きの目を向ける。

聞き間違いか、と言いたげな顔にアイゼンは見向きもくれず拳を構え、戦闘体勢に入った。

 

「いずれにしろそっちから出向いてくるとはいい度胸だ。手間が省けてちょうどいい」

 

「やる気のところ悪いが生憎、私は戦いは得意ではなくてな。代わりにこいつらが相手を務めよう」

 

サイモンが指を鳴らすと無の空間から突然彼女の横に闇が三つ集まる。

塊となって蠢くその中から出てきたのは三頭のドラゴン。

猛々しい翼と鋭い爪をした緑の竜、ふっくら膨らんだ腹に不釣り合いな斧を手にした黄の竜、そしてユニコーンにも勝る輝きを帯びた一本角を持つ青の竜。

いずれも強力な穢れを纏っている。

 

「ドラゴンが三体も!?」

 

「ドラゴンが無から生み出せるはずはない。てめぇ、天族を三人も殺しやがったな」

 

驚愕するアトラスと憤るアイゼン。

だが二人の反応に構わずドラゴンたちは雄叫びを上げ、二足歩行で進行する。

 

「相手はドラゴンだ。手は抜くんじゃねぇぞ。最初から全力でいけ!」

 

「やるしかねぇか、おう!」

 

紫の瘴気に体を包み、アトラスは憑魔態へ『災禍の顕主』としての姿に変わる。

穢れが侵攻し、理性を失ってしまう危険性があるために滅多にこの姿になることはなかったがアイゼンの言う通り相手が相手。こうするより他術はない。

 

「おりゃあ!」

 

アトラスが立ち向かうは青と緑の二頭の竜。

緑の竜の爪を剣で受け止め、横から迫る青の竜に左腕から火炎を放つ。だが青の竜は火炎を一切の防御なしに受けたというのに表皮から煙を上げるだけで、歩みを止めない。

むしろ角を突き刺すべく突進してくる。

 

アトラスは緑の竜を殴りつけ、剣を持ったまま両手で青の竜の頭を掴んで寸でのところで角の接触を回避するが、青の竜も一本角を押し付けようとしてくる。

次第に後ろに押されながらも直撃だけは是が非でも避けようと踏ん張るアトラス。

しかしその背中に起きあがった緑の竜が尾を打ち付け前のめりに体勢を崩してしまう。

 

「うおっ、おわああ!」

 

掴んでいた角から手を離してしまったアトラスは覆いかぶさるように青い竜に身を寄せ、彼はそのまま後ろへ突き上げられる。

受け身と取れず地面に激突したアトラスは背中の痛みに苦しみ、立ち上がる。と二匹の竜の口に風と水が渦巻いているのが見えた。

 

「くそっ!」

 

今からでは回避は間に合わず防御ではとても耐えられない。

瞬時に判断したアトラスは左手の龍の口に貯めた即席の炎を放たれた二つのブレス攻撃に撃ち合わせる。

 

「うわああああ!」

 

しかし当然と言うべきかアトラスは押し負け、風と水の息吹を受け大木に体を打ち付ける。

 

雀の涙ほどの反撃でもしないだけマシだったようでまだ戦えはする。だがはっきり言って勝てる気がしない。

そんな恐れを抱くアトラスの目には緑と青の竜が揃って近づいてきていた。

 

「ドラゴンなだけあって面倒な、強さだ!」

 

アイゼンもドラゴンと交戦するのはこれが初めてではない。千年以上前に何度かドラゴンと戦い、勝利した実績がある。

けれどもそれはアイゼンの実力の高さよりも仲が良いとは言えないながらも背中を預けるに値する仲間たちと力を合わせたから、というのが大きい。

 

今回も単独ではないにしてもさしものアイゼンも二人だけで三体のドラゴンが相手では苦戦を強いられても仕方のない話だ。

 

「ただのドラゴンではないぞ。こやつらは」

 

「何?」

 

二人の苦しむ様を見て嘲笑うサイモンが言う。

 

「顕主様、何かお気づきにはなりませんか?こやつらの数を見て」

 

「数?三匹だろ、何言って…三?」

 

サイモンの言葉を構っている暇がないとばかりに即座に一蹴しようとするアトラスだがドラゴンたちの姿に注目した時、動きを止め目を見張る。

 

黄・緑・青、三体の人型のドラゴン。地・風・水の属性による攻撃、様々な要素からアトラスの頭に嫌な予想が浮かぶ。

 

「待てよ…嘘だろ、こいつら全員あの時一緒にいた??」

 

「よくぞお気づきになられました。こやつらはかつて顕主様と同じ蠱毒の中にいた天族と人間、その亡骸を一体化させたものでございます」

 

「一体化だと…死体同士で神依ができるはずはない。穢れで無理矢理人間と天族を一体化させやがったな。てめぇどこまで人間と天族を虚仮にするつもりだ!」

 

黄色のドラゴンの腹を殴りつけ退けるアイゼンはサイモンを怒りの形相で睨みつける。

 

「そう怒る程のことでもあるまい。こやつらも幸せだろうよ。魂を失った後の動かぬ肉体を有意義に使ってもらえているのだから」

 

「下衆が」

 

どこまでも他の命を己の目的を実現するための道具としてしか見ていない態度。

それはアイゼンにある人物を思い出させる。いやひょっとすれば彼よりも性質が悪いかもしれない。

あの男にはまだ草花をいたわる気持ちはあったが、サイモンからは微塵もそのような感情は見受けられない。

 

「どけっ!」

 

アイゼンは大きく踏み込んで斧を構える黄色のドラゴンの腹に拳を打ち付ける。その勢いに迷いはない。

 

「あああっ!」

 

だがアトラスは違った。サイモンの言葉の後から守勢に回るばかりで攻めることはなく、一方的に二頭のドラゴンからの攻撃を受け続けている。

 

「何やってやがる!」

 

見かねたアイゼンが唱えた風の術が地を走りドラゴンらの足を襲い、アトラスから切り離す。

その間にアイゼンはアトラスに駆け寄り、庇うように前に出る。

 

「迷ってる場合か!こいつらはもう殺すことでしか救えない!戦え!」

 

「わかってる、わかってるけど…」

 

攻撃を躊躇うアトラスに近付けさせまいとドラゴンたちを単身迎え撃つアイゼン。

接近と同時に出現させた土の鎖で青のドラゴンを縛り、残る二頭と格闘戦を繰り広げる。

黄のドラゴンの顎を突き上げている隙に緑のドラゴンの体当たりに飛ばされ、地面を転がりまわる。

すぐさま起き上ったアイゼンめがけて風と土のブレスが放たれた。

 

「うおおおああ!!」

 

「アイゼン!この!」

 

轟音を立てて起こった爆発が晴れた時アイゼンは倒れていた。

その間に土の戒めを力づくで破った青のドラゴンがアトラスに向かっていた。

迎撃のために剣を振るうアトラス。

 

しかしその瞬間、青のドラゴンの顔に共に巻き込まれた少女と天族の女性の顔が重なり剣を止めてしまう。

そうして生まれた隙を突いて青のドラゴンからの拳が腹に炸裂。

アトラスは膝から崩れ落ちた。

 

「うぐっ!しまっ-うがあああ!!」

 

腹を中心に全身に広がる痛みに顔をしかめつつも立ち上がろうと顔を上げる。

その顔に青い光が差し込む。

 

青いドラゴンがブレスの発射準備に入っていたのだ。

危険と判断して回避を試みるが当然回避は間に合わず、アトラスはゼロ距離で水のブレス攻撃を浴び地面にひれ伏す。

 

「…ぁ…く、くそ…」

 

「…ぅ…うぐっ…」

 

 

最早満足に両足で立つことも困難な程のダメージを負った二人。彼らの合流を阻むようにドラゴンたちは両者の間で雄叫びを上げる。

勝者と敗者が明確に区別された構図に見学者のサイモンは満足気に微笑んでアトラスの前に歩み寄る。

 

「さて我が主よ、お戯れはここまでにして本来の役目に戻りましょう」

 

戦意はまだ失っていないのかアトラスは睨みつけるが、サイモンの冷ややかな笑みは消えない。むしろ彼女からすればその反応がたまらなく愛おしかった。

するとサイモンは何かを思いついたのか身体の向きを変えると

 

「ですがその前に-」

 

サイモンが視点を合わせたのはアイゼン。その視線の矛先に気付いたアトラスは声を荒げる。

 

「何をする気だ!やめろ!」

 

「我が主よ。貴方様をたぶらかした者に罰を与えましょう」

 

忠誠心の表れとしてはこの上なく最高な言葉だがアトラスにとっては不安を掻き立てる物以外の何物ではない。

サイモンを止めようとするが受けた傷は深く、立ち上がることすらままならない。

 

そんなアトラスを一瞥してサイモンは凝縮した穢れをアイゼンへと投げつけた。

 

「ぐっおおおおおおお!」

 

「アイゼン!!」

 

天族にとっては剣で突き刺されるよりも激しく苦しい痛みが襲う。

今まで聞いたことのない叫びにアトラスの顔色が変わる。

 

「やめろ!お前の狙いは俺だろ!やるなら俺だけにしろ!」

 

標的を自分に変えさせようと動けないなりにアトラスは懸命に叫ぶがサイモンは見向きもしない。

アイゼンの苦しむ様を見て微笑んでいる。

 

「アトラス!頼みが、ある…」

 

「こんな時に何言って-」

 

「いいから聞け!」

 

自分の身を案じるアトラスの言葉を打ち切ってアイゼンが叫ぶ。

 

「妹を、エドナを頼む…!お前にしか、できない頼みだ」

 

「アイゼン…」

 

今にも泣き出しそうな顔をしながら首を縦に振るアトラス。

その答えに満足気に微笑んだアイゼンの体は着々と変異していき、そして

 

「アアアアアアッ!」

 

新たに増えた一匹の黒い龍が空へと飛んでいった。空気を打つ翼の音が遠のいていく。

 

「アイゼン…ううぅ、くっそおおおお!」

 

「果たせぬ約束を交わすなど不毛なことを…まぁ、いいだろう。では、我が主よ。今一度、世界に穢れをもたらしましょうぞ」

 

自分を再び災禍の顕主にしようとサイモンがアイゼンにしたのと同じように穢れを掌に集める。

 

(まずい!またあの時と同じように。でも、動けねぇ)

 

災禍の顕主にされてしまっては今度こそ二度と理性を取り戻すことはできない。

 

そう理解していても、体を動かせなくては意味がない。

アトラスは心のどこかで薄々逃れないと諦めかけていた。

 

(終わるのかよ…あいつを倒すこともアイゼンに託された約束もできないまま)

 

とその時だった。アトラスの足元に白銀の魔法陣が現れ、魔法陣から迸る光が体を包む。

 

「っ!?」

 

「なんだこの光は!?白銀の光…?もしや!」

 

サイモンは溜めていた穢れを放つがそれが接触する前にアトラスは魔法陣と共に姿を消す。

白い光の粒が残る空間を穢れの塊が突き抜ける。

 

「やってくれたな。おのれ、忌々しい真似を…マオテラス…!」

 

三頭のドラゴンを後ろに控えたサイモンはその名を憎しみを込めて呟いた。

 

 

 

 

青い空と白い雲、美しい花に留まる小さな虫。壮大な大地を彩る草木。

数秒前まで自分を取り囲んでいた場所とてんで真逆な、辺り一面に命があふれる場所にアトラスはいた。

 

「あいつらがいない、どこにいった。何が…一体」

 

景色が変わっていることから別の場所なのだろうが、自分の置かれた状況がまだわからない。

もしやまたサイモンの仕業ではないかと警戒していると背後から穏やかな声がした。

 

『よかった。なんとか間に合って』

 

振り向いたアトラスの前には神々しい輝きを放つ鱗を持った白銀の竜。しかし同じ竜でもサイモンの配下のドラゴンとも穢れたアイゼンとも異なる綺麗な印象を受けた。

 

「…あんたが俺を助けてくれたのか?」

 

『うん、僕はマオテラス』

 

「マオテラス?…ぁ、もしかしてアイゼンが言ってた」

 

マオテラス、と名乗った竜についてほんの少しだけアイゼンから聞いたことがあった。

浄化の力を持ち、その力で器としている大地から穢れを消している世界の調停者のような役割を担っている存在だと。

 

『ごめんね、本当はアイゼンが穢れる前に君たち二人をここに避難させたかったんだけど僕は自分に課した誓約のせいでこの世界で起こる出来事への干渉はできるだけ避けなきゃいけないんだ。でも君が完全な災禍の顕主になってしまったらそれこそ生きる全ての命が穢れてしまう。だから、君だけはなんとしても助けなきゃいけなかった』

 

「いや、あんたが謝ることはないよ。全部俺のせいだから、俺があの時迷わなかったらアイゼンは…」

 

マオテラスの謝罪に先の光景を思い出してアトラスは唇を噛み締める。

後悔に苛まれるその表情を見たマオテラスはアトラスに力を送る。

白銀の光に体が輝くと同時に今までに感じたことのないエネルギーが全身を巡る感覚にアトラスは戸惑いを露わにした。

 

「体が光った…?それに体の中になんか温かい力が。これは、あんたの?」

 

『君に少しだけ僕の力を与えた。憑魔でも天族と神依をしたままの君の状態なら僕の力を使えるはず…穢れを浄化することができる』

 

「なんで、俺に?こんな力貰ったって俺にできることなんて」

 

『美しく強い心を持つ君なら絶対世界をいい方向にしてくれる。僕にできないことをやってくれる。だからもう一度、立ち上がって欲しいんだ』

 

「立ち上がる…もう一度…」

 

『大丈夫、君ならきっと。僕は信じてる』

 

以前共に旅した仲間を救うことができなかった青年にマオテラスは優しくそう言った。

 

 

 




本編開始前にいつまでも話数割くのもな、という巻きの判断の結果登場から僅か二話というとんでもないスピード感で穢れる羽目になったアイゼンさんには心の底から謝りたい。
でも合間に和気あいあいとしたイベント挟んでたらそれはそれでアトラスの絶望っぷりが増すだけなのでこれでいいんだ。これでいいんだ…(精一杯の言い訳)

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