敗れた英雄   作:カメクリオ

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ストックためてたり、別作品に夢中になっていたら前回から三ヶ月弱経っていたでありんす…本当に申し訳ないです。忘れたわけではないので!こちらの方もなるべく早く更新できるように頑張りますのでどうかよろしくお願いしますぅ!

と、前置きはひとまずこのくらいして…今世紀最大の美少女様が登場する最新話になります。


第六命 出会い

霊峰レイフォルク。そこは人里から遥か遠く離れた場所に位置し、人間はおろか動物や虫もまともに寄り付かない程の高さを誇る山脈。

そんな環境故、当然絶景と呼べるような華やかな光景があるはずもなくただ連なる山と雲があるだけの寂しく空虚なものだ。

 

だがある少女にとってはそんな光景は見慣れたものだった。

何百年もこの霊峰に住む少女からすれば変わり映えもせず、人も滅多に来ないこの場所はむしろ居心地がよかった。

時折たまに兄から送られてくる手紙があればそれで満足だった。

 

「今回はずいぶん返してくるのが早かったわね。旅も落ち着いてるのかしら」

 

今日も手紙がきた。

少女-エドナはシルフモドキが運んできた手紙に目を通して呟いた。

シルフモドキが飛び去るのに一瞥もくれず、文面を読み進めるエドナ。

 

と、文末まで読んだところで微かに眉が動いた。

 

(何か来る…?この感じまさか人間?あり得ないことだけどもしそうなら面倒くさいわね)

 

霊峰を器としている彼女は自身の領域内に何者かが足を踏み入れたのを感知した。

数はおそらく一つ、自分の勘違いであって欲しいと思っていた彼女だが、生憎と残念なことにその目に人影を、その耳に声を感じ取ってしまった。

 

「あっれ、ここで合ってるよな。道間違えたかな」

 

「…」

 

山道を登ってきたのは一人の男。声の印象を裏切らず些か間の抜けた感のある顔をしている。

恰好から察するにただの登山客に思える。本来であればこの時点でエドナは自然現象に見せかけた落石か何かで命の心配がない程度のちょっかいでこの人間を追い返すか、視界に入らないように迷いなく別のところに移動している。

だがそれができずにいた。

人間の視線が寸分の狂いもなく真っ直ぐこちらに向けられていたからだ。

 

「何じろじろ見てるのよ」

 

「あ、ごめん。つい、こんなところに人がいるなんて思わなくてさ」

 

(やっぱりこの男、私が見えてる?しかも声に反応した)

 

稀に天族を見れる霊応力の高い人間がいること自体はエドナも知っていたがまさか目の前の男がそれに該当する人間だとは思わなかった。

嘘であって欲しいと望んだが、独り言のつもりで発した言葉に返答された時点でその希望は潰えている。

 

「貴方何しに来たの?」

 

「えっと…あーっとその、山昇りに来たんだけど疲れちゃってさ。どっか休める小屋とかないかな」

 

「見ればわかるでしょ。小屋どころか休める場所なんてないわ」

 

「本当か?うわ、どうしよ」

 

「そういうわけだからとっとと降りた方が身のためよ。ここはたまに落石や崩落が多いの。山の女神様の機嫌を損ねたら貴方も巻き込まれるわよ」

 

そう言ってもう会話をする気などないとばかりに男を視界に入れないように踵を返し、立ち去ろうとするエドナ。

迅速なその行動に男は大慌てで呼び止めた。

 

「ああ、ちょっと!ちょっと待って!」

 

「何?サインならお断りよ」

 

「あの、初めて会う子にこんなお願いするのもなんなんだけどさ…食べる物、ない?」

 

「……は?」

 

 

 

「ほんと助かるよ。いい子だな、君」

 

何故招いてしまったのだろう。自分で自分がわからなくなった。

要求など飲んでやる義理も必要もないのに

 

「子ども扱いしないでくれないかしら。貴方より断然大人なレディよ私は。これあげるからすぐに帰りなさい」

 

「ありがとう、恩に着るよ」

 

リンゴを手渡された男-アトラスは固い岩肌の上に胡坐をかいて座ると皮の上からかぶりつく。

一秒も迷いもなく行われたその動作にエドナは顔をしかめた。

 

「何をのんびりする気でいるのかしら。私は帰りなさいと言ったのよ、すぐに。言葉がわからないの」

 

「それがここに来るまでに結構体力使っちゃったからさ、迷惑なのはわかってるんだけどもう少しだけいさせてもらえないかな」

 

「迷惑だってわかってるならやめてほしいところね」

 

言葉ではそう言うがとても悪びれているとは思えない清々しい程の笑顔。

相手をするだけ無駄とみなしたエドナはもう相手に話しかけないことに決めた。

決めたのだが

 

「君一人で住んでるのか?」

 

「…」

 

「たっかいよなーここ。見晴らしはいいけど広すぎてなんか寂しくないか?」

 

正気なのかこの人間は、そんな言葉が思わずエドナの口を突いて出そうになった。

あからさまに邪険に扱っていると気付いているだろうに、そんなことお構いなしであるかのように話しかけてくる。

 

「別に、何とも思わないわ。もう慣れたもの。ここから見える変わり映えしない景色もここに一人でいるのも」

 

「そっか…」

 

少しばかり悲し気な顔をしてからアトラスはリンゴを食べ終えて立ち上がる。

 

「じゃあ帰るよ。ありがとう。会ったばかりなのに親切にしてもらって」

 

「礼なんて言われても嬉しくないけど一応受け取っておいてあげるわ。だから今すぐに降りなさい」

 

一貫して態度を変えないエドナにじゃあな、と明るい笑顔で返し山道を下っていく。

 

「なんだったのかしら。あんなのが来るなんてついてない日ね今日は」

 

アトラスが去った後エドナは溜め息と一緒に言った。

奇妙な人間だった。散々振り回されてとんでもない目にあった。だがもう会うこともないのだからまた安心した日々が過ごせる。

 

 

と思っていた

 

 

「どういうつもりかしらこれは」

 

エドナは自分の目を疑った。

明くる日、またしてもエドナの前にまたアトラスがやって来たのだ。しかも今度は木材やら工具が大量に積み上げられた台車をわざわざ引っ張って

 

「私に対する嫌がらせ?」

 

「そんなんじゃないって。いや、住んでるっていうのに家もないみたいだしせっかくだから作ろうかなと思って」

 

「せっかくだからの意味がわからないわ」

 

さも当然であるかのように言い切るアトラスにエドナは頭が痛くなりそうな気分になった。

 

「家なんて必要ない。私は貴方たち人間とは違うもの。そんなのなくても生きていけるわ」

 

「それでもさ、ないよりはあった方がいいと思わないか?」

 

「思わないわね。これっぽちも」

 

(なんなの、こいつ)

 

アトラスとそんなやり取りを交わしながらエドナはそんなことを思った。

何故こんなにも押し付けがましいお節介を焼くのか、もとい自分にこだわるのかはっきり言って理解不能。

異常だ。

 

「なんだってこんなにお節介焼こうとするわけ。もしかして私に見惚れたのかしら?」

 

「見惚れた?えっ、いや……それは、たぶん違うと思う」

 

(なんなのこいつ)

 

からかいのつもりで放った言葉で、あわよくば慌てふためく様が見られるかもと嗜虐心から言った言葉で顔色一つ変えずに否定されるとは想定外だった。

おかげで自分の方が恥をかいた気がする。

 

口喧嘩をしている訳ではないのだが、負かされた気になったエドナは傘からぶら下げたフェニックス人形にやり場のない感情をぶつけるかのように力強く握り締めた。

 

「まぁ、とりあえずやるだけやらせてくれないかな?そこにある物だってそうしてるよりもっとちゃんとしたとこに飾りたいだろ?」

 

アトラスが目で示した物というのは多くの絵画や壺。別に欲してもないのにエドナの唯一の家族が送ってきたものだ。

 

「そんなにやりたいなら好きにすれば」

 

ぶっきらぼうにエドナは答えた。

 

 

どうせすぐにやる気を失くしていなくなるだろうとこの時のエドナは考えていた。

いくらこの男が酔狂な人間でもたかが一日知り合った程度の他人のために尽くせるはずもないと

 

しかしどういうわけだろう。数時間が経ってもアトラスは帰るどころか作業を中断する素振りを見せずにいた。

 

「っと、ここはこれでよし。で次が、と」

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「まさか本当に建てる気なの?」

 

「うん、言ったろ。言ったからにはちゃんとやらないとな」

 

見物に徹していたエドナにそう返しながらアトラスは金槌で木材に釘を打ち、土台を作っていく。

その様子を見てエドナは確信した。本当に有言実行するつもりでいるのだと

 

「馬鹿みたい」

 

「なんか言ったか?」

 

賞賛か皮肉か、どちらの意味で呟いた言葉なのかエドナにはわからない。アトラスも作業に没頭しきっていたためにその言葉を聞き取ることができなかった。

 

「しょうがないから手伝ってあげるわ」

 

「いいって、俺が勝手にやってるんだし」

 

「あら、私が使うのよ。私の意見も聞かずに仕上げるなんて許されると思ってるの?それに」

 

「それに?」

 

「足場もないのにどうやって屋根作るわけ?」

 

「…あっ!やっべ、梯子忘れた!」

 

台車を見るエドナの視線を辿ってアトラスは今頃になって気付いた。屋根を作るために必要な梯子を用意していなかったことに

 

「やっちゃったよーなんか足りないと思ったんだけど。最悪だ…仕方ない、街まで戻るか」

 

失態に頭を抱えるアトラスに何度目かの呆れた息を溢しながらエドナは平然とした表情で未完成の小屋の前に立つ。

 

「土台なら私が作ってあげるわ」

 

「できるのか?」

 

「私が言ってるんだから当たり前でしょ。どうせ小屋が完成するまでここにいるつもりなら無駄な時間失くした方がいいでしょ」

 

「本当助かるよ。ありがとう」

 

手を合わせて感謝の態度を取るアトラスをエドナは冷めた目で見る。

 

(ほんとよくわからない人間。人間って皆こうなのかしら)

 

 

こうしてエドナも加わり、そこからというもの建築作業は格段に捗った。

彼女が時折要望を口にし、それにアトラスは応えていく。

そして更に数時間程経つ頃にはそれなりに小屋の体を為したものが建った。

 

「よし、これで残るは中だけだな。今日はもう時間ないから明日また来るよ」

 

「待ちなさい」

 

「えっ?おおっと、っと」

 

帰ろうとしたところをエドナに呼び止められ、アトラスが振り返るとリンゴが三個飛んできた。

危うく落としかけたもののなんとか体を使って確保する。

 

「これは?」

 

「一応の礼よ。頼んでもなかったけど何もしないのも癪だから。感謝なさい」

 

「ありがとう!じゃあ、おやすみ」

 

皮肉を込めた言葉だというのにアトラスは右手で感謝を示して山を下りていく。

 

「ほんとわけがわからないわ…」

 

エドナにとってアトラスがまともに言葉を交わした人間だったが、人間というのは皆ああなのだろうか。

兄が昔一緒に旅をしたという人間もあのようなタイプばかりだったのだろうか。

 

だとしたら世も末だ。お人よしばかりの人間が穢れを発し、天族を苦しめているのだから。

 

 

 

それからというもの、ほぼ毎日アトラスはレイフォルクを訪れ小屋造りを行った。

 

彼をエドナはもはや拒まなかった。むしろ諦めたと言っていいかもしれない。

薄々諦めていたとはいえ、まさか快く来るとは。いや途中で放置されても困るのだが

しかも彼は毎度毎度台車に多くの荷物を積んで来る。

絨毯に毛布にカーテン、先日エドナが小屋の内装に必要だからと人間の市場で買ってくるよう押し付けたものだ。

要望通りあるいは要望に近いものをアトラスは嫌がることなく持ってきてくれた。

 

 

「ふー、一仕事終わった後の食事はまた上手いな」

 

「呆れた。本当に完成させるなんて」

 

完成した小屋の中で持参してきたおにぎりを頬張るアトラスは達成感に満ちた声で喜ぶ。

こじんまりして立派とは言い難いが小屋というには充分な完成度を持った物ができた。

 

「貴方普段どうしてるの?」

 

「どうって?」

 

「ここ最近毎日といっていいくらいここに来てるけど暇なの?他に話す相手いないの?」

 

初めて会った時からアトラスはほとんど毎日エドナの元を訪れていた。それも日が昇り始めて間もない朝から日が沈みかける夕方までずっとだ。

一体どんな生活を送っているのか、他人に興味関心を持たないエドナでさえもさすがに気になっていた。

 

「そうだなぁ…いないかなぁ」

 

からかいのつもりで発した言葉に真逆の答えが返ってくると思っていたエドナにとって予想外の言葉だった。

 

「ずっと前に家族も友達もいなくなって一人だし、旅人みたいにあちこち周ってるから帰る家っていう家もないし、だからこれといって仲良い相手はいないかな」

 

「…そう」

 

「あっ!でもそれも楽しいよ。色んな場所見て回って、たくさんの人や景色に出会えるし。現に今もほら、こうして君といるのも楽しいし」

 

「雰囲気に紛れてサラッと変なこと言うのやめてくれない。気持ち悪いわよ」

 

「そこまで言わなくても…」

 

気持ち悪いと言われてアトラスはショックを受けたように肩を落とす。

 

「たまにはいいわよ」

 

「何が?」

 

「頼んでないけど作ってもらったわけだし、たまにはここに来て使っていいって言ったのよ。寝泊りくらいはできるでしょ」

 

「いいのか?」

 

「くどいわよ。二度は言わせないで」

 

「わかった。じゃあ、この辺りに来ることがあったらその時はここに顔出すようにするよ」

 

そう言うとアトラスは荷物を持って出口に向かい、ドアに手をかけたところで振り返ってエドナを見る。

 

「じゃ、しばらくさよならだな。元気で」

 

その言葉を最後にアトラスは笑顔を浮かべて外へ出て行く。

 

(リンゴ、また用意しとかないといけないのかしら)

 


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