砕蜂が零番隊に連れられて霊王宮に行った後、俺は一番隊第三席としての仕事に駆られていた。
「八神三席。こちらは我が隊を含めて、来る再戦に向けて必要な装備を購入するための費用なんですが……」
「あー、金はいくらでも使って構わないからそっちに任せる」
「よ、よろしいのですか? そんな事をすると後で何を言われるか……」
「馬鹿かお前、この戦いは死ぬか生きるかの戦いだ。負ければ護廷十三隊どころか、この尸魂界そのものが消えるんだ。赤字で済むなら安いもんだ」
「八神三席……!」
「分かったらさっさと行け!」
「っ、はい! 失礼します!」
俺の仕事は主に副隊長に行く書類や情報を精査する事だ。だからこうして、一番隊や各隊から集まる伝令や書類を捌いている。
「次!」
「はっ! 四番隊ですがーーーー」
「それなら五番隊と七番隊にーーーー」
こんな感じで無数に来るのをたった一人で捌いている。
今日は昼抜きでぶっ通しで仕事をして、夕方の日暮れにようやく仕事が終わった。
柔らかめの椅子に背中を預けて、少しでも疲れを癒すために目を閉じた。
こんなに頑張るのは久しぶりだから、流石に疲れた。
するとようやく仕事を終えたと思ったら、また扉が開いた。
扉の開く音がいい加減、トラウマになりそうだったが、今度は良く見知った人物が入って来た。
この人が仕事の話ってことは多分、無いな。
「おー、やってるねー」
「京楽隊長。何しに来たんですかー?」
「入隊以来、仕事をサボりまくってた優秀な部下がやっとやる気になってくれたのが嬉しくてね〜」
くいっ、と手土産であろう酒瓶を見せて来た。
こんな状況なのに、いや、こんな状況だからこそか。京楽隊長はいつも通りに振る舞っているんだ。部下を不安にさせないように、と。
俺も乗っかろう。
盃を受け取ると京楽隊長が注いでくれたので、有り難く頂く。
「ん。ありがとうございます」
「いやいや」
「「乾杯」」
……美味い。
仕事の後の酒は沁みるな〜。
「どうだい? 三席は慣れたかい?」
「いや、ゆうて一日目ですし……」
「はははっ。そうだったね〜」
それからしばらくの間、他愛無い話をする。
まあ七割方は七緒ちゃんの話だったんだが。
そして月が出て、すっかり夜となった頃。
「……あの時、君がいたら何か変わっていたと思うかい?」
「……………………」
ぽつりと京楽隊長が呟きを溢した。
京楽隊長が言う「あの時」とは滅却師に襲撃された時の事だろう。俺はちょうど出払っていた。
俺は所詮、一介の死神だ。
あの場、あの敵、あの状況で死神がたった一人増えたところで何か出来たとは思えない。
「いや、変わらなかったと思いますよ。俺程度じゃ、滅却師の一人も倒せたかどうか」
「謙遜は過ぎるとモテたくなるよ〜」
良薬過ぎれば毒に転じ。なんて言葉もあるくらいだからな。
まあ別に俺のは謙遜ってわけじゃないけど。
「君は本来なら副隊長クラスの力を持っている。いや、その気になれば護廷十三隊隊長にだってーーーー」
「隊長。それは言わない約束では?」
「……そうだったね。ごめんよ」
「それに今回の戦いなら、あれを使えたって意味はありませんでしたよ」
「まあ、そうだね」
盃に注がれた酒をぐびっと飲み干した。
酔いが回って来たな。少し熱い。
京楽隊長がおもむろに立ち上がった。
「ごめんよ。こんな夜遅くまで付き合ってもらっちゃって」
「いえ。俺も楽しかったですよ」
「ゆっくり休んでね、八神三席」
「了解です、京楽総隊長」